「十年ひと昔」ということわざもあるが、11年前といえば、ずいぶんと昔に感じるのではないだろうか。
現行「Z12型キューブ」が登場したのは2008年、つまり11年前。
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その間大きな変更をされることもなく、いわば「放置」されてしまっている。「日産はキューブを見殺ししている」といっても過言ではない。それはなぜか。どんな事情や理由があっての判断で、その判断は正しいのか。元自動車メーカーの開発エンジニアの筆者が考察する。
文:吉川賢一
■「キューブ」の歴史を振り返る
初代「キューブ」は1998年登場、マーチをベースに四角をモチーフにしたボディスタイルで登場し、ハイトワゴンとして人気を得た。
2代目は2002年に登場、初代の「キューブらしさ」を継承しつつも、特徴的なリヤの非対称デザインと丸みを帯びた四角が絶妙で、日本国内で大きく売れた。3代目は2008年登場、キープコンセプトながらも、広くお客さまに受け入れられた。なお3代目は北米、欧州、韓国など、海外でも販売されていた時期があった。
初代キューブ (Z10型)は1998~2002年に販売。スクエアなボディとシンプルなスタイルで大ヒットした。2002年には2代目(Z11型)にフルモデルチェンジしている
また、日産車にしては珍しく、デザインのセンスのよさが認められ、オートカラーアウォード2009ファッションカラー賞およびインテリア部門賞を受賞、そして2018年にはグッドデザイン・ロングライフデザイン賞を受賞するなど、キューブは11年たった今見ても、完成度の高いデザインだといえるだろう。
■なぜにキューブは見捨てられたのか?
キューブがモデルチェンジをしない理由となった出来事は、「海外市場でのチャレンジの失敗」にあったと考えらえる。日産に限らず、自動車メーカーは現在、日本市場を「ほとんど」あてにしていない。
日産の2018年世界販売台数は550万台、そのうち日本市場は57万台(10.3%)、中国156万台(28.3%)北米190万台(34.5%)、欧州64.3万台(11.7%)である。
日産キューブ。2018年の年間販売台数は6590台。月販平均台数は約550台。デビュー直後はこの約10倍売れていた
新型車ビジネスの主戦場は、中国や北米、ヨーロッパ、そしてアジアであり、日本は「おまけ」程度なのだ。トヨタやホンダもメインターゲットや割合は近しいであろう。
自動車メーカーが確実に利益を上げていくためには、同一車種をグローバルで販売し、販売台数を増やす必要がある。
そのため現行型(Z12型)からキューブは北米、欧州、韓国といった海外での販売を前提に、左ハンドル仕様が追加された。
ファニーでレトロなデザイン、日本流のインテリアセンス、しっかりとした足回り、低燃費、安さなど、日産は「いける」と思ったはずだ。
しかし海外では、発売当初は大人気となったものの、その後は不振となり、今ではどの地域でも廃止となっている。デザインのコンセプトや使い勝手は通用していたが、販売コストが見合わなかったことが原因だ。その結果、日本市場で生き延びるしかなくなった「キューブ」は、ひっそりとその寿命が尽きるのを待つのみとなってしまった。
■何がいけなかったのか
上記のような事情があるとはいえ、現行型キューブのフルモデルチェンジを実施しないで現行型を売り続けいる理由は、ある意味「日産の怠惰」だと筆者は考える。
実はラインアップから「キューブ」を消すことにも費用がかかる。
製造する工場の設備変更、型の入れ替え、在庫パーツの保管場所確保、さらには公式サイト広告の修正、ラインナップ紹介のパンフレットから「キューブ」を削除するなど、販売停止するためには、やらなくてはいけないことがあるのだ。
となると、ある程度放っておいても年間6千台は売れ続ける“優秀”なキューブを無理やりラインアップから消す必要もなく、「とりあえず放っておこう」となっているのであろう。
現行型キューブ。 2代目に続き3代目も左右非対称デザインの横開き式バッグドアやリアコンビランプは継承され、2008年の登場時にはデザインを評価された。編集部としては、「ノート」がフルモデルチェンジしなくても(e-POWERを追加して)売れたことが、日産にとって成功事例として記録されていることも大きいのではないかと考える
細かい仕様変更とはいえ、2018年にも「キューブ・ライダー」の仕様向上が登場していたのだが、テレビCMや広告などでその情報を見たことがないのは筆者だけではないだろう。せめてエルグランドのように、「何が新しくなったのか分からないが露出は増やした」といった広告をすることくらいできそうなものだが、日産はキューブにそれすらやらなかったのだ。
■まとめ
中古車市場だとすでに10万円を切る現行キューブが存在しているのに、200万円も出して新車購入してくれる顧客の心を、日産はどう考えているのか。
いっそのこと、ほぼ同じ境遇のマーチとともに、いったんその歴史を閉じたほうがよいと筆者は考える。「長く販売されている」のは、「長年愛されている」とイコールではないのだ。
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