当初はFRにすることも構想にあったという
2007年に日産GT-Rが登場したとき、そのさまざまなスペックやディテールを知り驚きつつも羨ましさを感じもした。じつは登場から遡ること3~4年、当時日産自動車の開発現場担当であった某氏から、次期GT-Rについて相談を受けたことがあった。氏曰く「FRにするかAWDにするか迷っている」と。
【試乗】3000kmを走破! 速攻独占試乗に成功した日産GT-R「2020年モデル」の実力
R32~34までスカイラインGT-RはAWDのスーパースポーツとして、モータースポーツシーンで大成功を収め席巻していた。2004年にBMWが5リッターV10エンジンで500馬力オーバーのM5を登場させた頃でもあり、エンジンのパワーウォーズは間違いなく500馬力以上の時代になるとされていた。
2002年まで生産されたR34型のスカイラインGT-Rは2.6リッターの直6ツインターボエンジンを搭載していたが、カタログ馬力は自主規制値の280馬力と低かった。R34型がスカイラインGT-Rの最終形としてアナウンスされていたが、日産の開発現場では次期スーパースポーツの検討をしていたということになる。そこでボクは「これからは500馬力が当たり前の時代になりますよ。2輪駆動でどうやってそれを有効に路面に伝えられるんですか?」と、FRのBMW M5が大馬力を持て余してじゃじゃ馬なハンドリングになってしまっていたことを例え話した。「それにモータースポーツだってAWDが圧倒的に有利だったのはGT-Rでわっかたでしょう」と。すると某氏は「ですよね……」と頷いていたのだった。
その後開発がどう進んだのかは知らない。FRもAWDも両方試作してテストしていると聞いたが、もし500馬力級のFRで登場したらうまくまとめられないだろうと予測していたのだ。そして迎えた2007年。東京モーターショーの会場でアンベイルされたR35型GT-Rからは「スカイライン」の名称が外され「日産GT-R」となって生まれ変わったというわけだ。
搭載エンジンは3.8リッターV6ツインターボで、最高出力は予想どおり500馬力級の480馬力。注目の駆動方式はAWDとなっていた。280馬力自主規制を破り500馬力より少し下げて登場させたのは、自工会への忖度だったのだろうか。理由として暑い夏でも標高が高く空気の薄い高所でも、いつでも確実に発揮できる馬力をカタログに表記したと解釈することで納得できた。
パワートレインレイアウトはフロントミッドシップにリヤトランスアクスル。前後50:50の重量配分を可能とする理想的なレイアウトで、かつ2ドアで4シーターというパッケージングに仕上げられている。そのディテールを知ったとき、「あ、やられた~」と正直思った。
中谷氏の理想的なパッケージはサーキットで速さを見せつけた
というのは1997年頃から三菱自動車でランサー・エボリューション(ランエボ)の開発に関わり、さまざまな意見を出し反映してもらってきていたが、そのなかで実現したかったアイテムが、いくつもR35型GT-Rに取り入れられていたからだ。
たとえばフロントサスペンションのストラットタワーハウジング。この部材をアルミダイキャストで作るとサスペンション保持剛性が高まり操縦安定性が高まる。BMWが2003年からE60型5シリーズで採用したのをはじめとし、ジャガーXJなど多くの欧州車に拡大採用されている。また左右ドアパネルをアルミ鍛造製として軽量化。これはポルシェがタイプ996の911ターボで初採用したもので、サプライヤーも米国ALCOA社と同じだったのだ。
リヤバルクヘッドもアルミダイキャストで一体成型するなど欧州車のトレンド技術を余すところなく取り入れていた。サスペンションアームもほとんどがアルミ製でバネ下重量を軽減。ブレンボのブレーキシステムやビルシュタインのショックアブソーバーなど完璧だった。
トランスミッションはボルグワーナー社製の6速DCTで、ランエボXで採用したゲトラグ製に対しクラッチ容量を大幅に増やし、ローンチコントロールの多用にも耐える。それにはオイルクーラーなどクーリング性能も重要視されている。
また空力的性能も抜群で、ラジエターをクーリングしたエアが車体下部を流れ後方に抜けさせる際にボディ下部にベンチュリー効果を与えダウンフォースを稼ぎ出す。どれもこれもランエボに盛り込みたい技術ばかりで、これだけやっても登場初期の価格設定が800万円前後だったのだから、これは安い! と思ったものだ。
実際にGT-Rは走らせても速かった。試乗会は仙台ハイランドや富士スピードウェイ、スパ西浦モーターパークなどサーキットで行われたが、どちらのコースでも市販車としてのコースレコードを簡単に叩き出せた。
R35型GT-Rが登場してから10年以上。いまだフルモデルチェンジを行わず年次改良のみで販売を続けている。ここまでの進化では快適性の向上が果たされ、サーキットでの速さはさほど向上はしていないが、国産モデルとしては今でも最速モデルとして君臨している。
そして今後もR35型GT-Rを超えるような量産モデルは登場しないだろうと考えている。電気自動車や自動運転、安全運転支援システム、衝突安全性など自動車メーカーが抱える問題は極めて多く重要だ。そんな環境でGT-Rを超えるような速いクルマを生み出せる余裕はどのメーカーにもない。内燃機関搭載の最速国産車であるR35型GT-R。新車で買えるのもそう長くはないはずだ。
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