現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > かわいいようで超体育会系! これでMTがあれば…… スズキ スプラッシュ【記憶に残る珍名車の実像】

ここから本文です

かわいいようで超体育会系! これでMTがあれば…… スズキ スプラッシュ【記憶に残る珍名車の実像】

掲載 19
かわいいようで超体育会系! これでMTがあれば…… スズキ スプラッシュ【記憶に残る珍名車の実像】

 世の中には「珍車」と呼ばれるクルマがある。名車と呼ばれてもおかしくない強烈な個性を持っていたものの、あまりにも個性がブッ飛びすぎていたがゆえに、「珍」に分類されることになったクルマだ。

 そんなクルマたちを温故知新してみようじゃないか。ベテラン自動車評論家の清水草一が、往時の体験を振り返りながら、その魅力を語る尽くす当連載。第9回目となる今回は、名車スイフトのDNAを受け継ぎながら販売はあまり振るわなかったスズキ スプラッシュを取り上げる。欧州仕様と日本仕様の差とは?

かわいいようで超体育会系! これでMTがあれば…… スズキ スプラッシュ【記憶に残る珍名車の実像】

文/清水草一
写真/スズキ

■同じくスイフトベースのSX-4と比較してみると?

 スズキは時として、「日本の需要を無視してないか?」と言いたくなるような、ハードルの高いクルマをリリースする。スプラッシュはその典型だった。

 スプラッシュが販売されたのは、2008年から2014年まで。スズキのハンガリー工場で生産・逆輸入し、日本の工場で整備したのち販売していた。逆輸入車は往々にして値段が高くなるものだが、スプラッシュは123万9000円のワングレード(導入当初)。当時の水準からすると、安くはないがそれほど高くもなく、良心的な値付けだった。

スプラッシュは、ハンガリーにあるスズキの子会社「マジャールスズキ社」で生産され、日本へ輸入する形で販売された「輸入車」である

 スズキはスプラッシュ投入の2年前、同じく欧州向けにフィアットと共同開発したSX-4(初代)も、日本に導入している。

 SX-4のデザインは、あのジウジアーロ氏率いるイタルデザイン。自然体ながらセンスが光るデザインだったし、走りはまさに欧州の小型車そのもの。しっかりした足まわりは路面をつかんで離さず、どこまでも走って行けそうだった。

 私はSX-4が大好きになった。このお気楽なのにしっかりした走行感覚はスバラシイ。同業者も口を揃えて「いいクルマだね」と評価した。クルマのプロが絶賛するクルマは、大抵あまり売れ行きがよくない。SX-4の売れ行きもずっとイマイチではあったが、しかしSX-4は、日本国民誰にでも、自信を持ってすすめられるクルマだった。

 スプラッシュも、SX-4と同じく2代目スイフトをベースにした小型車だ。これは間違いなく期待できる。少なくともクルマ好きには絶対に刺さるはず。そう思って試乗したが、乗った瞬間「うーん……」となった。

 SX-4の足まわりは、前述のように「しっかり路面をつかんで離さない」だったが、スプラッシュンのそれは、「しっかりしすぎていて、中低速では拷問レベル」(個人の感想です)だったのだ。

 セッティングの方向性は同じだが、スプラッシュンはSX-4よりはるかにコンパクトで、ホイールベースも140mm短い2360mm。あまりにもサスペンションが固く、シートもドイツ車的に非常にしっかり固めだったため、ドライバーは路面から常に強い突き上げを食らった。

 クルマ好きとしては、この欧州車的な乗り味を「乗り心地が悪い」とは言いたくなかったが、乗っていると激しく内臓が揺さぶられ、耐えられなかった。これはさすがに、日本国民全員にはすすめられない。いや、ほとんど誰にもすすめられない。なにしろクルマ好きの私でも「こんなの無理!」と思うくらいだったのだから。

■CVTだったトランスミッションの罠

 欧州仕様をそのまま売ってくれ! というのは、クルマ好きにとって長年の願いだった。スズキは2代目スイフトでそれをほぼ実現してくれたが、国内工場で生産されたため、それでもまだ日本仕様は欧州仕様よりは若干ソフトだった。

 SX-4も同様だ。その点スプラッシュは、ハンガリー工場製。直輸入の欧州車だ。「待ってました!」と喝采した私だったが、実車に試乗して、沈黙するしかなかった。

 日本人は、日本の道路舗装の質を「いい」と信じている。「欧州には石畳があるからキツイらしい」と思っていたりもするが、実態は逆で、日本は低速走行(一般道の制限速度は一部を除き60km/hが上限。欧州は一般道で100km/h、高速道路で130km/h制限が標準)を前提にしているから、舗装に意外とデコボコが多いし、高速道路にはジョイントもある。

 あのジョイントは、大地震の揺れを逃がすためのもの。地震がほとんどない欧州には、ああいうものもない。欧州ではちょうどいい足まわりでも、日本ではさすがにムリ! というケースはある。

欧州各国で販売され、しっかりとした走りで高い評価を得ていたが、日本仕様では燃費を考慮してCVTが採用されることになった

 スプラッシュには、もうひとつ残念な部分があった。日本向けは、ミッションがCVTのみだったのだ。

 エンジンは欧州同様、直4の1.2L(88馬力)。スズキらしい実用本位のいいエンジンだったが、CVTを介すると、どうしてもダイレクト感は損なわれる。SX-4はトルコン4ATだったので不満は感じなかったが、このスポーティすぎる足まわりとCVTの組み合わせは、クルマ好きにはチグハグとしか言いようがなかった。タコメーターがないのも残念だった。

 ハードな足まわりを好むクルマ好きにとって、当時のCVTの「ラバーバンドフィール」は問題外。これでタコメーター付きのMT仕様があれば、超マニア受けな珍名車になっただろうが、CVTがその道も閉ざしてしまった。

■日本で販売したスズキの勇気を讃えたい!

 このように、実際に乗って「……」となると、デザインも魅力的には見えなくなってくる。いかにも欧州のコンパクトカーっぽい、思い切りのいい造形で、足元はガバッと大地を踏ん張りつつ、カキーンと高めの全高で居住スペースを稼いでいるが、強めの前傾姿勢や「く」の字に折れ曲がったようなリアを見ると、「思い切りがよすぎないか?」と言いたくなってきた。

シンプルながらもフレッシュさを感じられる欧州車風のスタイリングを持つスプラッシュ

 スプラッシュの販売は低迷を極めた。たまに街で走っているのを見かけると、大抵営業マンらしきスーツ姿の男性が運転していた。それを見て私はつい、「ああ、かわいそうに」と思ってしまっていた。スプラッシュを、この低速環境下で走らせるのは、かなりの苦行だろうなぁ、と。

 しかし我々は、日本の需要を無視してスプラッシュを販売したスズキの勇気を称えこそすれ、非難する気は毛頭ないし、現在でもスプラッシュを愛してやまない超硬派なカーマニアは、少数ながら存在する。が、いかんせん、硬派すぎた。スプラッシュは惜しいクルマだった。MTの設定さえあれば……。

【キャンペーン】第2・4 金土日はお得に給油!車検月登録でガソリン・軽油5円/L引き!(要マイカー登録)

こんな記事も読まれています

即納って不人気車なの!? なんでそんなに待たなきゃならん!? [納期]にまつわる素朴なギモン
即納って不人気車なの!? なんでそんなに待たなきゃならん!? [納期]にまつわる素朴なギモン
ベストカーWeb
いまさら人には聞けない「ベンチレーテッドディスク」と「ディスク」の違いとは? ブレーキローターの構造と利点についてわかりやすく解説します
いまさら人には聞けない「ベンチレーテッドディスク」と「ディスク」の違いとは? ブレーキローターの構造と利点についてわかりやすく解説します
Auto Messe Web
ラリージャパン2024開幕直前。豊田スタジアムやサービスパークの雰囲気をお届け/WRC写真日記
ラリージャパン2024開幕直前。豊田スタジアムやサービスパークの雰囲気をお届け/WRC写真日記
AUTOSPORT web
メルセデス・ベンツの『GLE』系と『GLS』にオンライン先行受注にて“Edition Black Stars”を設定
メルセデス・ベンツの『GLE』系と『GLS』にオンライン先行受注にて“Edition Black Stars”を設定
AUTOSPORT web
ラリージャパン2024“前夜祭”が豊田市駅前で開催。勝田貴元らが参加のサイン会とパレードランが大盛況
ラリージャパン2024“前夜祭”が豊田市駅前で開催。勝田貴元らが参加のサイン会とパレードランが大盛況
AUTOSPORT web
フランス人スター選手と一緒の気分? 歴代最強プジョー 508「PSE」 505 GTiと乗り比べ
フランス人スター選手と一緒の気分? 歴代最強プジョー 508「PSE」 505 GTiと乗り比べ
AUTOCAR JAPAN
セカオワが「愛車売ります!」CDジャケットにも使用した印象的なクルマ
セカオワが「愛車売ります!」CDジャケットにも使用した印象的なクルマ
乗りものニュース
トヨタWRCラトバラ代表、母国戦の勝田貴元に望むのは“表彰台”獲得。今季は1戦欠場の判断も「彼が本当に速いのは分かっている」
トヨタWRCラトバラ代表、母国戦の勝田貴元に望むのは“表彰台”獲得。今季は1戦欠場の判断も「彼が本当に速いのは分かっている」
motorsport.com 日本版
メルセデスAMGが待望のWEC&ル・マン参入! アイアン・リンクスと提携、2025年LMGT3に2台をエントリーへ
メルセデスAMGが待望のWEC&ル・マン参入! アイアン・リンクスと提携、2025年LMGT3に2台をエントリーへ
AUTOSPORT web
TCD、モータースポーツ事業を承継する新会社『TGR-D』を2024年12月に設立へ
TCD、モータースポーツ事業を承継する新会社『TGR-D』を2024年12月に設立へ
AUTOSPORT web
ウイリアムズとアメリカの電池メーカー『デュラセル』がパートナーシップを複数年延長
ウイリアムズとアメリカの電池メーカー『デュラセル』がパートナーシップを複数年延長
AUTOSPORT web
“650馬力”の爆速「コンパクトカー」がスゴイ! 全長4.2mボディに「W12ツインターボ」搭載! ド派手“ワイドボディ”がカッコいい史上最強の「ゴルフ」とは?
“650馬力”の爆速「コンパクトカー」がスゴイ! 全長4.2mボディに「W12ツインターボ」搭載! ド派手“ワイドボディ”がカッコいい史上最強の「ゴルフ」とは?
くるまのニュース
フェラーリ育成のシュワルツマンが陣営を離脱。2025年はプレマからインディカーに挑戦
フェラーリ育成のシュワルツマンが陣営を離脱。2025年はプレマからインディカーに挑戦
AUTOSPORT web
スバルBRZに新たな命を吹き込む 退役軍人のセカンドキャリアを支援する英国慈善団体
スバルBRZに新たな命を吹き込む 退役軍人のセカンドキャリアを支援する英国慈善団体
AUTOCAR JAPAN
オープンカー世界最速はブガッティ!「ヴェイロン」より45キロも速い「453.91km/h」を樹立した「W16ミストラル ワールドレコードカー」とは?
オープンカー世界最速はブガッティ!「ヴェイロン」より45キロも速い「453.91km/h」を樹立した「W16ミストラル ワールドレコードカー」とは?
Auto Messe Web
リバティ・メディアCEOマッフェイの退任、背景にあるのはアンドレッティとのトラブルか
リバティ・メディアCEOマッフェイの退任、背景にあるのはアンドレッティとのトラブルか
AUTOSPORT web
『ローラT92/10(1992年)』“賃貸住宅ニュース”で強いインパクトを残した新規定グループCカー【忘れがたき銘車たち】
『ローラT92/10(1992年)』“賃貸住宅ニュース”で強いインパクトを残した新規定グループCカー【忘れがたき銘車たち】
AUTOSPORT web
約10年ぶりに“メイド・イン・イングランド”に!? 新型「ミニ・コンバーチブル」が“ミニの聖地”で生産開始
約10年ぶりに“メイド・イン・イングランド”に!? 新型「ミニ・コンバーチブル」が“ミニの聖地”で生産開始
VAGUE

みんなのコメント

19件
  • 車検の代車で2日間乗ったけれども、そんなに堅い足とは感じなかった
    それより、足のしっかり感とシートのボリュームがとても好感触。
    確かに、CVTは嫌いだけれどもそれを上回る全体の魅力を感じた記憶がある
    いつか2ndカーに購入しようと思っていたが、残念ながら廃止となり
    今でも程度の良い中古車を探したりしています
  • タコメーターはオプションで付けられました。ちゃんと調べて記事書きましょう。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

132.4万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

14.045.0万円

中古車を検索
スプラッシュの車買取相場を調べる

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

132.4万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

14.045.0万円

中古車を検索

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村