最近、スーパーチャージャーを装備したモデルを見かけなくなった。なぜだろうか?
筆者の頭の中でスーパーチャージャーといえば、中学生の頃に見た映画「バニシングポイント」に登場するダッヂ チャレンジャーが目に浮かぶ。
サボると寿命も燃費も縮むので要注意 忘れがちだけど大事な燃費を伸ばすカーメンテ 4選
この時代の同車にスーパーチャージャーが装備されていたかは不明だが、その後2015年にリメイクされたダッジ チャレンジャー SRTヘルキャットは、V8 6.4LのHEMIエンジンにスーパーチャージャーを装備して707psもの強烈なパワーを発生していた。
筆者はWCOTY(ワールド・カー・オブ・ザ・イヤー)の試乗会でLAのワインディングでドライブしたが、FRの後輪をどこまでもホイールスピンさせることができるパワーとトルクに感動した。
さて、そのスーパーチャージャー。少し前まではターボチャージャーとともに排気量や気筒数を減らしたダウンサイジングエンジンに採用されていたものだが、最近ではあまり見かけなくなった。
そこでご存じない方のためにも、まずはもう一度スーパーチャージャーとターボチャージャーのメカニズムの違いと、どうしてパワーアップするのかを説明しよう。
文/松田秀士、写真/NISSAN、Volkswgen、Dodge
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ターボとは異なる「過給機」スーパーチャージャーの長短は?
写真はダッチ チャレンジャーのV8 6.4Lのスーパーチャージドエンジン。最近減りつつあるスーパーチャージャーのターボと比較したメリットは?
まず、どうしてパワーアップするのか?
例えば、排気量1.5Lの3気筒エンジンを例にとると、1気筒の排気量は500cc。ここにガソリン(或いは軽油)を霧化して空気と混合し、ピストンで圧縮して爆発燃焼させる。
空気には約21%の酸素が含まれるので、この酸素と霧化したガソリンが混合気を作り爆発燃焼し、これがピストンを押し下げてクランクシャフトを回し動力となるのはご存じのとおり。
そこでもっとパワーを出すためには、吸入する空気を圧縮すれば酸素も増えるのでより爆発力が上がるはず。
自然吸気のエンジンならば、この500cc以上の空気は吸い込めない。そこで酸素カプセルと同じようにコンプレッサーで空気を圧縮して送り込めば500cc以上の空気密度(酸素密度)で燃焼させられる。つまり、排気量アップと同じ効果を得られる。
ただし、燃料もそのぶん必要になる。というのがスーパーチャージャーとターボチャージャーに共通したアイデア。その違いはメカニズムだ。
スーパーチャージャーは、「ルーツ式」などと呼ばれるコンプレッサーで機械的に空気圧縮するのに対して、ターボチャージャーは、排気圧でタービンを回して圧縮する。
ターボチャージャーは、排気管の経路にタービンを配し回転させ、同じ回転軸の横に一体モノの風車のようなフィンを回転させて圧縮する。
スーパーチャージャーの場合は、エンジンのクランクシャフトからベルトなどを介して動力を取るが(電気モーターの場合もある)、ターボは排ガスが動力。そのためターボはエネルギーロスが小さい。
ただし、エンジン回転が上がって排ガスが勢いよく出ないと圧縮力が上がらない。対してスーパーチャージャーは機械的に圧縮するので低回転からパワーが出る。
つまり一般走行にはスーパーチャージャーが適していたわけ。なかにはVWのようにスーパーチャージャーとターボチャージャーをダブルでドッキングさせたモデルもあった。
ここで改めて説明するが、このようなシステムは排気量や気筒数を少なくしたダウンサイジング化によって、燃費と税金(排気量による格差)を節約、そのために失ったパワーを補填することが目的だった。一部の、例えばコルベットやポルシェなどの同じようなシステムはパワーアップが目的なのでファクトが異なる。
先代(2代目)ノートには1.2Lの3気筒エンジンにスーパーチャージャーを組み合わせた。これはパワーアップというより燃費悪化を補うなど、環境性能の向上を狙ったものだったが、e-POWERに取って代わられる形でカタログ落ちに
ところが最近スーパーチャージャー採用車が減りつつある。直近だと先代ノートに採用されていた1.2L・3気筒がある。スーパーチャージャーの駆動ロスを、電磁クラッチを採用して必要な時だけ圧縮。スーパーチャージャーによる燃費悪化を補っていた。
また、直噴システムの採用も燃焼コントロールと冷却に効果的だった。しかし、それでもやはりいつの間にかカタログ落ちを余儀なくされた。他にもCR-Z無限、ヴィッツGRMN、スバル サンバーなどがあった。
現在でもスーパーチャージャーを採用するのがマツダ3などに搭載されるe-SKYACTIV Xエンジン搭載車。こちらはいわゆる圧縮着火コントロールをおこなうために空気流量を詳細に制御する必要があり、そのためにターボではなくスーパーチャージャーのほうが適しているのだ。
さて、ではなぜスーパーチャージャーは廃れているのか? これには2つの理由がある。
スーパーチャージャー衰退の裏にターボとモーターの進化
ひとつはターボチャージャーの高性能進化だ。ダブルスクロールなどと呼ばれる技術革新によって、エンジン低回転時の流量の少ない排ガスでもターボのタービンを高回転で回すことができるようになった。タービンの小型化も貢献している。
つまり、エンジン低回転から高圧縮化が可能になったので、一般走行でも使いやすいレスポンスとトルクが出せるようになったのだ。しかもターボチャージャーのほうがスーパーチャージャーのように駆動ロスがないので燃費も良い。
VWゴルフ eTSIには、1.0Lガソリンと48Vマイルドハイブリッドを組み合わせた最新エンジンが搭載されている。減速時のエネルギーを回生することで、低速を補い、ターボチャージャーが動くシステムになっている
もうひとつは48Vなどに代表されるマイルドハイブリッドシステムの進化。ストップ&ゴーや低回転域を電気モーターで補い、なおかつ減速時のエネルギーを回生(電気に変化して蓄電)することができるので、スーパーチャージャーほどトルクは出ないにしても最低限のアシストで低速を補い、その後はターボチャージャーにお任せするというもの。新型VWゴルフがほとんどこのシステムに取って代わった。
メカニズム的にもオルタネーターを駆動可能な電気モーターに変換することでシステム上可能となる。またアイドリングストップからのエンジン始動時も、スターターよりも強力なモーターなので一発始動する。
スーパーチャージャーの今後はどうなる?
写真はダッジ チャージャー SRTヘルキャット。高性能モデルなどに今後、スーパーチャージャーが搭載されていくだろう
と、このようなことを考慮するとスーパーチャージャーが廃れてしまうのも理解できるのだ。とはいえ、スーパーチャージャーは今後ハイエンドのスーパースポーツには残っていくだろう。
やはりレスポンスとパワーを求めるとスーパーチャージャーほど魅力的なアイテムはない。
最後に取って代わるだろうターボチャージャーにしても、過給してパワーを引き出すには燃料も必要なのでアクセルを踏めば踏み込むほどに燃費は悪化する。より希薄な混合比で燃焼させる技術進化は不可欠だ。
すべてEVにすれば良い、なんて言う人もいるようだが、まだまだ夢見事。マルチなエネルギーによる効率的システムの技術革新がキーになる。
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