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トヨタのEV戦略はリチウムイオン・バッテリー製造問題を払拭したことで動き出す

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トヨタのEV戦略はリチウムイオン・バッテリー製造問題を払拭したことで動き出す

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このところトヨタの動きが急を告げている。2017年12月13日のトヨタとパナソニックの「車載用角形電池事業の協業」が発表されたのに続き、12月18日には寺師茂樹副社長が、「トヨタの電動車普及に向けたチャレンジ」説明会を行なった。



■電気駆動車の展開

この説明会で、トヨタは「2025年頃までに、EV、FCVなど電気駆動専用車およびHV、PHV、EVなどの電動グレード設定車を拡大し、グローバルで販売する全車種を、電気駆動専用車もしくは電動グレード設定車とする。これにより、エンジン車のみの車種はゼロとなる」そして、2030年頃には「グローバル販売台数の中で電動車を550万台以上、ゼロ・エミッション車であるEV・FCVは、合わせて100万台以上を目指す」という電気駆動車の目標を打ち出したのだ。

これまでは電気自動車(EV)に対する計画の明言を避け、慎重な姿勢を取り続けてきたトヨタが、電気駆動車全体の戦略を明らかにし、その中でEV、FCVは2030年頃には100万台規模を見込むことにも踏み込んだ。FCVは水素供給のインフラが整っている地域しか販売できない制約があるので、100万台の内訳はEVが大半を占めると考えるのが妥当だ。
2030年時点でのトヨタのグローバル販売台数はトヨタでも見通せないというが、仮に1100万台とし、EVを90万台とすると全販売台数の8.6%がEVとなる。
ただし、最新の予測データは、中国の電動車導入政策、ヨーロッパの自動車メーカーのEV導入戦略に合わせ、2030年頃のEVの比率はより多くなると予測データの変更が起きている。

■トヨタの戦略変更

トヨタは、これまでハイブリッド車の販売を強力に推進しており、現時点では電動化率が世界一のノルウェイ(47%)に次いで日本が電気駆動車、つまりストロング・ハイブリッドの普及率第2位(30%)で、この2か国が他国を大きく引き離しており、CO2削減に大きく貢献してきたと主張してきた。

その一方で、トヨタはEVはその特性から考えて近距離用途、小型宅配車などに適しており、長距離のゼロ・エミッション車はFCVがふさわしいと主張してきた。

その理由は、リチウムオン・バッテリーの価格が高く、重量も重くなるので、航続距離を確保するために通常の乗用車に、大量のバッテリーを搭載することはハードルが高いと考えていた。その一方で、ハイブリッド車の技術があるので、バッテリー駆動によるEVへの展開は容易にできるポテンシャルを持っているとも主張している。
だがしかし、EVが近距離用と位置付けてきたのはバッテリーの調達コスト、性能の確保、量的な供給能力の確保に自信を持てなかったというのが現実だろう。

しかし、世界を眺めると、世界最大の自動車市場国である中国は、新エネルギー車(NEV)導入政策によりEV、PHEVを優遇している。また内燃エンジン車を規制するアメリカでも、カリフォルニア州を始めとするメジャーな11州がゼロ・エミッション車導入政策(ZEV規制)を採用し、自動車メーカーの販売規模に応じてEVやPHEVの販売が義務付けられるなど、ZEV規制に対応する必然性が迫ってきている。

トヨタは、ヨーロッパ、アメリカでもFCVの普及に力を注ぐ一方で、ZEV規制に適合できるEV、PHEVの量産は逃れられない状態になっているのだ。

その一方で、ヨーロッパを始め世界各国が採用しているCO2削減のための手段としての企業平均燃費(CAFÉ)の規制には、従来からのハイブリッド車、あるいは、よりローコストなマイルドハイブリッドを含めて適合でき、この点については従来からの方針を維持できると考えている。

つまり問題は迫りくるZEV規制に迅速に対応しなければならない、ということに焦点が絞られたと言える。ここで、大きく立ちはだかるのが、EV、PHEVに搭載するバッテリーの問題である。ハイブリッド車には、従来からの信頼性の高い、しかし電力容量の小さなニッケル水素バッテリーで対応することができたが、PHEV、EVでははるかに大容量の高性能なバッテリーを搭載しなければならないのだ。
具体的には、ハイブリッド車のプリウスの電池容量は0.75kWhだが、ピュアEVである日産リーフの電池容量は40kWh。EVはハイブリッド車の50倍の電池容量が求められるわけだ。

同様にプリウスPHVは8.8kWhの電池容量を持つので、標準のプリウス・ハイブリッドとの比較では10倍の容量となる。これまで系列会社のプライムアースEVエナジー社は、トヨタのハイブリッド車用のニッケル水素バッテリーに特化したメーカーとなっており、高性能なリチウムイオン・バッテリーを大量に供給できる手段を持っていないのだ。
そのためトヨタは、リチウムイオン・バッテリー搭載が必須とされるEVはもちろん、PHEVの多車種展開を阻んでおり、まして100万台規模のEV、FCV、さらにより多くのPHEVを生産するためには、膨大な量の高性能電池、リチウムイオン・バッテリーや、2020年代以降に量産化を目指している全固体電池を確保しなければZEV対応計画は絵に描いた餅に終わってしまう。

バッテリーを生産する産業は、装置産業と呼ばれ、大規模な専用の製造設備の導入、クリーンルーム環境や、熟練した製造従事者など、大掛かりな設備投資が必要なのだ。つまり自動車のように変化の激しい産業に、フレキシブルに適合することがかなり難しい製造業なのである。

こうした点も、トヨタにとってはこれまでの自動車部品サプライヤーとの関係や、自社内生産方式とは違って、容易に踏み込めない領域となっていたのだ。

■パナソニックのグローバル展開と新たなEV開発

今回のトヨタとパナソニックの協業は、トヨタから積極的にアプローチしたという。もちろんトヨタとパナソニックは古くから取引関係にあり、近年ではプライムアースEVエナジー社との合弁事業、プリウスPHV用のリチウムイオン・バッテリーの供給やソーラーパネル・ルーフの供給などが行なわれてきた。

しかし新たな協業はそうした自動車メーカーとサプライヤーとの関係ではなく、より高性能なリチウムイオン・バッテリーの開発と、トヨタが持つグローバルの生産工場に対するバッテリーの供給、さらに全固体電池の共同開発など、空前のスケールでの協業が想定されている。
パナソニックとしてはトヨタと協業することで名実ともに世界ナンバーワンのバッテリーメーカーになることが約束されるという価値を持っている。
2025年~2030年のトヨタが描く電気駆動車のグローバル展開のシナリオに、パナソニックのリチウムイオン・バッテリーの開発と、大規模な生産能力は不可欠のピースと位置付けられており、これがトヨタ、パナソニック協業の意義なのである。

もうひとつ注目すべき点は、トヨタはプリウスで培ってきたハイブリッド技術、モーターやインバーターの技術はEVに容易に展開できるとしてきたが、実際にはEVの開発は事実上のゼロスタートだということだ。
セダン、SUVなどさまざまなタイプの乗用車、商用車にフレキシブルに適合できるEV用の汎用モジュール・プラットフォームの企画・開発や、これら新しいEVに適合できるバッテリーに対する要求性能などは、トヨタ、デンソー、マツダが協業する新会社のEV C.A.スピリット社が担当する。そしてこの会社への参画も、パナソニックのバッテリーのサプライにも、スズキやスバルを始め、他の自動車メーカーが加わることは排除しないという。

トヨタとしてはより多くの自動車メーカーが加わることで、開発コストを分散でき、バッテリーの調達コストも低減できるなど、リスクの分散を図ることができるのだ。
トヨタは、新開発したEVは2020年以降に中国を皮切りに導入を加速させ、2020年代前半には、グローバルで10車種以上に拡大する予定だ。マーケットは中国に加え、日本、インド、アメリカ、ヨーロッパに順次導入するという。
さらにPHEV、FCVは、2020年代に乗用車・商用車の商品ラインアップを拡充。その一方で、小型車用の簡易型、つまりTHS-IIよりローコストなマイルドハイブリッドも展開するという。

このようにバッテリーに関する懸念を払拭した結果、トヨタはヨーロッパの自動車メーカーと同様の電気駆動化のシナリオをようやく公表することができた。2021年のEVモデル実現を目指し、2018年1月から本格的な開発がスタートを切ることになる。

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