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小型車メーカー「フィアット」はフェラーリを傘下に収めていたイタリアの巨人だった

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小型車メーカー「フィアット」はフェラーリを傘下に収めていたイタリアの巨人だった

FIATは5つのブランドを傘下にする複合産業

 イタリアを代表するスポーツカーメーカー「フェラーリ」や「マセラティ」だが、どちらもフィアット傘下の自動車メーカー。「FCA」とは、「フィアット・クライスラー・オートモービルズ」の頭文字を取った名称で、2014年に誕生したイタリア「フィアット」とアメリカ「クライスラー」の合弁会社だ。両社の自動車ブランドがこのFCAによって管理されている。

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 現在、イタリアの主な量産自動車メーカー&ブランドは7つ。しかし、「フォルクスワーゲン」グループにおける「アウディ」の子会社「ランボルギーニ」を除く6ブランド(フィアット、アバルト、アルファロメオ、ランチア、マセラティ、フェラーリ)のすべてが「FCA」傘下にあるのだ(フェラーリは2016年に独立)。

 後述のイタリアン6ブランドは、それぞれ”独立した会社”としての立場を持っており、それをFCA傘下にある「フィアットグループオートモビルズ」がマネージメントするという構造。FCAは持ち株会社であり、長い歴史を持つイタリアの自動車メーカーを束ねているのがフィアットグループオートモビルズだといえば分かりやすいだろう。 

 ちなみに「クライスラー」は、FCAによって完全子会社されている。2014年、業績悪化のクライスラーを当時のフィアットグループオートモビルズが救ったというカタチだ。クライスラーが持つブランドは、クライスラー、ジープ、ダッジ、ラム(トラック)、モーパー(アクセサリーやカスタマイズパーツ)の5つで、こちらはすべて”同社のブランド”という扱い。フィアットのように別会社組織にはなっていない。

 日本で販売されている「フィアット」ブランドの車両は主に小型車だ。ダイハツやスズキといった小さなクルマを作る自動車メーカーが、「フェラーリ」や「マセラティ」といった歴史あるスポーツカーブランドを傘下に収めていたと不思議に思うかもしれない。

 ところが「フィアット」は1899年に設立された工業メーカーで、列車や航空機なども製造する総合重工業メーカーともいえる存在。日本に照らしあてて考えれば、「三菱重工業」が近い存在と言えるかもしれない(三菱重工業の自動車部門は1970年に独立し三菱自動車工業となり、現在は日産、ルノーと提携関係にある)。

 第二次世界大戦後に「イタリアの奇跡」と言われる経済成長を遂げるのと合わせるように、フィアットも規模と業績を拡大。戦後の日本の大手工業メーカーがそうであったように、フィアットも大きな成長を果たし、この時点でイタリアを代表する企業となっていた。 フィアット目線でいえば、この成長・拡大路線の過程で、イタリア国内の自動車メーカーを次々と傘下に収めていったのだ。

 我々としては「フィアット500を造っている会社」はフィアットのほんの一部のイメージでしかない。欧州ではフィアットを「イタリアの巨人」と紹介することもある。会社規模でいえば、当時のフェラーリやマセラティは、フィアットとは比較にならないほどの小さな存在でしかなかったのである。 ちなみにフィアットは、自動車や農業機器、航空機などの製造販売だけでなく、金融機関や新聞社、サッカークラブ、そしてそれらの関連会社なども傘下に収める一大コングロマリット(大複合企業)で、その規模と影響力は現在も変わっていない。

 現在に続く「フェラーリ」社が誕生したのは1947年。したがって2017年がフェラーリ70周年となり、日本はもちろんのこと世界各国で記念行事が行われたのは記憶に新しい。いっぽうの「マセラティ」社は、1914年設立の「ソシエータ・アノニーマ・オフィチーネ・アルフィエーリ・マセラティ」がルーツ。現在のマセラティは、この会社登記の年を設立年として同社の年表に掲げている。両社ともにレースを中心にビジネスを行い、同じイタリアンブランドとして欧州のレース界で名を馳せていった。

 1950年、世界選手権として今なおレースのトップに君臨するF1GPがスタート。アルファロメオ、マセラティ、そしてフェラーリはイタリアの誇る3大メーカーとしてF1の中心的なポジションを得た。しかし、アルファロメオは資金難を理由にわずか2年で撤退。イタリア勢はマセラティとフェラーリの共に同郷となるモデナ・ダービーともいうべき対決になった。

 じつは、そうしたレースをルーツに持つ両社は、市販車ビジネスにおいて決して好調だったわけではない。マセラティは業績悪化から1965年に「シトロエン」傘下となり、その後1975年には「デ・トマソ」傘下に。そして1993年に「フィアット」傘下となった。

 昭和のスーパーカー時代にマセラティのスポーツカーとして知られる『ボーラ』や『メラク』はシトロエン傘下で開発されたモデルで、『ビトゥルボ』や『シャマル』はデ・トマソ時代の産物、ジウジアーロデザインの『3200GT』はフィアット=フェラーリ時代のモデルである。

 こうして並べてみると、親会社の変遷が市販モデルのコンセプトをガラリと変えている点に気付くかもしれない。

1960年代にフェラーリがフィアット傘下に

 1997年には、当時フィアット傘下にあるフェラーリがマセラティを傘下にする戦略がとられた。これを指示したのがフェラーリのルカ・ディ・モンテゼーモロだった。

 スポーツカーを展開するフェラーリ傘下での再建が、ビジネスソリューションとして合理的との判断だったのだろう。

 会社の順列でいえば『FCA>フィアットグループオートモビルズ>フェラーリ>マセラティ』という構造は、『フォルクスワーゲン>アウディ>ランボルギーニ』と同じだ。

 フェラーリがフィアット傘下になったのは1969年。株式の40%をフィアットが所有した。しかし、すでに1960年代初めには、市販車生産部門にフィアットから人材を受け入れ、生産管理や社外品の購買などにフィアットグループのネットワークを活用し始めている。

 そのメリットは生産規模の拡大だった。当時のレベルとしてのクオリティ向上はもちろんだが、それまでハンドメイドによる超高額車ゆえに年間数百台規模の生産能力しか持たなかったフェラーリが、年間2万台の生産量を誇るメーカーに成長したのだ。

 その立役者は1975年に登場した『308』シリーズだった。『ディノ』のブランドネームで販売された206/246GTシリーズの後継として開発された308シリーズは、フェラーリに初めて量産という概念をもたらした。

 といっても日本の自動車メーカーのような機械化を伴った量産とはほど遠いものだったというが、それでもサプライヤーに発注したパーツの納期や品質を管理し、製造ラインに近い状態の設備を新設し、そこで従来製品とは比べものにならない精度で組み付けていったのだ。

 サプライヤーの選出、管理には量産メーカーであるフィアットのノウハウが使用され、それによってフェラーリは初めて量産化といっていいレベルに製造を拡大することが出来たのだ。

 フェラーリの創設者エンツォ・フェラーリは、量産システムをフィアットからきた役員に指揮させることでレースに専念できた。レース部門を指揮したのは前述のルカ・ディ・モンテゼーモロで、パッとした成績が残せていなかったフェラーリのF1部門をかつての栄光あるチームへと復活させた。

 フェラーリのブランドイメージを発信するレースと、車両製造販売がもたらす利益という両輪で会社を拡大することに成功したのだった。

 なお、フェラーリは2016年にFCAから独立。約50年に渡るフィアットとの歴史に終止符を打っている。

フェラーリに親会社を変更したマセラティ

 マセラティは、フィアットからフェラーリにグループ内で親会社を変更し、フェラーリの開発ノウハウや生産設備を利用した車両を開発するようになる。

 その記念すべき第1号車が、前述のジウジアーロがデザインした3200GT(写真)の後期モデルともいえるマセラティ・クーペである。デ・トマソ時代に開発したエンジンをルーツに持つ3.2リッターV8ツインターボから、フェラーリ設計となる4.2リッター自然吸気V8にパワーユニットを変更。

 このエンジンは2004年に登場した5代目クアトロポルテでも使用されている。クアトロポルテは、ボディペイントもフェラーリの工場で行い、そのパーツをモデナのマセラティ工場に運び、アセンブリーするという手法がとられた。

 1990年代後半に入りフェラーリは、「フェラーリ・ウオモ」の名のもとに、職場環境プログラムの改善を行った。生産設備の新設や更新を積極的に行い、イタリアの有名建築デザイナー、レンゾ・ピアノが設計した製品開発センターや風洞実験設備もある。 年間生産台数1万台に満たない規模の自動車メーカーの設備とは思えないほど、立派な施設が敷地内何十棟と建ち並び、その中ではいまだに人の手でパーツが組み付けられ、クルマが完成していく。 モダンな吊り下げ式のラインこそ持っているが、まだまだ手作業へのこだわりは続いている。唯一機械化されているのはエンジンの製造工程の1箇所のみである。

 こうしたフェラーリの生産ラインのモダン化や、そこで働く人にやさしい環境作りが傘下のマセラティにも反映されている。1990年代後半からマセラティの品質が急速に安定したのは、親会社であるフェラーリの影響が少なくない。 ちなみに、2年前にマラネッロに訪れた際は、ディーゼルを除くマセラティのガソリンエンジンのほとんどを、フェラーリのマラネッロ工場で製造しているという説明だった。 つまり、マセラティのSUV『レヴァンテ・トロフェオ』V8に代表されるエンジンだけでなくエントリーグレードに搭載されるV6もまた、フェラーリ製。車両開発に関する知見や、製造品質の安定と向上にF1クオリティのフェラーリが大きく係わっているのは事実である。

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