■トヨタの人気車「プリウス」「アクア」が需要低迷する訳とは
2020年に国内で新車として販売された小型/普通車の内、50%以上をトヨタ車が占めました。
トヨタは国内販売1位のメーカーで、車名別販売ランキングの上位にもトヨタ車が数多く入っています。
しかしすべてのトヨタ車が好調に売れるわけではありません。とくに「プリウス」や「アクア」、「C-HR」は、かつて高い人気を誇りながら、いまは売れ行きを大幅に下げました。
なぜ人気車だったこれらのモデルが売れなくなってしまったのでしょうか。
現行プリウスは、2015年に登場。2016年には24万8258台を登録して、軽自動車まで含めた国内販売の総合1位になりました。
2017年は総合1位をホンダ「N-BOX」に奪われましたが、小型/普通車の1位はキープ。2018年の小型/普通車1位は日産「ノート」に奪われましたが、2019年はプリウスが1位に返り咲きました。
ところが2020年のプリウスの登録台数は、2019年の54%となる6万7297台まで下がりました。登録台数ランキング順位も12位まで後退し、トヨタ「ヴォクシー」を下まわります。
2016年の24万8258台に比べると、2020年の登録台数は27%と、わずか4年間でプリウスは70%以上の需要を失ったのです。
アクアは2011年末に登場しています。2012年は26万6567台を登録して、先代プリウスに続き国内販売の総合2位になりました。
2013年から2015年は、アクアが国内販売の総合1位となっていますが、前述のように、2016年はフルモデルチェンジしたプリウスが総合1位を取り戻しました。
この後2019年まで、アクアは小型/普通車登録台数ランキングの上位に位置していましたが、2020年には2019年の57%となる5万9548台まで減少。
もっとも多く売れた2012年の26万6567台に比べると22%となり、8年間で78%の需要を失いました。
プリウスとアクアは2019年までは堅調に売れましたが、2020年に登録台数を急落させていますが、この背景のひとつとして、同じトヨタ車の新型車投入が影響していています。
2019年9月に「カローラシリーズ」がフルモデルチェンジし、セダンの「カローラ」とワゴンの「カローラツーリング」が発売され、1.8リッターガソリンに加え、プリウスと同じ1.8リッターハイブリッド車も設定しました(カローラスポーツには1.2リッターターボもラインナップ)。
トヨタの販売店からは「カローラツーリングは、3ナンバー車のワゴンながらボディが比較的コンパクトで、荷物も積みやすいです。しかも走行性能と質感が大幅に向上したので、先代プリウスから乗り替えるお客さまが増えました」という声が聞かれます。
カローラツーリングの販売内訳を見ても、76%をハイブリッドが占めており、確かにプリウスから乗り替えたユーザーも多いでしょう。
アクアについては、2020年2月に登場した「ヤリス」のハイブリッド車が影響を与えたといえます。
ヤリスはアクアとボディサイズが同程度のコンパクトカーですが、エンジンやハイブリッドシステム、プラットフォーム、安全装備などを刷新し、走行性能と燃費も大幅に向上しました。
とくにヤリスハイブリッドの燃費は、国内で購入可能な乗用車のなかではもっとも優れており、WLTCモード燃費は35.4km/Lから36km/Lを達成。アクアの27.2km/Lから29.8km/Lに比べると、20%から30%上まわります。
つまり、アクアからヤリスハイブリッドに乗り替えると、数値上は燃料代を20%前後は節約できるというわけです。
さらにヤリスは設計が新しいので、衝突被害軽減ブレーキは右左折時でも直進してくる対向車や横断歩道上の歩行者に反応します。
車間距離を自動制御しながら追従走行できる運転支援機能も備わり、アクアに比べて魅力を大幅に高めました。
ヤリスはコンパクトカーなので、価格の安いガソリン車も人気ですが、2020年のハイブリッド比率は46%でした。
販売店によると「アクアは発売から10年近くを経過しており、ヤリスハイブリッドへ乗り替えるお客さまも多い」とのことです。
■ハイブリッドの立役者たちが役目を終えた!?
プリウスとアクアが売れ行きを下げた共通の理由に、ハイブリッド専用車のニーズが薄れたこともあります。
以前は販売店から「プリウスやアクアは、スグにハイブリッド車だとわかるため、環境対応に重点を置く法人のお客さまから人気が高い」という話を聞きました。
しかし2020年には、国内で販売された小型/普通乗用車の40%近くが電動車(プラグインを含むハイブリッドや電気自動車)となるなど、ハイブリッド専用車に対する受け止め方が変わったこともプリウスとアクアの売れ行きに影響を及ぼしています。
そしてトヨタはカローラやヤリス以外にも、2019年4月に「RAV4」、11月に「ライズ」、2020年6月に「ハリアー」、8月には「ヤリスクロス」という具合に、コンパクトからミドルサイズの車種を積極的に発売し、これもプリウスやアクアの売れ行きに影響しました。
さらにトヨタでは、2020年5月から全店で全車を扱う販売体制に移行。売れ行きを下げたプリウスとアクアやコンパクトSUVのC-HRは、いずれも現行型の発売時点から全店で販売していましたが、カローラはカローラ店の専売で、ヤリスおよび前身の「ヴィッツ」はネッツ店のみが扱っていました(東京など一部地域を除く)。
そうなると、例えばコンパクトなハイブリッド車が欲しい場合、以前はトヨタ店やトヨペット店と付き合いのあるユーザーは全店が扱うアクアを購入しました。ヤリスはネッツトヨタ店の専売だったからです。
カローラ店のカローラも同様でしたが、2020年5月以降は全店で購入できるようになりました。
ユーザーはもはや販売店を選ぶ必要はなくなり、人気の高いヤリスやカローラが売れ行きを伸ばした一方で、プリウス、アクア、C-HRは全店で買える優位性が消滅したことからヤリスやカローラに顧客を奪われたのです。
そしてC-HRには、プリウスとアクアとは少し違う事情が存在します。C-HRは感性に訴える特徴的な外観を備えたSUVなので、欲しいと思ったユーザーは愛車の車検期間が満了するのを待たずに乗り替えました。
そのためにデビューの翌年となる2017年1月から6月には、1か月平均で1万3217台を登録するなど、小型/普通車では、プリウス、ノートに次ぐ絶好調の売れ行きです。もちろんSUVでは販売1位でした。
ところが2018年の登録台数は、対前年比が65%に下がり、2019年も73%、2020年は61%と下がっていきます。
プリウスとアクアは2020年になって急激に下がりましたが、C-HRは2018年から大幅な下降を開始しました。
2020年の1か月平均は2806台なので、2017年1月から6月の21%です。つまりC-HRは、約3年間で需要の79%を失っています。
C-HRは感性に訴える商品なので、欲しいと思ったユーザーは即座に購入して、短期間で需要が満たされます。
そのために発売直後は売れ行きが急増しますが、その後は急落するのです。これは以前のスポーツカーに多く見られた販売推移です。
また前述の通り2019年にはRAV4とライズ、2020年にはハリアーやヤリスクロスという具合にトヨタから新型SUVが次々と登場して、少し設計の古いC-HRは包囲された形になりました。
国内で新車販売される小型/普通車の半数以上がトヨタ車となった現在、身内同士で競争している面もあります。
プリウス、アクア、C-HRは、新たに発売されたトヨタ車との競争に敗れて売れ行きを下げましたが、同じようなことが今後も繰り返されるでしょう。
全店が全車を売る体制に移行すると、トヨタ自身に厳しい競争を課すことになるのです。
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