■どんなクルマ?
カムリ、目指したのは「エモーショナル」なセダン
ホンダのハイブリッドの今 アコードのシステムはどう変わった? なぜすごい?
アメリカの乗用車販売台数15年連続ナンバー1の座に輝くトヨタのグローバル・ミドサイズ・セダン。生産累計1800万台超!
モデル末期だというのに、昨年のアメリカの販売台数は39万台弱というベストセラーなのだ。
ということで、今回の10代目カムリも今年1月のデトロイトショーでいち早く公開された。6年ぶりの全面改良である。
日本での発売は半年遅れということになるわけだけれど、木更津で開かれた試乗会でチーフエンジニア(CE)の勝又正人氏が語ったところによれば、モデルチェンジに当たって彼ら開発陣が考えたのは「このままでよいのか?」という自問自答であったという。
俺はこのままでよいのか? 胸に手を当ててジッと考えると、いやはや……感慨深いものがあります。
「前例のない変革」 きっかけは「危機感」
勝又CEはセダンの白物化について危機感をもっていた。先代カムリはよくも悪くも「食パン」「バニラアイス」と呼ばれていたという。
迷った時にこれにしておけば安心だけど、ワクワクドキドキを失っている。このままでは衰退する……。
ということで、「前例のない変革」に挑んだ。白物化ではない、次世代のクルマとは何か? ということで開発を進めた。
そして、たどり着いたのが「理屈抜きにカッコいい」デザインと、「意のままの走り」を実現するという、実にシンプルな、しかし自動車づくりの永遠のテーマともいうべき、エモーショナルなものだった。
新型カムリはデザイナーの描いたスケッチ画をそのまま製品化した、と勝又CEは胸を張る。
これが実現できたのは、「フルTNGA(Toyota New Global Architecture)」思想でもって、全部の部品をさら地からレイアウトできたからだ。
もし従来の部品をひとつでもそのまま使っていたら、ルーフの25mmはともかく、ボンネットのフードを40mm下げるというような芸当はできなかったという。
カムリの内装、どう変わった?
内装では前方視界を確保するために、ダッシュを下げた。これはインストゥルメントパネル内の「臓物」やエアコン等も新設計だからできた。Aピラーを細くしてクリッピングポイントが見えるようにした、というのはさすがモリゾー社長の会社だ。
気持ちよさのための「フルTNGA」
「意のままの走り」については、低重心化が一番のポイントだった。「われわれがビックリするぐらい低重心化のメリットは大きかったです」と勝又CEは表現した。
前マクファーソンストラット、後ろダブルウィッシュボーンのサスペンションを含むプラットフォームはもちろん新設計で、トヨタとしてはじめて液体封入式のエンジンマウントを4点に採用した。
ボディ、ステアリングの高剛性化についても怠りない。
「フルTNGA」思想の下、エンジン、トランミッションも新設計した。海外では4気筒に加えてV6もあるから、この意味は大きい。
国内は先代に引き続いてハイブリッドのみとなるけれど、そのハイブリッドも2.5ℓ直列4気筒エンジンはゼロから設計し、ダイレクト・レスポンスと熱効率の両立を図った。最高出力178ps/5700rpm、最大トルク22.5kg-m/3600~5200rpmと控えめながら、それぞれ120ps、20.6kg-mの電気モーターとの連携により、システム最高出力211psを発揮する。最大熱効率41%と、プリウスを1%上回ったのがジマンだ。
安全支援システムとして、「トヨタ・セーティセンスP」なる衝突回避支援パッケージが全車に標準装備されているけれど、自動運転は強調していない。トヨタはやっちゃわないのである。
■どんな感じ?
ハイブリッド車特有の違和感が消えた
着座位置は確かに低めだ。それなのに前方視界はたいへんよい。「y」の字が描かれたセンターコンソールの造形は、なるほどダイナミックではあるけれど、安定感を欠くようで、安定思考の筆者はいまひとつだけれど、好きな人は好きなわけで、好みは分かれたほうがよいという考え方を否定するものではない。
スターターボタンは押してもウントもスンとも言わない。ハイブリッドだから当たり前だ。ところがこのクルマ、エンジンが始動しても室内はごく静粛に保たれる。
気がつくと始動していたりする。新開発のエンジン本体はもちろんのこと、液体封入式のエンジンマウントをはじめとするNVH対策が利いているのだろう。
足回りは柔らかくしなやかで、乗り心地は快適だ。ステアリング操作に対するボディの反応も極めて自然で好ましい。なにより運転しやすい。これまでトヨタのハイブリッド車が持っていたハイブリッド車特有の違和感というものが消えている。
アクセルペダルを踏みこむと?
新たにオルガン式が採用されたアクセルペダルを奥まで踏み込むと、エンジンが唸る。その唸り方にしても控えめで、牛の鳴き声みたいな音は出さない。高回転までなめらかに回る。そういえば、レクサスLCのハイブリッド、500hもそうだった。
トヨタはここにきて、ガソリンエンジンと電気モーター、それに電気式無段変速機のコンビネーションによるパワー&トルクの制御の解、プログラムの方程式みたいなものを見出したのではあるまいか。
TNGAを初めて採用した現行プリウスで、低重心化の威力に驚き、LCでも驚いたのに、新型カムリでも驚いた。3度目なので、その驚きに免疫があると自負しようとする自分(評者)が小さくて悲しい。
仮にもし事前にプリウスとLC500hの予防注射を受けずに新型カムリに触れたとしたら、アゴが外れちゃうぐらい驚いたに違いない。
新型カムリの開発陣はハイブリッドというシステムは使いこなした、初めてのFWD中型セダンを生み出した。賞賛に値する。
蛇足ながら、しゃかりきになって走るクルマではない。エコ、ノーマル、スポーツと3つある「ドライブモードセレクト」をスポーツにしても、特にスポーティなフィールを味わえるわけではない。新開発とはいえ、ハイブリッド用エンジンには荷が重すぎる。
■「買い」か?
「改善マインドは得意だけれど、エモーショナルな部分は得意ではない」トヨタが、「数値だけではなく官能の域にまでたどり着いた」と勝又CEが自信たっぷりに語った新型カムリ。トヨタはこの10代目カムリの発売に当たって、国内向けには「セダンの復権」を掲げてる。
「若いジェネレーションはセダンというボディ形式に対する意識がない。セダンを再認識してほしい、というのがわれわれのマインド」だと勝又CEは訴えた。
セダンの美点は基本的に、万能、どんな場面でも使えるということにある。近所のお出かけから長距離の旅行、冠婚葬祭からレジャーまで、なんでもこなせるというのがセダンなのだ。
とは言え、いまの日本を考えてみると、結婚式とかお葬式だってやる人とやらない人がいるわけだし、お葬式は当面増える一方だけれど、結婚式は減る一方で、海や冬山に行くならSUVだろうし、行かなくてもSUVなわけで、そうなると一体だれが買うのか?
あ、私がたずねるのではなくて、答えねばならないのだった。いま風のライフスタイルはさておき、買いか?
フランス車だと考えると……
買いです。
新型カムリは運転すると、「意のままに走る」中庸ないいクルマで、外観の見どころはクーペのようなボディ後半にある。
リアのガラスがちょっとだけラップアラウンドになっていて、しかもそのあたりの造形は面と面が複雑に絡み合い、つながったり、消えていったり……。このあたりのデザインが琴線にふれるならば、もうバッチリ。
ハイブリッドなのに荷室は広大。リチウムイオン電池を後席の下に置いたおかげで、後席の居住空間もデザインの犠牲になっていない。2825mmのホイールベースは特別長いわけではないけれど、後席の足元たっぷりしている。
こちらはファブリック内装。
グレードは、3,294,000円のXと、豪華装備の3,499,200円のGの2種類のみ。Gには“レザーパッケージ”もあって、こちらは4,195,800円。そういう意味では3グレードとも言えるけれど、ハイブリッドしかないから運転してはどれも同じはず。
ごく軽~い気持ちで、これはフランス車なのだ、と思えば、AUTOCAR読者諸兄にもご賛同いただけるのではないでしょうか。
トヨタ・カムリG レザー・パッケージ
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