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9000万円で落札!「ポルシェが作った軍用車」があった! 71台だけ作られた超レア車「タイプ597ヤクトワーゲン」とは

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9000万円で落札!「ポルシェが作った軍用車」があった! 71台だけ作られた超レア車「タイプ597ヤクトワーゲン」とは

「カイエン」より半世紀前に作られていた「オフロードのポルシェ」

 オンロードはもちろん、オフロードまでオールマイティにこなすポルシェのドル箱SUV、「カイエン」がデビューするより半世紀以上も前のこと。ポルシェは「タイプ597ヤクトワーゲン」という名の4WDオフローダーを作った。ドイツ連邦軍(西ドイツ軍)に向けて開発された小型車両で、当然ながら後のカイエンのような「高級・快適」とは無縁の軍用車だ。スポーツカー・メーカーとして知られるポルシェが「356」のコンポーネンツをベースに作った「ヤクトワーゲン」の知られざるストーリーを紹介しよう。

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大戦中は軍用車両でも名を馳せていたポルシェ博士

 自分の理想とするクルマ作りを目指したフェルディナンド・ポルシェが息子のフェリー・ポルシェ、そして数多くの盟友らとともに満を持して自らの会社「名誉工学博士フェルディナンド・ポルシェ有限会社・エンジンおよび自動車製造における設計およびコンサルティング」をシュツットガルトに立ち上げたのは1930年の暮れ。登記上の正式な会社設立は1931年4月である。

 その後、アウトウニオンのGPマシンやフォルクスワーゲンを生み出し、戦後の1948年にはついに自身の名を冠したスポーツカー「ポルシェ356」を世に送り出す。その後のポルシェの自動車メーカーとしての輝かしい歩みは、ここで改めて記すまでもないだろう。

 第二次世界大戦後の1948年、ポルシェ356をデビューさせ「自動車メーカー」としての第一歩を踏み出したポルシェだが、そのはるか以前からフェルディナンド・ポルシェ博士の多彩な才能は各方面で発揮されてきた。そのジャンルのひとつが、軍用車である。

 オーストリア・ハンガリー帝国陸軍向けに開発された臼砲運搬用ハイブリッド・トラクターに始まり、とくにナチス・ドイツ政権下の第二次世界大戦時には、ポルシェの設計による数々の軍用車両が生産されている。

 フォルクスワーゲンKdF(Typ60)のシャシーを利用した軽便な「キューベルワーゲン」(Typ82)や、水陸両用車の「シュビムワーゲン」(Typ166)が連絡や偵察任務で多用された。また、発電用エンジンとモーターを組み合わせた重駆逐戦車「フェルディナンド(エレファント)」、そして「マウス」や「E-100」といった超重戦車など、数々の装甲戦闘車両の開発を行ったこともよく知られている。これらのことから終戦直後、フェルディナンド・ポルシェ博士は「戦犯」として一時的に連合国側に拘束されたのもよく知られるエピソードだ。

戦後、「356」を元に仕立てた軍用車でコンペに参加

 戦後、東西に分断されたドイツだが、ポルシェは西側のドイツ連邦軍に向けたいくつかの軍用車両の設計や試作も行っている。これは自動車メーカーであると同時に「設計およびコンサルティング」を生業とするポルシェならではの仕事であろう。空挺部隊用の小型装軌車両「ヴィーゼル」などはその一例だが、そのほかにも同社はいくつもの軍用車両の開発に関わっている。

 今回ご紹介する「タイプ597ヤクトワーゲン」もそのひとつだ。1953年、ドイツ連邦軍がドイツ自動車工業会に対し軽便な軍用オフロード車の開発を打診。そこに手を挙げたのがアウトウニオン・グループとボルグワルド・グループ、そしてポルシェだった。

 ポルシェ356のコンポーネンツを流用し4WD化したそのモデルは「ポルシェ・タイプ597」と名付けられ、1954年には22台の試作車が作られた。そのうちの最初の2台は水陸両用車としての機能も考慮され、スクリューとオールが装備されていたといわれる。空冷フラット4のリヤエンジン、スペアタイヤはフロントにマウントするなど、ご先祖のキューベルワーゲンやシュビムワーゲンと同様な構成も、その血統を思わせる。

ハード性能は良かったが量産能力とコストがネックに

 エンジンは同世代のポルシェ356ベースの1.5L。1955年の秋からは1.6Lとなるが、出力はいずれも50psの空冷水平対抗4気筒エンジンである。ソフトトップを張らない状態でのボディサイズは、全長×全幅×全高がそれぞれ3700mm×1560mm×1235mmとコンパクト。車両重量は1090kgで、最高速度は100km/hと言われた。

 しかしこのときの軍用オフロード車のコンペでは、最終的にアウトウニオン・グループの「DKWムンガ」が勝ち残り、ドイツ連邦軍の小型オフロード車として正式採用されることとなった。それはポルシェ・タイプ597の性能が劣っていたわけではない。ハード面ではむしろ優れていた。タイプ597が不採用となったのは、高い開発費とそれにともなう1台あたりの価格の高さ、組み立て時間の長さ、スペアパーツの汎用性の問題などにあった。

 一生モノにもなりうる高性能なスポーツカーと、戦場で破壊される可能性を前提とした軍用オフロード車では、その目指すべき理想は異なるのだ。ポルシェに限らず古今のドイツ製兵器は、理想のスペックを追い求めるあまり運用面での負荷が大きいプロダクトが多い印象だが、それはこのタイプ597にも当てはまる。

幻のプロトタイプがモントレーのオークションに登場!

 ドイツ連邦軍への採用は見送られたものの、ポルシェはこのタイプ597を「ヤクトワーゲン(Jagdwagen)」の名で、引き続き国内の好事家や、海外の軍などへの売り込みを図った。しかしこの「オフロードのポルシェ」は、さほど大きな話題とはならず、1956年から1960年にかけて71台が生産された時点でその役目を終えた。現存する実車はごくわずかと言われる。

 高級で、快適で、オンもオフもオールマイティにこなすポルシェ──カイエンの登場はタイプ597の登場からおよそ半世紀も後の2002年のこと。ちなみに車名の「ヤクト」は狩り、「ワーゲン」は自動車の意であるから、ヤクトワーゲンは「狩猟車」となる。「フォルクスワーゲン(国民車)」の名称同様、そのストレートなネーミングもまたポルシェらしい、そしてドイツ車らしいものだ。

* * *

 2022年8月にアメリカ・カリフォルニアでRMサザビーズが開催したオークション「MONTEREY」では、このポルシェ597のシャシーナンバー「0005」のプロトタイプが登場。66万5000ドル(約9110万円、2022年8月26日のレート=1ドル137円で換算)で落札された。

 ポルシェの歴史のなかでも特異点のような存在であり、この姿を見て「ポルシェだ」と認識できる人はほとんどいないだろう。そんな博物館級の超レアモデルだけに、クラシック・ポルシェの相場が高騰して久しい現在、9000万円というプライスは決して高くはないと思われるが、いかがだろうか。

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みんなのコメント

10件
  • 博物館行きのクルマだよね
  • 出ました「ヤクト」。大戦中のドイツ戦車にヤクトパンサーがありますね。意味は「狩りをする」だそうです。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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