もくじ
前編
ー お買い得 3台のアストン
ー アストン マーティンDB7を考える
ー テールライトは…マツダ
ー アナタはDB9派?
『中古アストン マーティン 買うならどのモデル?』後編 すべての画像をみる
後編
ー DB7とDB9 異なる世界観
ー V12でこの世の果てまで
ー ヴァンテージ 新たな市場を探る
ー 手組みのV12 その走りは?
ー 3台のアストン アナタが選ぶのは?
DB7とDB9 異なる世界観
DB7のキャビンは開放的だったが、それに比べるとDB9には閉塞感がある。スカットルとウエストラインはシートに対してかなり高めで、小柄なドライバーならダッシュボードに前方視界を削られることになる。より力強いクルマに感じられる一方で、周囲のクルマの流れを縫って走ったり、立体駐車場の枠に収めたりするには向かない。それでも、そのサウンドは不自由を補うに十分なものがある。その点のドラマティックさにかけては、一切の手落ちがない。DB9のエンジン音は抜群だ。
イグニッションスイッチをキーでオンにして、ダッシュボード中央に光り輝くガラスのスタートボタンを押すと、V12は穏やかな唸り声で存在を主張する。無論、全てはドライバーを楽しませるべくプログラムされた演出だが、なかなか効果的だ。
今回の取材車は、6速のパドルシフトを搭載するが、不精をしたければスタートボタンの横に並ぶポジションスイッチで自動変速も選択できる。どちらを選んでも、DB9は上品かつイージーで、煩わしさを感じずにドライブできる。しかし、空いたストレートでスポーツセッティングを選び、スロットルペダルを目一杯踏み込めば、柔順さの仮面をかなぐり捨て、牙を剥いてくる。DB7に乗った後では、この大きな重量級GTは途轍もなく速く感じられる。
V12でこの世の果てまで
このクルマの48バルブV12が初めて世に出たのは1996年、フォードのコンセプトカーであるインディゴのパワーソースとしてだった。その3年後、DB7ヴァンテージに量産ユニット賭して搭載された。これは直6に代わるものだが、その驚くべき出来栄えを体験すれば、この換装には文句なしに納得できる。この “AM04” こと5935ccユニットは、フォード・デュラテックV6を2基つなげたものといえるが、マラネッロやサンタアガータの12気筒にも匹敵するモンスターに仕上がっているのだ。
テストコースを走るような機会に恵まれれば、過激なスピードを出したい欲求に抗えないだろうが、そんな時にもDB9は盤石で、安定して、安心できる穏やかさがある。この世の果てまで走っていけそうなフィールで、後席の乗員もまた冷や汗をかくようなことはない。
そしてもし、まるでワープするような速度に達している時に、前を走るのろまなデーウあたりのドライバーがバックミラーを見ていなかったとしても、1710kgもの巨体は、思わず拳を握りしめる間に急停止できる。巨大なベンチレーテッドディスクがスピードを奪う力は、警官が免許証を奪い去るのと同じくらい逆らいようがなく、295km/hのリミッターぎりぎりまで飛ばしてみようという気にもなろうというものだ。
先代のようなスプリングのジェントルさやリラックスした足取りはなく、ロードノイズも大きいが、大陸横断GTといったような走りっぷりは実にみごと。これをベースに製作されたDBR9がル・マンで2年連続クラス優勝を飾ったのもうなずける。
ヴァンテージ 新たな市場を探る
しかし、スポーツという言葉が最もしっくり来るのは残るもう1台、V8ヴァンテージだ。DB7がアストンに持ち込んだ量産という概念は、DB9が洗練させた。成功を収めたその方法論に基づき、このブランドのアピール対象をより低い年齢層へと拡げたのがヴァンテージで、近代アストンで最も小さく、最も敏捷性に長け、ハンドメイドのアンティークなモデルとはかけ離れた、凝縮されたスポーツカーである。フィスカーは語る。
「ヴァンテージはアストンにとって、新たな市場への入口です。従来のオーナーとも、新たな顧客層とも、強いエモーショナルな関係を築けるよう、わたしはこれをデザインしました。スポーティなデザインにはリスクがありましたが、わたしは進んでリスクを選び、それは成功したのです。タイトなプロポーションは、すなわちオーバーハングが短くなりますが、その立ち姿は妥協のない完璧なものになったと思いますよ」
2005年に登場したこの2シーターは、DB9と同じVHアルミシャシーを用いるが、ホイールベースを140mm、全長を320mmほど短縮し、よりシャープでスポーツカーらしいモデルとなった。目指したのは、ポルシェ911の牙城に迫ること。385psの“AM05” V8ユニットは、11.5秒の0-100mph(161km/h)加速を可能にした。
手組みのV12 その走りは?
DB9のように、市街地では本領を発揮しきれず、借りてきた猫とでもいったおとなしさだが、6段MTは力を込めた操作が必要で、4000rpmを超えれば、トンネルなどでは耳を聾するほどの、雷鳴のような轟きを放つ。ドライサンプの8気筒はフロントにマウントされるが、その位置を可能な限り後退させ、51:49の前後重量配分を実現。設計の基礎は1990年代のジャガー用ユニットに見られるが、概ねアストン マーティン向けの専用設計が施され、V12とともにケルン工場で手組みされた。
このパンチのあるユニットにより、ヴァンテージは途方もなく速く感じられるが、このクルマの魅力はそれだけではない。ステアリングフィールは針のようにシャープで、グリップも素晴らしいのだ。アウトバーンの速度域で狂気のようなレーンチェンジをしたり、ワインディングをたがが外れたように飛ばしたりしても足取りは乱れない。
シャシーは、アストン マーティンの定番ともいえる、前後ダブルウィッシュボーン+コイルのセッティング。フロント235/45、リア275/40でZR規格の19インチタイヤと相まって、公道上の速度域でオーバーステアに持ち込むのは正気の沙汰ではないと思えるほどの、尋常ではないグリップを生む。サーキットテストに挑んだオートカーの勇敢なテスターたちは、さんざんテールを振り回しながら無事にピットへ戻ってきたばかりでなく、そのコントローラブルな性格を褒めそやしさえした。なにより、ヴァンテージへの評価は、彼らの力強いサムアップを見れば明らかだったのだが。
「わたしが加入した頃のアストンは、年間の販売台数が1400台程度に過ぎませんでした」と振り返るのはフィスカーだ。
3台のアストン アナタが選ぶのは?
「V8ヴァンテージとDB9の発売で、それが7000台以上になり、社としては初めてわずかながらも利益が出ました。今日では、ヴァンテージはアストンの最多販売車種となっています」また、デザインには、究極的な英国紳士像を思い描いたという。「それはジェームズ・ボンドであったり、スマートなエグゼクティブだったりするのですが。このクルマには、ボディビルダーのような筋肉質さはありません。アスリートのように逞しくエレガントで、控えめでもあり、そしてスポーティなのです」
今回の3台は、長い歴史に培われたアストン マーティンの伝統に連なりつつ、極めてスタイリッシュに仕上がったクルマたちだが、その性格は三者三様だ。ハードコアなスリルを欲するならヴァンテージ、くつろいだライフスタイルを望むならDB7を選びたい。その中間にあるのがDB9で、今回集めたクルマたちの勘所を押さえており、なぜこれらの中古価格が上がり始めているのかを理解させてくれるといえるだろう。
個人的には、DB7の麗しい姿こそ自分の好みそのものだが、どれを選んだとしても、ひとつだけは明らかだ。いくら支払ったにしても、その金額で買える最良の選択となるに違いないということである。
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