最強e-POWERの実力や如何に!? 2018年9月25日、既報のとおりノート e-POWER NISMO Sが発売。e-POWERはエンジンで発電しモーターで駆動する人気の電動化ユニット。そのスポーツ仕様としてすでに発売されていたノート e-POWER NISMOに対して、「S」はセレナe-POWER用のモーターを搭載し、27psのパワーアップを実現した。
ハイパワーなe-POWERは、走りをどう変えているのか? そして、スイフトスポーツを筆頭とする国産スポーツハッチと比べてどうなのか? ライバル5車との比較も交えつつ、その実力をお伝えしたい。
ナイトライダーの世界が現実に! クルマと対話時代に突入!「音声認識」最前線
文:鈴木直也
写真:平野学、編集部
ベストカー 2018年11月10日号
3L級のトルク持つe-POWER Sは制御が秀逸!
さっそく試乗してみたノートe-POWER NISMO Sは、開発者の狙いどおりファン・トゥ・ドライブなFFスポーツに仕上がっていた。
ノーマルe-POWER NISMOの25.9kgmというトルクですら1.2t級のボディには相当強力で、ガソリンエンジンなら2Lターボ級。それが今度のNISMO「S」は32.6kgm! 3L・V6ガソリンエンジンに匹敵するトルクが与えられている。
チーフエンジニアの中澤慎介氏に聞くと「モータートルクを“生”でタイヤに伝えたら、ドライでも滑っちゃってトラクション出ません」ということで、肝となるのは、いかにそれを上手に制御するかという制御技術。
そこで注目されるのが、NISMO Sで追加された2つのドライブモードだ。標準e-POWER NISMOではBレンジはノーマルモードでのみ作動するが、NISMO Sは「Sモード」と「ECOモード」でもBレンジが使える。
「S」のBレンジはレスポンスMAX、ECOのBレンジは雪道などに最適なコントロール性重視。さまざまなシチュエーションでパワフルなモータートルクを堪能できるよう工夫されているのだ。
今回試乗したのはクローズドコースだったから、メインとなるのは当然ながらSモードBレンジ。周回路の高速コーナーやパイロンスラロームで積極的にアクセルをがんがん踏んで試してみた。
そこで感心したのは、モータートルクを制御するパワーコントローラー(PCU)が、タイヤのグリップ限界を実に上手く手なずけていることだ。
パイロンスラロームコースをジムカーナのつもりで限界まで攻めてみると、早めのパワーオンでアンダーステアは強まるものの、昔のFFスポーツのようにフロントがダーッと逃げてゆくような乱れはない。
これは高速コーナーでも同様で、とんでもないオーバースピードで飛び込まないかぎりちょうどいいアンダーステアを維持しつつコーナーを立ち上がる。
電動パワートレーンが優れているのは、こういった制御が実に緻密かつ効率的にできること。単にパワフルなだけではなく、それを誰もがコントロールできる安全で扱いやすい特性にまとめ上げられているのだ。
どんどん発展するe-POWERファミリーだけど、次はもっとジャジャ馬なNISMO Rなんていうバリエーションはいかがだろうか。
ライバルと比較してNISMO Sの実力は?
ライバルと目されるコンパクトスポーツ5車は、すべて「エンジンで走る」という点でノートe-POWER NISMO Sとは別世界の乗り物。「走りが楽しいのはやっぱエンジン車でしょ」と考えるか、あるいは「電動パワーこそ新時代の動力源」と変化を受け入れるか。考え方次第で評価は変わってくると思う。
例えば、オーソドックスに「エンジンで走るホットハッチこそ楽しい」と考えるなら、スイフトスポーツが定番中の定番。
スイスポをワインディングをカッ飛ばしている時のパワフル感は、体感的にはノートe-POWER NISMO S以上。6MTを駆使して1.4Lターボのパワーを引き出す面白さは、古典的だけれども走り好きにとっては抗し難い魅力がある。
しかし、ターボのブーストゾーンをキープしつつ、シフトアップ&ダウンを繰り返す走りは、それを楽しいと思うか、面倒くさいと思うかで評価が分かれる。
おそらく、サーキットで競争すれば馬力が大きいぶんスイスポのほうが速いだろうし、そういうシチュエーションではマニュアルシフトも楽しみのひとつだが、一般的にはそういうタイプのドライバーは少数派。
普段の走りではノートe-POWER NISMO Sのほうがパワフルに感じるし、走って楽しいと思うユーザーも少なくないと思う。
デミオ&マーチNISMOと比べてどうか?
デミオ 15MBやマーチ NISMO SのようなMT専用車は、ノートe-POWER NISMO Sとは対極にあるタイプで、よりマニア度が高まっているぶん、それを受け入れるユーザー層はますますかぎられてくる。
この2車はNAエンジンだから、思いどおりに走るためにはより高回転域をキープしてアグレッシヴに攻める必要がある。
ただ、この2車の購入を検討しているようなユーザーは、おそらくノートe-POWER NISMO Sは眼中にない。
トンがっているだけに、数は少なくても熱心なファンに支持されるタイプのクルマ。そういう意味での存在意義は確かにあるのだが、楽しめる状況もエンジョイできるドライバーもすごく幅の狭いニッチ商品と言わざるを得ない。
では、ニッチだからダメでメジャーを目指すべきなのかというと、そんな単純なものでもない。
メーカー側もこのクラスの量産スポーツバージョンは、なるべく数を売りたいのが本音だから、ほどほどの価格でATモデルも用意して幅広いユーザーに訴求しようと工夫するのだが、そういう努力をすればするほど“スポーツモデルらしさ”が失われてゆく。
フィット&ヴィッツのスポーツ仕様と比べると?
そういうタイプでは、フィット RSやヴィッツ GRスポーツ“GR”あたりはMTも用意するなど頑張っているほうだが、ユーザーの反応はいまひとつ。スイフトスポーツのような評価を得ることができていない。
この2車、FFの1.5Lスポーツとして優等生的なキャラクターで、パワートレーンもシャシーセッティングも中庸というイメージ。よくいえば誰にでも扱いやすくバランスが取れているのだが、悪くいえばすべてにわたってほどほどで、弾けた部分がない。
そのキャラクターを、マニアックなユーザーは「お手軽に作ったバリエーション」というイメージで見ているし、ライトユーザーは「あえてプラスαのお金を出す魅力はない」と最初から眼中になし。スポーツバージョンとしては、ピリッとくるスパイスが効いていないのだ。
ノートe-POWER NISMO Sも、あえて分類すればそういう“マイルド系スポーツモデル”なのだが、コチラにはわかりやすい未来感があるし、走りには初心者でもわかる新鮮な驚きがある。
いわゆる「掴みはバッチリ」というやつで、いままで他メーカーが取り逃がしていたライトなスポーツ志向ユーザーをごっそり掻っ攫ってゆく可能性を感じるわけだ。
個性が強くないとスポーツカーとして認知されないが、個性が強すぎるとユーザー層が限られてくる。このジレンマをうまく乗り越えるのに、日産のe-POWERはかなり強力な武器になっていると思う。
◆ノート e-POWER NISMO Sとライバル車 採点まとめ
【ノート e-POWER NISMO S】
・走りの楽しさ ★★★★☆
・走りの快適さ ★★★★☆
・コストパフォーマンス ★★★★☆
【スイフトスポーツ】
・走りの楽しさ ★★★★★
・走りの快適さ ★★★☆☆
・コストパフォーマンス ★★★★★
【デミオ 15MB】
・走りの楽しさ ★★★★☆
・走りの快適さ ★★☆☆☆
・コストパフォーマンス ★★★★★
【ヴィッツ GRスポーツ“GR”】
・走りの楽しさ ★★★☆☆
・走りの快適さ ★★★☆☆
・コストパフォーマンス ★★★☆☆
【マーチ NISMO S】
・走りの楽しさ ★★★★☆
・走りの快適さ ★★☆☆☆
・コストパフォーマンス ★★★★☆
【フィット RS】
・走りの楽しさ ★★★☆☆
・走りの快適さ ★★★☆☆
・コストパフォーマンス ★★★☆☆
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