GB350の登場や、SR400生産終了など「空冷」に注目が集まっている
2021年、ヤマハからSR400の生産終了が発表されたと思ったら、ホンダからGB350の発売が予告されるなど、二輪業界では空冷エンジンの話題には事欠きません。むしろ、原付など小排気量クラスでは空冷が主流といえるほどです。
【画像16点】空冷直4クーペ・ホンダ1300、最後の国産空冷ホンダTN-7などレア空冷四輪車を写真で解説
文字通り、空気によって冷やすエンジンのメリットは、水冷エンジンに必要なラジエターがいらず、エンジンの組み立てがシンプルで、部品点数を減らせることがあります。当然、軽量化にもつながりますし、そもそもローコストで作ることができます。
残念ながら、空冷エンジンの四輪車は国産新車に存在しない
そうしたコストダウンのメリットがあるのならば、四輪車でも空冷エンジンを採用すればいいのにと思ってしまいますが、いま新車で買えるラインナップを見ても、空冷エンジンを積んだ国産乗用車は存在しません。それはなぜでしょうか。
振り返ると、乗用車でも空冷エンジンが主流の時代がありました。日本車では1960年代に国民車といえるほどヒットした軽自動車「SUBARU360」は空冷2ストロークエンジンをリヤに積んでいましたし、その後大ヒットしたホンダの軽自動車「N360」は空冷4ストロークエンジンをフロントに積んでいました。
しかし空冷エンジンにはウィークポイントがありました。
日常的にいえばヒーターの効きが水冷エンジンに比べて悪いというものがあります。水冷エンジンではエンジンを冷やすために温まったクーラント(冷却水)の熱を暖房に利用しますが、空冷エンジンには当然ながらクーラントが存在しないので、その手は使えません。
そこでマフラーパイプの熱を利用したり、暖房用にストーブを搭載したりという手が使われたのですが、水冷エンジンのヒーターに比べると見劣りするものだったのです。
とはいえ、四輪車から空冷エンジンが消えていった真の理由はヒーターの効きといった日常的な利便性に関するものではありません。
「騒音と排ガス」が空冷エンジン消滅の理由
空冷ではエンジンの温度管理が難しく、どんどん厳しくなる排ガス規制をクリアできなくなっていったのがもっとも大きな理由です。排ガスをクリーンにするには触媒を活性化させることが重要ですが、そのためにはエンジンのコンディションを理想的な状態にキープして、燃料噴射も緻密に制御しなくてはなりません。
そのため空冷エンジンが消え、燃料噴射システムもキャブレターからインジェクターになっていきました。
四輪車における、こうした流れが顕在化したのは1970年代ですが、二輪車でも2000年代に同じような理由で空冷エンジンやキャブレターが減っていったのはご存知の通りでしょう。
それでも二輪車で空冷エンジンが残っているのは、冷却フィンが見えることで、それがスタイリングの味となる部分があるためだったりもしますが、四輪の場合はエンジンフードによって見えなくなるため、あえて空冷エンジンを残す理由はなかったのです。
さらに、水冷エンジンであればクーラントが消音効果を生み出しますが、空冷エンジンはエンジンノイズもダイレクトに聞こえてしまうため騒音面でもネガティブです。
クルマというのは快適性を求める部分が大きいため、うるさい空冷エンジンに生き残る余地はなかったともいえます。
空冷の四輪車に乗りたければ、ポルシェやビートルは中古車でまだ手に入る
そんな空冷エンジン独特のサウンドがクルマのキャラクターとして認められているのが、空冷の水平対向4気筒エンジンをリアに搭載したフォルクスワーゲン・ビートル(初代)でしょう。そのバタバタとしたエンジンノイズは、多くのファンを生みました。
しかも生産期間は1938年~2003年と長く、日本でも多くの中古車を見つけることができます。
ほかにも、空冷エンジンがクルマのキャラクターとして印象深いモデルとしてポルシェ911シリーズも忘れられません。現在の911は水冷エンジンを積んでいますが、初代から4代目までは空冷の水平対向6気筒エンジンを、ビートル同様リヤに積んでいました。
こちらも中古車市場ではそれなりに流通していますが、もう二度と空冷エンジンは生まれないであろうという希少性もあって高値安定傾向にあるのが現実です。
国産最後の空冷エンジン四輪車はホンダの軽トラ「TN」
ところで、国産車として最後の空冷エンジン搭載の四輪車は何かご存知でしょうか。
それはホンダの軽トラック「TN」です。360cc時代の空冷2気筒エンジンをミッドシップに搭載するという構造を採用したこの軽トラックは1967年から1977年まで生産されるというロングセラーになりましたが、その最終バージョンである「TN-7」は、国産車として最後の空冷エンジン搭載車になったのです。
それにしても、空冷エンジンのまま、昭和50年排ガス規制をクリアした当時のホンダの技術力には驚くばかりです。2021年に空冷エンジンの二輪車を登場させられるのも、そうした連綿と続くエンジン技術へのこだわりがあってこそかもしれませんね。
レポート●山本晋也 編集●上野茂岐
写真●ホンダ/ヤマハ/カワサキ/ハーレーダビッドソン/ポルシェ/八重洲出版
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