一般公道では、「ヘッドライトはハイビームを使うのが基本、使わなければ道路状況によっては厳密には道路交通法違反になる」という話を耳にしたことはありませんか?
本誌では先日、「対向車のヘッドライトが最近眩しく感じられるのは、そもそもヘッドライト自体の性能という理由が大きい」という趣旨の記事をアップロードしたが、もちろん原因はそれだけではない。マナーと知識、それに道交法の問題がある。今回はそこにスポットをあてた。
ハイビームの使用方法が注目され始めたのはおよそ1年半前。改正道路交通法が平成29年(2017年)3月に施行されたことをきっかけにして、警察が「常にハイビームが正解、対向車とすれ違う時だけロービーム」と言い出し、そんなこと言ったって常にハイビームだと前走車も対向車も眩しいし、かえって危ないじゃないか、どうすりゃいいんだ、と騒ぎになった。
そこで、この現実からやや離れ気味(?)のハイビームの「法律」と「常識」について探ってみた。
文/岩尾信哉
写真/ベストカーWeb編集部、トヨタ、スバル、警察庁
■ハイビームを使わないと違反になるのか?!
警察庁はHPで「ハイビームの上手な活用で夜間の歩行者事故防止」というページを開設している。
冒頭では「夜間、街灯が少ない暗い道などを走行する時は、前照灯を上向き(ハイビーム)にすることで歩行者などを遠くから発見することができ、早期の事故回避措置が可能となります」(同HPから引用)としている。
さらに「夜間の安全運転のポイント」として
「・暗い道で対向車や先行車がいない場合は、ハイビームを活用
・交通量の多い市街地などや対向車や先行車がいる場合は、ロービームで走行(※対向車が自転車の場合も確実にロービームに切り替えましょう)
・昼間より速度を落とした運転を励行
~夜間は速度を落とし、前照灯の上向き・下向きの切替えをこまめに行いましょう。~」
としている。
このHPではその他に、過去5年間の交通死亡事故発生状況や夜間での車両前方のハイビームとロービーム、それぞれの見え方を写真で紹介。ハイビームの使用を推奨している。
ハイビーム、ロービームの見え方(出典:警察庁)
■基本ハイビーム、対向車や歩行者がいればロービームにしないと違反!
法律の話を捕捉しておくと、日本の道路運送車両法「道路運送車両の保安基準(前照灯)第32条」では、すれ違い用前照灯(以下ロービーム)は40m、走行用前照灯(以下ハイビーム)は100m先を照らすことができると定められている。
【原則的に】、警察の取り締まりの対象となる道路交通法第52条(車両等の灯火)の第1項で前照灯は基本的にハイビームを主たる前照灯とし、第2項の「灯火を減ずる装置」となるのがロービームとなる。
第52条の内容を抜粋すれば、
(第1項)「車両等は、夜間(日没時から日出時までの時間)道路にあるときは、前照灯、車幅灯、尾灯その他の灯火をつけなければならない」
(第2項)「車両等が、夜間、他の車両等と行き違う場合又は他の車両等の直後を進行する場合において、他の車両等の交通を妨げるおそれがあるときは、車両等の運転者は、灯火を消し、灯火の光度を減ずる等灯火を操作しなければならない」
つまり、夜間(日没から日の出まで)を通行するときに、歩行者や対向車がいるとき、ほかの車両の後ろを走るとき以外ハイビームを付けなければならず、これを守らないと違反となる。
歩行者や対向車がいないときにロービームのままにしていた場合でも違反となる。
もともとは、ハイビームが「走行用前照灯」、ロービームが「すれ違い用前照灯」だったのだ。対向車、歩行者が多いエリアはロービームに切り替え、いなければハイビームと覚えておけばいいだろう。
ちなみに違反すると反則金:普通車6000円・中大型車7000円。反則金に従わない場合は、5万円以下の罰金となる。
■警視庁ではハイビーム違反取締りは行っていない!
とはいえ、普段は都市部で暮らしている身としては、ハイビームの「常用」というのはピンとこない。
そこでストレートに警察庁へ「ハイビームを使わないと違反になるのか」と問い合わせると「各都道府県の警察に問い合わせてください」との返答。
そこで改めて警視庁に問い合わせてみると、
「道交法の第52条を確認してください。教則本などでも奨励していますが、東京都内の街中では夜間でも明るく、ハイビームは対向車の走行の邪魔になりますから、この件に関する違反行為の取り締まりは行っていません」
という趣旨の回答を得た。
そもそも都内の交通状況を見れば当たり前の話。警察庁が問い合わせに対して居住する地域の警察への問い合わせを促す場合は、道交法の運用が場合によっては地域差があることの表れともいえる。都会と郊外、地方などで交通環境が異なるのだから、対応にはある程度納得できる。
ヘッドランプの照射に関する過去の技術論文などを調べてみると、HID(ディスチャージ/キセノン)ヘッドライトのロービームでも照射距離は90~105m(照射幅:20~30m)とハイビームの基準に合う能力があるとされていた。
さらに光量が大きいLEDのロービームは角度を考慮しなければ、約300mの照射距離が得られるというから、技術的には日常的にハイビームをデフォルトとする積極的な理由とはなり得ないだろう。
■サポカーにみる各社の自動ハイビームシステム
ヘッドライトの照射技術の進化が配光制御におよんでいることを実感している方も多いはず。もちろん、法律改正への対応ではあるのだが、メーカーや車種によって標準/オプションの装備設定の違いはあれど、新車時の装備として用意されている。
政府は今年4月から高齢運転者の交通事故防止対策の一環として、自動ブレーキやペダル踏み間違い時の加速抑制装置等を搭載した車両(安全運転サポート車:セーフティ・サポートカー)、略称「サポカー」として、経済産業省や国土交通省、自動車メーカーが連携して普及を進めようとしている。
このうち「セーフティ・サポートカー」は自動ブレーキを搭載した車両、「セーフティ・サポートカーS(サポカーS)」はペダル踏み間違い防止機能が追加され、さらに機能を拡充したサポカーS「ワイド」では、自動ブレーキが歩行者にも対応。車線逸脱防止機能とともに、自動制御機能を備えたヘッドライト「先進ライト」の装備を設定、以下のように定義している。
●自動切替型前照灯:前方の先行車や対向車等を検知し、ハイビームとロービームを自動的に切り替える。
●自動防眩型前照灯 前方の先行車や対向車等を検知し、ハイビームの照射範囲のうち当該車両のエリアのみを部分的に減光する。
●配光可変型前照灯:ステアリングや方向指示器などの運転者の操作に対応して、水平方向の照射範囲を自動的に制御する。
各日本車メーカーの装備をいくつか挙げると、トヨタが「自動ハイビーム(オートマチックハイビーム)」と配光可変型とした「アダプティブハイビームシステム(現行LSでは世界初として2段型LEDによる配光システムを採用)やマツダの安全装備パッケージである「i-ACTIVSENSE」に含まれる機能である「アダプティブ・LED・ヘッドライト」、スバルは「アイサイトセイフティプラス」の装備として「ハイビームアシスト」を用意するなど、各社が法改正に対応して設定している。
順に3社の技術的な特徴を説明していこう。ちなみに、カメラの画像情報と組み合わせ、夜間に車速30km/h以下では先行車を感知したり、街路灯などによって市街地での走行を認識してロービームに切り替える機能をもつことは各社ともほぼ共通としている。
トヨタの自動ハイビームは、安全装備パッケージの「トヨタセーフティセンス」に含まれ、単眼カメラによる制御を実施、約30km/h以上で先行車・対向車がいない場合にハイビームを使用する。AHSはステレオカメラを用いて約15km/h以上で作動。LEDの配光範囲を細やかに制御し、先行車や対向車に光が当たる部分だけを自動的に遮光する機能をもつなど、微妙に両者で仕様が異なるので注意したい。
マツダの「アクプティブ・LED・ヘッドライト」は約40km/h以上で作動する。ちなみに40km/h以下では、従来ロービームで届かなかった左右方向をヘッドライト外側に装備した「ワイド配光ロービーム」で照射する機能をもつ。
スバルの「ハイビームアシスト」は照射モードを単眼カメラ(専用)によって判断する。40km/h以上での走行時に前方からのライトが感知されない状況ではハイビームを使用、対向車が近づいた場合は自動的に防眩のためにロービームに切り替える。約30km/h以下では市街地を走行していると想定し、ロービームに固定している。
ちなみに、速度設定において30~40km/hでの作動条件に曖昧さが残るのは、オートクルーズ機能でも見られるような、設定速度と実速度の誤差を埋めるマージンと解釈してよいだろう。
近い将来にはLEDやレーザー光を利用した照射範囲を広く精密に制御可能とするヘッドランプの進化によって、ハイ/ロー・ビームの定義など、法律の解釈に拘泥することにあまり意味はなくなりそうだ。
むしろヘッドランプの性能や設定にこだわるのではなく、ドライバーにヘッドライトを「点けるか点けないか」という運転するうえでの自らの安全感覚に基づいて、機能を適切に使いこなしてもらえるように啓蒙するといった、運転マナーの再確認のほうが重要ではないだろうか。運転中にヘッドライトの機能設定に気を取られているようでは、本末転倒も甚だしいのだから。
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