あまりに短命 「NSXは役目を終えた」
執筆:Yoichiro Watanabe(渡辺陽一郎)
【画像】あまりに短命【生産終了の現行NSXと先代NSXを比較】 全163枚
編集:Taro Ueno(上野太朗)
NSXが新たにタイプSを設定した。空力特性から動力性能まで、幅広く進化させた仕様だが、ベースのグレードは販売を終えている。
生産は2022年12月までおこなうが、受注の枠はすべて埋まった。
そしてこれから購入できるNSXは、新しいタイプSのみだ。実質的にタイプSがNSXのファイナルモデルになる。
なぜNSXは、今の時点で終了するのか。ホンダの担当者に尋ねると以下のように返答された。
「現行NSXの発売は2016年だから、既に5年を経過した。フルモデルチェンジの周期に達しており、NSXの役割は終わったと考えている」
このコメントには疑問がともなう。
大量に生産されるNボックスやフィットであれば、5~7年の周期でフルモデルチェンジするが、NSXのような価格の高い高性能スポーツカーは違う。
生産台数が少ないので、フルモデルチェンジの周期も長く、先代(初代)NSXは改良を受けながら15年にわたり生産された。
GT-Rも2007年の登場だから、約14年を経過する。
つまりNSXが2016年に発売されて2022年に生産を終了するのは、価格の高い高性能スポーツカーとしては短命だ。
現時点で廃止する背景には、ほかの理由もあるだろう。この点もあらためて担当者に尋ねた。
ホンダの説明 どこかモヤモヤが残る?
「NSXを6年程度しか生産しない背景には、生産体制の課題もある」
「北米のオハイオ工場を維持するうえで課題が生じた。また将来的に北米で実施される排出ガス規制も考慮して、生産を終えることになった」
この返答も、NSXが終了する理由としては不十分に思える。
そもそもNSXは、高性能スポーツカーながらもハイブリッドを搭載する。WLTCモード燃費は10.6km/Lだから、GT-Rの7.8km/Lなどに比べれば大幅に良い。
ほかの高性能スポーツカーに比べると、将来的な環境対応にも適しているのではないか。
仮に終了するなら、もっと直近の燃費規制や騒音規制があるかも知れない。
この点も担当者に尋ねると「将来の北米における排出ガス規制は関係しているが、直近の法規対応など、差し迫った理由はない」という。
そこで思い出したのがS660だ。
2022年3月まで生産するが、生産規模が小さいため、販売は2021年3月に終了した。
その理由としてホンダは、衝突被害軽減ブレーキの非装着(S660のタイプは低速用のみ)、タイヤを含む騒音規制への対応などを挙げたが、いずれも直近の課題ではない。
衝突被害軽減ブレーキは、新型の国産乗用車は2021年11月以降には装着せねばならないが、継続生産車は2025年12月になる。
そこでS660と同様の境遇にあるコペンについてダイハツの販売店に尋ねると、「コペンは衝突被害軽減ブレーキが非装着だが、今のところ従来どおり販売している。改良する予定はないが、生産を終える話も聞いていない」という。
最近のホンダは、ちょっとしたことで生産を終えるように思える。
オデッセイやレジェンドも「狭山工場を閉鎖する」という理由で生産終了を発表した。
商品の終了に伴って工場を閉めるなら理解できるが、狭山工場の場合は順番が逆だから筋が通らない。
日本販売は計画通りも海外不振が要因?
「現行NSXの役割は終わった」というのが生産終了の公式な理由だが、その背景にはNSXの売れ行きも関係している。
2016年の発売時点では「北米のオハイオ工場の生産規模は1年間に1500台で、この内の100台を国内市場に供給する」としていた。
仮に計画どおりに販売されていたら、2016年から2021年における現行NSXの生産累計(5年間)は7500台になっていたはずだ。このうちの500台が国内で販売されたことになる。
ところが実際の生産累計は、2021年の時点で2558台にとどまる。日本国内の販売台数は464台だ。
ここで新たな疑問が生じる。
海外を含めた現行型の生産累計は2558台だから、販売計画の7500台と比べた時の達成率は34%と低い。
しかし日本は販売計画が500台で、実際の登録台数は464台だから、国内の達成率は93%と高い。
つまり現行NSXは、海外ではメーカーの予想に反して売れ行きが伸びず、日本では逆に堅調に売られたことになる。
この計画台数に対する海外と日本の達成率の格差は、どのような理由に基づくのか。この点も担当者に尋ねた。
「海外で売れ行きが低迷した背景には、北米市場の販売不振がある。NSXは北米ではアキュラブランドで販売されるが、このブランド力も影響を与えた。北米では、長い歴史を持つ世界の有力なスポーツカーブランドが豊富に売られ、アキュラは入り込みにくかった」
「1年間に計画どおりの1500台を製造する能力はあったのか?」と尋ねると「そこは問題なかった」という。
つまり北米ではほかの高性能スポーツカーに負けて売れ行きを低迷させ、日本では共感を得てほぼ計画どおりだったことになる。
この販売低迷も、NSXを廃止する重要な理由だ。
国内市場の過小評価 NSX廃止を早めた
さらに新たな疑問も沸いてくる。
前述の売れ方を見る限り、「1年間に1500台を生産して、日本ではこの内の100台を売る」という販売計画が誤っていたのではないか?
現行NSXの発売以降、国内販売店のNSXパフォーマンスディーラーでは、「NSXはいつでも買えるクルマではなく、納期も不明瞭」と言い続けてきたからだ。
NSXの購入には多額の予算が必要だから「納期が不明瞭」では購入しにくい。
そのためにNSXの情報は、メーカーのホームページには掲載されていたが、販売会社のホームページからは落とされていた。
販売店に尋ねると「NSXを掲載すると、お客さまに(いつでも買えるクルマのような)誤解を与えてしまう心配があるから」と返答された。
国内のNSXをこのように消極的に扱わず、国内計画台数をさらに増やしていたら、購入も容易になって売れ行きはもっと底上げされたのではないか。
そこで担当者に「NSXの生産台数が1年間に1500台で、日本の販売台数はその内の100台という割当ては、何を根拠に算出したのか」と尋ねると、次のように返答された。
「日本国内では、新車価格が2000万円を超える乗用車は、1年間に400~500台が販売されている。そこでNSXは、国内計画台数を100台とした」
ここにも誤算があった。初代NSXの生産累計は、海外も含めると1万8000台に達している。日本では当時のユーザーが、あらためて現行型の購入を希望する場合がある。
また先代NSXの生産終了から16年を経過するから、先代型に憧れた人達が今は立派な大人に成長して、現行型を購入することもある。
NSXは高価格車だが、日本にはNSXのファン、ホンダのファンも多い。
NSXはポルシェやフェラーリ以上に特別な存在だ。
そして日本と、北米を始めとする海外では、NSXの受け止め方がまったく違う。
その結果、現行NSXの販売計画では、日本の販売比率は7%だったが、実際には18%に達した。
国内の計画台数を増やし、日本のユーザーが購入しやすくすべきだった。
最終型の割当もわずか どこか国内軽視
そこまで分かっているのに、NSXタイプSの販売規模は、全世界で350台、日本は30台だ。
日本の割り当ては、9%と相変わらず少ない。
NSXパフォーマンスディーラーでは、タイプSの販売について、次のように述べた。
「タイプSは、すべてのNSXパフォーマンスディーラーが販売できるわけではない。国内の販売規模が30台に限られるから、メーカーがタイプSを扱えるパフォーマンスディーラーを選定している」
「タイプSは最終型のNSXとあって、購入を希望するお客さまは多いが、当店はメーカーから指定されていないから販売できない。申し訳ないが断わっている」という。
タイプSはNSXの最終型だから、2021年9月末日という具合に期限を決めて顧客を募り、相応の予約金を納めてくれたら責任を持って販売すべきだ。
NSXが日本のユーザーを冷遇せずに割り当て台数を増やしていたら、2558台しか生産できずに失敗するのを防げたかも知れない。
ホンダは海外、国内を問わず、市場をしっかりと見るべきだ。
NSXに限らず、軽自動車のNボックスまで含めて、今のホンダはメーカーの都合を優先させることが多い。
そのためにNSXも短命で終わることになった。これではNSXの廃止について、ユーザーの共感を得ることはできない。
今のホンダには顧客目線が欠けており、それを取り戻すには、販売店との対話が不可欠だ。
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みんなのコメント
けど発売してからいままでニュルのタイムは未公表。
最新技術をてんこ盛りしても速さでGT-Rに勝てず、値段はNISMOを除くGT-Rよりずっと高い。
そりゃ売れないよね。