人手不足・燃料高騰のダブルパンチ
物流業界は今、転換期に差し掛かっている。ドライバー不足、物流コストの高騰、2024年問題など、課題が山積し、荷主と運送会社の関係性が再び注目を集めている。
「10トントラック = 10トン積める」は大間違い! それを知らない荷主もいるし、知ってて“過積載”依頼の荷主もいる現実
帝国データバンクが2025年3月10日に発表したデータによると、2025年2月の道路貨物運送業者の倒産件数は20件に達し、2024年度(11ヶ月累計)では328件となった。このペースが続けば、年間で360件前後になる可能性が高い。これは、リーマン・ショックが発生した2008年度の371件に迫る水準で、過去2番目の高水準に達する恐れがある。
この背景には「人手不足」と「燃料価格の上昇」が大きく影響している。人手不足を理由に倒産した業者は、2024年度(11ヶ月累計)で308件にのぼり、そのうち38件が道路貨物運送業者で全体の12.3%を占めた。また、物価高による倒産も深刻で、2024年度に判明した841件のうち116件が道路貨物運送業者で、全体の13.8%を占め、その9割が燃料費の高騰を原因としている。人手不足と物価高(特に燃料費)の影響が業界全体に深刻な影響を与えていることが分かる。
さらに、2025年1月16日からのガソリン補助金縮小も影響し、軽油の小売価格は依然として高水準を維持している。業界のコスト負担は増加の一途をたどっており、人手不足と燃料費高騰の問題が解消される兆しは見えない。今後も倒産件数は高止まりする可能性が高く、道路貨物運送業界は前例のない危機的状況に直面している。
さて、現場では
「荷主が強すぎる」
「運送会社が安請け合いしすぎる」
といった不満の声が絶えない。しかし、これを単なる力関係の問題として捉えるのは本質を見誤る。
物流のひっ迫が消費者の生活にどのような影響を与えるのか、実感している人は少ない。「物流危機」や「2024年問題」という言葉が飛び交う一方で、これが自分の生活にどのように関わるのかをイメージできなければ、その深刻さを理解することは難しい。
この問題の根本には、知識の非対称性、意思決定の歪み、慣習の固定化といった構造的な要因が絡んでいる。本稿では、荷主と運送会社が抱える課題を整理し、物流問題の本質に迫る。
荷主の問題
物流業界における荷主の多くは、物流の専門家ではない。特に企業の物流担当者は
「営業には向かないから購買・調達部門に回された」
というケースがある。営業は自社の商品やサービスを売る役割を担うが、購買の主な目的はコストの削減だ。この違いが物流業界に特有の力学を生んでいる。
物流担当者が必ずしも原価計算や適正価格を理解しているわけではない。特に中小企業では、物流に関する社内教育が十分でない場合が多く、運送会社のコスト構造を把握していないことが目立つ。そのため、
「安い = 正義」
という誤解や
「どの会社に頼んでも同じ」
という認識が広まり、運賃交渉が一方的になりがちだ。価格交渉の場で「以前の価格より高いのはなぜか?」という問いがよく飛び交うが、その背景には
・燃料費
・人件費
・車両維持費
などのコスト上昇がある。しかし、物流担当者がこれらの要因を正しく理解していなければ、それを単なる「運送会社の値上げ」として捉え、反発を招くことになる。
さらに、購買担当者には「支払う側が強い」という意識が無意識に働くことがある。発注権限を持つことで優位に立っていると感じ、「お客様は神様」といった意識が出ることもある。
これは物流が「BtoB(企業間取引)」であることにも影響している。消費者向けのB to C取引ではカスタマーハラスメントが問題視されるようになってきたが、物流業界では荷主の強い立場が依然として根強く残っている。
運送会社の問題
運送会社側にも多くの課題がある。特に中小の運送会社では、価格決定の主導権を握れず、「断る勇気」を持てないという問題が顕著だ。
運送業界には依然として原価計算が曖昧な企業が多い。
「とりあえず仕事を取ってくれば何とかなる」
という考え方が根付いており、この考え方が業界全体の運賃相場を押し下げている。目先の売上確保が優先され、長期的な収益性が軽視されがちである。また、適正価格での交渉ができず、低価格競争に巻き込まれやすく、無理な運行スケジュールが組まれるため、ドライバーへの過度な負担が増える。
スポット輸送(単発の依頼)では、多少安くても受けるという運送会社が少なくない。この状況が荷主に「もっと安くできるはず」という誤った期待を抱かせ、結果的に価格競争が激化する悪循環を生んでいる。
さらに、運送業界の多くは中小企業や個人事業主によって成り立っているため、経営戦略やマーケティングに関する知識が不足している場合が多い。顧客に対して自社の価値をうまく伝えることができず、
「価格で勝負せざるを得ない」
という状況に追い込まれることがよくある。差別化戦略を持たないため、価格競争に巻き込まれやすく、交渉力が弱いため荷主の要求をそのまま受け入れてしまうケースが多い。また、労働環境の改善が進まず、ドライバー不足がさらに深刻化している。
特に、大手の元請け会社を経由する下請け・孫請け構造では、最終的に仕事を受ける会社の利益率が著しく低くなる。このような業界構造が、長期的な発展を妨げている。
双方の意識改革が必要
物流問題を解決するためには、運賃を単に引き上げるだけでは不十分だ。荷主と運送会社の両者が、いくつかの重要な点を理解し、行動を変えていく必要がある。
まず、荷主は「適正価格」を学ぶべきだ。物流コストの適正な水準を把握し、原価構造を理解することが必要である。運賃は単なる「支出」ではなく、
「投資」
として考えるべきだ。価格の安さを追い求めるのではなく、安定した供給を優先する姿勢が求められる。また、運送会社とは価格だけでなく信頼関係を築き、対等なパートナーシップを確立することが重要だ。
一方で、運送会社は「交渉力」を強化すべきだ。原価計算を徹底し、適正価格での受注を目指す必要がある。差別化戦略を持ち、価格以外の価値を提供することが不可欠だ。また、「断る勇気」を持つことで、持続可能なビジネスモデルを確立することが求められる。
物流問題は単純に「荷主が悪い」「運送会社が悪い」といった話ではない。業界全体の構造的な課題として捉えるべきだ。荷主は物流を単なるコスト削減の対象としてではなく、企業活動を支える重要なインフラと認識する必要がある。また、運送会社も「仕事を受けるだけ」の立場から脱却し、適正価格での取引を実現するための力をつけなければならない。
物流の最適化は、企業の競争力に直結する重要な課題だ。持続可能な物流を実現するためには、荷主と運送会社の間で健全な相互理解を築くことが不可欠である。
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みんなのコメント
本質を見誤る。
続きを読んだけど荷主は金を払うから
立場が強く、運送会社は競争で負ける
から安く請け負う。って、結局力関係
じゃん。何言ってんの?
「タヒぬ気で働けば10年で家が建つ!」・・ 昔は夢がありましたね。無理して大学に進学しなくても稼げる仕事は運送以外にもたくさん有りました。これらの変化は少子化の一因とも思える。誰がこんな日本にしてしまったのか?
そう言えばキシダ肝いりのトラックGメンは活動しているのか?今はどこら辺の運送会社のチェックを行っているのか公表して欲しい。予算付いているよねwキチンと仕事しましょう。