ホンダの「N-BOX」に、新グレード「JOY」が追加される。ひと足早く実車を見た、今尾直樹がリポートする。
なぜJOYが誕生したのか?
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昨年10月に登場した3代目のホンダN-BOXに第3のモデルが追加された。JOY(ジョイ)というサブネームが与えられたこれは、近頃巷で人気の、「軽スーパーハイトワゴン」、超背の高い軽自動車のワゴンのクロスオーバー仕様、具体的にはスズキ「スペーシアギア」、ダイハツ「タントファンクロス」へのホンダからの回答ということになる。
N-BOXの人気が陰ってきたというわけではない。3代目N-BOXは、2024年上半期の販売台数が10万680台となり、登録車(軽ではないフツウのクルマ)を含む新車販売台数1位を獲得するなど、好調を維持している。N-BOXの保有台数は256万台(いずれもホンダ調べ)に達し、路上にあふれている。これが問題のタネで、ホンダによると、N-BOXからN-BOXへの乗り換えが増えており、N-BOXは気に入っているけれど、3台目も同じではツマラナイ。ちょっと違ったタイプがあると嬉しい。という声が出ているという。
そこで、考えられたのが、標準仕様のN-BOX、上質仕様のN-BOX CUSTOM(カスタム)に続く、第3のモデル、JOYなのである。
そのコンセプトは、ライバルのスペーシアギア、タントファンクロスに較べ、グッとライトなアウトドア派を狙っているところにある。ホンダ独自の市場調査によると、コロナ禍を経て、ニッポン人の価値観には、生活、仕事、遊びの3つの面で大きな変化が生まれている。テレワークが普及したことで、生活面は自然の豊かな地方へ、働く場はフレキシブルに、遊びは国内旅行やショッピングなど、身近なものに、という傾向が強くなっている。
しかも、アウトドア趣味のひとは、本格的なキャンプからグランピングへ、インドア趣味のひとは映画館からストリーミングへと、「もっと気楽に」楽しもうという価値観の変化が見られるという。
さらに「スーパーハイトワゴン意向者」、つまり次に軽のスーパーハイトワゴンを買おうと思っている人が、派生モデルの方向性として、アーバン・モダン、ナチュラル・アクティブ、セレブリティ・ラクシュアリーの3つの項目のうち、どのイメージを魅力的に感じますか? という質問に対して、ナチュラル・アクティブに魅力を感じるひとが67.8%でトップを占めたという。ただし、これは複数回答もアリだったようで、アーバン・モダンは57.4%、セレブリティ・ラグジュアリーは47.4%のひとが魅力を感じると回答している。軽自動車を買おうという層が、セレブリティ・ラグジュアリーに◯をつけるのも……という気もするけれど、仮にN-BOXの高級ブランド仕様が出たりしたら、世界的な話題になることは間違いない。
ホンダによる市場調査、サンプル数が不明ではあるけれど、「アウトドアにおける本質」、リラックス、アクティブ、タフの3つのうち、どのイメージを魅力的に感じますか? という質問に対して、リラックスが65.3%、アクティブが21.9%、タフが12.8%という結果が出たという。どの世代でもリラックスがいちばん人気ではあるけれど、20代以下ではなんと90%がリラックスを選んでいることは注目に値する……かもしれない。
少なくとも軽スーパーハイトワゴン意向者は自然のなかでのんびりしたい、と思っている。このような調査結果を踏まえて、ホンダN-BOX 第3の派生モデル開発陣は、N-BOXの価値であるところの「安心で効率的な日常生活」に、「心に余裕を持ち気楽に楽しめること」をプラスする。という結論を導き出した。
「ふらっとテラス」の意味コア・ユーザーとして仮定するペルソナは社会人3年目の20代の若者で、自然体でありのままでいたい、自宅でも外でものんびりリラックスしたい、いましかない時間を大切にしたい、という価値観を持っている人達。クルマに対する価値観は、運転に不安があるので安心第一、日常生活を効率的に過ごしたい、だそうである。
ターゲットにはこのコア・ユーザーのほか、ふたりの生活を楽しむプレファミリー、子離れ、ペットありの50~60代夫婦も含まれている。共通しているのは、子どもがいない、ということで、N-BOXはもともと子育て世代向けのミニ・ミニバンだから、第3の派生モデルの企画書には、それとは別の層を狙う。と書いておいたほうが通りやすかった……のかもしれない。
ホンダの説明によると、そんなわけでN-BOX JOYでは「♪もっと気楽に」というコピーが前面に押し出され、「ENJOY my Pace BOX」というグランドコンセプトのもと、みんなが気楽に使える。どこでものんびり過ごせる。ゆったり時間(トキ)を味わえる。という3つをテーマに具体化が検討された。
外観では、泥やキズが気にならないアースカラーの「デザートベージュ」がテーマカラーに選ばれ、鉄っちんのホイールでシンプルさを、ドア下部に樹脂製のガーニッシュを装着してタフさを表現している。通常ならメッキとなるドア・ハンドル等を黒く塗りつぶしたことが微妙なしっとり感を生んでもいる。
内装では、Nシリーズ初の撥水表皮を用いたチェック柄が最大の特徴で、性別、年齢問わずのベージュをベースとするこのチェックの内装を手がけた女性の開発者3人との懇親の際、「アムラー世代ですか?」と、質問したら、アムラー世代ではないけれど、安室奈美恵は好きです。と、一人が答えた。安室奈美恵は1977年生まれの団塊ジュニア。芸能から引退した安室ちゃんより若い世代の女性たちが日本の自動車メーカーでも活躍し始め、新しい景色を生み出し始めているのは、まことに慶賀である。
どこでものんびり過ごせるように、N-BOX JOYでは後席を倒すと、前席の背もたれにもたれるようにして車内で寛ぐことができるような仕掛けが施してある。後席の背後と荷室のフロアにもチェック柄の撥水性表皮が用いられており、これが普通小型車のラゲッジ・ルームでも見られないような、ちょっとオシャレな空間をつくっている。
後席の背もたれを前に倒して生まれる空間は「ふらっとテラス」と名づけられ、このテラスでゆったり脚をまっすぐ伸ばせるように、荷室のフロアの後端を80mm高くしている。後席背もたれには樹脂製のパネルとパッドが組み込まれて、お尻が痛くならない工夫が加えられている。実際に筆者がやってみると、ひとりでボーッとするには洞窟のなかにひとり寂しくいるようで、少々窮屈なようにも感じた。あ。リヤのドアを開けばよかったのだ……ということにあとで気づいた。
N-BOX JOYはN-BOXのほかのモデル同様、660ccの自然吸気とターボがあり、駆動方式にはFFと4WDの設定がある。価格は CUSTOMより若干お求めやすく、ホンダはN-BOXの販売の20%程度を占めると予想している。♪もっと気楽に。生きづらいともいわれる時代だからこそ、時代にあったコンセプトだ、と、筆者は評価する。
ラグジュアリーはモノではなくて、自由に好きな場所で自由に好きな時間を過ごすことにあるのだから。
文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.) 編集・稲垣邦康(GQ)
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