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【小特集 トヨタGRカローラが面白いらしい:前編】ホンダ シビック タイプRと乗り比べてわかった「高性能」へのそれぞれのアプローチ

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【小特集 トヨタGRカローラが面白いらしい:前編】ホンダ シビック タイプRと乗り比べてわかった「高性能」へのそれぞれのアプローチ

日本の2大ロングセラーモデルであり、宿命のライバル、トヨタ カローラとホンダシビック。カローラに「GR」という強烈な個性派が設定されたことで、「タイプR」との過激バージョン対決が一気に盛り上がっているように思える。実際に乗り比べてみると、それぞれの「哲学」の違いは明らかだった。(Motor Magazine 2023年8月号より)

走行性能を追求する2台だがアプローチの仕方は異なる
モータースポーツに興味のある方なら、90年代にグループAレースの同じクラスでシビックとカローラがしのぎを削っていたのを憶えている人も多いだろう。当時は日本車全般が今よりも元気で、シビックやカローラの走り系モデルに乗っていたという読者の方は少なくないはずだ。筆者も一応、そのひとりに該当する。

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走り系といっても、現代のタイプRやGRとはレベルが違うわけだが、当時があったからこそ今があることには違いない。それぞれ日本を代表する高性能車ではあるものの、内容は異なるため直接的なライバルではない。

しかし、お互い300psを超えるハイパワーなエンジンを搭載し、価格も近いとなれば、比べてみたくなるというものだ。

ホンダにとってタイプRは、「永遠の挑戦」だ。92年のNSXは別格として、それから約3年後に登場したDC2型インテグラのタイプRは、手作業でポートを研磨するなどした1.8L VTECならではの突き抜けるような吹け上がりが話題となった。さらに、そのエッセンスを注入した1.6Lエンジンが弟分の初代シビックタイプRに搭載されて人気を博した。

その後、タイプRと名の付くモデルはシビックとインテグラに設定された。シビックに関してはイギリスで生産された車両が日本で限定販売された時期もあった。

そんなシビックのタイプRは日本に2015年末に導入された2世代前のFK2型で流れが変わり、量産FF車でニュルブルクリンク最速を目指すという使命が与えられた。エンジンはターボ化され、310psを引き出すとともに、究極的な空力性能を追求したパーツをまとったことで見た目の雰囲気も一変した。現行型のスタイリングはやや控えめとなったものの、内容的にはその延長上にある。

ここまで「突き詰めた」仕様は、まさに史上初
一方のGRカローラは、WRC等のラリーへの参戦を念頭において登場したGRヤリスの上級機種として、共通のコンポーネントを用いて開発された発展版といえるクルマであり、かつてカローラを愛車としていた豊田章男現会長の「お客様を再び虜にするカローラを取り戻したい」との強い思いを具現化にしたクルマでもある。

かねてからカローラにも「GT」などの名がつく走りを意識したグレードが存在したものだが、GRカローラほど突き詰めたモデルは歴代で初めてのことだ。

ボディサイズはハッチバックながらファストバッククーペのようなシビックの方が全長は長く、よりワイドで、全高はGRカローラの方が高いが、車両重量は2輪駆動のシビックタイプRが40kgばかり軽いという関係となる。

どちらも見た目からしてタダモノではない雰囲気は一目瞭然だが、走行性能を追求しているのは同じでも、内容はかなり対照的だ。

スタイリングはどちらもベース車の面影を残しつつもいろいろと手が加えられているわけだが、GRカローラはあえて後付け感を強調したかのようなルックスだ。

対するシビックタイプRは、過去2世代のデザインがややアクが強かったために乗り手を選んだ面があると判明したことから、ベース車と同じくより万人向けのテイストとされた。とはいえ見てのとおりの迫力があるスタイルだ。

コクピットの随所に赤をアクセントとして用いているのは両車同じでも、シビックタイプRは大胆にシートの座面の部分にまで、さらには車内へのフロアマットだけでなく、その下のカーペットまでいたるところが赤くされている。アルカンターラをふんだんに用いている点も共通している。

乗車定員はどちらも4人となるが、後席の居住性や乗降性はベース車と同じくシビックタイプRのほうがいくぶん上回っている。

排気量も気筒数も違うがともに300psオーバーを発生
走りに関しては、エンジンが2L直4と1.6L直3という大きな違いがあり、出力やトルクの最大値も1割程度の差がある。

3世代目となるVTECターボエンジンは、従来に対してターボチャージャーの翼の外径や枚数、形状を新設計し、回転イナーシャを低減することでターボ回転数と応答性を向上させ、高出力、高レスポンス、高回転を磨き上げた。

一方、GRヤリスゆずりのGE-GTS型1.6L直3ターボエンジンは、スクエアに近いロングストロークを採用。1618ccという排気量は、ラリーにおけるクラス区分を鑑みたものだ。

過給器付きのエンジンとしてはかなり高い10.5の圧縮比を持ち、D-4Sにより筒内直噴とポート噴射を併用し、吸気ポートがストレートになるよう工夫して急速燃焼を実現しているのも特徴だ。

また、ブースト圧を高めるとともに冷却や排気効率を高め、さらには燃料噴射ポンプ容量を増やし、ウエストゲートの制御を工夫して俊敏なレスポンスを確保したほか、ピストンを重量合わせするなどして、GRヤリスの32ps増となる304psを引き出している。

どちらもパンチの効いた力強い加速を味わえる点では共通するが、フィーリングはそれぞれ異なる。GRカローラは野太いサウンドを放ちながら、いかにも高いブーストをかけたエンジンらしい盛り上がり感のある加速を示す。

3気筒としては勇ましいサウンドを聴かせるが、それが好きになれるかどうかは人によるだろう。参考までに、タイプRは前方排気、GRカローラは後方排気を採用している。お互い性能を追求しながらも、ターボチャージャーにツインスクロールは用いず、比較的こなれた技術の積み重ねで高い性能を引き出している点も興味深い。

最大の違いは駆動方式。FFにこだわるタイプR
こうした高性能エンジンに組み合わされるのが、より操る楽しさを味わうことができる3ペダルの6速MTのみの設定である点は両車に共通していて、どちらもギアチェンジ時に自動的にブリッピングを行いエンジン回転数を合わせる機能も備えている。

ご存じのとおり両車にはFFと4WDという大きな違いがあり、その中で速さを追求してお互いそれぞれのアプローチをしている。

GRカローラには、電子制御多板クラッチを用いたアクティブトルクスプリット4WDシステムを搭載。前後輪のトルク配分を30:70、60:40、50:50から選べる。選択により操縦感覚が変わることは、レーンチェンジ程度でも体感できるほどで、ワインディングロードを攻め気味に走るとなおのこと違いがよくわかる。 

後輪に適宜、駆動力を配分してくれるおかげで回頭性に優れ、操縦安定性も高い。駆動力の制御によりいろいろなことができることや、将来的な可能性もあるのは4WDの強みであることには違いない。

そんなことを考えながら、あらためてシビックタイプRに乗ると、やはりどうこう言ってもエンジンが美味しいのはシビックタイプRのほうだと実感する。

かつての自然吸気時代のタイプRが高回転での吹け上がりに醍醐味があったのと比べて現代のタイプRは様相が変わっているが、調律されたサウンドに、最初のひと踏みから感じるレスポンスのリニアさや全域がパワーバンドのようなどこから踏んでもついてくる力強さは、他のクルマではなかなか味わうことのできないものだ。

それなら、このエンジンを積んだ4WDがあれば最強なのにと思ったりもしたのだが、20年ほど前にホンダの開発関係者と話した時のことを思い出した。

当時はランサー エボリューションとインプレッサWRXがしのぎを削っていた頃で、そこにホンダもせっかくタイプRがあるのだから何らかの形で戦いに加わると面白いのにという話をしたところ、ホンダは軽さを大切にしているので、タイプRは2WDで行くという旨の返答に納得した。

ただし、4WDも考えていないわけではないという話も出て気になっていたのだが、おそらくそれがのちにSH-AWDという形で世に出てきたのだと思う。

数少ないホットハッチ2台の受注再開が待ち遠しい
思えば当時はFFでは200ps程度が限界で、それ以上あっても意味がないというのが常識だった。いくらパワーがあっても加速時にフロントが浮いて空転してしまうからだ。現在のように300ps以上のFF車がいくつか存在し、ニュルブルクリンクでも7分台のタイムをマークするという時代が来るとは思いもしなかった。

シビック タイプRも330psものパワーと420Nmのトルクを前2輪で路面に伝えるために、さまざまなことをやっている。ワイドなフェンダーに収められたタイヤは、このクラスでは異例の265サイズという太さを採用する。

シャシについても、キングピンを最適化してタイヤの接地性を高めるデュアルアクシスストラットと呼ぶフロントサスペンションをはじめ、デュアルピニオンESP、アクティブダンパーシステムといった、よかれと思われるものをふんだんに投入している。

さらに、強大なトルクを着実に路面に伝えるべく、フロントサスペンションのジオメトリーを徹底的に煮詰めたほか、グリップが向上して入力が大きくなることに対しても、サスペンションアーム類の剛性や形状の最適化を図り、高い荷重がかかっても十分に性能を発揮できるようにしている。

リアサスペンションもFFながら従来型よりマルチリンク化している。この進化した新世代行プラットフォームを基に世界中の過酷な条件下での走行テストを繰り返し、細部まで煮詰めて究極のFFスポーツシャシに仕上げたのだ。

その成果は走りにも表れている。引き締まっていながらもしなやかに路面を捉えつつ、車速が増すにつれてタイヤを路面に押し付けるかのような感覚。FFながら極めてニュートラルなステア特性で、アクセル、ステアリング、ブレーキのすべての操作に対して応答遅れのない、意のままの走りを実現した。また刺激的な中にも洗練された上質な味わいもある。

そのあたりは、こうしてお互い何かを極めようとしたクルマからそこはかとなく相通じるものが感じ取れるのに対し、あえてこういうクルマを出すのだからと「野性味」を強調したGRカローラとは、趣を異とする部分もある。

こうしたクルマがめっきり少なくなった中、2台のようなクルマが存在してくれるのは嬉しいかぎりだ。それなりに高価でも、両車への期待がいかに大きいかは、受注の再開を心待ちにしている声の多さからもうかがいしれる。(文:岡本幸一郎/写真:井上雅行)

トヨタ GRカローラRZ主要諸元
●全長×全幅×全高:4410×1850×1480mm
●ホイールベース:2640mm
●車両重量:1470kg
●エンジン:直3DOHCターボ
●総排気量:1618cc
●最高出力:224kW(304ps)/6500rpm
●最大トルク:370Nm/3000-5550rpm
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム ・50L
●WLTCモード燃費:12.4km/L
●タイヤサイズ:235/40R18
●車両価格(税込):525万円

ホンダ シビック タイプR主要諸元
●全長×全幅×全高:4595×1890×1405mm
●ホイールベース:2735mm
●車両重量:1430kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●総排気量:1995cc
●最高出力:243kW(330ps)/6500rpm
●最大トルク:420Nm/2600-4000rpm
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:FF
●燃料・タンク容量:プレミアム ・47L
●WLTCモード燃費:12.5km/L
●タイヤサイズ:265/30R19
●車両価格(税込):499万7300円

[ アルバム : ホンダ シビックタイプRとトヨタ GRカローラ はオリジナルサイトでご覧ください ]

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みんなのコメント

25件
  • ホンダのタイプRは歴史があるね
    それを真似たのがトヨタだな
  • どっちもいいが、GRカローラが明らかに勝っている点は、アナログのサイドブレーキがあること。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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