いよいよ自動運転時代の幕開けだ。
2019年5月16日、日産が世界初の運転支援システム「プロパイロット2.0」を発表、今秋日本で発売するスカイラインに搭載される。
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同システムには、限られた条件下で“手放し運転”を行える機能も実装されたことがトピックのひとつ。ただ、実はBMWも同様の“ハンズオフ機能”を実用化している。
では、日産のプロパイロット2.0は何が「世界初」なのか? そして手放し運転は、いつ、どのような状況で可能なのか? 最新技術の実態を、日産自動車の元技術者で自動車評論家の吉川賢一氏が解説する。
文:吉川賢一/写真:NISSAN
プロパイロット2.0は何が「世界初」なのか
日産が世界初と謳う進化版の「プロパイロット2.0」は、現行型スカイライン(写真)の改良モデルに初搭載予定
◆進化版プロパイロットの「ここが凄い」
・従来のプロパイロットになかったハンズオフ機能を日産として初めて実用化
・「ナビ連動ルート走行」と「ハンズオフ」機能をともに実装した世界初のシステム
・ルート走行時はスイッチひとつで自動車線変更も可能に
従来のプロパイロット(1.0)との最大の違いは、同一車線内で「ハンズオフ(=手を下げる)」ができる、つまり遂に「手放し」でクルマが自動運転してくれるのだ。
ただし「ハンズオフ」であれば、BMWも4月に発表したばかりだ。高速道路での渋滞時に限り、自動運転「レベル2」相当の「ハンズオフ機能付き渋滞運転支援機能」を、2019年夏以降に日本導入する計画だという。
また、すでに「ナビ連動」して、急カーブや曲がり角などでシフトを自動制御し、車速をコントロールする技術も、「NAVI・AI-SHIFT制御」という名でトヨタでは随分前から搭載済みである。
それに対し、日産が「プロパイロット2.0」を「世界初」と謡ったのは、「ナビと連動した高速道路上のルート走行をハンズオフでできる」とした点である。
プロパイロット1.0のようなこれまでの運転支援機能では、車線中央を維持するようステアリングが自動制御されている時、ドライバーはハンドルを握っていることが条件だった。
ハンドルから手を離すと、車両側が検知して制御をキャンセルする。稀にハンドルを握ってはいても、力が伝わっていないと、「ステアリング制御」がキャンセルされることもあり、所詮は「運転支援技術」だということを、いやでも感じさせられたものだった。
また、筆者は「プロパイロット1.0」の制御には満足していない。
リーフやセレナ、エクストレイル、そして新型デイズに至るすべての「プロパイロット」に試乗したが、直進走行中にステアリングが左右に寄せられる様な素振りをしており、共通して「嫌み」を感じた。
「プロパイロット2.0」では、それが解消されているのかも関心事である。
実際に今秋発売のスカイラインにて体感してみないと、この「プロパイロット2.0」の出来栄えは分からないが、以下で紹介するように“条件”が限られるとはいえ、遂に「自動運転の実現」となると、長年人類が夢みた世界に大きく近づいたことになろう。
“手放し”の条件は? ルート走行中は車線変更も自動化
こちらはルート走行機能の車線変更時のモニタ。このアナウンスがあった時に、ドライバーがスイッチを押すと車が自動で車線変更を開始。元の車線に戻る時も同様の手順で車線変更が促される
「ハンズオフ」を実行するには「条件」がある。
ナビゲーションで目的地を設定し、高速道路本線に合流することで、「プロパイロット2.0」のナビ連動ルート走行が開始される。
その際、ドライバーは常に前方に注意し、ハンドルを確実に操作できる状態にある限りにおいて、ハンズオフが可能になる。
つまり、システム利用中は、左右の景色を眺めたり、スマホをいじったり、居眠りは不可能だ。なぜならドライバーモニターカメラによって、ドライバーが前方を注視しているか常に監視をしているためだ。
例えば、眠気をもよおして前方注視をしていないとカメラが判断した場合、車内には警告音が鳴り、さらに数回試みても反応がないときは、最終的には緩やかに減速し、自動停止まで行うそうだ。
これは、万が一運転中に体調を崩し、意識を失った場合でも安全に停止してくれると考えると、非常に優秀で安心できる機能である。
このイメージのように、ドライバーは常にモニタリングされ、前方を注視し、ハンドル操作が可能な場合のみ手放し運転が可能となる
プロパイロット2.0のもうひとつの特徴は、高速道路本線上で「分岐」、「車線変更」、「追い越し」などの際にステアリング操作を行ってくれることだ。
また、前方を走る車が遅い場合、車側から追い越しを提案する。
メーター内に表示されるアナウンスに従い、ステアリングに手を添え、スイッチを押して「承認」することで、ステアリング制御が自動で車線変更を行う。追い越し後にも、安全を確認できたら再び走行車線に戻る提案を行う。
テスラの「オートパイロット」、ベンツの「アクティブレーンチェンジングアシスト」など、ドライバーがウィンカー操作をして、周囲の安全をセンサーが確認し車線変更を自動で行うシステムはすでにある。
そのため技術的には難しいわけではないが、スイッチ一つで車線変更ができる時代が見えたという意味では、「日産が先進している」といえるだろう。
価格は従来版より相当高い!? 他車種展開への「懸念」
2018年度登録車販売No.1に輝いたノート。現在は従来版のプロパイロットも未搭載だが、こうした低価格の大衆車にどこまで新しいシステムを搭載できるかが今後の課題だ
日産は「プロパイロット2.0」を自動運転「レベル2とレベル3の間」と位置付けている。
こうしたシステムは、どのメーカーもすでに研究済みであり、どのメーカーがいつ出すのかタイミングをお互い見計らっていたように感じる。
各国の法整備が追い付いていないことが多く、自動運転制御が出来上がっていても、導入ができなかったのだ。
今回スカイラインで日本導入できたということは、今後他メーカーからも一気に拡散していく可能性が大である。
ともかく、ネックはコストであろう。
「プロパイロット2.0」を実現するにあたり、カメラが7個、レーダーが5個、音波ソナーが12個、さらに3D高精度地図データ、ドライバーの顔を見張るカメラ、車両の前後方向1m、左右方向5cmという精度の高さで自車位置を把握する強固な通信システムなど、明らかに「プロパイロット1.0」と比べ、技術水準が上がっている。
価格は発表されていないが、プロパイロット1.0が10万円弱(デイズハイウェイスターのオプション価格)であったが、その金額を遥かに超えて30万円以上となる可能性もある。
スカイライン以降の「プロパイロット2.0」採用車種の発表はなかったが、ぐずぐずしていると、あっという間に他メーカーが追従してくるだろう。
日産がリードを保つには、セレナ、エクストレイル、リーフ等のミドルクラスへの早期採用、そしてノートやデイズ等のエントリークラスへ、いかに安く採用できるかにかかっている。
「極める」も大切だが、早急に「広げる」を行うことが、日産のエンジニア達が今なすべき課題ではないだろうか。
◆「自動運転」 5つの段階
・レベル0/ドライバーがすべてを操作
いわゆる普通のクルマはレベル0にあたります。
・【運転支援】レベル1/システムがステアリング操作、加減速のどちらかをサポート。
レベル1は「運転支援技術」と呼ばれ、「自動運転」とは呼びません。
・【運転支援】レベル2/システムがステアリング操作、加減速のどちらもサポート
・【自動運転】レベル3/特定の場所でシステムが全てを操作、緊急時はドライバーが操作
ドイツで発表されたアウディ A8は世界で唯一レベル3の自動運転を搭載していますが、日本ではまだレベル3の自動運転が許可されていないために、レベル3の自動運転を搭載したA8の販売時期は未定です。
・【自動運転】レベル4/特定の場所でシステムが全てを操作
システムが緊急時の対応も行います。どのメーカーも市販段階には至っておらず、コンセプトカーやテスト走行の段階にとどまります。
・【完全自動運転】レベル5/場所の限定なくシステムが全てを操作
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