■幼稚園バスの安全装備はどうなっている?
幼稚園に子どもを送迎するために使われる幼児専用車(以下、幼稚園バス)には、現在、シートベルトやチャイルドシートの装備が義務付けられていません。
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2008年の道路交通法改正で、運転者は自身を含むすべての同乗者にシートベルトを装着させることが義務づけられたのに、なぜ幼稚園バスではシートベルトを装備しなくて良いのでしょうか。
幼稚園バスとは、幼稚園や保育園の送迎などに使われる子ども専用のバスのことで、道路交通法に定める通学通園バスの保安基準に従って製造されています。
車両には「幼児バス」「スクールバス」などと書かれた黄色い三角形のマークが付けられており、近くを通るクルマのドライバーは、子どもの飛び出しなどがないかなど、徐行して安全を確かめなくてはなりません。
これらの幼稚園バスには、シートベルトの装備が義務付けられていないのですが、その理由は以下の通りです。
・幼児自らベルトの着脱が難しいため、緊急時の脱出が困難
・幼児の体格は年齢によってさまざまであり、一定の座席ベルトの設定が困難
・同乗者(幼稚園教諭等)の着脱補助作業が発生する
国土交通省の調査によると、「幼児専用車の事故発生率はバス・マイクロバスの半分程度であり、保有台数あたりの死傷者数は、1/10程度。事故分析の対象とした平成15年から平成20年の期間における死亡者はなく、重傷者も4名となっており、ほとんどが軽傷であった」という結果が出ているといいます。
つまり、幼稚園バスは事故に遭う確率が少なく、死傷者の発生も少ないのでベルトは不要という考えです。
平成25年には、幼稚園バスの座席に対する安全対策として、具体的なガイドラインが発表されています(あくまでも「ガイドライン」であって義務付けられているわけではありません)。
・シートバックの後面に緩衝材を装備→事故時の衝撃を吸収することが目的
・シートバックの高さを現状より100mm程度アップ→衝突時に幼児の頭を緩衝材のあるシートバックで受け止めるようにすることが主な目的
幼稚園バスに乗る子どもたちはベルトなどで体を固定していないため、前の座席の背もたれや、前の座席に座る子どもの後頭部に頭をぶつけてケガをするケースが多いといいます。
そのため、事故の際の衝撃を和らげるために緩衝材を取り付け、シートバック(背もたれ)を高くするなどして衝撃を緩和することがガイドラインの主な目的です。
なお、このガイドラインには「将来に向けての課題」として、「今後、自動車製作者等は、使用実態に十分配慮しつつ、諸課題を解決した座席ベルトを開発し、3年から5年を目途に、適切な座席ベルトの装備を望む使用者が新車を購入時に選択できるようになることを目指すこと」という一文もありました。
■チャイルドシートが取り付けられる仕様の幼稚園バスもあり
ガイドラインが出てから、すでに6年以上が経過しています。シートベルトが装備された幼稚園バスは、存在するのでしょうか。
累計販売台数1800台以上と日本でもっとも多くの幼稚園バスを販売している、光源舎オートプロダクツ株式会社(北海道・北広島市)に聞いてみました。
幼稚園バスのシートベルトについて、取締役社長の斉藤賢一氏は次のようにコメントしています。
「車両である以上、シートベルトはあったほうが安全であることは事実として受け止めていますが、幼児車両の椅子の構造的、幼児の体格的問題を課題としてシートベルトが設置できない実情もあります。
このような状況でも、可能な限り安全運用の方法を模索する責任が私ども製造者側にはあるとも考えております」
同社では、シートベルトの代わりに「4点式ベスト」を独自に開発したといいます。この4点式ベストは、肩・胸・腰の支えによって急ブレーキや衝突などで体が前方に放り出されることを極力抑える構造になっていて、2歳から6歳の幼稚園児の体に合わせてベルトの調整も可能です。
乗降時の取り付けや取り外しに時間と手間はかかるということですが、衝突の衝撃で座席から転げ落ちることを防ぐなど、一定の効果が期待できそうです。
また同社では、1歳前後からの本当に小さな子ども用に、3点式ベルトやISO-FIX方式で市販のチャイルドシートが安全に装着できる仕様の幼稚園バスの製造もおこなっています
自動車用シートベルトと同じように、ELR式(緊急時固定式)簡易ベルトを装備した幼稚園バスを製造する会社もあります。
幼児送迎バス専門店のシャイニングチルドレン(埼玉県・さいたま市)では、簡易型ELR式ベルトを装備し、2名から3名の幼児を一緒にベルトで固定しています。社長の大熊氏に、子どもたちの使用状況について聞きました。
「ベルトのない幼稚園バスは世の中で一番危険な乗り物です。統計の数字には出てこなくても、全国各地では毎日のように軽い接触事故や急ブレーキの衝撃によって、子どもたちが頭をぶつけたり、座席から転げ落ちたりしています。
これらの日常的な事故から子ども守る幼児バス用シートベルトは、法的な装着義務はありませんが、『つけてはいけない』という規則もありません。
弊社で開発したELR式ベルトは簡易的なものですが、子どもたちは座ったらすぐ自発的にベルトを着用しています。子どもでも3秒で着用することが可能です。
構造上、ベルトが出る部分に砂利や砂などが入ってうまく引き出せないことがあると、子どもたちは大騒ぎして、『僕だけ死んじゃう!』と泣くんですよ。
クルマに乗ったら当然ベルトを締めるという習慣ができているのですね。幼稚園バスでのシートベルト装着は、教育的な効果も大きいと思います」
※ ※ ※
チャイルドシートやシートベルト着用に関して大切なことは、自家用車ではベルトをするけど幼稚園バスではしなくていいといった、例外を作らないことだと筆者(加藤久美子)は考えます。
幼稚園バスのシートベルトが義務化されるには、さまざまなハードルを越えなくてはいけないでしょう。
そんななか、法律では規制されていなくても、園児の安全を守るため独自開発の安全ベストや簡易シートベルトなどを備えた幼稚園バスを導入する幼稚園が増えています。
安全意識の高い幼稚園を選ぶことも、保護者としての大事な選択といえそうです。
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