スポーツライディングからツーリングまでこなせそう!
以前から気になっていた、スクランブラー風スポーツバイクであるファンティック社のキャバレロシリーズ。そのキャバレロ500と700について試乗機会をいただいたので、今回はまず700について述べてみたい。両モデルの雰囲気は一見似ているものの、ガソリンタンクを含めた外装はそれぞれに個性があり、実際にはかなり違った車両となっている。
日本のヤマハ製エンジン、MT-07系の動力を基本としながらもMT-07と違った味付けが施された700は、大柄ながらも足着きは500より少し着きやすく、サイドカバーの張り出しの少ない=ややスリムなデザインになっている。
車格は500よりもやや大柄であるし、ダートを走らせてみると重さを感じるのは否めない。とはいえ、大型のアドベンチャータイプのオフローダーほど足着き性が悪かったり、かさばる感じがあったりするわけではない。そのため精神的なプレッシャーは小さく、アドベンチャーモデルに慣れたライダーであればカウンターを切ったりリヤを積極的に流すことに抵抗感は少ないと思われる。走行モードをオフロードにすると、よりそうしたアクションはライダーの意図通りに伝わりやすい。
一方、舗装路であってもハンドリングはスクランブラーらしく軽快で、軽い体重移動で素直にステアリングが切れ込み、狙いたいラインに載せることも容易だ。ひと昔前のスーパーモタードなどのように切れ込み過ぎるような気配は少しもない。
アップライトなポジションによる見通しの良い視界と上記のハンドリング特性、そして足着きの面から、スポーツライディングと共に中距離以上のツーリングユースにも見た目以上に適性を持っているようだ。
【 画像ギャラリー 31枚】「ファンティック キャバレロ700」試乗!軽く、足着きも良好!ストレスなく大柄ボディを扱える!
※以下「■~」は写真の説明文。写真は【画像ギャラリー】にまとめてあります。
■斜め後方から見ると、程よくスリムでありながらニーグリップしやすそうなタンクとストレートなシートラインが目に付く。
■太い倒立フォークはキャスターが立ち気味かと思いきや素直なハンドリングで、街なか~郊外での感触はとても走りやすい。
■足の入力とニーアクションでリーンイン~アウトへの咄嗟の移行も楽なハンドリング。
■身長の高い「Motorcyclist」誌太田編集長も試乗。体格がピッタリなので、よく似合っている。
■シートからヒップをインにずらしてコーナーにアプローチする編集長。乗り方の自由度がとても高く、操作に対して許容度があり、運動性の優秀さにつながっている。
■モードスイッチをオフロードモード、ABSをカットにしてダートも少し試してみた。タイヤの特性が掴み切れていないので深くバンクはさせずにブレーキターン。舗装路で素直で良いタイヤは、フラットダートでも不安感が少ない。
■同様にオフロードモードでリヤのトラクションコントロールをカットすると、アクセルターンからストレートへのダッシュでは、リヤを任意に滑らせることが可能。
■ダート走行のイメージ。
■身長168cmの著者が跨るとポジションはこのような感じ。ステップの位置は後ろ過ぎず、足を置く位置も状況に応じて変えやすかったのが印象的だ。
■足着きはオフロード味を持たせた車体ながら、母指球まで両足が付くので安心感があるもの。
ツーリングというキーワードにリンクするのだが、この700で操縦性以上に感心したのはエンジン特性の(ちょっと心憎い)味付けである。
市街地における低速走行や交通の流れがのんびり気味な30km/h~40km/h程の場面でスロットル反応がよくしつけられており、3~4速を使った低い回転域のパーシャル特性がとてもスムースなためギクシャク感がほとんどない。そのため乗り手にストレスを感じさせにくいのだ。
それでいて、ただの「良い子」ではないことが、中速域からスロットルをワイドオープンさせたときに分かる。MT-07がやや大人し目であるのに対して、バオッという空気を取り込む音と共に排気音も勇ましく、野性味ある加速を楽しませてくれる、さながら“ジキル&ハイド”のような二面性も持ち合わせている。これは楽しい。
国産車でたとえるなら、Vストローム800の“スポーツモード”での加速に迫る速さを感じた。
■ヤマハ製MT-07系のエンジンは、マッピング調整の妙なのだろう、低速域~高速域までとてもコントロールしやすく、スポーティだ。
■電気系部品や補機類がよく分かるエンジン左側の構成。個人的に、大雨シーズンのツーリングの際はコネクター周辺は簡易的にコーキングするかも?と少し気になった。
■フロントの倒立フォークにはブレンボのラジアルマウントキャリパーが装着される
■姉妹車の500のシンプルなスイングアームに大して湾曲したアーム。リヤにもブレンボのキャリパーを搭載。
■樹脂製チェーンガードにファンティックのロゴが目を引くスプロケット周辺。スイングアーム後端のチェーンひきは外側に突起が少なく、破損しにくい構造だ。
MT-07に対して価格差こそ大きなキャバレロ700だが、全体のパワー感、低速でも落ち着いた優れたエンジンセッテング、それによく動く足周りには高得点を与えられるだろう。また、外国製のBMW GSシリーズを筆頭とする大型アドベンチャー機種と比較すれば、価格は低い。ウインドプロテクションに有効な後付けのカウルなどを装着すれば、長距離のツーリングでの疲労度はGSシリーズのアドバンテージに対してだって大きく引けは取らないと感じられる。それに、比較してみれば軽量でもあり、足着き性でも分がある。
経済的に余裕があり、ライディング経験の豊富なオン&オフ順応型ライダーにとっては、実に良い相棒になる可能性があるといえそうだ。
インジェクションマッピングや点火系のセッティングがよくできているなぁと、思わずニヤリとする二面性であった。スクランブラーらしいデザインと大型車にしては軽量であること、そしてエンジンの調教が優れていること。これこそキャバレロ700の大きな持ち味と思えた。
■著者の年齢層的に、ほんの少しモトグッチ・イモラを思い出すタンク上部の黒いライン(配色)。太腿に自然と馴染む優しい形状のタンクで、シート先端とのつながりも良い。
■ゼッケンプレート風に楕円部分を含めたサイドカバー。あまり外側に飛び出ておらず、スタンディングで走る際に体を前後させる動きはシート形状も相まってスムースに行える。
■いかにも剛性の高そうなトリプルツリーの間に収まるヘッドライト。整流効果をちょっとだけ狙ったらしい樹脂製のカバーが付いている。
■機械加工のメを敢えて表面に残した感じで、高級感のあるアルミの構造材。スイングアームのピボット固定やステップの取り付けなどは、この構造材がフレームの一部になっているようだ。
■同様に、左側の構造材。
■緩やかな傾斜でストレートな形状のシート。昨今のスーパースポーツ車の段差に見慣れて いると逆に新鮮であり、親しい相手とタンデムするにはこの方が良い気もしませんか?
■右側に2本出しで構成されたサイレンサー。サイドカバーからヒートガードへの張り出しに引っ掛かり感は少なく、好ましい。
■学区のある細道をスローで走ってみるとキャバレロ700の懐の広さを実感する。スピードが出せること以上に、スローでストレスを感じさせないセッティングが実に心地よいのだ。
○「ファンティック キャバレロ700」主要諸元&価格
エンジンタイプ:水冷4サイクルDOHC4バルブ2気筒
総排気量:689cm3
燃料供給装置:EFI(電子制御燃料噴射)/スロットル径38mm
フレーム:高張力鋼クロームモリブデン製スチールフレーム
フロントフォーク:マルゾッキ製VRMシステム、45mm径倒立式
リアフォーク&サスペンションユニット:マルゾッキ製VRMシステム・モノショック、プログレッシブリンク
タイヤ:110/80R19(F)、150/70R17(R)
ブレーキ:330mm(F)/245mm(R)ディスク+コーナリングABS(コンチネンタル)
ホイールベース:1460mm
シート高:830mm
車両重量:175kg(ガソリン抜き)
燃料タンク:13L
希望小売価格:1,750,000円
■ハンドル左側のスイッチボックス付近。操作系が分かりやすい。ウインカースイッチ上部にあるのはトラクションコントロールの利きを調整するスイッチ。
■ハンドル右側のスイッチボックスにはABSやドライブモードの切り替えスイッチも。
■このボタンがモード切り替えのためのスイッチ。長押しで3モードから選択。分かりやすい。
■ライドモード「ストリート」にセットしたときの表示。
■ライドモード「オフロード」に切り替えたときの表示。ライダーの主体性を楽しめる。
■ライドモードを「カスタム」へ。好みの味付けをある程度セットできる。
■「ファンティック キャバレロ700」リヤ下方から。
レポート●小見哲彦 写真●小見哲彦/太田力也
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