クルマを選んでいる時は本当に楽しい、そして悩ましい。メルセデス・ベンツの興味深い塗装の話をとおして、奥深いボディカラーの世界に浸って、悩んで、妄想して楽しんでください。そして、ボディカラーの話題づくりに役立てて下さい。
メーカーやモデル、そのグレード、オプションの選択はカタログや試乗、自動車メディアのよる評価を見て比較して、予算を交えて検討すれば、ある程度絞り込むことができるでしょう。しかし、ボディカラーはオーナー像を体現する「その人のイメージ」に関わるところです。車種選びよりも慎重になる必要もあります。
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何しろ簡単に交換できないのでクルマ選びの最重要項目の一つです。基本的にはオーナーの好みで決めればいいのですが、パートナー、家族全員の好み、隣人からの見た目のイメージも踏まえて決める必要もあるでしょう。そんな時「安全なボディカラー」を知っていれば、すんなりと決まるかもしれません。
メルセデス・ベンツ塗装の変遷
一般的にクルマの進化に伴う各テクノロジーの発展に比べてみれば、ボディペイント関係の進化の歩みは遅いと言われている。つまり、どんなに塗装のオートメーション化が進んでも、組み立てられている途中のボディ構造の裏側までは機械で塗ることはできないからだ。
ドブづけによる防錆剤処理の後、一般的な自動塗装ラインに入るまでには、高級モデルになればなるほど、そういった見えない部分の仕上げにも手を抜かないことが重要であり、つまり人の手による塗装工程が必要になっている。ある意味においては、そこに手をかけることこそが高級車の証であると言える。
歴史上、メルセデス・ベンツはそういった作業を実にきちんと仕上げている。例えば、今では珍しくなってしまっているフレームの下部に塗るシーラーと呼ばれるアンダーコート・ペイントについても、メルセデス・ベンツはかなり古くから採り入れ、手塗りで丁寧に仕上げている。この一手間をかけることが、下回りの寿命を長くしていると言える。
先述の如く、環境への配慮から、現代では主に使用されている「水性塗料」についても、メルセデス・ベンツはかなり以前から使用しており、「世界で最初」に採用している。
もっとも、塗装工程の自動化だけでなく、塗料そのものも進化している。歴史上、そのつど登場する新塗料によって、ペイントの方法も徐々に変わってきている。戦前から1960年代まで、塗料の素材はラッカーが主流だった。ラッカーはニトロセロース・樹脂・顔料などを揮発性溶剤に溶かしたもので、乾燥が非常に速く、耐久性・対磨耗性にも優れている。
戦前のメルセデス・ベンツは、ほとんどが黒色に塗られており、これはデュポン社の「ディーコ」と呼ばれる塗料が使用されていた。(デュポン社はフランス革命でアメリカに亡命したデュポン家がデラウェア州ウィルミントンに設立した火薬工場が始まり。第1次・第2次大戦を契機に化学工場を主に巨大企業となっている)。この時代の黒色は独特の色合いで大変美しかったが、塗料に含まれている有害物質が問題となり、その後使用ができなくなった。このデュポンの塗料は大変高価であった為、メルセデス・ベンツの他、アメリカではデューセンバーグやパッカード、イギリスではロールス・ロイス、ベントレー、デイムラー等、高級車しか使用できなかった。それでも、ほとんどの場合、当時のラッカー品質には限界があり、1度や2度塗った程度では深い艶を出すことは困難であった。高級車は特に幾度となく塗り重ねて塗装皮膜の厚みを出していかなければならず、特にイギリスの高級車などはその典型的な例であった。
60~70年代には、ドイツ車は「日本車の3倍位塗料」を使っていると言われていた。それもそのはず、それだけ塗料を厚く塗らないときちんとした品質の塗装皮膜にならなかったからだ。当時の日本車やアメリカ車は、ほとんどが大衆車であったので、生産効率の問題から、塗装は実際に薄かったと言われている。何層にも重ねて厚く塗装を施してから、1台1台丁寧に磨き出す塗装方法が採られたのは、高級車だけだった。
メーカーも一般大衆車には出きるだけ手をかけずに生産していたために、アクリルやメラニンで焼付け塗装を行う手法を編み出した。これも仕上げの磨き工程を簡素化するための1つの手法だった。この後、ストレート・アクリルやアクリル・ウレタンといった新しい塗料時代を経て、「ウレタン塗料」が生まれた。このウレタン塗料は実は「航空機の塗装用」に発明されたものだった。しかし、現在のジェット旅客機はあまりにも巨大な為、焼付け塗装(120~150℃に温度を上げるブースが必要)を行うことはもちろん、細部に亘って磨きあげることなど不可能。ウレタンもその後に登場した「水性塗料」も開発が進んだ結果、乾燥に必要な時間が大幅に短縮されるなど、取り扱いが簡単なものへと、どんどん進化してきた。この理由は主に塗装工程の簡素化である。
そして、先述の如く、メルセデス・ベンツが現在、新車用に使用している代表的な塗料メーカーとして、米アクサルタコーティングシステムズ社や独BASFコーティングマーケティングス社が挙げられる。各社補修用塗料ブランドも展開しており、米アクサルタコーティングシステムズ社はスタンドックス、独BASFコーティングマーケティングス社にはグラスリットとR-Mがある。
このように、メルセデス・ベンツは塗装においても時代の先駆者であり、高級車としてのトップクラスの品質を維持している。
一般的な塗料とは?
塗料、それは着色された液体。そして薄く塗付された液体から、不透明な固体の薄膜に変えられる。一般的な塗料(液体)の成分は、顔料(固体)・樹脂(固体)・溶剤(液体)・添加剤(固体・液体)で構成されている。まず顔料・樹脂・溶剤・添加剤を混合し塗料になり、さらにシンナー(塗料を薄める)を加えて希釈塗料となる。
一般的な塗料成分としての概念は下記の通りである。・顔料とは塗膜に色や充鎮効果を与え、水や溶剤に溶解しない粉末。樹脂とは顔料を均一に分散させ、塗膜に光沢・硬さ・密着性・耐久性などを与える。・溶剤とは樹脂を溶かし、顔料と樹脂を混ぜやすくする液体で、この液体は以前では有機溶剤(シンナー)が使用されていたが、現在では環境問題で「水」になっている。・添加剤とは塗料及び塗膜の性能を向上させる為に添加するもの。 もっと解りやすくする為に下記の構成図を参照下さい。
メルセデス・ベンツが使用する水性塗料
アクサルタコーティングシステムズ社の自動車補修塗料プレムアムブランド「STANDOX・スタンドックス」は、日本において板金塗装補修用の「メルセデス・ベンツ純正指定塗料]としてメルセデス・ベンツジャパンから1995年10月より認定塗料になっている。この板金塗装の補修用水性塗料を薄める希釈水(脱イオン水)として、「STNDOHYD VE ウォーター」が使用されている。実際、筆者が取材してこの希釈水で、補修用水性塗料をコップに入れて薄めてみると、すぐに溶けるのが解ったので、その様子を写真で紹介しよう(カラーはグリーンメタリック)。
さらに、2018年7月31日には、独BASFコーティングマーケティングス社の自動車補修塗料プレムアムブランドR-Mが、メルセデス・ベンツジャパンから板金塗装補修用の「メルセデス・ベンツ純正指定塗料」として認定塗料となっている。
メルセデス・ベンツの新車塗膜構造
さて次に、ジンデルフィンゲン・ブレーメン工場の「メルセデス・ベンツ新車塗膜構造」の例について紹介しおこう(2010年現在)。金属素地部は防錆鋼板、表面処理部はリン酸亜鉛皮膜層、カチオン電着プライマー、中塗りはフィラー、水性ベースコート、上塗りは2Kトップコートクリア-(2Kとは2液型の意味)の6塗膜構造になっている。下記にその塗膜構造図を解り易くした図があるので再度確認してみよう。
各ディーラーのボディカラーパネルの展示方法?
各ディーラーはどのようにして、「ボディカラーパネル」展示をして、楽しくお客様にボディカラーを選んで頂いているのだろうか?筆者は、このボディカラーパネルの展示方法に非常に興味があり、2010年1月に取材・写真撮影してきたので、ここに敢えて紹介しておこう。今や時代の流れで、デジタル化され、タブレットで見せられるのが主流だが、サンプルの方が実感が湧くので私は好きだ。当時では特に興味深いのはレクサス、ジャガー、BMWだった。
メルセデス・ベンツ ボディカラー・内張りサンプルは「湾曲型」で、それぞれ別パネルに「フック式」によって展示されていた。また、最近のボディカラー展示だと思うが、その一覧はアクリル板でパネル化されていた。AMGパーフォマンスセンターでは、AMGカスタムオーダープラン・デジーノのボディカラーサンプルは「湾曲型」のフック式展示。特筆は内張りサンプルの生地そのものを吊り下げており、手で感触を確かめる事ができた。
レクサス レクサスのボディパネルは「スタンド・ボックス型」で、ボックスの上にはカラーサンプルが展示してあった。そのカラーサンプルは「三角錐型」で、まるで「烏帽子」の如く、あるいは上から「錦鯉」が泳いでいるのを見ているようでもあった。つまり、カラーサンプルを円錐型にして、「前後左右側から見た角度による光の反射」によって、ボディカラーの光沢を説明するためである。またボックスの下は「引き出し」になっており、その中には内張りサンプルもきちんと整理されていた。
ジャガー 次いでジャガーだが、ボディカラー・内張りサンプルは「各々湾曲型で一面パネル」に展示してあった。その一面の上部に「カラーサンプル」を下部に「内張りサンプル」と上下に分けて展示してあったが、そのバックは「ウッド」になっており、何か「心が安らぎ・温かみ」を強く感じた。
BMW BMWのボディカラー・内張りサンプルは湾曲型で、そのボードは「マグネット式」になっており、そのつどボディサンプルなどを取り替えてお客様に展示説明するのには非常に便利であった。そのパネルの橫にはキャビネットを設置しており、そのキャビネットの引き出しには数多くのボディカラー・内張りサンプルがびっしりと並べられてあった。
ポルシェ ポルシェはメルセデス・ベンツと同じく、ボディカラー・内張りサンプルは「湾曲型」でそれぞれ別パネルに「フック式」によって展示されていた。 まとめ:ボディカラー・内張りサンプルの展示方法もディーラーによっていろいろと工夫がなされており、如何にお客様に楽しくボディカラーを選んで頂けるかがよく解った(2010年現在)。
タッチアップ・ペイント
筆者がメルセデス・ベンツのセールスマンの現役時代には、セールスバックの中には人気ボディカラーの2~3本の「タッチアップ・ペイント及びコンパウンドや布」を入れていた。お客様への訪問時に、お客様から「ガレージに駐車してあるメルセデス・ベンツのボディにちょっとした傷が付いたんだよ、何とかならないかね」とよく言われたものだ。セールスバックの中からコンパウンドとタッチアップ・ペイントで小傷の応急処置をすると、「さすが、ヤナセのセールスマン」は違うわねと言われたものだ。タッチアップ・ペイントは2本がセットになっており、1本はボディカラー、もう1本はクリアーだ。小傷はコンパウンドでよく磨くと取れる場合があるが、取れない場合はタッチアップ・ペイントでセールスマンは「画家に変身」するわけだ。そしてよく乾いてから、その上にクリアーを塗るのがポイント。
美しいボディに雷が落ちたら?
一般に「車の中」は、屋外での雷電に対して最も安全な場所のひとつとされている。たとえ雷の直撃を受けたとしても、金属製のボディが強烈な電磁場から乗員を守り、電流を地表へと受け流してくれるからである。しかも美しいボディカラーも守る。
しかし、表面のほとんどが布や合成樹脂で覆われたソフトトップには、当然ながらその理屈は通用しない。もしも空を遮るもののない田舎道をCLKカブリオレで走っているとき、突然の激しい雷に襲われたとしたら、ドライバーは即座に車を捨てて大きな木の下にでも逃げ込まなければならないのだろうか?結論から言えば、「実験で立証されており、大丈夫」。周到に設計されたCLKカブリオレの「金属製ソフトトップ・フレーム」はメタルトップと同等のシールド性能を発揮し、雷の影響を全く寄せ付けないことが立証されている。以前、2003年、CLKカブリオレ(A209)のデビューに際して、ベルリン工科大学の協力を得て、高電圧実験を実施された。その実験では、直列につないだ何本ものキャパシターで発生させた140万ボルトの高電圧が、稲妻となってCLKカブリオレのソフトトップの金属製フレームからボディへ流れ、さらにタイヤを通じて地表へ放出された。
そういえば、「君の瞳は1万ボルト」の詩が流行ったのを思いだした。その140倍の140万ボルトだが、「地上に降りた最後の天使」と言えるのではないだろうか!ほとんどのドライバーは、運転中に雷の直撃を受ける機会はないと思うが、メルセデス・ベンツは万にひとつの可能性を疎かにすることなく、考え得る全ての危険に備えて研究開発を続けている。しかも、今や環境問題で車はBEVになり、筆者はこの落雷対策も当然されているものだと確信したいものである。
メルセデス・ベンツは塗装についても革新的なテクノロジーを導入し、トータルバランスの安全性を追求し続ける一方で、常に環境への配慮にも目を向けている。ボディの塗料には有害な溶剤の含有量を80%もカットした「水生塗料」を世界で初めて使用した。特に、2003年には米国環境保護局から「クリーンエアー優秀賞」を受賞している。
TEXT:妻谷裕二撮影/取材協力:ヤナセオートシステムズ&BPセンター茨木。
【筆者の紹介】 妻谷裕二(Hiroji Tsumatani) 1949年生まれ。幼少の頃から車に興味を持ち、1972年ヤナセに入社以来、40年間に亘り販売促進・営業管理・教育訓練に従事。特に輸入販売促進企画やセールスの経験を生かし、メーカーに基づいた日本版カタログや販売教育資料等を制作。また、メルセデス・ベンツよもやま話全88話の執筆と安全性の独自講演会も実施。趣味はクラシックカーとプラモデル。現在は大阪日独協会会員。
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みんなのコメント
長すぎ
こんなんでもギャラになるんだとしたらうらやましいよ。