2018年10月登場のレクサス「ES」にオプション設定されて話題となった、量産車向けのデジタルアウターミラーだが、それ以降の量産車で率先して採用する動きはない。
最先端技術を好んで新型車に投入するBMWやアウディですら、市販車に積極採用しようという動きはない。また、当のレクサスも好調に売れている「UX」には、なぜかデジタルアウターミラーを設定していない。売れているクルマに採用すれば、普及が進むことは明らかなのにだ。
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ちなみに、「ES」のデジタルアウターミラーの装着率は直近の6カ月で見ると約2割(デジタルアウターミラーは"version L"にのみ設定可能なオプションでES300h "version L"内での装着割合)で、登場時から(2018年10月販売開始から2020年2月まで)の累計装着台数は2300台となっている。かけたコストを回収できるほどではないようだ。
2018年10月に登場したレクサス「ES300h」。デジタルアウターミラーは「ES300h version L」に22万円(税込み)で用意されている
自動運転時代にはもてはやされるかもしれないが、実は有人運転の現在では登場が早すぎたのか? このままだと、「そういえば。あの技術ってどこ行った?」的な扱いになりそうな状況。なぜ普及が進まないのか? 技術的な課題や、社会的な事情があるのか? その事情を、自動車評論家の御堀氏が考察していく。
文/御堀直嗣
写真/LEXUS、編集部
【画像ギャラリー】近い将来さらに実用化が進む「デジタルアウターミラー」をレクサス「ES」で詳しくチェック
■高すぎる!? デジタルアウターミラーの普及が進まないワケ
「デジタルアウターミラー」は、一般的なドアミラーに替えて小型カメラを搭載し、その画像を室内の画面で車両後方の様子を見せる機能だ。2018年10月に発売されたレクサス「ES」で世界初として注文装備に設定された。続いて、2019年の第64回東京モーターショーに出展されたホンダの電気自動車「ホンダe」でも採用される様子がわかった。
2019年の東京モーターショーに出展された「ホンダe」。2020年10月頃に日本で発売される見込みとなっているコンパクトEVだ
空気抵抗の低減と、EVに先進技術を搭載したいというホンダの狙いがあるためか、デジタルアウターミラーが採用されていた
近年のクルマは衝突安全性能を向上させるため、世界的に車体骨格が太く頑丈になる傾向にあり、また、車体寸法自体も新型が登場するたびに大型化される傾向が続き、これらによって運転者が自らの目で直接クルマの周囲を確認することが難しくなっている。それを補う技術として、コーナーセンサーはもとより、カメラを使って安全確認できるようにする傾向が強まっている。
カーナビゲーション画面の拡大化もあり、クルマの前後や側面の様子を地図画像から切り替えて見られたり、ルームミラーもカメラからの画像に切り替えられたりする機能が普及してきている。一方で、デジタルアウターミラーは国内外を含め意外に普及が進んでいない。
理由は、値段もあるだろう。レクサス「ES」の場合、消費税抜きで20万円のオプション価格になっており、ほかの注文装備であるマークレビンソンの「プレミアムサラウンドサウンドシステム」や、スマートフォンを置くだけで充電できる機能などの追加を優先して希望すると、次の候補に位置づけられてしまうかもしれない。
あるいは、まだ見慣れぬ装備であり、外観としても馴染まないとの印象が残るかもしれない。
■実際に試乗して気づいたデジタルアウターミラーの課題
ES試乗の折に体験してみると、いくつか気になる点があったのも事実だ。
慣れの問題もあるかもしれないが……ひとつは、後続車などを確認しようと目を動かした時、つい従来からのドアミラーのあるほうへ視線を動かしてしまうことだ。しかし、そこにあるのはカメラであって、画面は手前のフロントピラー下に設置されている。そこで後方確認に一拍遅れが生じた。
ドライバー目線だと、デジタルアウターミラー搭載車のコックピットはご覧のようになる。慣れるまでは、どうしてもドアミラーのほうの視線が動いてしまう
こちらが走行中のデジタルアウターミラーの見え方
当然ながら、車外のドアミラーに比べ運転者により近くなるため、遠近の焦点調整に素早さが求められる。ことに老眼を実感する人にとっては、瞬間的な認識しにくさを覚えるだろう。運転席側はとくに焦点を合わせるのが辛い。
次に、予想外のことであったが、対向車がすれ違って後方へ走り去る時、その姿がはっきり画面に映るため、想定していなかった後続車が急に接近してきたのかと錯覚することがあった。
ドアミラーは凸面鏡を使い、遠くのクルマは認識しにくい弱点はあっても、走り去った対向車など余計な情報を気づかせない効果があったことに、この体験から改めて知らされた。
またレクサス「ES」の場合は、車外に設置されたカメラのハウジングにも上級な意匠が凝らされ、一部にメッキ装飾が施されているため、天候や時刻などによっては上空の太陽の光を瞬間的に反射し、キラッと光るものを車体側面に見ることでハッとさせられることもあった。
レクサス「ES」のデジタルアウターミラーを前方から見ると、上部にメッキパーツがついている。ここに太陽光が反射して気になるシーンがあった
近くの様子を拡大して見られるなど、デジタル技術を使うことにより工夫も凝らされたデジタルアウターミラーではあるが、実際に使ってみると単に機能の良し悪しだけでなく、交通環境や、天候の変化など現実の下で使うことによる課題が見えてきたのも事実だ。
■便利だが課題も多いデジタルミラー さらなる進歩が求められる
似たようなことは、デジタルルームミラーでも生じている。日産自動車が世界初として 2014年に「インテリジェントルームミラー」を発表した。ことにSUVやミニバンの場合、荷室に荷物を満載したり、乗員が大勢乗ったりすると後方視界が悪化するため、カメラで後ろの様子を見られれば、後続車の確認がより的確にできるというのが開発の発端だ。さらには、逆光や雨天時などにも、より明瞭に後方の状況を知らせる利点がある。
一方で、鏡に映る像は、光の反射を利用して人間の脳がそこに物があると理解する。その際、脳は反射してきた光の延長線上に物があると判断するので、鏡に映った物までの距離も認識している。
しかしカメラ画像は、画面に物は映るけれども、人間はそれを映像として観ているだけなので、距離は認識しにくい。後続車の大小で近いクルマと遠いクルマを理解しても、どれくらい離れているのかという距離感まではわからない。
また距離感のない画面を見ているため、老眼になると瞬時に画面に焦点を合わせにくくなる。
そのうえで、ドアミラーもデジタル化し、ルームミラーともども後続車との距離感をつかみにくいとなると、かえって安全確認を損ないかねない。ことに速度無制限区間を持つドイツのアウトバーンを走るクルマを想定すると、200km/h以上で接近してくるクルマの存在と接近までの時間を数倍の素早さで認識できなければならず、ルームミラーはともかくもドアミラーのデジタル化には慎重にならざるを得ないのではないだろうか。
ご覧いただくとわかるが、作動前は後席や車体後部も見え、距離感をつかみやすい。しかし、作動後はバンパー視点になるため、距離感をつかむための情報がなくなってしまう
それでも現実的には、衝突安全対応や車体寸法の大型化により、運転者自身の目でクルマ周囲の安全を確認しにくくなっているいま、何だかの対策が必要であるのも事実だ。
その際に重要なことは、視界を含めた人間の五感で周囲の危険を感知できるクルマにしていくことではないだろうか。
人間は、気配で危険を察知する能力も備えている。そしてあまりにも視界が遮られ閉鎖空間に閉じ込められると、察知能力が働かなくなり、恐怖を覚えさせる。車外の光の変化や、影が通り抜ける様子を視野の隅でとらえられれば、障害物を直接目で確認できなくても事前に警戒心を働かせられ、それによって慎重な運転をするようになる。そうしたことまで慎重に研究したうえで、外観の造形や視野の確保、さらにはカメラやデジタル画像などを使った装備の採用を決めるべきだ。
また室内の装備においても、肩を保持する機能で大きくなりがちなバケットシートを標準装着することも、十分に検討されるべきだろう。たとえ窓があっても、その視界を大柄なシートが遮っては、斜め後方の気配も消しかねない。
そうしたなか、ホンダの新型フィットは、フロントウィンドウの支柱と前面衝突の衝撃吸収構造を受け持つ支柱とを機能分けする車体構造を採用した。つまり、視界の確保と衝突安全を両立することは、知恵を絞ればまだ余地があるということだ。
新車開発をする技術者とデザイナーは、漫然と最新技術を採用すれば済むと判断するのではなく、人間の感じ方や認識の仕方などをさらに深く研究し、そのうえで魅力的な造形や、楽しい走行性能を磨き上げていく必要があるだろう。そうでないと、「昔あんな装備があったね」と、ただ懐かしがられる機能を市販しかねないと思う。
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