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広島と愛媛の「この場所」に、なぜ橋を作らないのか?

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広島と愛媛の「この場所」に、なぜ橋を作らないのか?

広島と松山を結ぶ新ルートの可能性

 筆者(碓井益男、地方専門ライター)は、これまで当媒体において「佐渡島と新潟の「この場所」に、なぜ橋を作らないのか?」といったような、架橋に関する記事を何本も執筆してきた。今回は、広島市(広島県)と松山市(愛媛県)間の架橋について焦点を当てる。

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 現在、瀬戸内海を隔てた本州と四国は、三つのルートで接続されている。東から順に、

1.神戸・鳴門ルート(明石海峡大橋・大鳴門橋)
2.児島・坂出ルート(瀬戸大橋)
3.尾道・今治ルート(しまなみ海道)

である。この国家プロジェクトは、1999(平成11)年3月にしまなみ海道が全面開通したことで完結し、かつては船でしか行き来できなかった本州と四国が自動車、バス、鉄道でも行き来できるようになった。

 しかし、再度地図を見てみると、広島県と愛媛県の間の状況に気になる点がある。しまなみ海道で結ばれているのは尾道市と今治市であり、広島市と松山市の距離はかなり離れている。そのため、両市間を移動するには大きな迂回が必要となり、現在はフェリーのみが直接結ぶ手段となっている。その所要時間は2時間40分に及ぶ。

 広島市と松山市間の海域には多くの島々が点在している。これらの島々を活用し、両市を橋で結ぶことができれば、交通の利便性が飛躍的に向上するだろう。

既存ルートに挑戦する架橋計画

 この考えは筆者の空想に過ぎないわけではない。実際、1990年代にはすでに架橋計画が立案されていた。この計画は単にふたつの県庁所在地を結ぶものではなく、瀬戸内海域の未来を変える壮大な構想であった。

 この構想を初めて報じたのは、広島県の地元紙『中国新聞』の1994(平成6)年1月24日付朝刊である。同紙は社説「第四架橋構想の論議を深めよう」のなかで、既存の三つの架橋ルートに続く広島市と松山市を結ぶ新たな構想の存在を紹介した。

 同紙によると、この架橋案は広島大学経済研究センター長の櫟本(とちもと)功教授が提唱したもので、既に三つのルートが存在するにもかかわらず、新たな架橋がなぜ必要なのか、その必然性について解説している。

「(三つのルートは)東に片寄り、中・四国の最大都市、広島・松山両市の連携を欠くため、南北軸としての結節点が弱い」

このように立案された架橋案は、単に広島市と松山市を結ぶだけでなく、壮大な構想であった。『中国新聞』が説明する構想によると、ルート案は次の三つからなる。

・広島市から安芸諸島を南下するルート
・山口県の周防大島から防予諸島を渡るルート
・上記二つのルートが愛媛県の怒和島で接続し、松山市へ向かうルート

これらのルートが接続される形状がアルファベットの「Q」に似ていることから、この構想は「Qルート」と通称されていた。

架橋計画が得た地方支持

 一見すると夢のような大構想に思えるが、この記事には次のような具体的な動きが記されていた。

「(この構想は)広島経済同友会の安芸・防予ベイエリア交流会議などで討議を重ねてきた。藤田(雄山)広島県知事も乗り気だ。関係県による推進組織の設立も検討されている」

実際、この構想に対する期待は高まっていたようで、『中国新聞』の1994年4月18日付け朝刊には、提唱者である櫟本教授自身が寄稿し、このルートの利点を訴えていた。寄稿のなかで櫟本教授は、架橋を推進する最大の理由として「安全性」を挙げ、次のように述べている。

「瀬戸内海は東西や南北の航路に船舶がひしめき海難事故の可能性は極めて高い。(中略)海自体を楽しむ船は別として、橋は車による人の輸送に適し、船は物の輸送に適している。陸で自動車と歩道橋を立体交差させているように、瀬戸内海も立体交差にして物は船で、人は橋やトンネルで輸送して、船と船の接触を少なくして、安全性を高めるべきである」

さらに櫟本教授は、離島ならではのよさが失われるという反対意見に対して、

「島の住民の犠牲において、のどかなロマンを満たそうとしているに過ぎない」

と厳しく反論した。つまり、新たに架橋を実現すれば、アクセスの限られた離島がさらに減少するため、離島住民の生活向上のためにも構想を推進すべきだというのが櫟本教授の主張だった。

 いささか理想主義的な印象も受けるが、それにもかかわらず、この構想が県知事も支持するほどの影響力を持つに至った理由は、当時の特殊な社会情勢にあった。

「Qルート」実現で広がる300万人市場

 その背景には、当時国レベルで検討されていた

「第二国土軸構想」

がある。この構想は、東京圏と太平洋ベルト地帯への一極集中を解消し、大規模なインフラ投資によって地方開発を進めることを目的とした国家戦略だ。この構想の一環として計画された重要プロジェクトのひとつが、以前の記事「四国と九州の「この場所」に、なぜ橋やトンネルを作らないのか?」(2024年8月31日配信)でも紹介した豊予海峡の架橋である。

 現在では単なる計画に終わったこのプロジェクトだが、当時は事業化が現実的に期待されていた。1993(平成5)年10月には建設省が本格的な技術検討に着手したことが報じられ、四国や九州の自治体では架橋後を見据えた具体的な開発計画まで検討されていた。

 「Qルート」構想の盛り上がりは、こうした全国的な開発熱の高まりを背景にしていた。関係者の試算によれば、「Qルート」が実現すれば、沿線人口は

「約300万人」

に達する。さらに、このルートが豊予海峡の架橋と接続されることで、高知県や大分県までを含む広域経済圏が誕生するという壮大なビジョンが描かれていた。

 この構想を後押ししたのが、当時の広島県の積極的な地域開発の姿勢だ。特に、広島市が1994年にアジア大会を開催し、翌1995年には「被爆50周年」を迎えるという象徴的な時期を控え、被爆都市としてのイメージを超える新たな都市像を打ち出す原動力となっていた。

 この機運を背景に、広島県ではさまざまな大型プロジェクトが進行していた。1993年11月には広島新空港(現在の広島空港)が開港し、1994年8月にはアストラムラインが開通。広島市と県全体は、被爆都市のイメージから脱却し、積極的な都市開発を推進していた。

広島発、経済圏拡大への挑戦

 この時期の広島県の開発状況を詳述すると、広島市と東広島市を結ぶ国道2号線の東広島バイパスの建設が進んでおり、1995(平成7)年には広島大学の全学部統合移転が完了する予定だった。

 また、広島新空港は国際空港化を目指し、滑走路の3000m化が検討されていた(2001年に完成)。アジア大会の主会場となった広島ビッグアーチ周辺には、10万人規模の計画都市「西風新都」が整備されるなど、大型プロジェクトが次々と実現に向けて動き出していた。

 この時期、バブル景気が終わり、日本全体が長い不況時代に突入していたが、アジア大会の開催による広島県市への経済波及効果が約3兆円と試算されており、広島だけは大型プロジェクトの推進により異なる道を歩んでいた。

 こうした背景のなか、広島県市は「Qルート」を実現させ、さらに豊予海峡架橋と接続することで、九州までを含む広域経済圏の確立を目指していた。さらに、島根県とのアクセス改善も視野に入れ、中国地方の最大都市としての地位を超えた、より広域的な中核都市への発展を構想していた。この発展構想の最終形として、島根県~広島県~愛媛県~高知県を結ぶ

「中四国地域連携軸」

の確立が掲げられ、広島市がその中心となるというビジョンが描かれていた。

愛媛県の提案と課題

 この構想に強い賛意を示したのが愛媛県である。1996年1月、島根・広島・愛媛・高知の4県と広島市の首長が一堂に会し、「中四国地域連携軸交流会議」が開催された。この歴史的な会議で、当時の伊賀貞雪愛媛県知事は次のように発言した。

「私の方から見ても、広島からみても少し今治ルートが東に寄りすぎている感じがする。もう少し西の直結ルートと長期的な視点に立って考えて行くべき」

当時は国家的プロジェクトとして豊予海峡架橋の着工も間近と期待されていた。関係者の間では、この架橋と併せて第四の本四連絡橋(Qルート)が実現するのではないかと、明るい未来像が描かれていたのである。

 しかし、こうした期待にもかかわらず、その後この計画が具体化することはなかった。広島県は1997年6月、次期全国総合開発計画に関する国への要望書の中で、広島~松山ルート構想について

「架橋等の高速交通基盤により連結する」

という表現を初めて公式に盛り込んだ。しかし、これが具体的な調査や事業検討に発展することはなかった。

 計画が実現に至らなかった最大の理由は、その技術的・経済的な実現可能性にあった。この「Qルート」を実現するためには、2500m級の大規模なものを含め10以上の橋が必要とされ、技術的な課題とともに総事業費がしまなみ海道の約6000億円を大幅に上回ることが確実視されていた。

 さらに、1996年には国が公共事業の抑制方針を明確に打ち出しており、このような巨大プロジェクトが承認される可能性はほとんどなかったのである。

ルート消滅も高まる架橋需要

 政治的な側面も無視できない。当時の藤田広島県知事は構想に賛成していたが、しまなみ海道の完成を控えた時期に「Qルート」構想を強力に推進することは、国との関係悪化を招く懸念もあった。

 さらに、新たな架橋や中四国地域連携軸がもたらす具体的な効果については、イメージばかりで明確な示唆がなかった。漠然とした新たな経済圏の誕生と発展だけが繰り返されていたため、「Qルート」の推進は、豊予海峡架橋による発展に取り残されないための口実に過ぎないと見られることもあった。

 その結果、「Qルート」の構想は1997年を最後に具体化せず、消滅した。しかし、この構想が完全に消えたわけではない。平成の大合併で誕生した江田島市は、「新市建設計画」において次のように言及している。

「海上交通・公共交通基盤の整備・充実によるターミナル機能の強化や、高度情報基盤の整備、将来的には広島・松山ルート構想(その一部である広島湾架橋構想)の推進や江田島北西部の海洋居住都市の整備を図る」

これは、「Qルート」の完成を目指すというよりも、広島市との架橋を実現することが目的である。現在の江田島市は、早瀬瀬戸を渡る早瀬大橋で倉橋島と接続し、倉橋島から音戸瀬戸を渡る音戸大橋を経由して本土と繋がっている。

 そのため、完全な離島ではないが、広島市へのアクセスは航路に限られ、陸路では呉市を経由する遠回りを強いられている。広島湾への架橋は今でも強く求められているのだ。

交通網整備の課題

「Qルート」構想は消滅したが、架橋計画は依然として放棄されていない。2016年に広島県が作成した『江能倉橋島地域半島振興計画』には、次のように記されている。

「早期整備が望まれる津久茂大橋の架橋構想,さらには将来これに連結する広島湾架橋構想については,生活環境の向上,さらには広島中枢都市圏の都市機能分担に大きく貢献することから,その実現に向けて引き続き検討する必要がある」

壮大な「Qルート」構想は必然性が疑問視され消滅したが、広島湾架橋という地域にとって最も実用的な部分は現在も強く求められている。

 筆者も江田島を訪れたが、橋で本土と接続しているにもかかわらず、そこを走るバスは存在せず(そもそも路線バスが島全体を網羅していない)、この点については後日改めて論じたい。

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みんなのコメント

22件
  • eh1********
    話は単純。

    松山へ橋をかけるとなると、興居島に300m級の橋の主塔を建設しなければならないが、松山空港の円錐表面内に当たる興居島に、それを建設できないだけのこと。

    そもそも松山市には松山空港の空域制限による高さ制限がある事と、景観保護条例により高層ビルは建てられない。

    それくらい調べてから書けばいいのに、最近変なフリーランス記者が増えて、思ったことを簡単に書けば一文字数円稼げるから、こんな薄い長文ばかり
  • hts********
    しまなみ海道の大三島ととびしま海道の岡村島を結べば今治市〜呉市が繋がり松山市と広島市も行き来しやすくなるのにね。
    なぜ結ばないのかな?
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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