新車がデビューした後、ほとんどのクルマは(次のモデルチェンジを迎える前に)一部改良やマイナーチェンジが行われる。
発表後に寄せられた販売店やユーザーからの要望、実際に長く公道を走らせてみて得られた情報のフィードバックなどが盛り込まれて、ネガティブな要素は薄れ、ポジティブな要素が伸びる「改良」が実施される。
【最新モデルは極上の正統進化】 日産GT-R こだわりぬいた究極の「3%」
とはいえ(フルモデルチェンジ時に比べると)開発費や人員は限られており、そこまで急激な変化は望めない、というのが実情だ。
しかし稀に、そうしたマイナーチェンジで、デビューした当時から大きく印象を変えて、劇的によくなったクルマが出現する。
多くのクルマは発表時の印象が強烈で、デビュー時に評価が低いとそのままずっとその印象を持ち続けるものだが、しかし、そのままの印象ではもったいないほどよくなったクルマも多数存在する。
本稿ではそんな、マイチェンで劇的に進化したモデルを紹介したい。
文/岡本幸一郎
写真/ベストカー編集部
86/BRZ 激変した時/2016年8月
2016年8月に発売されたビッグマイナーチェンジモデル。エンジンは給排気系の改良により5ps/0.7kgm向上(MT車)。フロントはノーズ先端を下げ、グリル開口を横に拡大したほか、Bi-Beam LEDヘッドランプを全車に、LEDフロントフォグランプを「GT」と「GTリミテッド」にそれぞれ標準装備
マイチェンで劇的によくなったクルマと聞いて、真っ先に思い浮かんだのが、86/BRZだ。これまで多方面で報じられてきたとおり、2012年4月の登場当初はお互い対極的な乗り味だった。
驚くほどテールハッピーで、いとも簡単にリアが滑ってしまい、危なっかしくて乗れたものではなかった86に対し、かたやBRZは4WDのような操縦性で、せっかくのFRがあまり活かされていない印象だった。それでいてどちらも乗り心地が悪いことでは共通するという不名誉な面もあった。
そんな両車は、これまで幾度となく改良を繰り返し洗練されていく間に、お互いが歩み寄ってきたように感じられて、劇的に変わった2016年8月のマイナーチェンジでは本当にソックリな乗り味になった。
最新版の両車は、いずれも走りに一体感があり、接地性が高くコントローラブルで、乗り心地も大幅に改善されている。
エンジンフィールも当初よりも扱いやすくなっている。それぞれが独自に開発を進めていて互いによいものを目指した結果、ともにほとんど同じようなところに行き着いたというのが興味深い。
日産GT-R 激変した時/2012年11月 2013年モデル
GT-R 2013年モデルの特徴は、550ps/64.5kgmのパワースペックや外装が2012年モデルとまったく変わらないが、ボディ剛性の強化、ダンパー、スプリング、フロントスタビライザーの仕様が変更され、同時に実働ロールセンターを低く設定したサスペンションジオメトリーに変更された。この改良により、内輪の仕事量を増加させ、より低重心でロールさせることにより、回頭性やステアリングレスポンスが向上し、路面に張り付くような超高速域の走行安定性を実現
登場から12 年が経過しているGT-Rも、デビュー当初とは別物だ。強烈な速さで大きなインパクトを与えたGT-Rだが当初は快適性には閉口したのは否めず。
乗り心地はガチガチで、後ろのほうではトランスミッションやデフあたりからガチャガチャ音が聞こえてきて、初めて乗った時には「壊れているかと思った」という人も。DCTの制御もよろしくなかった。
その後、毎年のように大なり小なり改良が施されてきたなかで、いくつか節目があったのだが、ひとつの大きなターニングポイントといえるのが、2012年11月に発売された2013年モデル。ここで各部の完成度が大幅に高まっている。
そして開発責任者が当初の水野氏から田村氏がバトンを受け継ぎ、GT-RはGT-Rとしての本質を変えることなく、より超高性能なロードゴーイングカーとしての性格を強めていく。
当初のGT-Rは、ニュルでタイムをマークしたクルマと一般ユーザーにデリバリーされるクルマが近い仕様である点に価値があったように思うが、標準モデルと走り系モデルを切り分けたことで、標準モデルは快適性が大幅に引き上げられることになった。
エンジン出力も当初の480psから、いまや570psにまで上がり、もともと速いがフィーリングは少なからず変わって、よりパワフルで伸びやかな加速フィールになっている。
2020年モデルは、ターボ高効率化技術「アブレダブルシール」を採用した新開発のIHI製ターボチャージャーを搭載。アブレダブルシールにより吸入した空気の漏れを最小限にすることで、加速意図に即座に応えるかつてない俊敏なレスポンスを実現しているのが特徴だ。
次期モデルがどうなるのかわからないが、なくすくらいなら少しでも長く改良しながら延命させてほしいと願うばかりだ。
アルファード/ヴェルファイア 激変した時/2018年1月
2015年1月にデビューしたアルファード。2018年1月のマイナーチェンジでさらにコワモテになった
ここで取り上げたクルマは、もとがよろしくなかったところが改善されたという車種が多いが、アルファード/ヴェルファイアは少々違って、もともとそれほど悪くなかったのに、さらにここまでできることに驚かされたという例といえる。
2015年1月に登場した現行初期型は従来よりも、より高級感の増した内外装や大きな不満のない乗り味はなかなかよかったのだが、それが2018年1月のマイナーチェンジで大幅に改善されて、直進安定性、ステアリングフィール、乗り心地、静粛性などなど、すべてがグレードアップした。
V6モデルは8速AT化による恩恵も小さくない。乗り比べると初期型オーナーは悔しい思いをするに違いない。
見た目が派手になったことに目が向きがちだが、実は中身はもっと大きく進化していて、日本が誇るフラッグシップミニバンとしてより相応しい境地に達していることを強調しておきたい。
マツダアテンザ 激変した時/2018年6月
エンジンはガソリン/ディーゼル共にCX-8と同様のものを搭載。2.2L、直4ディーゼルターボエンジンは最高出力190㎰、最大トルク45.9kgmを発生する。足回りのセッティングは「スカイアクティブ・ビークルアーキテクチャ」という新しいコンセプトが導入された
マツダ6(2019年8月1日~)に改名前のアテンザが2018年6月に実施した商品改良も、実に大がかりなものだった。
アテンザのデビューは2012年11月なので、フルモデルチェンジしてもおかしくないタイミングに、あえて通常でいうビッグマイナーチェンジを実施したのは、やはり次期型は噂どおりFRになるからなのかもしれないが、その内容の濃さは驚くほどだ。
すでにエンジンほか各部の改良や車両運動制御技術G-ベクタリングコントロールの導入などいろいろあったわけだが、件の商品改良では、フェイスリフトした外観は印象がずいぶん大人っぽい雰囲気になったのは一目瞭然。
インテリアも同じ世代のうちにインパネを2度も作り直すという前代未聞のことをやっていて、よりフラッグシップらしい上質感を実現している。
上質さへのこだわりはドア開閉音、スイッチ類の見た目や触感の統一を図るなど、人が触れるあらゆる部分にわたり、シートの出来のよさも特筆できる。
パフォーマンスフィールと上質な走りを追求したという新しい「SKYACTIV-D 2.2」も大きく洗練されて、従来見受けられた飛び出し感も抑えられ、素直なアクセルレスポンスとスムーズな吹け上がりを実現している。
いっぽうの「SKYACTIV-G 2.5」は、新たに気筒休止機構が備わったのだが、普通に乗っているといつ切り替わったのかわからないほどだ。
車体やシャシーについても、次世代の車両構造技術を前倒しで採用しており、やや硬さを感じた足回りもしなやかになり、静粛性も高まって快適性が大幅に向上している。
その内容はまさに「大幅改良」でここまでやるかと思わずにいられないほどだ。
三菱アウトランダー 激変した時/2018年8月
2018年8月に行われたビッグマイナーチェンジモデルは従来モデルのオーナーが嫉妬するほど、フルモデルチェンジに近い進化ぶりだった
2012年10月に現行型になったアウトランダーも、ずいぶんと変わった。ここでは販売比率の高いPHEVについて主に述べたいが、大きな変更があったのは、まず2015年7月。三菱ならではの「ダイナミックシールド」による顔になったほか、機構的にもいろいろ改良された。
さらに2017年3月の一部改良は、PHEVシステムの進化と新機能の追加、S-AWCの性能向上、予防安全装備の機能充実、スマートフォンとの連携強化、新グレードの追加など、実に内容の濃いものだった。パーキングブレーキが電動式となり、オートホールド機能が追加されたのもこの時だ。
断然よくなったと一番感じたのは2018年8月に発売されたマイナーチェンジモデル。エンジンが2.4Lに換装されたのがデカい。2Lでやれるだけのことはやったのだろうが、やはり2.4Lのほうが断然いい。
スポーツモードが設定されて、ONにすると瞬発力が俄然高まるのもうれしい。また、S-AWCの改良により、ハンドリングも変わっていて、新旧を乗り比べると新型のほうが圧倒的に気持ちよくコーナリングできる。
さらには、ボディ剛性が向上したことで、走りの質が大幅に高まっている。この副産物として、唯一のビルシュタインサスペンションが与えられるSエディションの硬かった乗り心地がマイルドになって快適性が高まったのも大きなメリットだ。
そのほかの「マイチェンでよくなったクルマ」たち
そのほか、劇的とはいかないまでも、印象がずいぶん変わったクルマも紹介しておこう。
●スバルレヴォーグ
デビュー当初はピッチングが気になったところ、徐々に改善されて、最新版はかなり収まっている。次世代プラットフォーム、SGPになるのは次期型からだがSGPの開発で得たノウハウはちゃんと入っているようだ。また、低回転域が扱いにくかったターボエンジンもずいぶんと改善されて素直な特性になっている。
●トヨタアクア
アクアも出た当初は乗り心地が硬く、ハネてしょうがなかったのだが、徐々に改善されて、最新版は大違い。これ実はプリウスとの差別化もあって、アクアは運動性能を重視してあえてそのようにされたのだが、やはり普通の人が普通に使うには硬すぎた。今では持ち前のキビキビ感はややなりを潜めたものの、しなやかな乗り心地を手に入れた。
●マツダデミオ(マツダ2への車名変更は2019年9月2日~)
鳴り物入りのディーゼルエンジンだったが、アクセルを踏んだ瞬間にスカッと抜けたり、リアがバタついて乗り心地がよろしくなかったりしたものだが、最新版はそのあたりが短期間のうちに見事に改善されている。
このように同じモデルライフのうちにけっこう変わっている例は多々あるので、将来的に中古車を探す際にも、そのあたりの状況を把握しておいたほうが賢明だろう。
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