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センチュリーに乗る、センチュリーを語る──小川フミオ編

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センチュリーに乗る、センチュリーを語る──小川フミオ編

トヨタ センチュリーは希有なクルマである。スタイリングのことよりも、インテリアが話題になる機会が多いからだ。少なくともぼくは、センチュリーのインテリアを常に(といってもようやく今回で3代目)に注目してきたくちである。

世にあまたあるクルマのなかで、走りもエクステリアもさることながら、インテリアがとりわけ注目されるものはあるだろうか。インテリアはとても大事だし、クルマの印象を左右することもあるけれど、優先順位は低いのではないだろうか。

センチュリーに乗る、センチュリーを語る──今尾直樹編

センチュリーに関しては、ところが、ぼくにとってインテリアがもっとも強く印象に残っている。それも後席である。歴代センチュリーのインテリアをあらためて見て、頭に浮かんだのは「奈良ホテル」、それに「帝国ホテル」だった。両ホテルともに、和洋折衷の室内空間が印象的であるが、そのテイストはセンチュリーにも通ずると思う。

そんなセンチュリーの、しかも最新モデルのインテリアに触れられる機会を得た。体験したのはジャカードモケットのウールファブリック仕様だ。カタログを見るとシート表皮はファブリックのほかにレザーもある。トヨタ自動車の開発者は、レザーへのこだわりが自慢のようだったが、ここは順当にファブリックを選択したのだった。

なぜ”順当”か? というと、この類のショファー付きのクルマは、後席は布というのが定石だからだ。これは、馬車の時代に始まったスタイル。屋根のない運転台で馬を操る御者のためのシートは濡れても大丈夫で耐久性の高い、硬いレザーで、風雨から乗員を守る屋根とドアとガラス窓つきのコーチ内に座る紳士淑女のための席は、エレガントなシルクかウールのモケットだった。

ちなみに、前席と後席のあいだにパーティションのあった時代(1960年代まで)の高級セダンは、運転手席だけレザー張りという仕様もあった。たとえば、ハリウッド映画『麗しのサブリナ』(1954年)で、サブリナに扮したオードリー・ヘプバーンのお父さん(大富豪家の運転手)が操縦していた、1924年型の「シルバーゴースト・リビエラ・サラマンカ・カブリオレ」も、運転手席のみが革張りだ。このころのフォーマル・サルーンはいまだ、馬車時代よろしく、ドライバーが座る前席のみ無蓋(屋根がない)だから、シートは丈夫な革張りなのだ。

話は戻るが、ウール素材は乗り心地がいい、と言われてもいる。このあいだレクサスのシート表皮担当者に話を聞いたら「レザーもたわみかたは一緒です」とのことだったのでちょっと驚いた。では違いはなんだろう。滑りとか、手触りだろうか……。

レザーとの機能面での比較はともかく、センチュリーの後席に限って言えばファブリックシートのほうが、ぼくはレザーより断然好きである。クッションの作りも凝っているので、ふわっとていねいにからだの各部を受け止めてくれる。

後席空間はひとことであらわすならば、「適度な囲まれ感」という表現が似合う。自らの姿を外の世界にさらけ出していない、という安心感もある。リアクオーターピラーが適度に太く、顔が隠れるように設計されているためだ。ロールズ・ロイスでも得意なスタイルだ。

シートは、バックレストが電動で傾斜しスライドも可能だ。しかも、助手席を前にズラし、かつ助手席のバックレストに内蔵したオットマンを併用すれば、より快適に過ごせる。とはいえ、ふつうに行儀よく座っていても充分リラックスできるし、このクルマの乗り心地のよさを堪能できる。

こんな落ち着きにくわえ、目に入る「鳳凰」のエンブレムや、日本語表記のスイッチによって、なんとなくクラシックな雰囲気の強い奈良ホテルとか帝国ホテルの部屋を連想したのだろう。ロールズ・ロイスともメルセデス・マイバッハとも異なる、独自の空間が巧みにデザイン出来ている、とぼくは思う。

欲を言えば、カーペットの毛足をもうすこし長くするなどして、フロアの微振動を完全にシャットアウトしてほしい。また、前方を見たときにいやでも目に入る運転席ダッシュボードのデザインが、プラスチッキーで安っぽいのも残念だ。サイドウィンドウのシェイドは、手動にあえてこだわったというものの、その動きはぎくしゃくしており、かなりがっかりした。ドイツメーカーの高級車だったらこういった不満は少ない。

総体として高級、というのはなかなか大変なことだと思う。おそらく、途中で見切りをつけてはいけないのだ。ドイツメーカーは、照明やオーディオ、香りにも凝っている。あれは参考になるだろうし、さらに進んで、操作系もスイッチを隠したりタッチパネル式にしたりと、先進性を高める。センチュリーだって凝ってはいるが、そのまとめかたは手堅いし、ドイツメーカーに比べれば控えめだ。逆に、彼らがつくるクルマには靴べら差しなんて存在しないし、助手席にオットマンも内蔵しない。これらの装備は日本人が考える“高級”だ。

日本の高級とはなにか。センチュリーに乗ってあらためて考えさせられたのであった。

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