そのデザインで世界に衝撃を与えた初代アウディ「TT」のデビューは1998年。2015年に登場した現行モデルは3世代目で、今夏、エクステリアを中心に手がくわえられた。
【主要諸元(45 TFSI クワトロ)】全長×全幅×全高:4190mm×1830mm×1360mm、ホイールベース:2505mm、車両重量:1510kg、乗車定員:2名、エンジン:1984cc直列4気筒DOHCターボ(230ps/4500~6200rpm、370Nm/1600~4300rpm)、トランスミッション:6AT、駆動方式:4WD、タイヤサイズ:245/40R18、価格:615万円(OP含まず)。といってもデザイン的に完成しているTTなので大がかりなものではなく、スポーティ仕様のS Lineのエクステリアに準じたものになった。
具体的には前後バンパーやサイドスカートがよりアグレッシブな形状となり、シングルフレームグリル内を立体的な造形の黒いメッシュとし、精悍さが増した。
45 TFSI クワトロの通常タイヤサイズは245/40R18であるが、試乗車はオプションの19インチタイヤ(245/35R19)が装着されていた。試乗車のヘッドライトは、オプションのマトリックスLEDタイプだった(14万円)。マトリックスLEDタイプは、ロービーム用のLED ライトと、ひとつのユニットに多数のLED が組み込まれたハイビーム用ヘッドライトを組み合わせたもの。これにより、たとえば高速道路でハイビームを使用時、対向車や先行車を検知すると、ハイビームのLED を一部消灯または減光させ、対向車や先行車にあたらないようにするという。で、久しぶりにアウディTTのハンドルを握って、小気味よさとさまざまな目的に使える実用性、そして“いいモノ”感が高次元でバランスしているのをあらためて感じた。なにひとつガマンせず、“ファン・トゥ・ドライブを”味わえる。コンパクト・サイズのスポーツカーにおける優等生の位置付けだ。
現在、アウディTTのラインナップは、チューン違いの2.0リッター直列4気筒ターボ・エンジンを搭載する4種。FF(前輪駆動)のエントリーモデルがアウディTT Coupe 40 TFSI(最高出力197ps)、4駆のアウディTT 45 TFSI quattro(同230ps)にはクーペとロードスターがあり、最強版のアウディTTS Coupeは286ps。今回試乗したのは、アウディTT Roadster 45TFSI quattroだ。
試乗車の45 TFSI クワトロが搭載するエンジンは1984cc直列4気筒DOHCターボ(230ps/4500~6200rpm、370Nm/1600~4300rpm)。ブラックとシルバーだけというシンプルな色使いで、スタイリッシュな造形と素材の質の高さで勝負するインテリアに囲まれると、自分がちょっとセンスの良い人間に思えてくる。
インテリア・デザインが主張するのでなく、乗る人をカッコよく見せてくれるのがアウディの各モデルに共通する美点だ。
インパネのタコメーターとスピードメーターの間にカーナビ画面が表示されるおかげで、ダッシュボードに液晶画面がないのもすっきりしていて好ましい。操縦に専念できる。
エンジンを始動し、電動ソフトトップを降ろして出発の準備が整った。
インフォテインメント用のモニターが備わらないインテリア。各種車両情報やナビゲーションマップなどは、メーターパネル内に表示される。メーターパネルはフルデジタル。ナビゲーションマップのほかテレビ映像(停車中のみ)も表示する。エアコンの設定は、吹き出し口の中央にあるダイヤル式スウィッチで操作する。試乗車のオーディオ・システムはオプションのバング&オルフセンだった(13万円)。TTらしい乗り味とは?軽くてカッチリしたものが、地面に吸い付くよう走るTTのライドフィールは独特だ。
キモは、強くて軽いアルミを多く使ったボディ構造にある。軽いのはもちろん、ドアやボンネット、フェンダーにもアルミを使い、重心も低くしたのだ。重心が低いから、足まわりを固めなくてもロール(横方向の傾き)を抑えられる。
試乗車の駆動方式は4WD。なお、エントリーモデルはFWD(前輪駆動)。ステアリングはS line専用デザイン。スポークには、インフォテインメント用のスウィッチも備わる。アウディTT Roadster 45TFSI quattroは、多くのクルマが苦手とする首都高速のつなぎ目を、「タン、タン、タン」と軽やかに通過する。
屋根が開いているのにボディがねじれる感じを受けないのも、低級な音が聞こえないのも、基本骨格が強靱であることの証左だろう。
もうひとつ、16万円のオプション装備である「アウディ・マグネティックライド」が効いているのも感じる。これは磁気を使い、ショックアブソーバーの減衰力を自動でコントロールする仕組みで、状況に応じて引き締めたり、あるいは緩めたりする。
過去の経験から言うとこれがあるとないとではかなり違うので、自分なら喜んで16万円を支払いたい。
最小回転半径は4.9mと、取り回しに優れる。リアスポイラーは120km/h以上で、自動で立ち上がる。リアスポイラーは120km/h以上で、自動で立ち上がる。屋根を開けても風の巻き込みは最小限で、ドライバーは空調が整った室内で、さわさわと髪の毛を撫でる風の感触だけを楽しむことができる。
電動ソフトトップの開閉に要する時間は10秒。しかも、50km/h以下であれば開閉可能だ。電動で上下するウインドブロッカーはオプション(7万円)。ラゲッジルーム容量は280リッター。エンジンはターボチャージャーで過給するタイプであるけれど、どっかんとターボが炸裂するような振る舞いはしない。エンジン回転の上昇とともにナチュラルにパワーが盛り上がるあたり、大排気量のNA(自然吸気)のエンジンのようだ。
デュアル・クラッチ式の6速Sトロニックの変速は迅速・丁寧。エンジンは低回転域からみっちりとしたトルクを発生するタイプだから頻繁に変速する必要はないのだけれど、ついついマニュアルでシフトしたくなる。
トランスミッションはデュアル・クラッチタイプの6AT。ドライブモードを「オート」からスポーティな「ダイナミック」に切り替えると高回転をキープするエンジンは乾いたエグゾーストノートを響かせ、ハンドルの手応えも足まわりもビシッと引き締まる。
だからドライバーは昂揚するけれど、よくできた足まわりと4輪に最適なトルクを配分するクワトロのおかげで、TTロードスターは狙った通りのラインを、一糸乱れぬ姿勢で駆け抜ける。
細いロープの上を綱渡りする時に感じるスリルではなく、ほどよい硬さの清潔なマットの上で宙返りをするような安心感のある興奮だ。
S lineパッケージ装着車のシート表皮はアルカンターラ×レザーのコンビタイプ。試乗車のシートは、ヘッドレスト下部から温風が出るエアスカーフ(7万円のオプション)付きだった。運転席・助手席のあいだには、500mlペットボトルを複数本置ける収納スペースもある。TTに近いサイズと価格帯のライバルはBMW「Z4」やポルシェ「ケイマン」などいくつかあるけれど、TTにはドライバーをクールに興奮させるという突出した個性がある。
ハンサムな優等生……人間だったら友だちになりにくいかもしれないけれど、クルマであれば頼りになる。優秀なパートナーになりそうだ。
文・サトータケシ 写真・安井宏充(Weekend.)
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