「今後の安全開発」のため不適切な試験を実施
マツダの「不正」が発覚した。現在販売中のものも含め、計5車種、約15万台で「型式指定」に関する不適切な事案があった。エンジン出力およびエアバッグの安全性について、誤った方法で評価試験を行っていたという。
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6月3日、マツダは都内で緊急記者会見を開き、国土交通省に対して型式指定申請における不正行為を報告したと発表した。どのようないきさつで発表に至ったのかは後述するとして、はじめに不正の内容について見ていきたい。
まず、エアバッグについて。過去に生産した3車種で、前面衝突試験における車両の不正加工があった。この試験では衝突時の乗員保護性能を調べるが、本来の車載センサーの衝突検知によるエアバッグの “自然起爆” ではなく、タイマーを用いた “時間指定による起爆” を行っていたという。
対象車種はアテンザ(2014年11月~2018年4月)、アクセラ(2016年8月~2019年2月)、アテンザ/マツダ6(2018年4月~2024年4月)で、いずれも商品改良(いわゆるマイナーチェンジ)後のモデルとなる。
エアバッグは安全性に深く関わる部分だが、なぜこのような不正が起きたのか。ここで鍵となるのは「商品改良」である。
マツダの説明によると、フルモデルチェンジ時にはそれぞれ自然起爆による正しい試験方法で認証を得たものの、商品改良後のモデルでは「乗員保護の影響を緻密に試験する」ために時間指定起爆を採用してしまったという。
商品改良では自動車の骨格は変わらないため、衝突時にセンサーに入る衝撃力も変わらない。設計・開発に携わるエンジニアとしては「今後の安全開発」のために詳しいデータを取りたい。それゆえ、データ取得に有利な時間指定起爆が良いと判断したそうだ。
例えばアテンザでは、商品改良によってインパネ刷新、助手席エアバッグ変更、4WD追加などの変更が加えられている。しかし、骨格が同じである以上、センサーの「衝突検知」能力も従来通り変わらないため、設計基準値に合わせてエアバッグを展開できるタイマーで「乗員保護」のデータを取ろうとしたのだ。マツダは、これが不正事案であるという認識は当時の現場になかったとしている。
なお、対象の3車種はすべて生産終了しているが、マツダ社内で再試験を行ったところ安全性に問題がないことが確認されたという。同社は声明で、「お客様におかれましては、該当する車両に引き続きお乗りいただいて安全性の問題はございません。今後速やかに法規適合性の確認などの適切な対応を国土交通省と相談しながら進めてまいります」と述べている。
エンジン出力試験で制御ソフト書き換え
続いて、エンジン出力の不適切な試験について。対象となるのはロードスターRF(2018年6月~)、1.5Lガソリンエンジン搭載のマツダ2(2021年6月~)の2車種で、いずれも現行車である。安全性に関わるものではないが、マツダは再試験のために対象車種の出荷を一時停止している。カタログ上の数値に影響する可能性もある。
問題の試験ではエンジンの制御ソフトを一部書き換え、法規とは異なる方法でパワーとトルクを測定した。詳述すると、点火時期補正機能の一部を停止させた状態で試験を行い、型式指定の申請データとして使用した。その理由として挙げられたのが「吸気温度の異常」だ。
出力試験は実車ではなく、屋内の試験施設にエンジンを設置して長時間行われる。ところが試験環境では空気が滞留してしまい、実車ではありえないほど吸気温度が上昇し、自動的に点火時期の補正機能が働くケースがあるという。実車であれば走行風が当たって冷えるのだが、マツダは補正制御を一部停止することで実車環境に近いエンジン出力を調べようとした。
法規通りの手順で行えば試験条件での実車状態に合致せず、試験が成立しないとして、ソフトウェアの書き換えに至ったとマツダは説明する。
なお、法規では吸気温度はエアクリーナー導入部で摂氏25度±10度(15~35度)と定められているが、マツダはより条件の厳しい25度±5度(20~30度)で出力試験を行っていたという。
担当部門に「不正の認識」はなかったが…
今年1月26日、国土交通省はダイハツ工業などの不正を受け、自動車関連メーカー85社に対し型式指定申請の不正行為の有無について調査・報告するよう求めた。このうち5月末までに68社が調査完了し、うち4社(マツダ、ヤマハ、ホンダ、スズキ)で不正が確認された。残る17社は調査継続中だが、うち1社(トヨタ)で不正が判明している。
マツダは同省の指示を受けて調査に乗り出したところ、調査対象期間の申請2403件のうち、5件の試験で不正を確認した。生産実績で15万878台、販売実績で14万9313台におよぶ。最も古い車種で約10年前のことだが、なぜ、これまで認知されなかったのだろうか?
マツダの毛籠勝弘CEOは会見で、「昨年の “他社” の件を受け、マツダ社内からも同様の行為があるという話がわたしのところまで上がってきた」と述べた。ここで言う他社とは、ダイハツや日野自動車のことだろう。
社内で点検を進め、話の内容を精査していたところへ1月に国交省からの指示があった。
「悪意による改ざんや隠ぺいではなかった。(試験の)合理性を追求したいというエンジニアの考えがあった」と毛籠CEOは言う。また、開発スケジュールなどによる担当者への「過度なプレッシャー」もなかったとしている。
つまり、今回の不正行為は悪意によるものではなく、合理性を追求した結果起きたことであり、「不正」との認識はなかったのだという。
確かに、このマツダの説明には一定の説得力がある。同社が言うように、実際の安全性や日常生活での車両の使用に大きな影響はないと見ていいかもしれない。その裏に悪意はなかったのかもしれない。しかし、やるべきことをやらなかったのは事実である。
再発防止策として、マツダは以下の3点を挙げている。
1. 試験が認証法規に準拠した状態で実施されたかをチェックする仕組み、およびガバナンス体制の再整備
2. 認証法規に準拠した試験を適正に実施するための手順書の見直し・教育・実践の徹底
3. 認証法規に準拠した試験条件を安定的に満たす設備の整備強化
今回の騒動についてSNSなどでは、メーカー側の認識の甘さだけでなく、法規で定める認証プロセスの複雑さを指摘する声も上がっている。いずれにせよ、マツダは昨年度、過去最高の売上高を記録するなど業績が好調だ。この好調に水を差さないよう、再び問題が起きないことを願う。
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怪しさが増す言い訳。