フルモデルチェンジしたトヨタのミニバン「ノア」と「ヴォクシー」には、進化したハイブリッド・システム搭載車が設定された。特徴を世良耕太が徹底解説!
第5世代のハイブリッド・システムを投入
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新型ノア/ヴォクシー、“ノアヴォク”と略して呼ぶのはユーザー側だけであると思っていたが、開発者もそう呼んでいた。
そのノアヴォクはファミリー層を主なターゲットとしたミニバンとしての使い勝手を高める数々の新技術が投入されているが、力が入っているのはそこだけではない。ハイブリッド仕様が搭載するシステムの開発にも力が入っている。
なんと、新開発なのだ。トヨタのハイブリッド・システムは1997年に発売された「プリウス」に端を発しており、これが第1世代。以後、プリウスがモデルチェンジするたびにハイブリッド・システムも進化して、2015年にデビューした4代目プリウスで第4世代に進化した。
となると、5代目の次期プリウスで第5世代に進化させるのが慣例というもの。ところがそうはせず、4代目にあたる新型ノアヴォクで第5世代のハイブリッド・システムを投入したのだ。それだけ、ノアヴォクの商品開発に力が入っているということである。
開発を担当した技術者は慣例を破った理由を、“質量、燃費、原価”と端的に説明した。例えば、ノアヴォクのハイブリッド仕様が搭載するリチウムイオンバッテリーは、先代が搭載していたニッケル水素バッテリーより18kgも軽い。
性能を落として軽くしたのではなく、性能を向上させながら軽く仕立てているのがポイントだ。
バッテリーの基本単位であるセルを新開発し、出力は従来比で15%向上。「ヤリス」や「ヤリス・クロス」、レクサス「NX」のハイブリッド・システムが使用する最新のセルよりも車両搭載時の前後方向で10mm以上小さくした。
また、56個のセルを収めるケースを刷新することにより、従来ニッケル水素バッテリー比で30%も体積を減らすことに成功している。
バイポーラ型を採用しなかったワケ
「車両側も一所懸命、質量低減をやってくれていますが、セダンやハッチバックに比べるとミニバンは質量的に不利なので、パワートレーンはなるべく軽くしたかった」と、開発担当者は説明する。
質量にこだわったのはもちろん、燃費のためだ。2.0リッター直列4気筒自然吸気エンジンとDirect Shift-CVT(ギヤ機構付自動無段変速機)を組み合わせるガソリン車とハイブリッド車で、最上級グレード(S-Z、2WD)同士でWLTCモード燃費を比較してみると、ガソリン車が15.0km/Lなのに対し、ハイブリッド車は23.0km/Lである。ハイブリッドのほうが53%も燃費がいい。
いくら燃費が良くても車両価格に大きな差があったのでは、選択する際に二の足を踏んでしまう。そこで“原価”という話になる。トヨタは2021年に発売した「アクア」に、パワーの出し入れ性能に優れた(=出力密度が高い)「バイポーラ型」のニッケル水素バッテリーを投入した。ノアヴォクの開発にあたっては、このバイポーラ型を適用することも検討したという。出力密度の尺度だけをあてはめれば、新しいリチウムイオンバッテリーよりもバイポーラ型のほうが性能は上という。しかし、新型ノアヴォクではあえてリチウムイオンを選択した。
「アクアの場合はハイブリッド専用車ですが、ノアヴォクはガソリン車と併売する。おなじノアヴォクを買っていただくにしても、価格差を抑えることでなるべくハイブリッド車を選んでいただきたい。コストはリチウムイオンのほうが低いのです。バッテリー単体の性能はバイポーラに劣りますが、先代に対する性能向上はきちんと訴求できるので、今回はリチウムイオンを選びました」
ガソリン車のS-Z(2WD)が332万円なのに対し、ハイブリッド車は367万円で、価格差は35万円。燃費がいいのは大歓迎だが、走らせて見ると物足りずにストレスが溜まるようでは困る……そこは作り手側もきちんと認識しており、一般的には二律背反関係にある燃費と動力性能を高次元で両立させている。モーターに電気を供給するバッテリーの出力を従来型比で15%向上させたのにくわえ、走行用モーターの出力を従来比で16%向上させた。モーターの最高出力は70kW(95ps)、最大トルクは185Nmである。
隙のまったくない完成度
新型ノアヴォクへの適用にあたっては、全開性能よりも普段使いでの性能を重視しており、たとえば、30km/hで走っているときに4秒かけて全開にするシーンでは(市街地での走行でよく使うシーンだ)、先代はもとより競合車に対しても、反応が良く、息の長い加速が続く性能を実現しているという。高速道路での追い越しシーンに相当する80km/hからの加速でも同様だ。
電気の力の技術でいえば、ハイブリッド車に設定されるE-four(電気式4輪駆動方式)も新型ノアヴォクで刷新された。燃費を犠牲にせずパワフルにしたのが特徴で、雪道など滑りやすい路面での安心感を高めるだけでなく、ドライ路面でのパフォーマンス向上を狙った。
リアに搭載するトランスアクスル(モーター+減速機)は、ハイブリッドシステムと同様に新開発した。最高出力は現行プリウスE-Four比で約6倍の30kW(41ps)、最大トルクは約1.5倍大きくなって84Nmである。リアタイヤに伝達する出力/トルクが格段に大きくなったのでパフォーマンスへの寄与度が大きくなった。
たとえば、ドライ路面でカーブに差し掛かった際は、リアの駆動力を最適に制御することで、前輪のみを駆動する2WD仕様に比べて優れたライントレース性を実現したという。カーブではE-Fourのほうが外にふくらみにくくなる、ということだ。
近年のトヨタ車は走りがいい(思い返せば、4代目プリウスが転換点だった)。新型ノア/ヴォクシーも例外ではなく、ミニバンとしての使い勝手を高めるだけでない。ハイブリッド車を用意するにしても燃費だけを重視せず、きっちり、走りに踏み込んだ開発をおこなっている。
まったくもって、隙がないのだ。
文・世良耕太 写真・安井宏充(Weekend.)
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一昔前のエスティマの最上級グレード買えるじゃねーか