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かつての「庶民の味方」の主役 新型パッソに見る国産“リッターカー”の受難

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かつての「庶民の味方」の主役 新型パッソに見る国産“リッターカー”の受難

 トヨタ パッソとダイハツ ブーンが10月10日にマイナーチェンジ。両車は1L級のエンジンを積む、軽自動車よりちょっと大きい“リッターカー”だ。

 かつてリッターカー級の国産車は賑やかだった。トップグレードに「スーパーターボ」を用意した初代マーチ、「デ・トマソターボ」が話題をまいたダイハツ シャレードなどは、その代表的存在だ。

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 では現在の国産リッターカーはどうか? パッソはトヨタの販売力もあり、9月は3000台程度を販売したが、軽やノート、フィット等のBセグメントコンパクトと比べると「厳しい」のが現状。性能面や価格などいろいろな意味で中途半端感が否めない。

 国産リッターカーの歴史を紐解くと、その立ち位置は時代を追うごとに変化してきた。その歴史を振り返りつつ、リッターカーが現在置かれている立ち位置の難しさと今後を占う。

文:片岡英明


写真:NISSAN、編集部、SUBARU、DAIHATSU、TOYOTA

かつてリッターカーはファミリーカーの基本だった

 軽自動車の上のポジションに送り出されているのがスモールカーだ。その多くは経済性に優れた1L前後のエンジンを積んでいるから、日本では「リッターカー」とも呼ばれている。

 欧州ではボトムの「A」セグメントに該当するこの車格は、エントリーカーとして人気が高い。フォルクスワーゲンのup!を筆頭に、フィアット500、ルノー トゥインゴなどが代表だ。世界各国で生産を行っているから販売台数は多く、幅広い層の人たちに愛されている。

 日本の自動車史において、1Lの4気筒エンジンを積む車が登場するのは1950年代だ。この時期、トヨタのコロナと日産のブルーバードは、1Lエンジンを主役の座に据えた。が、税制が変わった60年代になると、ミドルクラスのファミリーカーの排気量は1.2~1.5Lに引き上げられた。そして63年7月、1Lコンパクトカーの先陣を切って登場したのが三菱のコルト1000だ。

 ダイハツのコンパーノ・ベルリーナとマツダ ファミリアは、デビュー当時800ccの排気量だった。が、余裕ある走りを実現するため、両車は65年に1Lエンジンを投入している。

 その翌春には日産がサニー1000を、富士重工はスバル1000を送り出した。秋にはカローラ1100が誕生。新世代のコンパクト・ファミリーカーが日本のマイカーブームを牽引するようになる。

 しかし、高度経済成長の後押しを受け、車はサイズアップし、排気量を拡大。サニーやカローラも1.2~1.6Lエンジンを搭載し、全長は4mを超えるようになった。そこで70年代後半に、空白となった1Lクラスに新感覚のスモールカーを投入するのである。

リッターカーの黄金期築いたシャレード

 550ccに排気量を拡大した軽自動車の上のポジションのトレンドとなったのは、欧州を中心に人気となっているFF方式に2ボックススタイルだ。その最初の作品となったのは、77年11月に登場したダイハツのシャレードで、1Lの直列3気筒エンジンを積んでいる。

 80年代はリッターカーの黄金時代だ。82年秋に日産がマーチ、83年にはスズキがカルタスを発売し、シャレードも第2世代にバトンを託している。ファッション性も高かったからエントリーユーザーを上手に取り込み、デートカーとしても持てはやされた。

 また、ターボで武装したボーイズレーサーは、軽自動車で飽き足らない若者や走りにこだわる人たちを魅了している。その代表が、1Lの3気筒エンジンにターボを装着し、エアロパーツを装着したシャレード「デトマソ」だ。

 この時代のリッターカーは経済性が高いだけではない。ボーダレス感覚で、洒落っ気もあるなど、プラスアルファの魅力がたくさんあったのである。

 ベーシックカー的な要素が強かった初代マーチでさえ、オシャレなパンプスやキャンバストップを用意していた。また、後期モデルにはターボにスーパーチャージャーを加えたスーパーターボもある。モータースポーツでも大暴れした。

 80年代のリッターカーは、ボーダレス感覚で満足感が高かったから若者は憧れたのだ。女性ユーザーも多かった。だからヒットし、安定して売れ続け、大きな市場を形成している。月販1万台を超えるリッターカーも珍しくなかった。

衰退した2ボックスリッターカーの盟主、パッソ

 が、21世紀の今は寂しい限りだ。1Lエンジンを積む車は激減し、トヨタとダイハツ、スズキ、スバルの4社だけとなっている。だが、多くはダイハツ製のエンジンだ。三菱は1Lエンジンを整理してしまった。スズキも主役は1.2Lエンジンである。

 トヨタとダイハツは10月10日にパッソとブーンをマイナーチェンジし、内外装のデザインを大きく変えた。フロントマスクを大胆に変え、先進安全装備も充実させるなど、気合の入ったマイナーチェンジだ。

 が、パッソ/ブーンの売れ行きは伸び悩んでいる。両車を合わせても2018年1月から9月までの登録台数は4万144台にとどまった。化粧直しによって販売台数は上向くだろうが、冷え切った国内市場の中で、月販5000台レベルまで引き上げるのは簡単ではない。

 ちなみにリッターカーでトップを快走しているのは、トヨタのルーミーとタンク、そしてダイハツのトール、スバルのジャスティ4兄弟だ。ルーミーとタンクは合わせると月平均1万4000台近くを販売している。

 が、これは例外だ。ハイトワゴンでない、背の低い2ボックススタイルのリッターカーは、月販5000台ラインには届いていない。

国産リッターカー苦戦の理由と今後の打開策は?

 パッソ/ブーンに代表されるAセグメントの国産スモールカーは、元気がない。その理由は軽自動車、軽ハイトワゴンの出来がよくなっているからである。4人乗りという制約はあるが、パッケージングは素晴らしいし、装備の使い勝手もいい。

 インテリアの質感と装備の充実度も互角か、それ以上だ。実用燃費も一歩上をいく。ターボ車なら走りの実力も高く、高速道路でも余裕がある走りを見せる。先進安全装備だってリッターカーと互角以上の実力だ。

 また、1クラス上のアクアやノートなどのように飛び道具もない。こう考えてくると、ハイブリッド車やe-POWERの設定はないから平凡と感じてしまう。軽自動車と上のBセグメントのファミリーカーを上回る魅力を持たない限り、リッターカーを選ぶという選択肢はないのである。

 海外にはup!やトゥインゴ、フィアット500など、魅力的なリッターカーが多い。ドメスティックの壁を破り、世界に通用するリッターカーを開発しないと日本のリッターカー市場は衰退してしまう。

 これからのリッターカーは、道具としての使い勝手がいいだけでなく、欧州製のスモールカーに負けない走りの実力や剛性、卓越した安全性能が求められる。日本の税制は1Lを区切りとしているから、そのなかで最高のスモールカーを生み出してほしい。

 カギは、日本が得意とする電動化や世界トップレベルの安全性能、使い勝手がよく、しかもキュートで質の高いデザイン、上級クラスを凌駕する走りの実力などだ。

 序列の枠の中に収まっているようでは世界と勝負することはできない。これから数年が踏ん張りどきだ。また、電動化の時代が間近に迫っているからチャンスでもある。

文:ベストカーWeb ベストカーWeb編集部タカセ
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