初代マカンの正当な後継モデルになれるか?
最新のポルシェ・マカン・エレクトリックには、難しい課題がある。内燃エンジンで走る、有能な初代マカンの正当な後継車になることだ。
【画像】精緻な操舵感へ惹かれる ポルシェ・マカン・エレクトリック 近似サイズのEVと比較 全137枚
他の例に漏れず、これまでのポルシェのファミリーSUVも、クラスをリードする優等生といえた。実用的な車内空間と、長距離移動の快適性、スポーツカーに乗ってきたお父さんも楽しいと感じる走りが、1台に凝縮。明らかな弱点は思い浮かばない。
確かに、バッテリーEVのタイカンはクラス最高の仕上がりにある。だが、内燃エンジン・モデルが叶える航続距離や、動的な魅力では届いていない。価格面でも。
それでも初代マカンは、サイバーセキュリティの新規制に対応できず、欧州本土での販売が終了している。英国では2025年内はディーラーに並ぶようだが、世代交代が控えていることは間違いない。
ゼロエミッションを追求するうえで、プレミアム・プラットフォーム・エレクトリック(PPE)と呼ばれる、新プラットフォームをポルシェは開発した。見た目は似ているが、2代目は基盤から異なる。
これは電圧800Vの電動パワートレインを実装し、アウディQ6 e-トロンとも共有する。2026年に発売予定の、電動のカイエンにも展開されるはず。2030年までに販売の8割をバッテリーEVにするという、目標へ着実に進んでいる。
かくして2代目は、どんな進化を果たしたのか。今回は、ベースグレードのマカンを含む、4種類の印象をお伝えしたいと思う。
素のマカンはRWD バッテリーは95.0kWh
ラインナップは素のマカンから、マカン 4、マカン 4S、マカン・ターボという構成で、最初の1種がリア側に1基の駆動用モーターを積む後輪駆動。後者3種は2基のモーターが載り、四輪駆動となる。
最高出力は、シングルモーターのマカンが361psで、4はツインモーターの合計で408ps。4Sは合計517ps、ターボは640psに届く。
この駆動用モーターは、各アクスルの後方へ位置するのが特徴。ポルシェ911との結びつきを想起させつつ、重心が後ろ寄りの操縦性を生み出している。このレイアウトは、Q6 e-トロンでは採用されていない。
ニッケル・マンガン・コバルトを正極材にする駆動用バッテリーは4種で共通し、95.0kWhの大容量。セルは立方体で、急速充電は最大270kWに対応する。残量10%から80%まで、最短21分で回復できる計算になる。
このバッテリーは、従来のマカン 4比で約400kgも多い車重を生んでいる。そのかわり、重心は140mm低い。
サスペンションは、ターボ以外はスチールコイルが標準で、エアスプリングはオプション。後輪操舵システムと、トルクベクタリング・リアデフ(PTV+)は、4Sとターボでオプション設定される。
カイエンの雰囲気へ近い広めのインテリア
インテリアは、既存のポルシェ・カイエンの雰囲気へ近い。ドライバー正面には、12.6インチのメーター用モニター。ダッシュボード中央には10.9インチのインフォテイメント用タッチモニターが据えられる。オプションで、助手席側にも追加できる。
運転席は、驚くほど座面を下げることが可能。サポート性の高い、18ウェイのスポーツシート・プラスも用意される。
初代よりホイールベースは96mm長く、クラス最大とはいえないが、後席側の空間にはゆとりがある。荷室は、メルセデス・ベンツEQE SUVに匹敵する広さを備える。フロント側にも、小さな収納がある。
インフォテインメント・システムは、グーグルの技術を用いた新世代のPCMを実装。アップル・カープレイとアンドロイド・オートに対応し、音声アシストも利用可能だ。
ドライバーの前方10mの位置へ投影されるように見える、拡張現実ヘッドアップ・ディスプレイも追加できる。人によっては、少し煩わしく感じるかもしれないが。
ポルシェらしいまとまりを実感する走り
さて、新型マカンを発進させれば、日常的な環境での印象は第一級。ステアリングホイールの重さや正確さ、アクセルペダルの踏み心地、フラットな姿勢制御などが融合し、ポルシェらしいまとまりを実感できる。市街地でも取り回ししやすい。
ターボの最大トルクは、121.8kg-m。0-100km/h加速3.3秒がうたわれ、めっぽう速い。しかも、ホイールスピンもトルクステアもない。タイヤへ伝わるトルクは、0.01秒単位で調整されるとか。
垂直方向の姿勢制御は安定し、ステアリングは終始正確。PTV+は、タイトなカーブでの直感的な回頭性を引き上げてくれる。極めて速く、落ち着いたファミリーSUVに仕上がっている。ただし4種の2代目マカンで、最も魅力的とはいえなさそう。
ツインモーターの4は、多くのドライバーにとって充分以上の速さを備える。オプションのエアスプリングに20インチ・アルミホイールの組み合わせは、かなりの好感触だ。
ターボほどシリアスではなく、郊外の道を安楽に移動できる。リアアクスル主導のトルク分配も、操縦性で感じ取れる。約2.3tある車重は、見事に管理下へ収めている。アウディRS3を思い出させるような、刺激も筆者は感じ取れた。
さらに速い4Sは、グリップ力と安定性が向上する印象。アダプティブダンパーは標準装備され、オプションの組み方次第で魅力度も高められる。
それでもAUTOCARが推したいのは、素のシングルモーター仕様。優れたコーナリングバランスを、低めの速度域で体感できる。同等に運転は楽しく、洗練度はむしろ高いかもしれない。
精緻なステアリングと安定した動的特性
従来のマカンから乗り換えたドライバーは、V6ターボエンジンを懐かしむだろう。だが、精緻なステアリングと安定した動的特性が、それを補う。特に素のマカンでは。
EVの基準では、という括りは付くが、極めて流暢に操れる。オプションのエアスプリングとツインバルブ・ダンパーを組めば、姿勢制御は秀抜。グリップの前後バランスは素晴らしく、ポルシェらしい落ち着いたコーナリングを謳歌できる。
唯一の弱みといえるのが、全般的に硬い乗り心地。路面次第では、ロードノイズも目立つ。20インチ・ホイールとコイルスプリングなら、ある程度は抑えられるが。
ブレーキも称賛すべきポイント。ペダルには充分な感触が伝わり、回生ブレーキとの協調性も高い。アクセルペダルを緩めるとスルスル惰性走行し、ブレーキペダルを踏むと、運動エネルギーの回収が始まる。回生ブレーキの強さは、調整できない。
英国価格は、素のマカンで6万7200ポンド(約1290万円)から。併売される初代マカンより、約1万2000ポンド(約230万円)高い。少し価格がこなれてきた中型の電動SUVとしては、高価な部類に入る。
期待通りのファミリーSUV RWDがベスト?
かくして、電動世代への交代準備が整ったマカン。期待通りのファミリーSUVへ仕上がっている。淡白な電動パワートレインを搭載していても、ポルシェらしい充足感が走りには漂う。
好バランスな操縦性、引き締まった姿勢制御、感覚豊かなステアリングなど、特長は多い。とはいえ、BMW iX3やQ6 e-トロンと比べた時、新たなベンチマークを設定するとまではいえないだろう。
S4やターボは、驚異的な動力性能とグリップ力で乗り手を満たす。だが、従来のポルシェ・ファンを最も喜ばせそうなのが、充分にスポーティな後輪駆動のマカン。レス・イズ・モアに通じる哲学へ、共感する人は少なくないはず。
◯:シンプルなシングルモーター版が最も運転を楽しめる 洗練され上質なインテリア ライバルより高速な急速充電
△:初代マカンに並ぶ動的な魅力は得ていない 硬めの乗り心地 オプション抜きでもお高めの価格
ポルシェ・マカン 4S エレクトリック(英国仕様)のスペック
英国価格:7万5400ポンド(約1448万円)
全長:4784mm
全幅:1923mm
全高:1622mm
最高速度:239km/h
0-100km/h加速:4.1秒
航続距離:511-606km
電費:4.8-5.6km/kWh
CO2排出量:−
車両重量:2345kg
パワートレイン:ツイン永久磁石同期モーター
駆動用バッテリー:95.0kWh
急速充電能力:270kW
最高出力:517ps(ローンチコントロール時)
最大トルク:83.4kg-m(ローンチコントロール時)
ギアボックス:1速リダクション(四輪駆動)
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