静かに主張するハイパフォSUV
text:Kazuhiro Nanyo(南陽一浩)
【画像】XC60の高性能モデル T8ポールスター・エンジニアード、B6 Rデザイン【比べる】 全65枚
photo:Keisuke Maeda(前田恵介)
好調の続くボルボが、満を持してモデルイヤー2021年のポールスター・エンジニアード(以下、PSE)のオーダー受注を、11月6日よりオンラインで開始した。
元はレース屋さん、今はボルボ傘下のハイパフォーマンス・ブランドであるポールスターが、ボルボの既存モデルをリデザイン&チューンしたシリーズだ。
今回は従来のS60、つまりサルーンに加え、ステーションワゴンのV60とSUVのXC60のPSEが導入されることになったので、あえて車高の高い後者に試乗してきた。
正直、乗るまでは、走りを強く求める顧客層が買うなら、ルーフが低く天地方向にコンパクトなSかVしかありえないと思っていたので、なぜSUVにわざわざメーカー謹製チューンが要るのか? という疑問が拭えなかった。
が、乗ってみたら速攻でこの偏見は瓦解した。これアリでしょう、どころか、まったく違うクルマに仕上がっていたのだ。
エンジンON ……その前の儀式
XC60 T8 PSEの外観は、よく見ると物々しい。
全長4690mmはノーマルとまったく一緒だが、トレッドを広げるためさりげなくフレアしたワイドフェンダーを装着。
全幅1940mmという値は、インスクリプションより+40mm、Rデザインより+25mm広い。
そこに、極限まで肉抜きを施した細スポークながらもディープリムであることに気づきにくい、そんな専用デザインの21インチ・ホイールを収める。
ちなみにその奥に光るイエローのキャリパーをもつブレーキは、SとVがブレンボ製であるのに対し、XC60だけが曙ブレーキ製だ。
当然、足まわりはPSE専用チューンが施され、フロントボンネットを開けるとストラットタワーバーが見えるだけでなく、アッパー側には22段階減衰力調整機構付きのオーリンズ製ダンパー、そのダイヤルが見える。
リア側も同じく22段階をアッパー側ダイヤルで減衰力調整が可能だが、ホイールハウス内の奥深くなので、ボルボでは原則、ディーラーでの作業を薦めている。
時計周りに締めていくとクリックが止まるところがもっとも固いゼロ状態で、XC60は工場出荷状態で前後とも10段戻しがデフォルトのセッティングだ。
スポーツ走行用の推奨値は前後とも4段戻し、コンフォート用には15段戻しという。
まずは10段戻しの状態で乗り込んだ。
キレも伸びも上々、動的質感
少しベージュがかったチャコールのコンビシートに腰を下ろし、アルミの打目模様パネルは同じだがレザーの面積がRデザインよりやや広いかなという印象のインテリアを見回して、アルミのペダルをゆっくりと踏み込む。
電気モーターによる静止時からの駆動感に正直、ノーマルのT8リチャージと違いは感じにくいが、あちらがフワリと動き出すのに対し、こちらはスルッとした感じはする。
2速以上のギアで入ってくることも多いため、ICE側が始動した瞬間の分かりづらさも同じくで、加速の力強さで気づくといった具合だ。
それにしても加速の質がノーマルT8と違う。
加速のツキから伸び、息の長さまで、1.5倍ぐらい分厚い。
電気モーターに加えて、低回転からのターボチャージャー、途中から伸びを加えるスーパーチャージャー、そしてノーマルより15ps/3kg-mほど出力もトルクもました直4と、どれが効いてるのか判別がつきかねるほど、自然で滑らかで力強い。
レスポンスは鋭いが唐突にトルクの山が来ることがなく、ワインディングでも安心して踏める、そんな伸びと余韻を楽しめる加速感なのだ。
SUVをハンドリング・マシン化する意味とは
AWDの恩恵もあるが、おっかなびっくりの危なっかしさより、踏んでいけるという信頼感が優るのも、ブレーキのタッチも秀逸だし、2.1トン超の巨体に対して申し分ない制動力を発揮するがゆえ。
つまり、重量級ボディとパワートレインを受け止めるシャシーも、やはりいい。
ほぼ中立といえる10段戻しのハンドリングは初期アンダーステアこそ出るが、ステアリングを切ってアンギュレーションに入っていく間の姿勢変化が、鮮明に伝わってくる。
だからアンダー気味でも曲がり始めの間合いが掴みやすかった。
試しに帰りの下り道で、フロントだけ4段戻しに締め上げてみた。乗り心地はやや固くなったものの、初期アンダーが消えて明らかにシャシーの応答性が上がった。
こうも顕著な変化が出るとは予想しなかったので、XC60がポールスター・エンジニアードであることの意味に、ようやく合点がいった。
日本導入30台 もう1つの楽しみも
ストリートで純粋にスポーティに走りたいのならS60やV60もあるが、SUVでかくも対話のあるスポーツ・ドライビングを提供するクルマはそもそも多くない。
あまつさえ、シャシー・セッティングを自分好みに変えられる点は、元々の重さがセンシティブに挙動に影響するSUVでは大きなメリットとなる。
実際、2021年のPSEモデルの導入台数は総数65台のうち、XC60が30台、V60が20台、S60が15台となっている。従来のPSEオーナー、つまりSかVの人が、違うボディとしてXC60に移るという楽しみ方も、悪くない。
ちなみにSとVではオーリンズ・ダンパーの22段階減衰力設定は、デフォルトで前6/後9段戻しとなっている。
以前にお伝えした通り、B6 Rデザインのシャシーも素晴らしくキマっている現状のXC60を見ると、XC60 T8 PSEの必要性は「走り」だけでなく、「セッティングを楽しむか否か」だ。
PSEが1024万円なので、B6 Rデザインとの価格差は225万円。
セッティングが面倒くさいと思うタイプは多分、もち腐れるのでお勧めしない。ただ、元バイク乗りで走り屋さん気味といったタイプなら、いい意味でドロ沼にハマれるので、それまた要注意だ。
XC60 T8ポールスター・エンジニアード スペック
税込み価格:1024万円
全長×全幅×全高:4690×1940×1660mm
最低地上高:215mm
車両重量:2160kg
燃費(WLTC):13.2km/L
ドライブトレイン:1968cc直4ターボ+スーパーチャージャー+モーター
トランスミッション:8速オートマティック
最高出力(エンジン):333ps/6000rpm
最大トルク(エンジン):43.8kg-m/4500rpm
最高出力(前モーター):46.2ps/2500rpm
最大トルク(前モーター):16.3kg-m/0-2500rpm
最高出力(後モーター):87ps/7000rpm
最大トルク(後モーター):24.5kg-m/0-3000rpm
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みんなのコメント
現行ではないですがX5Mなどは典型的にガチガチだった記憶があります。
どの程度の乗り心地かは確かめてみたいですね。