3ドアモデルより50mm長いホイールベース!
走行わずか8900kmのワンオーナー雨天未使用車!!
「フォードバッジを付けた起亜プライドの日本向けモデル」韓国で生まれた左ハンドルのフェスティバ5を知ってるか?【ManiaxCars】
過去に見かけたのはたった一度きり。今から20年以上前、正月にパシフィコ横浜で開催されてたニューイヤーミーティング会場近くでのことだ。信号待ちしてた自分の目の前を通りすぎる1台のコンパクトカー。あ、フェスティバね…と思ってたら、左ハンドルの5ドアで「ん!? フェスティバ5!!」と思わず口を突き、周りから白い目で見られたことは一生忘れられない、ある冬の思い出だ。
フェスティバというと、世の中的には丸目2灯ヘッドライトでノーズだけ白く塗られた300台の限定モデル、GT-Aスカラデザインが珍重されてるようだが、ステージの上でスポットライトを浴びるようなクルマに興味を持つわけがない。むしろソソられるのは、カタログモデルでありながら存在感が希薄…いや、限りなくゼロに近かったフェスティバ5に尽きる。
そんな個人的な思い出もあって、今回の特集で絶対にハズせない1台だったのは当然、「ついにフェスティバ5を世に知らしめる時がきた!」と、ひとり変な使命感に燃えていたのは言うまでもない。
フェスティバ5は1989年6月発売、オートラマ店で取り扱われた5ドアハッチバック車だ。当時、マツダと技術提携を結んでた韓国の起亜産業(のちの起亜自動車)が自国内で生産、販売してた“プライド”をベースとしている。それをマツダの協力によって、日本向けのフォードフェスティバとして開発、生産したモデルというわけだ。
ちなみに、日本でフェスティバが登場したのは86年のこと。当初は3ドアハッチバックのみのラインナップだったが、フェスティバ5の導入によって5ドアハッチバック(と、独立したトランクルームを持つ3ボックスセダンのフェスティバβも)が加わることになった。
マツダ製フェスティバに対して起亜製フェスティバ5の大きな違いは2つある。左ハンドルであることと、ホイールベースが50mm長い(2295→2345mm)ことだ。生まれが韓国だから左ハンドルなのは納得だが、ホイールベースが長いというのはカタログを見比べて気付いた衝撃の事実(笑)。後席にひとが乗る機会も多いだろう5ドア車は、3ドア車よりも広いレッグスペースが確保されてるのだ。
国内生産の3ドアモデル=右ハンドル車と対称になるデザインのダッシュボード。ウインカーレバーはステアリングコラム左側に設けられる。3本スポークステアリングは3ドアモデルには存在しない専用デザインだ。また、メーターパネルは3ドアモデルと共通で、スピードメーターの下に水温計が、タコメーターの下に燃料計が配置される。
センターコンソールは上からエアコン吹き出し口、マニュアルエアコン操作パネル、純正1DINのAM/FMチューナー付きカセットデッキ、シガーライター&灰皿。その下にフロントパワーウインドウスイッチ(リヤは手巻き式)が確認できる。
表皮の材質こそ違うけれど、前席は3ドアモデルのスポーティグレードGT-Xに準じたヘッドレスト別体式を採用。シートを一番前までスライドさせてヘッドレストを抜き、背もたれを後ろに倒せば、フルフラットが可能になる。
後席の背もたれはヘッドレストが一体になったハイバックタイプで50:50の分割可倒式となっている。
後席は3ドアモデルと同じく背もたれを前に倒し、座面ごと引き上げるダブルフォールディングが可能。低くフラットなラゲッジスペースを拡大できる。
搭載エンジンは1.3L直4SOHCのKB3型。64ps/10.4kgmというスペックはフェスティバに載るマツダ製B3型と共通で、多分エンジン自体も同じだと思われる。おそらくフェスティバ5のエンジン型式はB3のアタマに起亜の頭文字“K”を加えただけなのではないかと推測。用意されたミッションは5速MTと3速ATで、取材車両は後者だった。
左ハンドル車だから、左Aピラーにラジオアンテナが備わるのは理解できる。ところが、手動式でなく電動式というのが変態。サイドウインドウを下げて手を伸ばせばアンテナに届くのに…。ちなみに、カタログにはオートアンテナと表記。ラジオのスイッチにも連動しているはずだ。
パッと見た時の雰囲気がなんか違うな…と思ったら、本来は樹脂色の黒のままとされているドアミラーやドアノブ、サイドモール、前後バンパーがボディ同色に塗装されてた。ボディカラーは取材車両のミスティグレイの他、マウズィグレイ、オックスフォードホワイトの全3色。いずれも3ドアモデルとは異なるフェスティバ5の専用色だ。
リム幅4Jの純正スチールホイールに組まれるのは、標準装着される145SR12サイズのグッドイヤーGT080。カタログには表記がない、フォードのロゴ入りフルホイールキャップも装着されている。
今回の取材で一番の見つけもんはコレ! 純正マフラーのメインサイレンサー裏側に確認できた“KIA”の打刻だ。ここまで撮影して掲載した媒体は、多分これまでなかったはず。
20数年ぶりに対面したフェスティバ5は、新車から29年にわたって乗り続けられてきたワンオーナー車。「当時、フェスティバが気になっていたんですけど、左ハンドルのクルマに乗りたくて迷っていたんです。そしたらフェスティバ5が出たので、すぐに買いました」とオーナーのIさんは言う。
驚いたのは走行距離で、オドメーターが示す数字は思わず目を疑う8900km。もちろん、メーター交換歴はなく実走距離だという。Iさんいわく、「大事に乗りたいという気持ちが強すぎて、通勤や買い物など日常のアシとして乗れなくなってしまったんです。今はひと月に2~3回、晴れた日に近所をドライブするくらいですね」とのこと。
さらに、雨天未使用ってことに二度ビックリ。ちなみに、普段は別のクルマで移動してるのかと思ったら、カブ(バイク)をアシにしてるそうで、雨の日もレインコートを着て乗るという。普通は晴れた日にバイク、雨の日は濡れたくないからクルマだろうが、それがすっかり逆転してるあたりに、Iさんのフェスティバ5に対する変態的愛情を感じずにはいられない。
ひと通り話を聞いたら、試乗タイム! フェスティバなのに左ハンドルってのがまず違和感ありまくりだ。運転席に座って思うのは、横方向がやたらとコンパクトってこと。それもそのはず、全幅はたったの1605mmしかないんだから。なのに、身長175cmの大人2人が前席に座っても圧迫感は皆無なのが素晴らしい。
車重が820kgと絶対的に軽いこともあって、エンジンが1500rpmも回ってれば実用トルクに不足ナシ。ただ、そのフィーリングはもっさりしているし、シフトショックこそ小さいものの、ワイド気味なギヤ比を持つ3速ATが組み合わされてることで、走りはなんともユルイものだ。
それから、走ってる分にはハンドリングにダイレクト感があってなかなか好印象なパワステレス仕様だけど、車庫入れとかでの据え切りでそれなりの操舵力が求められるのは、仕方ないだろう。
初めて間近に見て、触れて、乗ることもできたフェスティバ5。軽く謎めいた生い立ちや極めて少ない新車販売&実働台数を含め、やたらと好奇心を掻き立ててくれる1台だった。
■SPECIFICATIONS
車両型式:ADA242
全長×全幅×全高:3620×1605×1460mm
ホイールベース:2345mm
トレッド(F/R):1400/1385mm
車両重量:820kg
エンジン型式:KB3
エンジン形式:直4SOHC
ボア×ストローク:φ71.0×83.6mm
排気量:1323cc 圧縮比:9.7:1
最高出力:64ps/5500rpm
最大トルク:10.4kgm/3500rpm
トランスミッション:3速AT
サスペンション形式(F/R):ストラット/トーションビーム
ブレーキ(F/R):ディスク/ドラム
タイヤサイズ:FR145SR12
TEXT&PHOTO:廣嶋健太郎(Kentaro HIROSHIMA)
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