日本自動車販売協会連合会と全国軽自動車協会連合会が2021年4月1日に発表した2020年度の新車販売台数は、総販売台数は前年度比7.6%減の465万6632台となり、2年連続のマイナスとなった。
500万台割れは2015年度以来5年ぶりで、総台数のうち登録車は2年連続減で、前年比8.9%減の289万8884台。軽自動車も前年度比5.3%減の175万7748台で2年連続のマイナスとなり、日産(1.3%増)を除く全社がマイナスになった
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そんななか、2020年度(2020年4月~2021年3月)の通称名別新車販売台数ではトヨタ ヤリスが20万2652台を販売し、初のトップとなった。
3年連続トップだった軽自動車のホンダ N-BOXは前年度比20.1%減の19万7900台。N-BOXはわずか4752台差で2位転落となった。3位は2020年同様、スズキ スペーシアで同9.1%減の14万5319台。以下、4位にダイハツ タント、5位にトヨタ ライズが続いた。
2019年度と2020年度の登録車と軽自動車を合わせた台数を見ると、2019年度は上位5台が軽自動車で独占しているが、2020年度はヤリス、ライズが食い込み、軽自動車が上位独占していた総台数の状況は一変した。
そこで、軽自動車販売が2年連続で減少していること、そしてヤリスがN-BOXに変わり、日本の新車販売台数NO.1になったことが意味するものは何か? 軽自動車離れが進んでいるということなのか、モータージャーナリストの渡辺陽一郎氏が解説する。
文/渡辺陽一郎、写真/ベストカーweb編集部 ホンダ ダイハツ スズキ
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■軽販売が2年連続で減少した理由
N-BOX(写真左)とN-BOXカスタム(写真右)。N-BOXシリーズ(N-BOX+とN-BOXスラッシュを含む)は年度別の軽四輪車新車販売台数で6年連続1位を獲得(N-BOX+とN-BOXスラッシュは現在は販売終了)
全国軽自動車協会連合会が発表した2020年度の軽自動車総販売台数
■2020年度車名別新車販売ランキング(登録車+軽自動車)
1位:トヨタ ヤリス/20万2652台(前年比1216.8%)
2位:ホンダ N-BOX/19万7900台(前年比79.9%)
3位:スズキ スペーシア/14万5319台(前年比90.9%)
4位:ダイハツ タント/12万8218台(前年比74.3%)
5位:トヨタ ライズ/12万988台(前年比247.9%)
6位:トヨタ カローラ/11万2777台(前年比98.6%)
7位:トヨタ アルファード/10万6579台(前年比157.1%)
8位:トヨタ ルーミー/10万3064台(前年比111%)
9位:ダイハツ ムーヴ:10万1183台(前年比85.3%)
10位:日産 ルークス:9万8564台(前年比1291.3%)
■2019年度車名別新車販売台数ランキング(登録車+軽自動車)
1位:ホンダ N-BOX/24万7707台(前年比103.3%)
2位:ダイハツ タント/17万2679台(前年比121.1%)
3位:スズキ スペーシア/15万9799台(前年比100.9%)
4位:日産 デイズ/15万4881台(前年比110.6%)
5位:ダイハツ ムーヴ/11万8675台(前年比89.7%)
6位:トヨタ カローラ/11万4358台(前年比121.1%)
7位:トヨタ プリウス/11万3361台(前年比98.5%)
8位:トヨタ シエンタ/10万8067台(前年比112.6%)
9位:日産 ノート/10万5908台(前年比80.4%)
10位:トヨタ ルーミー/9万2890台(前年比107.2%)
2020年度(2020年4月~2021年3月)の国内販売状況を見ると、軽自動車の新車販売台数は175万7748台。この台数は2020年度に国内で新車販売された4輪車全体の38%に相当する。軽自動車の販売比率は依然として高い。
しかし過去の販売実績を振り返ると、軽自動車の売れ行きは減少傾向にある。2015年度以降を対前年比で振り返ると以下の通りだ。2015年度:16.6%減少、2016年度:5.1%減少、2017年度:8.1%増加、2018年度:3.4%増加、2019年度:3.5%減少、2020年度:5.3%減少になる。
直近では2019年度、2020年度と2年続けて減った。上記のうち、2015年度に17%近い大幅な減少になった背景には、複数の理由がある。まず2014年に本格販売を開始した先代ハスラーが好調に売れて、スズキとダイハツの間で軽自動車の販売1位を巡る激しい販売合戦が展開されたことだ。
この時にはメーカーの指示により、販売会社が在庫車を大量に届け出をして、中古車市場に放出する届け出台数の粉飾も行われた。その結果、2014年度に国内で販売された新車のうち、41%を軽自動車が占めた。このような無茶な売り方(届け出の仕方)をすれば、翌年度の届け出台数が減るのは当然だ。
また2015年4月以降に新車として届け出された軽自動車については、軽自動車税が値上げされた。自家用軽乗用車の場合、従来の軽自動車税は年額7200円だったが、2015年度に入って届け出すると1万800円に高まった。
販売合戦による乱売と、増税による軽自動車需要の冷え込みにより、2015年度には軽自動車の届け出台数が前年度に比べて17%近く低下した。
2016年度も軽自動車の売れ行きは回復しなかった。5.1%の減少で、国内で新車として売られたクルマに占める軽自動車の比率も34%に下がっている。2014年度の41%に比べると、軽自動車比率が大幅に縮小した。
このマイナスがようやく回復したのは2017年度で、前年度に比べると8.1%増加した。前年度までマイナスが続いたから増えて当然ともいえるが、2017年度には、N-BOXとミライースが現行型にフルモデルチェンジして売れ行きを伸ばしている。
前年度の末に一新されたワゴンRも好調に売れ、2017年12月には現行スペーシアも登場して、残りの3か月間で届け出台数を増やした。
2018年度も引き続き軽自動車市場は堅調で、スペーシアにギアが加わるなど、効果的な改良も行われて届け出台数を3.4%ではあるが増加させた。
■2020年度軽自動車販売車名別新車販売ランキング
1位:ホンダ N-BOX/19万7900台(前年比79.9%)
2位:スズキ スペーシア/14万5319台(前年比90.9%)
3位:ダイハツ タント/12万8218台(前年比74.3%)
4位:ダイハツ ムーヴ/10万1183台(前年比85.3%)
5位:日産 ルークス/9万8564台(前年比1291.3%)
6位:スズキ ハスラー/8万5426台(前年比136%)
7位:ダイハツ ミラ/7万1757台(前年比84.1%)
8位:日産 デイズ/6万6257台(前年比42.8%)
9位:スズキ ワゴンR/6万6003台(前年比84%)
10位:ホンダ N-WGN/6万1421台(前年比148.2%)
■消費増税後から減り続けている軽自動車販売
スーパーハイトワゴンの先駆者であるタントだが、現在はライバル車との競争が激化して以前ほど販売台数を伸ばせていない
問題はその後だ。2019年10月に消費税が従来の8%から10%に引き上げられ、以前の増税時ほどではないが、高額商品であるクルマの売れ行きは少なからず下がった。2019年度における軽自動車の売れ行きは、前年度に比べて3.5%減っている。
小型/普通車は4.6%の減少(特に消費増税に敏感な輸入車はマイナス5.2%)だから、軽自動車は落ち込みが少なかったが、それでも従来から続いた好調に陰りが見えた。
2019年度に伸び悩んだ原因として、消費増税に加えて新型車の販売不振もあった。2019年7月に登場したタントは、2019年度には17万2679台を届け出して前年度に比べると21%増えたが、N-BOXの24万7707台は抜いていない。
ちなみに先代タントが2013年10月に登場した時は、2013年度に18万588台、2014年度には21万4867台を届け出してN-BOXを抜いた。これに比べると現行タントの販売不振は深刻で、ダイハツにとって解決すべき課題になった。
そこでタントは、新型車の発売直後としては異例ともいえる、実質値下げを行った格安の特別仕様車を連続的に投入した。それでも売れ行きは依然として伸び悩む。2020年度の軽自動車届け出台数ランキングでも、1位はN-BOX:19万7900台、2位はスペーシア:14万5319台で、3位がタント:12万8218台になった。
日産のデイズ。2019年にフルモデルチェンジされ、軽自動車のなかでは設計が新しい部類だが、販売は伸び悩む
ホンダのN-WGN。2019年度の販売台数が少なかったため、2020年度では対前年比で148.2%の伸びとなっているが、台数自体はそれほど多くない
2019年3月には現行デイズも登場したが、モデル末期だったデイズルークスと合計した2019年度の届け出台数は15万4881台だ。対前年度比は11%の上乗せに留まった。
2019年7月に登場したN-WGNも残念だった。パーキングブレーキの不具合によって生産が休止され、2019年の後半はほとんど届け出されていない。以上のように新型車の販売が滞った影響もあり、軽自動車の届け出台数は、2019年10月に実施された消費増税を補えるほどの水準にはならなかった。
そのために2019年度はマイナス3.5%となった。2020年度が5.3%減少したのは、コロナ禍によるところが大きい。小型/普通車は8.9%と大幅な減少になったから、軽自動車の販売比率は前述の38%に向上した(前年度は37%)。それでも軽自動車の届け出台数自体は5.3%減ったのだ。
人気車の伸び悩みも影響した。N-BOXは発売から3年を経過して、コロナ禍の影響もあり、届け出台数が消費増税のあった2019年度に比べて20%下がった。軽自動車の届け出台数2位はスペーシアだが、これも9%下がっている。
3位は前述の販売不振が問題視されるタントで、2019年度に比べて26%減少した。2020年度のタントの売れ行きは12万8218台だから、先代タントがフルモデルチェンジを控えてモデル末期だった2018年度の14万2550台と比べても10%少ない。
新型の売れ筋車種がこのように伸び悩むと、軽自動車市場全体に与える影響も小さくない。
このほかムーヴは2014年の発売とあって、2021年にはフルモデルチェンジが予定され、ムーヴキャンバスと合わせて15%減った。ミライースやワゴンRも16%、アルトもアルトラパンと合わせてそれぞれ15%減少した。
日産のルークス ハイウェイスター。2020年3月にフルモデルチェンジされ、販売台数を増やしている
スズキのハスラー。2020年1月にフルモデルチェンジした。好評だった初代ハスラーの個性的なデザインを踏襲しながら、機能性を向上させている
その一方で、新型車ではルークスやハスラーの売れ行きが伸びた。N-WGNも生産が再開されて届け出台数を増やしたが、軽自動車市場全体で見ると、コロナ禍による減少を補えていない。
以上のように、消費増税、さらにコロナ禍と、軽自動車を含めたクルマの販売には受難が続いた。これからの2021年度は、再び売れ行きを伸ばす段階に入る。それでもN-BOXやスペーシアは、ほぼ上限に達していると見るべきだ。
■今後の軽販売はどうなる?
好調な販売を維持しているN-BOX。現在の軽自動車の販売は、こうしたスーパーハイトワゴン系が中心となっている
スーパーハイトワゴンのスズキ スペーシア。2018年12月に追加したスペーシア ギア(写真)もスペーシアの販売を後押ししている
今後の伸びが期待されるのは、2021年に新型に切り替わる予定のムーヴやアルトになる。
なお2021年2/3月の軽自動車販売ランキングでは、1位がN-BOX、2位はスペーシア、3位はタント、4位はルークスと続く。この上位4車は、すべて全高が1700mmを超えるスーパーハイトワゴンだ。
今はこのタイプが軽乗用車全体の約50%を占めるが、すべての軽自動車ユーザーが、スーパーハイトワゴンの広い居住空間や荷室、スライドドアを必要とするわけではない。
ダイハツのムーヴ カスタム。2021年にはフルモデルチェンジされる見込みで現在はモデル末期の状況にあるが、販売は堅調だ
スズキのワゴンR。歴代モデルは好調に売れていたが、現行モデルはスーパーハイト系に人気が奪われたこともあって、販売はやや低調だ
特に価格の割安感、燃費性能、動力性能、走行安定性を考えると、全高が1600~1700mmに収まるムーヴ、ワゴンR、N-WGNなどが機能のバランスに優れ、合理的でもある。
また2名以内の乗車で街中を中心に使うのであれば、全高を立体駐車場が利用しやすい高さに抑えたアルトやミライースが実用的で買い得だ。燃費もさらに優れている。
低価格で低燃費のスズキ アルトは経済的に優れているが、このようなベーシックなタイプの軽自動車の人気は下降気味だ
ダイハツのミライース。アルトと同様に低価格と低燃費が魅力。立体駐車場が多い地域などではアルトやミライースは実用的だ
今は軽自動車の価値観がスーパーハイトワゴンに偏っているから、売れ行きが伸び悩んでいる面もある。軽自動車には、SUVなどを含めてさまざまなタイプが用意されているので、今後はその多様性、世界観の広さを効果的にアピールする必要がある。
同時に軽自動車の販売比率が38%まで高まったことを考えると、小型/普通車の販売促進も大切だ。2020年度には、国内で売られたホンダ車の54%、日産車の44%が軽自動車で占められた。
クルマにはさまざまな価値があり、楽しい商品がたくさんあることを、もっと訴求してほしい。今の状態が続くと、軽自動車の人気が下がったら、国内販売全体が沈没してしまう。
また、2030年に東京都、2035年に日本国内の純ガソリン車の新車販売が禁止されることになっているが、当然、軽自動車も対象で、ハイブリッドやEVではないと新車販売できなくなる。
軽自動車も変革を迫られている。しかし、ハイブリッドやEVの軽自動車となると、魅力の1つである価格の安さがほぼなくなってしまう。軽自動車は今以上に厳しい時代に入っていくだろう。
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デフレが長いって言うけど、自動車は安定して値上がりしてるから。