どんなクルマ?
text:Shigeo Kawashima(川島茂夫)
photo: Keisuke Maeda(前田恵介)
国際市場と車名を統一し、マツダ新時代到来の印象も強いが、イメージだけでなくマツダ3からハードウェアも新世代へとシフト。
最大の注目点は爆縮着火による大量EGR下での急速燃焼を実現し、熱効率の向上を図ったスカイアクティブXだが、現状では追加発売予定で詳細未発表。もう1つの注目点は新開発プラットフォームであり、リアサスを4WD車も含めてトーションアクスルとした。駆動系を備える4WD車の場合はド・ディオン式と言えよう。
マツダ3のハードをベースに新たに開発されたコンパクトSUVがCX-30である。開発の根幹が「魂動デザイン」と「人馬一体」の2テーマなのは他のマツダ車と同じだが、後席居住性の向上などユーティリティにも気遣いした設計が特徴で、車格的には近いポジションにあるCX-3よりも後席ニースペース/ヘッドルームともに一回り広くなった。
とは言えユーティリティ優先の設計ではない。「魂動デザイン」の流麗さや躍動感を損ねないのが第一義。
後席 こだわりの頭上空間
上端ラインを低くしたサイドウインドウ・グラフィックは後席の視角的閉鎖感に繋がるが、外観に流麗な印象を与えるには効果的。
後席ヘッドルームを拡大するためのルーフラインをして伸びやかなラインを描くリアゲートまわりやSUVとしては際立って低いフロントグリルなど、半端ではないこだわりと造形技量が感じられる。
結果、CX-5に対するCX-8にも似た車格感やエレガントな趣の差がCX-3との間に生まれていた。
車種展開はマツダ3同様の2Lのガソリンと1.8Lディーゼル、スカイアクティブXの2Lを軸にそれぞれ2WD(FF)と4WDを展開。スカイアクティブX車は2020年1月末に追加発売される予定である。
ミッションはディーゼル車は6速AT限定、2Lガソリン車とスカイアクティブX車は6速ATと6速MTが設定。マツダ3には1.5L車も設定されているのだが、CX-30にはない。重くなった車重への対応とも言えるが、重量差は約40kgであり、対象ユーザー層の違いと考えるべきだろう。
どんな感じ?
試乗車はすべてAT仕様となったが、2Lガソリン(以後2L)とディーゼルの2WDと4WDの4車を試した。試乗グレードはすべてLパッケージである。
2WDと4WDのカタログ車重差は2L車で80kg、ディーゼル車で70kgとなるが、10kg未満は切り捨てなので、80kg前後と考えればいい。試乗印象で動力性能と駆動方式の差はあまり感じられず、動力性能は搭載エンジン次第と思って構わない。
2L車は伸びやかな加速を特徴にする。巡航から加速へ移行した時は比較的浅い踏み込みで1段分ダウンシフト。2500rpm以上を積極的に使い、ちょっとした急加速では2段ダウンシフトも。
最近のエンジンにしては加速時の使用回転域は高め。巡航ギア維持力は低めだが、速度に合わせたエンジン回転数の上昇が加速時の高揚感を演出している。
また、踏み込み直後のトルクの立ち上がりが強調されたパワーフィールも印象的だ。発進時などちょっと間を置いてダッシュするような感じ。最近のマツダ車はどちらかといえば穏やかに加速を立ち上げる方向だったが、マツダ3以降は多少切れ味や体感加速感を重視した方向へと舵を取ったのかもしれない。
ディーゼルか ガソリンか
もっとも、ディーゼル車は穏やか路線。大トルクのわりにダウンシフトタイミングが早いのだが、巡航ギア維持力は2L車の2、3割増しと言った印象。
巡航エンジン回転数は2L車と同じく1500~2000rpmに設定されているが、2000rpm近くでは巡航ギアのまま緩加速や登坂をこなすことが大半。ちょっと強めの加速でも1段ダウンシフトで済ませ、余程の急加速でなければ2段以上落とすことはない。
ディーゼルではトップレベルの許容回転数5500rpmを実感させる伸びとディーゼルならではの力感を調和させたタイプ。言い方を換えるならツーリング時のゆとりと操る心地よさを巧みに融合させたわけだ。
乗り比べてしまえば、やはり2L車はトルクのゆとりの少なさをスロットル開度特性と変速特性でカバーしているとしか思えない。NA2Lのガソリンエンジンでは標準の範疇だが、同時に少々古臭くもあり、この辺りはスカイアクティブXに期待ということなのだろう。
見所はコーナリング
フットワークは搭載エンジンによる差はあまり感じられない。
前記同様にパワートレインによる重量差は約50kg。重量差はそのまま前輪荷重の違いと見るべきだが、ディーゼル車が目立って鼻先の動きが重くなった印象はない。
両エンジン車とも操舵反応がよく、初期から唐突な挙動なく滑らかに回頭。操舵そのままにラインをなぞり、加減速や路面のうねりによる方向性の乱れも極めて少ない。
ドラテクの小技を用いることなくラインが決まるし、オーバースピード気味にコーナーに進入しても安心してブレーキを踏めるタイプ。高速直進時の保舵感にもう少し据わりのよさが欲しいが、コーナリング時の信頼感はSUVでも群を抜いている。
余談だが、アイポイントもコーナリング感覚も高車高のSUV感覚は希薄。実際に着座面が低いこともあるが、操縦性は下手な5ドアHB車よりも腰の据わった印象だった。
CX-30内相対では2WD車に比べると4WD車のほうが操縦感覚は穏やかだったが、カテゴリー内相対で見ればともに軽快で綺麗なコーナリング性能。もちろん、安心感も高い。ハンドリングはCX-30の大きなアピールポイントである。
このハンドリング故か、乗り心地は硬めである。
乗り心地/静粛性
オンロード志向の強いSUVでは硬めのサスチューンを採用するモデルも多いのでマツダ3ほど目立たないが、沈み込みを抑えた硬さや車軸まわりから上がってくる突き上げが気になる。
2WDと4WDのサスチューンは重量差を補正した程度。つまり、同じになるようにセッティングされているが、乗ってみればやはり4WD車のほうが穏やかである。
それはゴツゴツとフルフルというような突き上げ感の差であり、2WD車のほうがよく言えば締まった。悪く言えば当たりがきつい。和みのドライブ向けとは言い難いが、ファントゥドライブ志向で選択するドライバーにすれば「らしい」乗り味も満足度。ある意味イメージどおりとも言える。
ただ、静粛性はエンジンまわり、ロードノイズともに良好であり、走り全体の車格感は高い。
先進支援機能は?
良質なスポーツ志向のSUVの走りだが、運転支援機能の核をなすACCとLKAが今ひとつ。
これもマツダ3に準じた設定なのだが、ACCは前走車に追い付いた時やいなくなった時の加減速制御が唐突。全車速型ながら制御は一世代古いタイプを思わせる粗さがある。
LKAは走行ライン制御機能が約60km/h以下に限定され、それ以上では支援操舵を行うものの車線逸脱予防に限定され、支援操舵の制御精度も低め。
CX-30が得意とする高速長距離用途の要となる運転支援機能だけに、画竜点睛を欠いたようで残念である。
「買い」か?
カタログを開くと「美しく走る。」の一文が目に飛び込んでくる。CX-30のコスパを図る上で「魂動デザイン」と「人馬一体」への共感は極めて重要である。
実用面でのCX-3からの進歩は後席居住性だけでなく、最低地上高を15mm増加させ4WDに悪路対応制御も加えるなどSUVとしての資質も向上させている。
ならばSUVのメインステージとなるファミリー&レジャー用途向け、とはならないのである。ちなみに同予算ならSUVの基準器ともいえるトヨタRAV4の2L車が絡むし、少し頑張ればCX-5にも手が届く。
レジャー用途向けSUVならCX-30を超えるコスパのモデルを探すのは容易い。だが、SUVを思わせない流麗なスタイルと都市部の用途にも手頃なサイズ、ディーゼルのゆとりある走りやスポーティカーを思わせるフットワーク等々。これに惚れてしまえば替えが利かない、と思わせるだけの魅力を備えている。
ただし、そう考えるなら「マツダ3でもいい!?」とも思えてしまう。
フェンダーやサイドシルまわりをSUVらしく仕立てているが、外観はマツダ3のステーションワゴンバリエーションにも見えるし、デザインと走りの志向も近似である。
ワゴンからSUVへのシフトを強める市場動向にも当てはまる。つまりCX-30はマツダ3から発展したプライベートタイムに重きを置いた大人のワゴン的コンパクトSUV、と捉えるのが一番しっくりくる。
SUVの本流ではなくても、多様化するSUVの中でもCX-30は強い存在感を放つ。趣味嗜好の共感が大前提ではあるが、「マツダらしさ」をモノサシにすればコスパも上々である。
マツダCX-30スペック
マツダCX-30 20S Lパッケージ(2WD)
価格:279万4000円
全長×全幅×全高:4395×1795×1540mm
ホイールベース:2655mm
燃費(WLTCモード):15.4km/L
車両重量:1400kg
エンジン:1997cc直4
使用燃料:ガソリン
最高出力:156ps/6000rpm
最大トルク:20.3kg-m/4000rpm
ギアボックス:6速オートマティック
マツダCX-30 XD Lパッケージ(4WD)
価格:330万5500円
全長×全幅×全高:4395×1795×1540mm
ホイールベース:2655mm
燃費(WLTCモード):18.4km/L
車両重量:1530kg
エンジン:1756cc直4ディーゼルターボ
使用燃料:軽油
最高出力:116ps/4000rpm
最大トルク:27.5kg-m/1600-2600rpm
ギアボックス:6速オートマティック
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