2008年、3代目W204型CクラスのAMGモデルが上陸している。アウディRS4、BMW M3クーぺの後を追うように、C63AMGはV型8気筒エンジンを搭載して登場、ハイパフォーマンスカー市場に敢然と討って出た。Motor Magazine誌では、この史上最強のCクラスに注目、アウディRS4、BMW M3クーぺとの違いを考察しながら試乗を行っている。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年7月号より)
V型8気筒エンジンを手に入れてハイパフォーマンス市場に挑む
いわゆるDセグメントのプレミアムサルーン市場では、BMW3シリーズという絶対的なベンチマークを中心に、アウディA4、そしてメルセデス・ベンツCクラスがギリギリのつばぜり合いを繰り広げている。そして今、その戦いの熱気が、これらのモデルをベースに仕立てられたハイパフォーマンスモデルの分野にも飛び火しつつある。
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ここでも王者として君臨するのは、3シリーズをベースとするBMW M3だ。競技用車両のベース用としてハイチューンの直列4筒エンジンを積んでデビューしたM3は、2代目で直列6気筒エンジンを手に入れ、卓越した動力性能と運動性能で、このカテゴリーを席巻する。
その対抗馬としてアウディが投入したのが、当初はV型6気筒ツインターボを積み、現行モデルでは真っ先にV型8気筒エンジンを手に入れたアウディS4、そしてRS4である。メルセデス・ベンツも、先代CクラスからAMGモデルで戦場に挑む。しかしV型6気筒スーパーチャージャーのC32AMG、V型8気筒のC55AMGは、ともに残念ながらM3の牙城を脅かすことはできず、むしろアウディRS4にもパフォーマンスで先行されてしまった。
しかし、他のセグメントでは絶対王者として君臨するメルセデス・ベンツが引き下がるわけはない。昨年登場した新型Cクラスをベースとしたハイパフォーマンスモデルは、いよいよAMG独自開発のV型8気筒6.2L DOHCユニットを搭載して世に送り出されることとなった。
奇しくも最大のライバルであるM3も、新型ではV型8気筒エンジンを手にし、しかもセダンも用意する。アウディRS4は旧世代となったが、その実力はいまだ一線級。そしてさらに、レクサスまでもがこの市場にIS Fを投入してきた。競争は激化必至。さて、この中でC63AMGは、果たしてどれだけ鮮烈な存在感を示すことができるだろうか。
エンジンを回せば回すほど感じる艶めかしいビート
さっそく乗り込んだC63AMG。ダッシュパネルに差し込んだキーをひねりエンジンを始動すると、響いてくるのはいかにもV型8気筒らしいドッドッドッという重低音の鼓動である。しかも、それは耳だけではなくステアリングホイールを握る掌にも微かな振動として伝わってくる。
この生々しい息吹は、目線の先にかすかに見えるフード上の2本の隆起とともに、ノーズの下に収まる心臓のポテンシャルの程を否応なく意識させ、じっとしていると緊張感と期待感、そして昂揚感が混ざり合った何とも言えない気持ちになる。
RS4もアイドリングから刺激的だが、そのサウンドはもっと機械的でクール。M3はそのあたり、結構淡白と言える。IS Fは結構迫力を感じさせるが、やや演出過剰というか人工的に作られた音という感じがしてしまう。C63AMGは、これらに較べると、より有機的な匂いがすると言えるかもしれない。
走り出しても、その印象を支配するのはやはりエンジンである。AMG製V型8気筒6.2Lユニットは、最高出力457ps/6800rpm、最大トルク600Nm/5000rpmを発生する。このエンジン、搭載される車種によってチューニングが異なり、たとえばCL63AMGでは525ps/630Nmを発生しているが、C63AMGは車重が1800kgと300kg以上も軽いことからパワーウェイトレシオは約4.0kg/psのCL63AMGを逆転して約3.9kg/psに達する。
アクセルペダルを踏み込んでいくと、外で聞いている限りは猛々しい排気音が炸裂するのだが、室内にいる分には力強いビートの中に艶めかしさすらも感じさせる。吹け上がりはシャープだが、それは単に軽快というよりは濃密なトルク感をともなった重みのある鋭さとでも表現したくなる類いのもの。エンジンを回すほどにツブの揃っていく感触も脳天をシビレさせる。
この凄まじい迫力を存分に堪能するならば、7GトロニックはMモードに入れておくに限る。AMGスピードシフトプラスによって実現した最大50%速いシフトアップ/ダウンのおかげで、レブリミットの7200rpmまできっちりエンジンを回し切ることができるからだ。6000rpmまで達すると回転計下側のインジケーター部分が真っ赤に光り、シフトアップするよう促す演出も、思わず右足に力が入る要素と言える。しかもシフトダウン時のブリッピング機能まで備わるのだから、自分を抑えるのなんて不可能だ。
無論、トルコンATだけに時にもどかしさを感じる場面はある。しかし日常使用の快適さも考慮に入れるならば、そしてこれがAMGとは言えメルセデスである以上、それも納得の範囲と言っていいと思う。
もちろん、これだけ踏み込みたくなるパワートレーンを搭載するだけに、シャシ性能も徹底的に磨き上げられている。3リンク式のフロントサスペンションは完全専用設計で、トレッドは35mm拡大されアクスルキャリアの剛性も100%向上している。当然ジオメトリーの設定も別物だ。マルチリンク式のリアサスペンションも、トレッドを12mm拡大したほかキャンバー角を増大し、さらに駆動系も強化されている。
ブレーキも前6ピストン、後4ピストンのキャリパーに、前360mm径、後330mm径の大径ローターと、ポテンシャルアップは著しい。
引き締まった足まわりは高いボディ剛性の賜物
もっとも、その盤石ぶりと引き換えに街中での乗り心地はしなやかとは言い難く、路面の細かな凹凸や段差を忠実に拾ってしまう。試乗車が履いていた19インチのタイヤ&ホイールのせいもあるのかもしれない。首都高速の路面の継ぎ目などもいちいち跳ねてしまう。電子制御式ダンパーのEDCが上質な乗り心地を実現しているM3との違いはここでも顕著と言える。
ただし、それもただ闇雲に硬いわけではなく、目地段差などで跳ねた後、着地の際には短いストロークの中でしっかり足を沈ませて急激な接地性の変化を抑えている。IS Fのように跳ねっぱなしというわけではない。それどころか単に硬いだけのC300アバンギャルドSと較べても、引き締まっているという表現が適当だと思えるくらいだ。それはボディからステアリングからサスペンションまで、すべてにきわめて高い剛性感の賜物でもある。
いずれにせよ、硬いから不満なのかと言えば、要はそんなことはない。十分許容範囲だと言ったら矛盾して聞こえるだろうか。だが、これはAMGなのだ。こうしたハイパフォーマンスカーの乗り心地には色々な評価軸があるだろうが、いわゆる快適性を重視するならば選択肢は他にもある。AMGに求めるべきはそこではないはず。乗り心地が良いに越したことはないが、八方美人で中途半端になるより、この方が余程いいというのが僕のスタンスだと理解していただければと思う。
もちろん、硬い乗り心地を納得させるには、それだけの果実が必要だ。C63AMGの場合、それは言うまでもなく運動性能の良さということになる。そして、それは見事に達成されていると言っていい。
しかも、それは飛ばさなければわからないというものではない。車速感応式のAMGスポーツステアリングは、ベース車の14.5:1から13.5:1へとギア比を速めたおかげもあって、軽くはないはずのノーズを鋭くインへと抉り込ませる。V型8気筒エンジンの存在を意識させない、というほどではない。しかし妙に突っ張ることのない自然な手応えで外輪を沈み込ませ、タイヤのグリップをしっかり引き出した自然なターンインの姿勢に持ち込めたならば、まさにこっちのものだ。
しかし嬉しくさせるのはその鋭さよりも、むしろその時の豊かなフィードバックの方である。ベースのCクラスは軽い操舵感の一方で路面感覚が今ひとつ頼りないのだが、C63AMGはまるで掌にタイヤの状況が余さず伝わってくるような感覚を示す。ゆっくり走っていても気持ち良く、クルマとのこの上ない一体感に浸れるのは、まさにそのおかげ。これはM3にもRS4にも、IS Fにも圧倒的に勝る部分である。
もちろん、その真髄に触れたいと願うなら、ブレーキングをもう少し遅らせて、そしてもうワンテンポ早くアクセルを踏み込んでみればいい。オン/オフに加えてスポーツモードを用意した3モードESPは、スポーツに設定だ。
制動性能は文句なし。タッチも剛性感に富み自在にコントロールできる。ステアリングを切り込み、姿勢が多少不安定になっても、スポーツモードではある程度までその動きを許容してくれる。要はそれを利用してクルマを曲げることを楽しめるのである。
向きが変わったらアクセルオン。この時のトラクションも素晴らしい。そのソリッドな接地感は、多少乱暴に踏みつけてもその大出力を確実に路面に伝え、クルマを前に進めてくれる。今操っているのが457psのFRだということ、何度も忘れそうになってしまった。
刺激的な走りに釣り合った攻撃的とも思える外観
正直言って最初は、その外観はいくら何でもヤリ過ぎじゃないかと思った。ダーククロームのトリミングが施されたヘッドランプはいかにもワルそうだし、バンパーの開口部も大きい。しかも、そこから連なる左右のフェンダーはドーンと張り出してワイドなスタンスを形づくっているのだ。ディフューザー形状とされたリアバンパーにくわえ込まれた4本のマフラーエンドも含めて、そのエクステリアはとにかく全方位に威圧的と言える。
個人的には決して嫌いではない。しかしメルセデス傘下で、そのラインアップの頂点を担う役割を与えられてきたここ10年ほどのAMGに親しんできた人にとっては、ここまでアグレッシヴな外観は、敬遠する要素にもなるのではと感じたのだ。
だが実際にその走りを存分に味わった後には、ネガティヴな懸念は消え去っていた。これだけ刺激的で魅惑的な走りっぷりを見せるのだ。外観だって、このぐらいやってちょうど良いというものだろう。
このセグメントをリードするBMW M3は新型になって随分と大人びた。もっとも、いざそのステアリングを握れば、そこには間違いなくMならではのリアルスポーツ的な世界が広がる。その走りの気持ち良さには率直に言って甲乙付け難い。しかし、やはりちょっとわかりにくいかなと感じるのは確かである。
そこへ行くとAMGは、この意気込みがほとばしり出たような佇まいやドライビングフィールがストレートに響いてくる。この手のモデルを欲する人、皆が皆、真剣に鞭を入れることだけを前提としているわけではないはず。そう考えると、C63AMGこそズバリ感情に突き刺さるという人は少なくないように思う。
実際このC63AMG、セールスは本社の予想以上に好調だという。日本へのデリバリーが遅れているのはそのため。しかし、それもこの内容からすれば頷けるところではある。
Dセグメントのハイパフォーマンスカーという、このニッチなセグメントの戦いも、いよいよ全面戦争の様子を呈してきた。M3は4ドアセダンを用意し、カブリオレのデビューとともに待望のデュアルクラッチ機構のDKGも投入する。またRS4と同じく、このC63AMGもセダンのほかにステーションワゴンも用意される。さらに将来に目を向ければ、M3クーペに対抗するべく、次期CLKのAMGには相当力が入れられることだろう。またアウディも数年のうちにRS5を登場させてくるに違いない。
取り敢えずはM3セダンにDKGが設定された時が、本当の意味での戦いの幕開けとなる。その日が来るのが待ち遠しい限りだが、今の時点でもひとつ言えるとすれば、それはメルセデスにとって、この戦いが間違いなく、これまでにないほど良い戦いになるだろうということ。それはここに保証しよう。(文:島下泰久/Motor Magazine 2008年7月号より)
メルセデス・ベンツ C63AMG 主要諸元
●全長×全幅×全高:4720×1795×1440mm
●ホイールベース:2765mm
●車両重量:1800kg
●エンジン:V8DOHC
●排気量:6208cc
●最高出力:457ps/6800rpm
●最大トルク:600Nm/5000rpm
●駆動方式:FR
●トランスミッション:7速AT
●車両価格:1020万円(2008年)
[ アルバム : メルセデス・ベンツ C63AMG はオリジナルサイトでご覧ください ]
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