名匠ルルーシュ監督とフェラーリに何が起きた?
少し前、映画好きの友人に奨められてみた『男と女 人生最良の日々』。2020年1月に公開されたこの映画は、名匠クロード・ルルーシュ監督の作品。そして1966年に公開され、その年の第19回カンヌ映画祭で最高賞のパルムドールや、翌1967年のアカデミー賞では外国語映画賞とオリジナル脚本賞を受賞した『男と女』の続編だ。第一作、そして『男と女II』で、結局は一緒になる事のなかった男女の53年後の再開を描いた作品は、想像通りエレガントで、そしてモダンな恋愛映画であった。
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第一作を初めて見たのは確か高校生になった頃だったが、到底、大人の恋愛の本質などは理解できるはずもなかった。だが一方で、作品で描かれたル・マン24時間やモンテカルロ・ラリーというレースの魅力を知り、マスタングを始めとしたクルマのカッコ良さを教えてくれた映画だった。ルルーシュ監督といえば、クルマをこよなく愛するカーガイであることは、誰もが知っていること。彼が作り出す世界観にクルマという素材は、欠かすことが出来ないものだと、映画ファンばかりか、クルマ好きも理解している。
その監督の名を、別の短編映画のリメイク作品で見たのは昨年のことだった。タイトルは『Le Grand Rendez-Vous=ル・グラン・ランデヴー』。1976年に、自らが所有するフェラーリ「275GTB」を題材にして制作した『C’etait un Rendez Vous=ランデヴー』の続編だ。その撮影が行われたのは2020年5月24日(現地時間)。本来ならばF1モナコグランプリの開催予定日だ。
この日の早朝、撮影用カメラを手にしたルルーシュ監督を乗せ、スクーデリア・フェラーリのシャルル・ルクレールがステアリング握ってモナコのグランプリの市街地コースで撮影が行われたのだ。この時のクルマは今後のフェラーリの方向性を示す「フェラーリSF90ストラダーレ」だった。今、クルマにとってサスティナブルな未来を模索するとき「電動化」は欠かせない要素。世界中のメーカーは完全なるEVやハイブリッドなど、パワーユニットにモーターをどんどん投入している。その要求に対するフェラーリの回答の一つが同社初の市販PHEV(プラグインハイブリッド)である「SF90ストラダーレ」。
その内容を見れば歴代のフェラーリで最高のパフォーマンスを持つ「ラ・フェラーリ」よりも高性能で、走る楽しさも上まわっている。このまったく新しいスポーツカーをルルーシュ監督がどう料理するか、世界中の映画ファン、そしてクルマファンが期待を込めて眺めていたわけだ。
過去も今も、そして未来も唯一無二の存在であり続ける
都内・港区で開催された発表会のプレゼンテーションでフェラーリ・ジャパン代表取締役社長フェデリコ・パストレッリ氏は「今後もオーナーの様々なリクエストに応えていきたい」と語る。
従来のフェラーリにとって、存在感のすべてを表現していたともいえる官能的なエンジンは、モーターの力を借りてどう変わるのか? エンジン特性ほど明確な個性を表現することは出来ないモーターをフェラーリはどう料理し、カーガイのルルーシュ監督は、その変貌をどう表現するのか?
なんともワクワクするような短編映画の制作発表が行われてからほぼ1年経過した2021年4月2日に、今度はリトラクタブル・ハード・トップモデルである「SF90 スパイダー」の日本上陸がアナウンスされたのだ。都内で開催された発表会に登壇したフェラーリ・ジャパン代表取締役社長のフェデリコ・パストレッリ氏は
「どんな状況においてもフェラーリは継続的に投資を行ない、新しいものを開発し続ける。それがフェラーリというブランドの誇りである」
とあいさつ。続けて
「世の中にはさまざまなオーナーがいて、いろいろなニーズがあり、それにつねに答えていきたい」
とスパイダーの投入理由を述べた。スクーデリア同様にスパイダーも外部充電が行えるシステム最高出力1000PSのハイブリッドパワートレインを搭載。動力性を見れば340km/hの最高速度と2.5秒の0~100km/hという加速タイムを誇るスーパースポーツである。
最大の見せ場であるリトラクタブルハードトップは、センターコンソールのスイッチ操作で開閉は14秒で完了。時速45km/h以下であれば走行中でも開閉は可能だという。投入された最新テクノロジーも超弩級の動力性能も、そして美しいルックスなども、すべての面で“やはりフェラーリだな”と納得させる力を持っている。それは当然のように乗らずとも理解できる魅力として伝わってくるのだ。
だが、そんなスペックを元にした物言いではなく、純粋に感心させられたのは、いつの時代も“速いことは美しい”という正義を、とことんエレガントに、そしてモダンな雰囲気を漂わせながら1台のクルマとして完成させている点だ。
まさにそれはルルーシュ監督が描いてきた極上の大人の恋愛映画に似た味わいともいえる。半世紀前に作られた『男と女』が作り上げた、エレガンスとモダンな世界観は、最新作でも変わりなく描かれていた。今後、監督がどんな映画を制作するかは分からないが、例えどんな続編や新作が出てきても、その独特の香りは不変であろう。もちろんフェラーリにとっても、ここまで作り上げてきた唯一無二の世界観は今後、完全なるEVモデルを制作したとしても変わることがなく、世界中のカーガイを納得させるはずである。そんな思いを抱かせてくれた発表会であった。
乾燥重量は1670kgと軽量で、前後の重量配分は45:55となっている。
ロー&ワイドが寄り強調されたボデのサイズは全長×全幅×全高=4704×1973×1191mm。
約14秒で開閉するリトラクタブルハードトップはアルミニウム製で、軽量・コンパクト。一般的なルーフより約40kg軽量で、格納スペースも一般的な容量の半分で、わずか100リットルで済んでいる。
開発段階からエアロダイナミクスを見直し、リトラクタブルハードトップを絞めているときには、クーペモデルと同等の空力特性を維持することなどが求められた。
インテリアのレイアウトやデザインは先のクーペのストラダーレに準じている。
軽量で強度の高いカーボンシェルを惜しみなく使ったシート。サーキット走行にも通用するほどのフィット感を実現。
美しく、視認性もいいフルデジタル曲面メーターのサイズは16インチ。
新開発された8速のDCTとハイブリッドパワートレイン専用に開発されたドライビングモードセレクター「eマネッティーノ」を搭載。
フロントの左右に駆動用としてモーター1基ずつ、そしてリアにはフェラーリのF1マシンで開発された「MGUK(モータージェネレーターユニット・キネティック)」と呼ばれるモーターが1基、合計3基のモーターが組み合わされシステム最高出力は1000PS。
(SF90スパイダースペック)
価格:5,856万円(税込み)
ボディサイズ:全長×全幅×全高:4,704×1,973×1,191mm
車重:1,670kg
駆動方式:4WD
トランスミッション:AT
エンジン:V型8気筒 3,990cc
最高出力:574kw(780PS)/7,500rpm
最大トルク:800Nm(81.6kgm)/6,000 rpm
モーター3基:最高出力:162kw(220PS)
システム最高出力:736kw(1,000ps)
システム最大トルク:900Nm(91.8kgm)
162kw(PS)
問い合わせ先:フェラーリ
https://www.ferrari.com/ja-JP/auto/sf90-spider
TEXT:佐藤篤司(AQ編集部)
男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで“いかに乗り物のある生活を楽しむか”をテーマに、多くの情報を発信・提案を行う自動車ライター。著書「クルマ界歴史の証人」(講談社刊)。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。
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みんなのコメント
全く響いてこないデザイン。単に高そうなスポーツカー。
個人の好みだろうけど、最近の横に細いヘッドライトはイマイチ。
個人的にはクラシックフェラーリなら365GT4BBかディノを入れれるなら246、最近のなら458、488が好み。