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【舘内 端 連載コラム】第37回 環境とエネルギーをめぐる自動車の旅 その6 世界EV大変革 取り残される日本の自動車と自動車産業

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【舘内 端 連載コラム】第37回 環境とエネルギーをめぐる自動車の旅 その6 世界EV大変革 取り残される日本の自動車と自動車産業

■EV販売比率は54%になる
2017年7月6日、調査会社のブルームバーグ・ニューエナジー・ファイナンスは、2040年時点の世界の乗用車販売に占めるEV比率は54%に達するとの見通しを発表した(日経)。

従来の予想は40年時点で35%。大幅な修正である。いや、これさえも今後の動向によっては甘い予想になるだろう。それにしてもEVの販売台数は莫大な数になる。

現在の世界の自動車販売台数は、およそ9400万台(2016年)だ。40年時点で1億台とすると、その54%の5400万台がEVということになる。中国と北米の販売台数がすべてEVになるということだ。また、地域別の40年の新車販売のEV比率も発表している。・ヨーロッパ:67%(1400万台×67%=938万台)、・米国:58%(1750万台×58%=1015台)、・中国:51%(2800万台×51%=1428万台)だという。この3地域だけで計3381万台のEVが売れることになる。

その結果、世界の道路を走る10台に3台がEVになるということだ。現在のノルウェーでは販売台数の10台に3台がEVだから、この数字はかなりの説得力を持つ。

日本は、そのころ能天気にエンジン車天国を謳歌しているのだろうか。このまま政府・自工会の方針が変わらず、経産省は現在と同様にあらゆるエンジン車をエコカーとして減税するだろうから、「エンジン車。みんなで作れば怖くない」となり、EV販売比率は数%に留まり、世界唯一のエンジン車天国になることは明白だ。

いや。それだけではない。3000万台に及ぶ国内外で生産する国内自動車メーカーのエンジン車の販売先はゼロとなる。国内需要は現在よりもさらに減少して500万台を切るだろうから国内では消費できず、かといってほとんどの国はエンジン車の販売を禁止するだろうから、2500万台からのエンジン車が売れずに残る。

これが意味するところは、日本の自動車産業の崩壊、終焉である。くれぐれも日本の自動車産業は、輸出と海外生産で成り立っていることを忘れないでおきたい。これが止まった時、「いや、いや。みんなで沈没すれば恐くない」とは言っていられないのだ。

■EVのトータルコストはガソリン車と同じに
2017年5月にはスイス金融大手のUBSが、「ヨーロッパでは2018年時点でEVのトータルコストはガソリン車と対等になる」とのリポートを出した(日経)。

米国テスラ社は350万円前後の価格のEV、モデル3のデリバリーを始めた。ルノーは航続距離が400kmのEVを発売。充電インフラも急速に整いつつある。そして、2017年9月6日。日産が航続距離500kmにも及ぶと噂される新型リーフを発表する。

かつて日本の多くのメーカーが反EVの御旗に掲げていた「航続距離が短い」、「価格が高い」、「充電インフラが整備されていない」(からEVはダメだ)という呪文は効力を失った。そうした反EV自動車メーカーの片棒を担ぐ自動車評論も力を失った。

あれほど反EVの烽火を高々と上げ、燃料電池車の優位性を強力に説いてきたホンダが、ついに燃料電池車開発のスピードをゆるめ、開発の主力をEVに置く。これまで燃料電池車開発に割いた膨大な資金と優秀な人的資源の浪費と、撤退というイメージの悪化を考えるとき、遅きに失した感はあるが時代の大きな流れに逆らうことはできないと判断したのだろう。

いずれトヨタも燃料電池車推進の旗は降ろさざるを得ない。ホンダよりも強力に燃料電池車開発を推進してきたトヨタのこうむる損害は、さらに大きい。

「エコカーの主力はハイブリッド車である」、「売れなければエコカーの効果はない」、「究極のエコカーは燃料電池車である」と、つねづねハイブリッド車と燃料電池車をエコカーの主軸に据えてきたトヨタとしては、前言を翻さざるを得ず、それには莫大なエネルギーとコストが必要だ。何よりも社内をまとめ上げられるかどうか。むずかしい舵取りが求められる。

ホンダやトヨタ以外にも、エンジン車に固執し、自動車の電動化をほとんど進めてこなかったマツダ、スバル、スズキ、ダイハツは、こうした世界の大変革にどう立ち向かうのだろうか。トヨタは右往左往している。頼みの綱にはならないのだ。

電動化技術開発に遅れを取ったメーカーがほとんどの日本は、燃料電池車開発の中止等に見られるように、二重、三重に大きな損失を抱えながらも、EVに進む以外に道はないのだが、それでもHCCIエンジン等、既存エンジンの技術開発で生き残ろうとするのか。

ボルボ・カーのホーカン・サムエルソンCEOが言うように、消費者のニーズはエンジン車から電動車に大きく変化している。最新技術のエンジンを開発したところで、いまさら排ガスを吐き、エンジン音を出し、アクセルの応答に遅れがあり、EVに走りの性能で圧倒的な差を付けられたエンジン車に、果たしてマーケツトは食指を動かすかどうか、疑問だ。

世界が一気にEVに進もうとするときに、それでもエンジン車を選ぶ理由をユーザーは見つけられないだろう。遅れた自動車が売れた試しはないことを肝に銘じたいものだ。

■1997年 プリウスの健闘もむなしく
日本の自動車メーカーでEVを生産、販売するのは日産と三菱のみである。しかも車種は日産のリーフ、e-NV200、三菱のi-MiEVグループのみだ。本格的な取り組みは、9月6日に発表される新型リーフと、数年先に日産と共同で開発、販売される軽自動車クラスのEVを待たなければならない。

開発・販売を表明しているのはトヨタ(2020年)とホンダ(2018~2019年)、スバル(2021年発売予定)だが、いずれも日本国内での販売は確定的ではない。EVの販売が義務化される米国と中国が主たる販売先である。残るマツダ、スズキ、ダイハツは、現在の所、EVの開発を積極的に進めるとは表明していない。

なぜ日本の自動車産業はEVへの移行に大きく遅れてしまったのだろうか。いくつかの原因が考えられる。 大きな原因は、97年に世界に先駆けてHVを開発(プリウス)、販売し、エコカー先進国としての自負があったことではないだろうか。さらに加えれば、燃料電池車の開発でも先行していた。ハイブリッド車と燃料電池車があれば十分という思いがあったことだ。

ほぼトヨタ1社とはいえ、販売台数トツプに何度も輝き、米国本土でもカリフォルニア州を中心に売れまくったハイブリッド車は、日本のエコカーの成功をくっきりと印象付けた。

また、言い出しっぺのダイムラーはほぼ開発を止めてしまい、世界的潮流にはならなかった燃料電池車も、2001年にトヨタとホンダが内閣府に納車するほどに完成させ、世界一の開発の能力の高さを見せつけた。

「究極のエコカーは燃料電池車です」とは、(今では色あせてしまった)当時の燃料電池車の誇り高き宣伝文句がそのままに、日本はエコカー開発のトップに躍り出たのだった。エコカー大国日本は、この言葉に酔いしれ、次なるイノベーションに失敗していった。それがEVの開発が遅れた最大の原因であろう。

まさにクレイトン・クリステンセンのいう「イノベーションのジレンマ」に陥っていたのだ。成功体験が邪魔をして、新たなイノベーション(EV開発)に失敗するという世界史に残るような典型的な例にならなければよいが...


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