トヨタの業績が好調だ。2022年3月期第2四半期実績(2021年4~9月)は、増収増益になり、コロナ禍前を超えて過去最高益に達した。トヨタの世界販売台数(レクサスを含む)は約485万2000台とされ、前年同期に比べて21%の上乗せとなっている。
一方、国内市場のトヨタはどうだろうか。直近まで含んだ2021年1~10月の新車販売台数(レクサスを含む)は、120万2194台とされ、前年同期に比べて0.3%ではあるが増加した。国内市場全体では1.3%減少したから、トヨタのプラスは注目される。
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まさにトヨタの一強である。なぜこれほどまでに強いのか? トヨタの強みとともに、死角はないのか、モータージャーナリストの渡辺陽一郎氏が徹底解説する。
文/渡辺陽一郎
写真/トヨタ、ベストカーweb
[gallink]
■トータルの対前年比は微増のトヨタ
2022年3月期 第2四半期決算説明会に臨む取締役・執行役員の近 健太氏(手前)と執行役員の長田 准氏(奥)
2021年1~10月におけるトヨタの国内販売台数を細かく見ると、トヨタブランドの小型/普通車は、対前年比が0.1%の減少となった。その代わりレクサスは15.4%増えており、ダイハツ製OEM軽自動車も、台数は少ないが18.5%上乗せされた。これらの増減により、トータルの対前年比は微増になった。
そして2021年1~10月の国内新車販売台数全体におけるトヨタ(レクサスを含む)のシェアは33%だが、小型/普通車の登録台数に限ると52%に達する。
その原因のひとつが他メーカーの動向だ。トヨタ以外の乗用車メーカーは、今は軽自動車に力を入れ、ホンダは2021年1~10月に国内で新車として売られたクルマの53%が軽自動車であった。日産も40%に達する。そのために今では、国内で新車として売られるクルマの40%近くが軽自動車になった。
つまりダイハツとスズキに加えて、ホンダや日産まで軽自動車の販売比率を増やしたから、小型/普通車市場に限るとトヨタのシェアが50%を超えている。
そのためにトヨタは、最近になって車種数を減らす方針を打ち出しながら、依然として小型/普通車のバリエーションは多い。
5ナンバーサイズのコンパクトカーでは、ヤリスとアクア、ダイハツ製OEM車のルーミーとパッソも選べる。コンパクトSUVには、ヤリスクロス、カローラクロス、C-HR、ダイハツ製OEM車のライズがある。コンパクトミニバンのシエンタも用意する。
このようにトヨタは国内市場に適したコンパクトな車種だけでも豊富にラインナップしており、その一方ではLサイズミニバンのアルファード、上級SUVのハリアーも好調に売られている。
クラウンなどを含めて、上級車種を求めるユーザーのニーズに応えていることも国内におけるトヨタの強さで、1台当たりの営業利益も他社に比べて高い。
クルマ好きにとっては、GRシリーズも注目されるだろう。スバルとの提携から生まれたGR86は、売れ筋の価格帯が330万~350万円に達するが、後席を備えた4シーターの2ドアスポーツカーとしては格段に安い。
技術的には、トヨタにはハイブリッドが豊富だ。大半の車種にハイブリッドが用意され、充電の可能なRAV4・PHV、プリウスPHVも選べる。さらに燃料電池車のMIRAIもあり、2022年になると、先ごろ公開された電気自動車のbZ4Xも市販される。
このようなトヨタの特徴を踏まえて、業績が好調な理由と、ユーザー目線による欠点を取り上げたい。
■トヨタを支える幅広い車種構成
HVの元祖であるプリウスをはじめ、様々な車種にハイブリッドを用意するのもトヨタの強みだ
まずはトヨタの強みだが、商品として筆頭に挙げられるのは、先に述べた小型/普通車の幅広い車種構成だ。特に電動化技術が注目される。トヨタは1997年に発売された初代プリウスから、エンジンとモーター駆動を併用するハイブリッドを手掛けてきた。
そのために電動車の開発に必要な知見やネットワークも豊富だ。今はOEM車を除くと、ヤリスからセンチュリーまで、大半のトヨタ車にハイブリッドが用意される。トヨタが国内で販売する乗用車の40~50%がハイブリッドだ。
そしてハイブリッドのTHS IIは、初代プリウスにおいて基本的なメカニズムを確立させ、その後の20年以上にわたり熟成を重ねてきた。
この成果として、ヤリスのハイブリッドは、2WDのWLTCモード燃費が35.4~36.0km/Lに達する。ノートe-POWERの28.4~29.5km/L、フィットe:HEVの27.2~29.4km/Lを大幅に上まわり、日本で購入可能な乗用車としては、燃費性能が最も優れている。
トヨタの電気自動車については、現時点では品ぞろえが乏しいが、低燃費のハイブリッドの販売は好調だから、二酸化炭素の排出抑制に向けた貢献度は高い。
トヨタの技術について、衝突被害軽減ブレーキや運転支援機能も注目される。車種によってシステムが異なるので注意が必要だが、コンパクトカーのヤリスに採用されるトヨタセーフティセンスは、車両と歩行者に加えて自転車も検知する。
さらに自車が右左折する時に、直進してくる対向車両や横断歩道上の歩行者と衝突する危険が生じた場合でも、衝突被害軽減ブレーキを作動させる。安全装備の先進性もトヨタ車の大切な魅力だ。
以上のようにトヨタ車では、ユーザーの関心が高い燃費性能や安全装備を進化させている。さらにコンパクトカー、SUV、ミニバンなど、人気の高いカテゴリーの車種構成も充実させて、トヨタ車は日本で販売される小型/普通車の50%を超えるに至った。
そのほか定額制でクルマを使えるサブスクリプションサービスのKINTOも実施しており、すべての年齢を補償する任意保険を標準付帯している。任意保険料が高騰する若年層や高齢者にとっては、KINTOを利用するメリットがさらに増えている。
残価設定ローンも、人気車であれば中古車として高値で販売できるから、返済期間満了時の残価(車両の残存価値)を高めることが可能だ。そうなると人気車は月々の返済額が抑えられ、ますます売れ行きを伸ばす。トヨタ車にはこのような好循環が生まれて、好調な販売が続いている。
■安価なコンパクトカーの質感低下が課題
トヨタ ヤリス。先代となるヴィッツと比較して質感は改善されたが、登坂路などでアクセルを踏み込むとエンジンノイズが気になることがある
しかしその一方で、トヨタには欠点もある。しっかりと利益を出す商品開発を行うため、価格の安いコンパクトカーなどでは質感が低下しやすい。
例えばヤリスの前身だった最終型のヴィッツは、2010年の発売時点では内外装の質が低く、ノイズも耳障りに感じた。
販売店からは「新型ヴィッツは質感を下げたので、先代型のお客様に乗り替えを提案できない」と困惑する声も聞かれた。2011年に登場した先代アクアも同様で、モーター駆動で発進した後、エンジンが始動するとノイズが急激に高まった。
現行ヤリスではこれらの品質を改善したが、ノーマルエンジン、ハイブリッドともに、登坂路でアクセルペダルを踏み増すと3気筒エンジン特有のノイズが拡大しやすい。
前述のように燃費数値は優れているが、転がり抵抗を抑えたタイヤによって乗り心地には粗さを感じる。これらは原価低減を意識させ、ノートやフィットと比べた時の欠点にもなっている。
そしてトヨタでは車種が豊富なために、車種ごとの買い得度の優劣も生じやすい。例えばヤリスハイブリッドと、2021年7月にフルモデルチェンジした現行アクアを比べると、後者が明らかに買い得だ。
両車ともプラットフォームは共通だが、ホイールベース(前輪と後輪の間隔)はアクアが長く、後席の足元空間にも余裕がある。ヤリスに大人4名が乗車すると窮屈だが、アクアなら快適で、内装の質、乗り心地、静粛性などもアクアが上まわる。
このように商品力は異なるのに、価格にはあまり差が生じない。アクアZは240万円で、ヤリスハイブリッドZ(232万4000円)に、アルミホイールと100V・1500Wの電源コンセントをオプション装着して装備水準を合わせると、245万500円になってしまう。
装備を同等にすると、ヤリスハイブリッドはアクアよりも居住性や質感が低いのに、価格は高いのだ。ノーマルエンジンはアクアには用意されないからヤリスを選ぶが、ハイブリッドはアクアを絶対的に推奨する。身内同士で商品力と買い得度に差が生じた。
同様のことが安全装備にも当てはまる。2020年に登場したヤリスクロスの衝突被害軽減ブレーキは、前述の通り右左折時に直進してくる対抗車両や横断歩道上の歩行者も検知できるが、2021年に発売された上級のカローラクロスには、この機能が採用されていない。
カローラクロスの安全装備は、コンパクトで価格の安いヤリスクロスに負けている。
■購入時はグレード間の価格差にも注意
写真のアクアはグレードによって割安感に差が生じている。このあたりを明確化するのも今後の課題だろう
グレード間の価格差にも注意したい。アクアに4WDを搭載したE-Four・G(242万8000円)に、オプションのアルミホイール(4万9500円)、バイビームLEDヘッドランプ(11万円)、10.5インチディスプレイ(3万8500円)を加えると、総額は262万6000円になり、前述の装備をすべて標準装着する最上級のアクアE-Four・Z(259万8000円)を上まわってしまう。
Gの価格とオプション価格が割高だから、このような価格が逆転する矛盾が生じる。この点についてトヨタでは「お客様がオプションに関して割高な買い方をしないように注意する」としているが、グレードによる割安度の差が大きいと良心的な価格設定とはいえない。
コンパクトカーのアクアは、ライバル車との価格競争が激しいので、装備を充実させた上級のZが中級のGよりも割安だ。しかしLサイズの高価格車は、逆のパターンになる。Lサイズの車種を買うユーザーは、ライバル車と割安感を比べることはしないので、上級グレードほど儲けを増やそうとするからだ。
例えばクラウンにV型6気筒3.5Lハイブリッドを搭載するRSアドバンスは、直列4気筒2.5LハイブリッドのRSアドバンスに比べて価格が112万8000円高い。両グレードともにハイブリッドで、装備も同程度だが、V6の3.5Lと直4の2.5Lという違いで価格差は大幅に拡大する。
このような買い得度の違いもユーザーの消費動向を分析したものだから、トヨタらしい入念なクルマ造りといえるが、注意しないと割高な買い物をさせられる。
トヨタの商品開発と売り方は、すべてにおいて周到だが、ユーザーにメリットだけをもたらすとは限らない。そのためにもクルマを選ぶ時は、価格まで含めて他メーカーとライバル車と比べることが大切になる。
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みんなのコメント
記事タイトルから、てっきりトヨタの企業分析かと思ったら、たくさんクルマ試乗してるだけの素人目線でのトヨタ商品レビューだったww
@渡辺陽一郎