現地人も驚く車両価格は約190万円から
LINK & COというブランドを知っている日本人は少ないだろう。僕自身初めてこのブランドロゴを目にしたのは2~3年前の中国・北京でのことだった。スタイリッシュでお洒落なイメージのロゴは、まるでジュエリーブランド「TIFFANY & CO」のようで、いわゆるパクリ系の新ブランドかと思っていた。
【月販数十台のクルマも】売れない車種を販売し続ける理由とは?
ところが、その後訪れた北京モーターショーで中国自主ブランドの新型車の車名であることがわかった。ここのところ中国車は、とくにデザインの面で飛躍的な進歩を見せていた。国産では法規や販売力などが深く考慮され保守的なデザインに落ち着いてしまいやすいが、中国車のデザインは前衛的で斬新だ。LINK & COが登場させた「01」や「02」モデルもまさにそんなスタイリングの魅力を見せつけていた。
そのLINK & COが、ついに日本上陸を果たす! というBIGニュースが飛び込んできた。しかも富士スピードウェイを貸し切り、ワールドプレミアムを大々的に開催するという。しかし不思議な事にCARトップ本誌はもとより、日本のどの自動車専門誌媒体にも案内状などの類いは届いていないようだった。そこで僕自身が中国の自動車メディアで活動してきたルートを通じて詳細を取材し、ワールドプレミアへの招待状を手にすることができたのだ。富士スピードウェイを2日間貸し切るということは、新型モデルを走らせる可能性も高い。
やがて国内の代理店となったアシュトン・コンサルティングから届けられた案内状には「テストドライブ」という時間枠があることが判明し僕はヘルメットとレーシングスーツを準備して富士スピードウェイへと向かった。
通常ならパドックへ入り会場となるピットブースへ入るものだが、この日は東ゲートからすでに入場が制限されておりシャトルバスでパドックへ。どうやらレーシングコースだけでなく富士スピードウェイのほぼ全域を貸し切っているようだ。
全ピットおよびスイートルームが完全に貸し切られ、屋台のフードサービスが並べられている。やがて観光バス5~6台が入場してきて中国メディア総勢320名が降り立つ。ものすごい規模に舌を巻くばかりだ。
各ピットブースはショールームのように、さまざまなグッズがディスプレイされている。LINK & COはウェアやサングラス、シューズなどファッションアイテムも取り揃えていて、何のブランドだかわからないという路線を狙っている。
そして新型モデルがピットロードに並べられているが、商品説明も技術説明もなく、いきなり試乗テストドライブが始まった。僕はそそくさとレーシングスーツに着替えヘルメットを着用し1番目にテストドライブさせてもらえることになった。中国人マネージャーから「あなたは特別だから1台で走行して良いし、速度もコントロールしてくれていいですよ」とありがたいお言葉。
とはいえクルマがFFかAWDなのかもわからず、エンジン排気量もパワースペックも何もわからない。先導車として富士スピードウェイのセーフティカー・レクサスRCが先を走ることになっているようなので、ドライバーにペースを早めるよう頼んでコクピットに乗り込んだ。
これまで見て来た中国車とは明らかに質感が異なる
LINK & COの新型は4ドアのスポーティセダンだった。エンブレムを見る限りモデル名は「03」で、先発の01、02がコンパクトSUVだったのに対しセダンを送り込んできたことが明確になった。
中国仕様なのでもちろん左ハンドル。インパネやセンターコンソールの大型液晶ディスプレイがいかにも中国車的な大胆さだ。文字設定が中国表記のままなのでデフォルトのままスタートするしかない。ルームミラーを調整しようと手をやると、それは最近のボルボ車とまったく同じもののようだ。シフトレバーノブもボルボ車的。LINK&COはじつは中国の吉利汽車の資本で作られた新会社であり、吉利はスウェーデンのボルボ社を傘下に収めていることから、さまざまな繋がりがあるであろうことは容易に想像がつく。
インテリアはデザインセンスも造り込みも素晴らしい。スポーティかつ実用的でステッチが縫い込まれたステアリングやダッシュボードの仕上がりも丁寧だ。これまで見てきた中国車とは明らかに質感が異なる。
エンジンを始動。シフトセレクターをDレンジにセットして走行開始だ。エンジンは極めて静かで振動も少ない。乗り心地や快適性に厳しい中国ユーザーに配慮した仕上がり。トランスミッションもトルコンのようにすスムースでシフトショックがない。ステアリングスポークのパドルを操作すると、小気味よく変速する。どうやらDCT(ツインクラッチ)を装備しているようだ。直線区間で試すと7速まであるDCTであることがわかった。
コーナーのターンインではステアリングのレスポンスが適切で、スムースにライントレースできる。旋回Gの高まりに呼応して穏やかにロールが発生。決してハードなサスペンションではなく、ストロークを大きくとってバンプステアも穏やかに設定してある。やや急激なステアリング入力を与えてもタイヤがしなやかに変形し、不快な腰砕け感やスキール音は発生せず、スキッドスリップ振動も起こらない。
車体は剛性が高く、異音も起こさず極めてスムースに旋回していく。100Rの高速コーナーや後半の登りテクニカルセクションでも次元が高く、コントロール性に優れスタビリティのあるハンドリングに終止している。セダンボディゆえ前後の重量配分も極めて良く、ハードブレーキングからのターンインや急旋回中のタックインでもリヤタイヤがしっかり接地していて破綻しない。フロントは軽く、ステアリングへのフィードバックもしっかりしていて好感が持てる。
ストレートで加速するとコントロールタワー手前までで180km/h弱に達した。まだまだ余力があり、200km/h超えは確実だろう。車速が高まるほどにステアリングの直進性は高まり、保舵力も重くなって車速によりステアリングアシストを変化させているようだ。さらに車体はリフトするどころかダウンフォースを発生させ、高速域ではゼロリフトを達成している。
所々でトラクションコントロールやESPが介入するが、その頻度は極めて少なく、介入量もうまくプログラムされていて挙動を乱さず速度変化も最小だった。
はっきり言って驚きのシャシー性能である。おそらく富士スピードウェイで事前テストなどは行っていないだろう。ぶっつけ本番で運び入れて、いきなりテストドライブさせているのに、これほどの好フィールを得られるとは思わなかった。
ピットに戻り装着タイヤを確認するとドイツ製のグッドイヤー・イーグルF1であることがわかった。
メカニズムコンポーネントは100%ボルボと共用
試乗後にようやくインタビューができた。登場したのはアラン・フィッセル副社長とデザイナーのアンドレアス・ニルソン氏だった。そこに中国人役員の姿はない。
アラン氏は欧州フォードの出身で独GMでも副社長を務めたのち、長くボルボで役員として活動してきた略歴を持つ。
彼の説明でLINK & COは中国吉利とボルボ社の共同出資により起こされた会社で、ヘッドオフィスも開発拠点もスウェーデンにあるという。そこで働く2500名のエンジニアは約50%がボルボの出身者であり、中国人エンジニアはひとりしかいない、という。生産は中国・吉利の工場で行われるが、企画開発は100%スウェーデンで独自に行われたと強調していた。
今回の「03」に関しても、シャシーやエンジンのメカニズムコンポーネントは100%ボルボと共用しており、最新のXC40で採用され評価の高いCMAプラットフォームを使用しているという。どうりで完成度が高いわけだ。
一方アラン氏もボルボでXC60やXC90のデザインを担当してきたキャリアを持ち、現在は吉利の副社長兼デザイナーとして活動。LINK&COブランド全モデルのデザインを統括しているそうだ。「03」のメカニズムは、100%ボルボでもインテリアや外装デザインは100%オリジナルだと解く。
ワールドプレミアイベントのクライマックスは、日没後から始まった。
富士スピードウェイ・グランドスタンド裏のイベントブースに大規模な特設ステージが設置され、レーザー光による派手なライトアップと超特大モニターによる演出が行われている。暗闇の上空をヘリコプターがすれすれに通過すると、モニターに上空からの映像が映し出され、真っ暗のレーシングコースを4台の「03」が疾走している映像を移す。しばらくすると特設ステージにその4台が登場するという演出だった。この模様は中国全土にライブ配信され、数百万人が観ているという。
このステージでは吉利のAN Conghui社長をはじめ4人の中国人役員が登壇し、「03」の登場を華々しくアピールした。
そして最期の驚きに発表が行われる。それは「03」をベースにしたレースカーを制作し、2018年のWTCR(世界ツーリングカー選手権)に参戦すると宣言したのだ。しかも車両制作およびチーム運営は、2017年までポールスターレーシングとしてボルボ車を走らせていたCYANレーシング。ドライバーはポールスターで2017年のワールドタイトルを獲得した世界チャンピオン、テッド・ビョークを擁しての参戦だ。これは初戦からコンペティティブでチャンピオンシップ獲得の有力候補となるのは確実だろう。
LINK&COはモータースポーツでの活躍がブランド構築とイメージ確立をもっとも重要と考えており、そのための投資をいとわないという。日本のどこかのメーカーにも聞かせたいアナウンスだったが、はたして目論み通りに機能するのか、来年以降のLINK&COの活動を注視していきたい。このステージでようやく「03」の車両スペックと価格が公表された。
パワートレインはDrive-Eと呼ばれる1.5リッターTD直4直噴ターボで最高出力は180馬力。最大トルク265N・m。トランスミッションは7速DCTを装備。CMA(コンパクトモジュラーアーキテクチャ)のシャシーで、フロントはマクファーソン・ストラット、リヤはマルチリンクの4輪独立サスペンションを持つFF(前輪駆動)モデルだ。前後のトレッドは1597mmというクラス最大値。0-100km/h加速タイムは7.9秒であり、100km/hからの制動距離は35.5mと公表された。実車スケール風洞によりCd値(空気抵抗係数)は0.27、CL(揚力係数)はマイナス0.25とゼロリフトを実現している。
価格レンジは11.68万元(約190万円)~15.18万元(約250万円)と発表され、その低価格設定に会場に集まった中国人ジャーナリスト達からどよめきが起こった。
この「03」をはじめ01、02と3モデル揃ったLINK&CO車。まずは中国で発売し、その後欧州と北米でも発売していく。だが日本での発売は今のところ予定をしていないという。それでは何故日本の富士スピードウェイでワールドプレミアを行ったのか。それはLINK&COのブランドネームに現れるクールさが今の日本のクールさと一致したからだ、という。無国籍なイメージを創出し中国製品が持つ一部のネガティブなイメージを払拭する狙いもあったのだろう。総額3億円を超えるという大規模な「03」デビューイベントはこうして幕を閉じた。
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