ホンダはハイブリッドを見限っていなかった
ついに復活目前のホンダ「プレリュード」に乗ることができました! 2023年の「ジャパンモビリティショー(以下、JMS)」にてサプライズでお披露目され話題になったホンダ「プレリュード コンセプト」。着々と開発が進められ、いよいよ2025年にデビュー予定のこのクルマのプロトタイプを、ホンダの栃木プルービンググラウンドで試すことができたのです。
【画像】「えっ!…」ハイブリッドとは思えない爽快な走り! これが2025年に登場するホンダ新型「プレリュード」です(30枚以上)
同車の試乗がかなったのは「Honda e:HEV事業・技術取材会」というメディア向けイベントでのこと。「ホンダは最近、BEV(電気自動車)にばかり傾注して、エンジン車やハイブリッド車はどうするつもり?」という世間の声に対して、新たなパワートレインや車体プラットフォームまで含めた次世代のe:HEV技術を披露することで、実は力を入れて開発を続けているんだと強くアピールする機会の、目玉のひとつとして新型「プレリュード」プロトタイプの試乗が用意されていたのでした。
さて、若い人はあまりピンと来ていないかもしれない「プレリュード」は、1978年に初代モデルが登場したホンダのスペシャルティ2ドアクーペです。1987年デビューの2代目が、要は“モテ車”として大ヒットして“デートカー”のジャンルを確立。その後、代を重ねていき、5代目モデルの時代の2001年に販売を終了しています。つまり今回、ほぼ四半世紀ぶりの復活となるわけです。
新型「プレリュード」のパワートレインは、そんなわけでホンダの2モーターハイブリッドシステムである“e:HEV”となるのですが、そこに今回、新たなテクノロジーが投入されました。“ホンダS+シフト(Honda S+Shift)”です。
すでに現行のe:HEVには、車速とエンジンサウンドを連動させる制御として“リニアシフトコントロール”が採用されています。駆動は基本的に電気モーターでおこない、エンジンは発電に徹するe:HEVですが、車速に合わせてエンジン回転数を制御して、伸びやかな回転上昇と有段ATのようなシフトチェンジをおこなうことで、爽快な加速感を演出するのが特徴です。
“ホンダS+シフト”は、その最新進化型。2基の高出力モーターと高効率エンジン、そしてASC(アクティブサウンドコントロール)を連動させて、より刺激的な走りを可能にすると謳われています。その中身については、走らせながら解説していくことにしましょう。
●単なる実用車とは全く異なるスペシャルティ感
試乗したのは、白と水色でデザインされたカムフラージュが施された試作車。実は、つい先日までヨーロッパで公道テストに駆り出されていた車両そのものということで、左ハンドル仕様でした。
そんなわけで、内外装はディテールが厳重に隠されていましたが、ボディラインはJMSの会場で見たものと変わらない様子。改めて見ると、ずいぶんとトレッドがワイドで、ホイールベースは隣に並べられていた「シビック」より明らかに短く、しかもリアが極端に絞り込まれていて、単なる実用車とは全く異なるスペシャルティ感とでもいうべき雰囲気、いい感じです。
ドアを開けると、「シビック」など最近のホンダ車に共通のメッシュグリルが左右に走ったダッシュボードに、新形状のステアリングホイールが組み合わされていることに気づきます。ドライバーズシートはサイドのサポート性を強めた形。乗り込むと、身体がすっぽり包み込まれるかのようです。
後ろを振り返るとリアシートが目に入りますが、サイズは小さく、ルーフも下がってきているので、いかにも補助席という印象です。この割り切り、前席優先のパッケージングこそがスペシャルティクーペ。今の時代に、こういうクルマを出してこようという姿勢に、ちょっとうれしくなってしまいます。
キャビンに響き渡るホンダミュージック
さて、いよいよ試乗です。ホンダのe:HEVではお馴染みのボタン式シフトセレクターで“D”を選んで、アクセルを踏み込みます。
まずは通常のDレンジで高速周回路を1周。スペックは公開されていませんが、2リッター直列4気筒エンジンと2基の電気モーターを組み合わせたe:HEVシステムは、「シビック」や「ZR-V」などと基本的に共通と考えられます。
参考までに「シビック」では電気モーターのスペックは最高出力184馬力、最大トルク315Nmです。
続いて、そのセレクターの脇にある“S+”スイッチを押す……と、エンジン音のボリュームが高まり、TFTメーターの表示が切り替わって、瞬時に臨戦態勢に。気分も一気に盛り上がります。
早速アクセルを踏み込んでいくと、違いはますます明確になります。まずサウンド。前述のとおりASCとの連携で室内には豪快なエンジン音、いわゆるホンダミュージックが響き渡り気分を盛り上げます。
パワーメーターに代わって備わる回転計は6000rpmからイエロー、6500rpmからレッドという表示。Dレンジではシフトアップが自動的におこなわれますが、このときに音の変化だけでなくなんと軽いシフトショックが伴うのも“ホンダS+シフト”の大きな特徴です。実際には一瞬だけモータートルクを絞って、リアルな変速感を演出しているわけです。
一方、減速時にはブリッピングを伴うシフトダウン的な制御がおこなわれます。従来の“リニアシフトコントロール”は減速時にはこうした演出はおこなわれていませんでしたので、案外こちらの方が差は明確かもしれません。
しかも、コーナリング中にはエンジン回転数を高めでキープします。これは単なる演出ではなく、しっかり発電してコーナー立ち上がりの加速に備えるという機能的な意味も伴います。
加速も、減速も、そしてそれによってコーナリングも、クルマとの一体感がケタ違い。これが試乗してみての印象です。実際の動力性能にはそれほど違いはないはずですが、クルマと対話できる要素が増えて、より能動的に走りを楽しめるようになった。そんないい方もできそうです。
こうした遊び心のある制御は、実はエンジンの効率性向上によって可能になりました。要するに、エンジンの燃費のいい領域が広がったことで、こうして回転を上げ下げしても悪影響が抑えられたということ。燃費向上を目指したら、その余裕で走りの楽しさも増したというわけですね。
●「シビック タイプR」から流用された足回り
そんな“ホンダS+シフト”を備えた新しいe:HEVも大いに楽しませてくれましたが、新型「プレリュード」のプロトタイプはフットワークもとても痛快な仕上がりでした。正直、期待以上!
コーナーに向け、リムの断面形状を変更して絶妙の握りやすさを実現したステアリングを切り込むと、ノーズがズバッと鮮やかにインを向きます。最初は思わず「オーッ!」と声が出てしまいました。しかも初期応答が鋭いだけでなく、その先も行きたい方向にグイグイと切れ込んでいく。このコーナリングは実に刺激的です。
そんな走りの秘密は、まずひとつ目が見てのとおりの短いホイールベース。そして、ふたつ目がフロントに使われたデュアルアクシスストラットサスペンションです。実はこれは「シビック タイプR」からの流用で、高負荷域まできわめて高い接地性を保ち続ける優れものです。
「プレリュード」にとっては快適性も重要ということで、タイヤは比較的おとなしいコンチネンタル「プレミアムコンタクト6」が装着されていましたが、この基本素性のよさによって、それでも優れた運動性能を実現しました。正直、「ちょっとヤンチャかも?」と思えるほどの操縦性に、試乗中は笑いが止まらなかったのでした。
* * *
なぜ今、「プレリュード」の名を復活させるのか。JMSのときにはまだ真意がつかめない気がしていましたが、今回の試乗で大いに納得できました。
期待を超える楽しさを実現したe:HEVの進化をアピールするには、既存モデルの改良版に積むのではなく、その魅力をフルに活かした新しいモデルで登場させるのが最適。まさしく新型「プレリュード」は、ホンダがハイブリッド車を見限ってなどおらず、むしろこれまで以上に力が入っていることを世に示すフラッグシップとして復活する。そんな風に考えられそうです。
今後、これまで以上に楽しませてくれそうなホンダのハイブリッド。その先陣を切る1台が、まさに“前奏曲”、新型「プレリュード」なのです。
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みんなのコメント
ハイブリッドになっても、ホンダの事だから車好きも楽しめる車に仕上げてくれるはず。
眺めて良し、乗って良し。
期待してます。