トヨタといえば手堅い経営戦略で、無駄を省きつつも、品質を維持して利益を追求する企業というイメージがあるだろう。
しかしそんな企業にとってスポーツカーは台数は出ないし、決して利益率のよいクルマではないはず。それでもトヨタは86をはじめ、スープラ、さらにはレクサスのスーパースポーツまでも開発する。
挑戦か、降伏か!? カローラスポーツは王者ゴルフを超えたのか?
なぜトヨタはスポーツカーを作るのか? それは単なるロマンのためなのか? 分析しました。
文:渡辺陽一郎/写真:ベストカー編集部
■LFAは売れるほど赤字が増えたから限定販売に
トヨタが2010年の末に発売したレクサスLFAは、価格が3750万円に達するスーパースポーツカーで、500台の限定販売であった。
そうなるとレクサスLFAの売上総額は187億5000万円だ。開発と製造に要する費用など、すべてがこの金額から支払われる。
車両の開発費用は計算の仕方によって変わるが、大雑把にいえば、プラットフォームから刷新すると(エンジンを除く)セダンが200億円、ミニバンは250~300億円といわれる。
レクサスLFAはエンジンやプラットフォームが専用開発でメカニズムも凝っているから、少なくとも400億円にはなるだろう。
また別のメーカーでスポーツカーを手掛ける開発者によると「レクサスLFAは製造コストもかなり高く、1台当たり少なく見積っても1000万円には達する」と言う。
そうなると500台ならば、製造コストの総額は50億円だ。開発費用の400億円と合計すれば、トヨタはレクサスLFAに少なくとも450億円を注ぎ込んでいる。
それなのに売上総額は前述の187億5000万円だから、単純に450億円から引き算しても、262億5000万円の赤字になってしまう。この損得勘定が正しいか否かを知るために、レクサスLFAの開発者に尋ねた。
返答は「(渡辺が)言いたいことはよく分かる。F1みたいなものだと思ってくれ」であった。
F1の予算は1年間に300~600億円とされ、レクサスLFAもそれに近いというわけだ。ソロバン勘定を合わせるため、レクサスLFAをベースにした改良版を開発するかと思ったが、それは結局やらなかった。
V型10気筒4.8Lエンジンの1LR-GUE型も、今のところはレクサスLFAの搭載だけだ。
レクサスLFAは特殊な例だが、スポーツカーには多かれ少なかれ、損得勘定では割り切れないところがある。
そうなるのは販売台数が少ないからだ。移動するための手段ではなく、移動自体が目的になる趣味で乗るクルマだから、多くのユーザーが生活する上で不可欠な実用品ではない。
■若年層が振り向かない「スポーツカー市場」
特に最近は世界的にスポーツカーの売れ行きが下がり、北米のフォードマスタングやシボレーカマロは、初代モデルに似たデザインを採用する。
初代を知る中高年齢層が主な顧客で、若年層が興味を示さなくなったからだ。トヨタがスポーツカーに「86」の名称を与えたのも、前向きの考え方ではない
1983年に発売されたAE86型カローラレビン&スプリンタートレノの精神を受け継ぐスポーツカーという意味だが、今の86が発売されたのは2012年だ。
いくらAE86に人気があるとはいえ、30年近く前の型式を車名に冠するのは、工業製品のあり方として常識では考えにくい。
そこが時代を超えたスポーツカーの価値観だという見方も分からなくはないが、AE86を知っているのは、今では相当なマニアしかいない。
そして86は、トヨタの全店(日本国内では4900店舗)が扱うが、売れ行きは伸び悩む。海外でも売られ、北米では以前はサイオンFR-S、今は86として売られるが、1か月の売れ行きは400~500台程度だ。
86の販売規模は世界的に小さいから、スバルと共同開発され、スバルブランドでも姉妹車のBRZを売る。そうした上で長く造り、開発費用を償却する考えだ。
目下開発を進めているトヨタスープラも、エンジンやプラットフォームは、提携しているBMWのZ4と共通化する。
今の自動車メーカーは、トヨタに限らず将来に向けた電動化、安全装備と運転支援、この2つに基づく自動運転など開発すべき技術的な課題が多い。
膨大なコストを要するから、もはやレクサスLFAのようなF1に似た取り組み方はできない。
レクサスLSとクラウンがプラットフォームを共通化したことからも分かるように(つまり後輪駆動のプラットフォームは1種類に統合する)、さまざまな分野でコストの低減、選択と集中が進む。
従って本稿のテーマである「トヨタのスポーツカーは元が取れるのか」という見方をすれば、もはや「元の取れない商品開発」は許されない。
86&BRZ、スープラ&BMW Z4という具合に共通化を進め、なおかつ長く製造することで必ず元を取る。そうしないと商品が成り立たない時代になった。
■利益が薄くともスポーツカーは自動車産業の必需品だ
それでもスポーツカーは効率が悪い。これを手掛けるのは、自動車メーカーというよりも自動車産業全体にとって、スポーツカーが必要な商品であるからだ。
スポーツカーがなくても生活に支障はないが、自動車産業には求められている。
その理由は、スポーツカーがクルマの魅力を最も分かりやすく表現しているからだ。軽トラックも運転すればクルマとの一体感を得られて楽しいが、スポーツカーはそこを突き詰めて開発される。
カッコよくて速いから、それこそF1マシンのように、メーカーや業界全体のイメージリーダーになり得る。
また今は昔ほどではないが、スポーツカーの開発によってメーカーの技術力が押し上げられる効果もある。
さらにいえば、メーカーや販売会社の社員がモチベーションを高めるメリットも期待される。スポーツカーがあると、さまざまな相乗効果が生まれるのだ。
ただしスポーツカーをイメージリーダーに据えて販売面の効果を上げるには、そのほかの車種ラインナップや売り方も大切になる。
例えば日本国内の場合、トヨタ車で好調に売れるのは、ハイブリッド専用車のアクアとプリウス、ミニバンのヴォクシーやヴェルファイア、SUVのC-HRという具合だ。
カローラスポーツやヴィッツUスポーティパッケージなどもあるが、いまひとつ売れ行きが乏しい。相応に売れていて、なおかつスポーティな趣味性を感じさせるのは、C-HRくらいだろう。
そうなると86が浮いてしまう。トヨタが力を入れるGR/GRスポーツも同様だ。スポーツカーがイメージリーダーになったり、ほかの車種の売れ行きに良い効果を与えるには、スポーティモデルが相応に用意されることが条件だ。
ホンダはNSXがスポーツ指向のイメージリーダーで、シビックなども選べるが、販売面では国内で売られるホンダ車の33%を軽自動車のN-BOXが占める。
N-WGNなども加えた軽自動車全体では50%に達する。NSXは販売規模が極端に小さいから、販売会社のホームページからは削除されている現実もある。これではスポーツカーの相乗効果は期待しにくい。
日産はスポーツカーとしてフェアレディZとGT-Rを用意するが、スカイライン、フーガ、ジュークなどは設計が古く、売れ行きも下がった。
今の日産では、ノート、セレナ、デイズ&デイズルークスが主力だから、やはりスポーツカーによる相乗効果はねらいにくい。
以上のように、スポーツカーは赤字にはなっていないが、ラインナップの効果が十分に発揮されているともいい難い。
それは海外市場を重視した結果、国内に向けた販売戦略が弱体化した結果でもある。スポーツカーの元気が際立つ国内市場であって欲しい。
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