スズキは本当に何をしてくるか読めないメーカーだ。よくケチケチ商法などと称されるが、ユーザーをいい意味で驚かせてくれる。そのラインナップはいつの時代も新鮮味にあふれている。
ライバルに対し敵対心をむき出しにニューカーを出してくることも当然あるが、ライバル不在のスキマを狙ったクルマを巧みに登場させて新ジャンルを構築することのほうが多いのもスズキのマーケティングの極意と言える。
【なぜ縮まらぬ納期】新型ジムニー発売から450日 人気の現状と5ドアの噂
スキマを狙って成功したスキマ商法的なスズキ車を紹介していく。
文:永田恵一/写真:SUZUKI
初代ハスラー(現行)
【画像ギャラリー】東京モーターショーで公開されるハスラーコンセプトこと新型ハスラー
販売期間:2013年~
本格的にオフロードは走らないけどSUVタイプの軽自動車が欲しいという人にとって最高の1台となるのがハスラー。ありそうでなかった軽SUV
2013年の東京モーターショーで世界初公開された後、同年12月から販売開始。ショーで公開されたルーフの低いクーペタイプは市販されなかったが、待望の軽SUVとしてデビューするや大ヒット。
スズキはオフロードを走れる本格SUVとして長きにわたりジムニーを販売しているが、さまざまなジャンルが存在し、あるようでなかったのが軽SUV。
現在でこそ世界中でSUVがブームとなっていて、ラインナップが恐ろしいほど増えているが、2013年といえば人気はあったがブームと呼べるレベルではなかった。
ハスラーの登場は早すぎず遅すぎずでこのスキマを狙うタイミングはこれ以外ない、という絶妙なものだった。ライバルのダイハツはキャストを登場させたものの、ハスラーがしっかりとマーケットを構築していて時すでに遅し、という感は拭えなかった。
2013年の東京モーターショーに出展された背の低いクーペタイプは市販されず。スズキだけに市販してくれると期待していたが、新型ベースでの登場に期待
本格SUVではなくライトSUVを求めている人にとってハスラーは最高のモデルに移ったのは当然で、クルマ雑誌以外のファッション誌にも多数取り上げられ、軽SUVブームというよりもハスラーブームとしたのはスズキのしたたかさだろう。
初代アルト
販売期間:1979~1984年
アルト47万円というキャッチコピーは日本中に浸透し大ヒット。軽ボンバンは物品税が非課税という税制のスキマをついた絶妙な商品として歴史に残る初代アルト
1979年にスズキの軽自動車の名車、フロンテの姉妹車としてデビュー。フロンテが軽乗用車だったのに対しアルトは軽ボンネットバン(略称軽ボンバン)の商用車だった。
当時はクルマには物品税がかけられていて、軽乗用車は物品税が15.5%だった。それに対し軽ボンバンは非課税!! 軽ボンバンは車検も軽乗用車と同じ2年(小型貨物は1年)、保険料も安いといいことづくめ。
現代のクルマでは想像もつかないほどシンプルなインテリア。軽ボンバンだからリアシートも極狭だったが、安さによる手軽さが受けて大勝利
ただし軽乗用車と同様に2人がけのリアシートを備えていたが、かなり狭く大人が乗るには厳しかった。
税金面での優遇に着目したのが現在のスズキの鈴木修会長で、初代アルトはクルマ自体はオーソドックスな軽自動車ながら、「軽は基本2人しか乗らないから、じゃぁ4ナンバーの軽ボンバンにすれば維持費が安い」という割り切りと着目点がすばらしい。
1989年に物品税が廃止されるまで、1980年代に軽の主流となった軽ボンバンのパイオニア的存在で、初代アルト登場以降、ダイハツミラクオレなど追従した。
アルトは物品税が廃止されるまで軽ボンバンがメインだったため、2代目アルトに設定されたアルトワークス(初代)も4ナンバー登録だった
初代アルトは、ライバルのスキマではなく、法律のスキマを狙って登場したスキマグルマと言えるだろう。『47万円アルト』の衝撃は凄いものがあり大ヒット!!
初代スイフト
販売期間:2000~2006年
1.3L、直4DOHCを搭載するコンパクトカーとして誕生した初代スイフトはお世辞にもカッコいいとは言えなかったが、使い勝手のよさと低価格が魅力だった
スイフトという車名は元々カルタスの輸出モデルにつけられたものだったが、日本市場では2000年にデビューしたのが初代スイフトとなる。
当時のスズキは軽自動車をベースに全長を伸ばし、拡幅したコンパクトカーを販売していたが、初代スイフトはワゴンR+をベースにハイトワゴンコンパクトに仕上げられていた。つまり初代スイフトもワゴンRを拡大版のひとつということになる。
軽自動車メーカーとしては実績のあるスズキだが、コンパクトカーマーケットの牙城は高く、ライバルメーカーは強力なモデルをラインナップ。
スキマを狙うのも難しいほどライバルが群雄割拠するなか、スズキが見つけ出したスキマは低価格というスズキが得意とする分野だった。
全長3615×全幅1600×全高1540mmの軽自動車ベースとはいえ立派なボディに、1.3L、直4DOHC(88ps/12.0kgm)を搭載しながら、最も安いグレードのSE-Zは82万3000円と軽自動車よりも安い価格で登場。
同時期に販売されていたワゴンRは、最も安い3ATモデルでさえ車両価格は93万円だったことからも、初代スイフトの価格設定がいかに安いかがわかる
2002年の改良でなんと最廉価グレードのSE-Zは値下げして79万円という衝撃的なプライスタグをつけるに至った。
衝撃的安値はトヨタと言えどもマネできないスズキのお家芸と言っていいだろう。
初代エスクード
販売期間:1988~1997年
1988年にそれまでなかったコンパクトサイズのシティオフローダーとしてデビューして一躍人気モデルになった初代エスクード。新ジャンルを構築しライバルが参入
1980年代後半になってクロカンが大人気。クロカンとはクロスカントリーの略で、当時はSUVというジャンルは確立されていなくて、オフロードを本格的に走ることができるラダーフレームを持った4WD車が主流だった。
当時の日本車のクロカンのラインナップを見ると、大きいか小さいかどちらか。下はジムニーの独壇場で、上はトヨタのランクル80&ランクル70、ハイラックスサーフ、三菱パジェロ、ダイハツラガーと5ナンバーの中間的サイズのクロカンがなかった。
そのスキマ的ポジションに着目したスズキが投入したのが初代エスクード。デザインはお世辞にも洗練されているとは言えないが、街中も走れるシティクロカンという新ジャンルを構築。
1997年にデビューした2代目は5ナンバーサイズでデビューしたが、2.5L、V6の搭載、ワイドボディの採用などでスキマ的存在感を失っていった
トヨタRAV4、ホンダCR-Vが登場するまでマーケットを独占。海外でも販売され特にイタリアでは初代エスクード(輸出名ヴィターラ)は大ヒットした。
そのエスクードもモデルを経るごとに大型化され、スキマではなくなり存在感が薄くなってしまったのが残念。
初代アルトラパン
販売期間:2002~2008年
女性仕様といえば丸目が定番ながら、異形ヘッドライトで登場。ボクシーなデザイン、ウサギをモチーフとしたエンブレムなど個性が際立っていた
2011年の東京モーターショーにコンセプトカーを出展後、2カ月後には市販モデルをデビューさせてアッと驚かせたのが初代アルトラパンだ。
実はラパンが登場した背景には、ダイハツのミラジーノの予想外のヒットというものがあり、そのミラジーノの対抗馬として市場に送り込まれた。
20世紀から21世紀に切り替わるあたりにスズキは女性ユーザーの軽自動車離れということに頭を悩ませていた。そこに来てライバルのダイハツはミラジーノが女性に大人気ということでスズキも珍しく焦ったはず。
そのラパンは、RAPIN(フランス語でウサギ)はスズキ車としては珍しくオリジナルのエンブレムが与えられた影響などもあり、アルトと名前はついているものの、ラパンとして急速に認知され一躍スズキの人気モデルになった。
その女性をターゲットとしたラパンだが、2003年には一転男性ユーザーをターゲットとしたラパンSSを追加。かわいさを強調したノーマルのラパンとは違い、スポーティ感を演出。このようにスキあらば積極的な攻勢をかけるのがスズキの凄いところ。
男性ユーザーをターゲットにしたアルトラパンSSはエアロを装着してスポーティ感を演出。オプションでレーシングストライプも用意されていた。これがスズキのしたたかさだ
まとめ
ここで挙げたのはほんの一例で、スズキ車=スキマ車であるケースが目につく。
そもそもジムニーがスキマグルマだし、それまで存在しなかったハイトワゴン軽自動車として登場した初代ワゴンR、軽クロスオーバーカーのKei、2シーター超コンパクト軽自動車のツイン、軽自動車ベースの7人乗りミニバンのエブリィ+/ランディなどなど枚挙にいとまがない。
全長2735×全幅1475×全高1450mmの超コンパクトボディ、ガソリンAは49万円の低価格、初代アルトを彷彿とさせるチャレンジングさを持っていたツイン
軽商用車のエブリイをベースにワイド化&3列シート7人乗りミニバンに仕上げたのがエブリイ+で、マイチェンでエブリイランディに改名
最近ではジャストサイズのコンパクトSUVのクロスビーなどなど、スキマを狙いつつ成功し、ほかのメーカーにも大きな影響を与えるのがスズキの凄さだろう。
最後にスズキの2019年東京モーターショーの出展概要が発表されたなかで気になるのが『WAKUスポ(ワクスポ)』。クーペをはじめボディ形状を変化させることができるコンパクトカーでパワーユニットはPHEVだ。
これまでの経緯からも、スズキなら市販する可能性は充分あるので期待感が高まる。
スズキが2019年の東京モーターショーに出展する『WAKUスポ』。コンセプトカーと侮るなかれ、スズキはこの状態から市販化してくるから期待感大
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