スポーツカーは万能という言葉からは最も遠い存在だ。低い車体は乗降性が悪く、後席の居住性も期待できない(それどころか後席がないものもある)。走りの気持ちよさ、楽しさだけを追求したのがスポーツカーなのだ。
そんな一点突破型の性能を持つスポーツカーが最もパワフルで最も魅力的だった時代が1990年代だ。各社からキラ星のごとく強い魅力を放つモデルがリリースされ、クルマ雑誌もこぞって比較記事を掲載していた。本当に熱い時代だった。
…なんて感傷に浸っていたら、プロドライバーの脇坂寿一さんがA80スープラの中古車を購入したというニュースが編集部に舞い込んできたではないか。おお、あの名車中の名車、そして全日本GT選手権(JGTC)優勝時の相棒を脇坂さんが!! しかしなぜ今?
今回は、脇坂さんにその真意を聞くとともに、同時代に活躍した1990年代のスポーツカーフラッグシップモデル3台を集結させ、“ミスターGT” いま再びのインプレッションを行ってもらった!
※本稿は2018年4月のものです
文:ベストカー編集部/写真:平野学
初出『ベストカー』2018年5月26日号
脇阪寿一…全日本GT選手権(JGTC)、SUPER GTで活躍したレーシングドライバー。2016年にSUPER GTを引退、同時にTeam Le Mansの監督に就任。奈良県奈良市出身、1972年生まれ。
■エンジンも駆動方式もバラバラ。でもそれぞれ魅力的 1990年代フラッグシップスポーツ3
●JZA80 スープラ
国内におけるスープラとしては2代目。2JZ-GTEエンジンは頑丈で、チューンベースに最適だった。 [SPEC] 全長4520×全幅1810×全高1275mm/車両重量=1510kg/エンジン=直6 2997cc+ツインターボ/出力=280ps/46.0kgm
●BNR34 スカイライン GT-R
R32型に始まる第2世代GT-Rの最終モデル。8000回転以上回る高回転型のRB26DETTエンジンが魅力。 [SPEC] 全長4600×全幅1785×全高1360mm/車両重量=1560kg/エンジン:直6 2568cc+ツインターボ/出力=280ps/40.0kgm
●GH-NA2 NSX
取材車両は1997年のマイチェンを受けた2型。エンジン排気量は3.2Lで、ミッションは6MT。 [SPEC] 全長4430×全幅1810×全高1160mm/車両重量=1340kg/エンジン=V6 3179cc NA/出力=280ps/31.0kgm
■脇阪寿一はなぜ、スープラを買った?
編集 どもども、お疲れ様です。しかしこれまた、えらいキレイなスープラですね。さっそくですが、まずはA80スープラを購入しようと思ったきっかけを教えてください。
脇阪寿一(以下、脇阪) まわりに普段お世話になっているクルマ好きの方が多くいて、その方たちから「最新型もいいけど古いクルマもいいよ」と聞かされていたというのが、まずありますね。で、その方たちから「寿一君もクルマに携わった仕事をしてきて、ここまできたんだから、これからはクルマに対する恩返しもあっていいんじゃないか」と言われたんです。
編集 クルマに対する恩返し、ですか。
脇阪 いろいろやり方はあると思いますけど、たとえばオリジナルのクルマを手に入れたならば、それをお金かけてキレイな状態をキープして、次の世代に届ける、というようなことですね。歴史的に貴重なクルマ、意義のあるクルマっていうのはありますから。
編集 フムフム。
脇阪 そう考えた時に、じゃあ何を買おうかってなって、そりゃやっぱりJGTC時代に乗って、人気が出るきっかけとなってくれたスープラだろうとなったわけです。
編集 なるほどー。で、レースで乗ってたマシンと市販車ではかなり印象が違うと思いますが、ベースとなったオリジナルスープラはどうです?
脇阪 確かにレースカーとは違いますが、運転席から見る景色とかハンドリングの特性とか、イメージをリンクさせる部分はありますね。エンジンはまったく別物ですが、それでも息吹は感じます。
編集 なるほどなるほど。さて今回、脇阪さんがスープラを買われたということで、1990年代に活躍したスポーツモデルとしてR34型スカイラインGT-RとNSXを用意しました。20年近い時を飛び越えて、ぜひ各車のインプレをいただきたいと思います。
脇阪 楽しみですね。
■まずは知りたい。コックピットの印象
編集 3台のクルマにお乗りいただきましたが、まずは運転席まわりの印象などから、お聞かせ願えますか。
脇阪 ドライバーのほうに向けられたインパネまわりだとか、スープラからは当時トヨタがスポーツカーを作ろうとしていたという意思が、明確に伝わってきますね。
編集 フムフム。
ほかは?
脇阪 GT-Rからはなんか開発時に迷ったというか、苦労したんだろうな、というようなイメージを感じました。
編集 えっと、それはどういうことでしょう?
脇阪 スポーツカーというよりは、セダンの雰囲気に思えるんですよね。販売的に売れるのはセダンだし、でもGT-Rは2ドアだしみたいな迷いというか、
制約のなかで作られたのかな、と思いました。それは外観もそうですけど。
編集 なるほど。私はR34のセダンに乗ってましたけど、インパネの基本デザインは確かに一緒です(笑)。で、残る最後の1台、NSXですが。
脇阪 NSXは、ショートストロークのシフトもそうですが、とにかく開発者が街中で走れるレーシングカーを作ろうとしたのかなというように感じました。ただ、そうであるならば座る位置だけは、もっと下げたいですね。
編集 高いですか?
脇阪 外観や足回り、ほかのところは公道を走るレースカーっぽく作ってある。それなら僕としてはあと15~20cm、低く座りたい。その位置で座ると見える景色やフィーリング、高く座るのと低く座るのでは、背中にかかる負担の場所も変わってきますから。たぶんこのシート、クッションが抜けると思うので、低く座りたい人はクッションを抜けってことだと思うんですけど。
編集 なるほどねー。
■最も大事な走り。好印象なのは?
編集 いよいよ走りの評価なんですが、どうでしょ?
脇阪 まず大前提として言っておきたいんですが、今回試乗したのは一般公道で法定速度内だということ。そして、僕がクルマに求めるのは、バランスだということです。
編集 バランス、ですか?
脇阪 はい。見た目の雰囲気、エンジン、座った時の感覚、見える景色。そういったいろんなもののバランスですね。僕は別にトガったクルマが好きでも、ユルいクルマが嫌いでもなくて、そのクルマの雰囲気が破綻していないことを重視します。で、そういう観点で評価すると、スープラとNSXが好きですね。
編集 そのココロは!?
脇阪 スープラって見た目はスポーツカーですけど、乗ると別にアクセルを開けようと思わせないんです。低回転域のトルクが太いから街中だと3速か4速に入れておけばオートマみたいに走れる。そこは意外なんですけど、スポーツカーを優雅に乗ってくださいよ、という狙いでバランスされてるんですね。それでいて、そこからアクセルに足をちょっと乗せれば、ドンッて加速するし。いい意味での意外なんでポジティブに評価できます。
編集 ではNSXは?
脇阪 やはりNAのVTECエンジンを背中に感じるところとショートストロークシフトのフィーリングですね。ステアリングもダイレクトさがあります。感覚的なものなんですけど、ドライバーが実際に座っている位置より前に座っているように感じさせてくれるんですよね。シートの高さ以外は、作り手の「サーキットを感じてほしい」というところで、バランスが取れていると思います。
編集 残るGT-Rですが?
脇阪 やはりスープラに比べると下のトルクがないんで、今日みたいな街中で試すとエンジンが使いづらいですね。高回転まで回した時の気持ちよさは、ぜんぜんスープラよりも上なんでワインディング走ったら気持ちよさそうですが、街中オンリーだと外見や内装がセダン寄りのスポーツなのに、このエンジンはどうなの? と思ってしまう。
編集 チグハグ、ですか?
脇阪 この外装にはスープラのエンジン特性のほうが合うと思うんですよね。
編集 GT-Rがビリだと。
脇阪 う~ん、でも順位付けすること自体、違う気もするんですよね。それぞれ会社と戦いながら世に出てきたクルマだと思うし、僕がGT-Rはスープラより下がないっていっても、GT-Rファンは「それが味や」って言うだろうし。
編集 でしょうね(笑)。
脇阪 だから、自分としてはクルマとして辻褄が合ってるか、バランス取れてるかの話はしますけど、過去の名車とされてきたクルマが万全だったかというと、ダメなところもいっぱいあるわけで、
グッドバッドの話じゃなく、バッドもカワイイやないか、と。
編集 現在のクルマに比べて完成度的に未熟だと思いますが、それも愛おしいと?
脇阪 それが面白みだと思います。例えば高速走行して不安に感じるところがあったら、それを自分のドライビングで抑え込むのが楽しさであるわけです。「ハンドル切ったら曲がった」。そんなクルマは誰が乗っても同じですから。
編集 まったくもって同感ですね。今日はお忙しいなか本当にありがとうございました!
■もう一台の1990年代スポーツの雄 マツダ FD3S RX-7
1990年代のスポーツカーでもう1台、忘れてはならないモデルがある。マツダRX-7の3代目、FD3S型だ。654cc×2の13B-REWロータリーエンジンは当初255psでスタートし、1999年には当時の自主規制値280psに到達した。
【番外コラム】“ミスターGT” 脇阪寿一が語るスープラ回想録
脇阪氏が全日本GT選手権において初のシリーズチャンプとなった2002年シーズン。その相棒、ESSO Ultraflo Supraを振り返る。
* * *
JGTCスープラとの初の出会いは2000年シーズンが終わり、オフのTRD開発テストを行ったセントラルパーク美祢サーキットでした。
最初の印象はじゃじゃ馬。そのシーズンに僕が乗っていたNSXとはまったく違う乗り物で、エンジンはターボだし、リアの動きなんかはFF車!? って思うくらい軽く、2コーナーのフルブレーキングでリアタイヤがロックし、スピン連発の出会いです。
このスープラをどのように乗りこなすのか、NSXと違う手法、スープラのよさをどう引き出すか、頭をフル回転して乗っていたことを覚えています。
数回の開発テストをこなし、所属先のTOYOTA Team Le Mansと合流、あのエッソ ウルトラフロー スープラと出会いました。
移籍して最初のレースは2001年開幕戦の岡山。僕のミスでリタイヤし、プロのドライバーとして、移籍が正しかったか!? 移籍をウエルカムされているのか!? など、精神的に勝手に自分を追い込んでいたことを覚えています。
迎えた第2戦の富士で優勝できましたが、この優勝が僕にとって、僕を選んでいただいたトヨタさん、チームルマンさん、応援いただいたファンの方々へ、まず最初の恩返し的なものに位置付けることができ、自信を取り戻せたレースとなりました。
そして2002年にはタイトルも獲得し、 スープラは僕に伝説のバトルの数々を与えてくれました。
エッソ ウルトラフロー スープラは、僕にレーシングドライバーとしての自信と結果を与えてくれました。そしてなにより、飯田章選手と共に沢山のファンの皆さんを僕に与えてくれました。
あの頃は自分も若く、「俺、速いやろ! 人気あるやろ!」って思っていましたが、今から考えたらエッソウルトラフロー スープラが、あのスープラが僕にスピードも成績も、沢山のファンの皆さんも与えてくれたのだと思っています。
ですからエッソ ウルトラフロー スープラは僕にとって最も大切なクルマなのです。
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