いわゆるハコスカやケンメリのスカイラインGT-Rなどは、もちろん昔から高額だった。
そのほかの「割とフツーな国産スポーツモデル」の中古車というのはひと昔前まで、いやふた昔ぐらい前までは50万~100万円以下か、せいぜい100万円台で購入できたものだ。
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だが世界的なヤングタイマー(ちょっと古いクルマ)ブームが起きてしまった昨今は、とてもじゃないが100万円級の予算で「ちょっと古い国産スポーツカー」を買うことなどできやしない。
具体的な相場は車種によりさまざまだが、10年前までは100万円も出せば買えていたはずのモデルが、いつの間にか300万円か、下手をすれば「500万円以上」ぐらいに化けてしまったのだ。「気軽に買って、コツコツ直しながら楽しもう」とは、とてもじゃないが思えない金額である。
本稿ではそういった「中古スポーツカー相場高騰の功と罪」について考えてみたい。
文/伊達軍曹
写真/ベストカーweb編集部 トヨタ 日産 ホンダ スバル
【画像ギャラリー】世界的に高騰中!! もう一度乗りたい国産中古スポーツたち
■S15型シルビアはどこまで高騰した?
日産 シルビア(S15型)
シルビアS15の中古車情報はこちら!
その前に、「国産中古スポーツカーの相場は今、どのぐらいまで高騰しているのか?」ということを具体的に記そう。
まずは、今や希少というか絶滅した「程よいボディサイズのFRクーペ」として人気が高い、S15こと7代目(最終型)の日産 シルビア。
新車時価格はおおむね180万~250万円ぐらいで、当時の若者としては「安くはないけど、頑張れば手が届く!」と思える存在であった。
そんなS15シルビアの直近の中古車相場は、モデル全体としては100万~600万円といったところ。
ただし100万円ほどで狙える物件の多くは「走行10万km超で修復歴あり」というもの。
修復歴なしで走行距離もまずまず短めの個体は「170万円スタート」といったニュアンスで、さらに好条件な個体は270万円から、走行距離がかなり短めの個体は400万円台以上……というのが、S15シルビアのおおむねの相場感である。
■初代シビックタイプR
ホンダ シビックタイプR
初代シビックタイプRの中古車情報はこちら!
昔はけっこう安かったのに、ちょっと目を離した間にとんでもない相場になってしまった……というのは、EK9こと初代ホンダ シビックタイプRも同様である。
ご存じのとおり、最高出力185psを8200rpmで発生するB16B型直4DOHC VTECを搭載して1997年に登場したホットハッチであり、新車時価格は199万8000円。前述のS15シルビア同様、「若者でも(頑張れば)手が届く」といったニュアンスの価格だったのだ。
そんな初代シビックタイプRの現在の中古車相場は、一番安い部類(サーキットでガンガン使われた走行20万km近い個体)でも180万円前後で、ボリュームゾーンは300万円台。
屋根付きガレージで保管されてきた最終型に至っては「798万円」というド級のプライスが付けられている。タイプRとはいえ、20年以上前のシビックが約800万円である……。
■インプレッサWRX STI(GC8型)
スバル インプレッサWRX STI(GC8型)
インプレッサWRX STI(GC8型)の中古車情報はこちら!
初代ホンダシビックタイプRと毛色は異なるが、大きなくくりでは同種の名作国産スポーツと言える初代スバルインプレッサWRX STI(GC8)の中古車相場も、これまた上昇している。
比較的安価な個体は100万円台後半から探すこともできるが、好条件な個体のボリュームゾーンは300万~400万円といったところ。
■STIコンプリートカー、S201は驚愕の700万円以上!
S201。2000年に初代インプレッサWRXをベースにSTIが300台限定で販売されたのがS200シリーズの始まり。車両価格は390万円だった
S201の中古車情報はこちら!
そして2000年に300台限定で発売されたSTIによるコンプリートカー「S201 STi Version」は700万円以上のプライスとなる場合が多い。ちなみにS201の新車時価格は390万円であった。
初代GC8型インプレッサをベースにSTIが培った経験を注ぎ込んだ究極のオンロードスポーツを追求したチューニングカーだ。
エンジンは最高出力300psまでアップし、外観は空力性能を向上させるため、エアロバンパーを採用するなどスパルタン。走りもチューニングカーらしいスパルタンそのもので、ストイックなアスリートのような乗り手を選ぶクルマだった。
■ホンダS2000
ホンダ S2000
ホンダ S2000の中古車情報はこちら!
700万円以上といえば、ホンダ S2000の中古車価格も最近は700万円を超えることが多い。
S2000は、いわずと知れたS800から数えて29年ぶりに登場したホンダの名作FR車。縦置きされた自然吸気の2L直4DOHC VTEC「F20C」はリッターあたり100psを軽く超える最高出力250psを8300rpmで発生。
そのうえで9000rpmまでを許容回転数とした超絶エンジンであった。新車時価格は338万~399万円である。
で、そんなS2000の中古車は今、底値の物件は180万円前後で探すこともできるが、ボリュームゾーンは300万~450万円付近で、走行距離の少ない後期型は500万円以上となるのが一般的。
2021年5月中旬時点での最高値物件は、なんと880万円(!)である。
■日産フィガロ
1991年2月から1992年にかけて合計2万台が生産されたフィガロ。価格は187万円だった(1991年式)。ボディカラーは四季をイメージした、エメラルド(春)、ペールアクア(夏)、トパーズミスト(秋)、ラピスグレイ(冬)の4色で、ルーフトップ部はいずれもホワイト
日産 フィガロの中古車情報はこちら!
ホンダS2000とはずいぶんジャンルが異なり、スポーツカーではないが日産パイクカーシリーズの第3弾として1991年に発売された小型オープンカー「フィガロ」の相場もかなり上昇している。
新車時は187万円というきわめて妥当な価格で販売された日産 フィガロだったが、走行距離がかなり短い博物館級の個体には今、580万円から600万円ほどのプライスボードが掲げられている。
もっとも、この580万~600万円というのは異例であり、一般的なコンディションのフィガロは130万~190万円といったあたりが相場だが、それでも「こんなに小さくて古い車なら、100万円以下の予算で買えるかな?」と思うのは大間違いな相場状況なのである。
とはいえ、ここまで挙げた5モデルは「相場が高騰するのも当然ではある」と思える名作だ。
佇まいが素晴らしい日産フィガロや、エンジンをはじめとするすべてが素晴らしいホンダS2000、この種のサイズ感と性能を備える車はもう二度と出てこないであろうGC8のSTIや初代シビック タイプR、S15シルビアなどに関しては、高騰した相場に対してもある程度納得できる。
■なかには残っているだけで価格が高騰した便乗商法的な旧車もある
日産 シルビア(S110型)
S110型シルビアの中古車情報はこちら!
だが、なかには「……なぜコレが高騰するの?」と首をかしげざるを得ない国産旧車もある。
たとえば、S15から数えて4代前のシルビアであるS110型日産 シルビアだ。
これの相場が今、180万~250万円ぐらいまで上がっているのだが、ハッキリ言ってこのクルマなどは、実力だけでいえば50万円以下ではないだろうか。
「これが好きな人もいる」「希少価値はある」という部分を勘案しても、せいぜい100万円ぐらいというのが妥当な線でしょうと、実父がコレに乗っていた筆者は思うのである。
トヨタ カローラレビンGT-Z(AE92型)
カローラレビン(AE92型)の中古車情報はこちら!
またAE86のカローラレビンの相場が超絶高騰する理由はわかるが、1987年から1991年にかけて販売された「AE92レビン」が150万~240万円ほどで売られているというのには、今ひとつ納得がいかない。
もちろん悪いクルマではないし、これがお好きな人はどんどんお買いになれば良いとは思うが、存在としては「好きな人が数十万円で買って、コツコツ直しながら楽しむ」というのが似合うタイプなのだが、時代がそれを許さないようである。
日産 フェアレディZ(Z32型)
Z32の中古車情報はこちら!
さらに言えばZ32こと4代目の日産 フェアレディZも、その端正なフォルムにはいまだ大いなる価値があると筆者も確信しているが、それにしても平均価格が約190万円で、最高値のゾーンは300万円前後となる現在の相場は、ちょっと無駄に高いと思う。
もちろん名作ではあるが、今となっては「100万円台半ばぐらい」というプライス感が妥当ではないだろうか。
まぁS110シルビアや92レビン、Z32には厳しい見解を示してしまったが、S15シルビアやS2000などの高騰して然るべき名車に関しては、相場高騰の功罪における「功」もないわけではない。
そのクルマを10年や20年以上にわたって大事に乗ってきたオーナーにとっては、売却する・しないにかかわらず、大幅に高騰した中古車価格というのは「含み益」にほかならない。
またその車種の市場価格が上がったことで、30万円か50万円そこらの値段で売られていた時代と違い、そのクルマを「大切に扱いたい、キレイに維持してあげたい!」という気持ちも強まるはずだ。
■相場高騰がもたらす悪影響
KPGC10型スカイライン2ドアハードトップのGT-Rの価格は今や3000万円オーバー。KPGC110型のケンメリGT-Rは4000万円オーバーとも言われる
だが相場高騰にはやはり「罪」の部分もある。
ひとつには、せっかく市場に存在しているそれぞれの車が、多くの人にとって「手が届かないモノ」「自分の生活には関係のないモノ」になってしまったということ。
これは、長い目で見た場合の「自動車文化の継承」という部分において、いささかダメージの大きい事実である。
そしてもうひとつの「罪」は、「高いモノが必ずしも良質ではないケースもある」ということだ。
もちろん大半の高額旧車は、しっかりとしたレストアが行われ、そのレストアを行った分の実費や利益を正当に反映した、正当なプライスで販売されている。
高額な旧車を見ると反射的に「どうせ販売店がぼったくってんだろ?」とつぶやく人もいるが、それは基本的には間違いである。人と部品と時間を使って古いクルマをレストアし、そのうえでビジネスとして正当な利益得ようとすれば、どうしたって販売価格はウン百万円にはなるのだ。
だが、なかには「安~く仕入れたボロい個体を、とりあえず見える部分だけそれなりにキレイにして、旧車ブームに便乗したプライスを付けて高~く売る」というケースがないわけではない。
そういった際どい商売をしている人にとっては、旧車の相場というのは上がれば上がるほどボロ儲けできるわけで、心の中では「もっと上がれ、もっと上がれ!」と思っているのかもしれない。
そういったさもしい人々にわざわざ巨額の利益を与えたくはないという意味で、旧車の相場ももう少し沈静化してくれるといいのだが……とは思うのである。
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結局、売り払った自分が悪い。