スカイラインやフェアレディなど、多くの名車を生み出し、そして多くのファンを持つのが日産だ。一時期は会社存亡の危機にも陥ったが現在では三菱も吸収し、業績は回復している。
しかし、日本市場への姿勢は寂しいものだ。2018年の国内向けの新型車はなんとゼロの予定。ノートe-POWERなどが好調なものの、これでは日本市場のこと軽視しすぎといわれてもしかたない。
利益か? 顧客か? 顧客優先度の高い自動車メーカーはどこだ?
本当に日産は日本市場は見限ってしまったのか? 販売台数など数字のデータを取りまとめその真偽を確かめます!!
文:永田恵一/写真:ベストカー編集部
■本当に日産は日本市場を軽視しているのか?
日産の2018年はフルモデルチェンジ、あるいは新型車がないことで、「日本市場を軽視しているのではないか」という意見をよく聞く。
まあ人口の減少など日本市場が今後伸びるのはほぼ期待できないのに対し、依然として1500万台以上の需要があるアメリカ。
さらに乗用車だけで約2500万台(商用車を含めれば2900万台近く!)が売れる中国市場、今後有望なロシアや東南アジアといった新興国の存在も考えれば、その傾向も分からなくはない。
何よりも売り上げや純利益に代表されるビジネス面も好調だ。そこで当記事では生産台数や販売台数に代表されるデータ、数字で「日産が本当に日本市場を軽視しているのか」というテーマを考察してみたい。
■生産台数を考えれば日本市場への貢献度高し
2017年通年の日産の世界生産台数 約577万台。その内訳は以下のとおり。
1位 北米(アメリカ&メキシコ) 約176万台
2位 中国 約151万台
3位 日本 約102万台
4位 その他 約 88万台
5位 ヨーロッパ(イギリス&スペイン) 約 60万台
と日本での生産台数は日産の世界生産台数の約18%を占めており、後述する世界販売台数とその内訳も考えれば意外に多い。
比較として2017年の世界生産台数が約524万台と日産に比較的規模が近い、ホンダの生産台数の内訳を見る。
1位 アジア 約223万台
2位 北米 約185万台
3位 中国 約144万台
4位 日本 約 82万台
5位 その他 約 17万台
5位 ヨーロッパ 約 17万台
と日本で生産されるホンダ車の割合は約16%と、日産より若干低い。
また日産の世界生産台数には当然ながら三菱自動車とスズキで生産される軽乗用車(2017年は約18万台を販売)は含まれていない。
その点も考慮すれば三菱自動車やスズキの工場稼働率の向上も含めて、日本の自動車産業への日産の貢献度(自動車産業は雇用など裾野が広いという意味で)はなかなか高いと言える。
■販売台数ではやはり国内が軽視されている?
2017年通年の日産の世界販売台数 約587万台。その内訳は以下のとおり。
1位 北米(アメリカ、カナダ、メキシコ) 約211万台
2位 中国 約152万台
3位 その他 約 82万台
4位 ヨーロッパ 約 78万台
5位 日本 約 59万台(全体の約10%。軽乗用車は約18万台)
6位 ロシア 約 11万台
約530万台だった2017年のホンダ(細かい内容は公式には発表されていないが)の世界販売台数と内訳を比較しよう。
アメリカ 約164万台
中国 約144万台
日本 約 72万台(全体の約14%、軽乗用車は約34万台)
割合、絶対数、軽乗用車を含め、原因が市場規模なのかクルマという商品そのものなのかはともかくとして、ホンダと比較すると日産の日本市場への注力度が低く見えてしまうのは否めない。
ちなみにトヨタは2017年に日本で約163万台を販売し、約1039万台という世界販売台数に対する日本での販売の割合は約16%と、意外に低いようにも見えるかもしれないが、やはりそれなりに高い。
■今後の日産の日本市場はどうなっていく?
日産は数え方にもよるが、日本で商用車を含め26モデルをラインナップしている。
最新データとなる2018年7月に日本で、軽乗用車を除く登録乗用車を約3万台販売している。
今年7月の登録乗用車の販売台数は日本で商用車を含め21モデルをラインナップするホンダも約2万9000台と日産近く、ホンダと比較しながら日産の国内販売を考察してみる。
【今年7月に1000台以上売れた登録乗用車】
・日産
ノート 1万1689台(販売台数1位)
セレナ 8927台(販売台数7位)
エクストレイル 3760台(販売台数22位)
リーフ 2040台(販売台数32位)
・ホンダ
フィット 9144台(販売台数6位)
フリード 7016台(販売台数11台)
ヴェゼル 4724台(販売台数17位)
ステップワゴン 4381台(販売台数18位)
シビック 1522台(販売台数36位)
シャトル 1282台(販売台数38位)
オデッセイ 1229台(販売台数40位)
ノートが7月も含め今年に入って4回も登録乗用車の販売台数1位になっているのは快挙だ。
しかし日産は登録乗用車の91%を上記の5台で占めており、クリーンナップとなるクルマへの偏りが感じられる。もし主力車種が傾いたときのリスクは大きい。
また日産車のラインナップは「このクルマ出たのずいぶん前じゃなかったっけ?」というモデルがかなりある。こちらもホンダと比較したい。
【主なモデルの登場時期】
・日産
1999年 シビリアン(マイクロバス)
2006年 NV150 AD(プロボックスと同じクラスのライトバン)
2007年 GT-R、アトラスF24(1.15トンから2トン積みのトラック)
2008年 フェアレディZ、キューブ
2009年 フーガ、NV200バネット
2010年 ジューク、マーチ、エルグランド
2012年 ノート、NV350キャラバン、シルフィ、シーマ
2013年 デイズ(三菱自動車からの供給)、エクストレイル、スカイライン、NT450アトラス(三菱ふそうから供給)、NT100クリッパー(スズキから供給)
2014年 e-NV200、デイズルークス(三菱自動車から供給)、ティアナ
2015年 NT100クリッパー(スズキから供給される軽1BOXカー)
2016年 セレナ
2017年 リーフ
・ホンダ
2009年 アクティトラック(軽トラック)
2012年 N-ONE
2013年 アコード、ヴェゼル、オデッセイ、フィット、N-WGN
2014年 グレイス、レジェンド、N-BOXスラッシュ
2015年 ジェイド、シャトル、ステップワゴン、S660、クラリティフューエルセル
2016年 NSX、フリード
2017年 シビック、N-BOX
2018年 クラリティPHEV、N-VAN
と、ホンダと比べると全体的な日産車のモデルの古さは一目瞭然だ。登録乗用車のフルモデルチェンジのサイクルは今は5年から6年が平均的なところ。
日産ほどの自動車メーカーがここ3年で2015年と2018年と、2回も新型車やフルモデルチェンジがなかったというのはいかがなものかとも思う。
もちろんクルマという商品は絶対にニューモデルがいいとも限らないし、既存車の改良も大事だが、フルモデルチェンジや新型車の投入による新車効果と言われる新鮮さ、性能と内容の充実だって重要なのも事実ではないか。
もう1つ日本で販売される日産のラインナップを見て改めて驚くのが、今の日本市場でそれなりには売れてそうなジャンルのクルマ自体がないこと。またあってもモデルがあまりに古いことが多い点だ。
日本市場に日産が持っていないクルマとしては、具体的にはフリードやシエンタのようなコンパクトミニバン、ソリオやタンク四兄弟のようなスライドアを持つプチバン。
またはカローラフィールダーやシャトル、レヴォーグなどがある何らかのステーションワゴンなどだ。一定数が売れているジャンルのクルマが日産にはない。
アルファードなどに対抗するエルグランド、コンパクトSUVでは先駆車だったものの影を潜めたジューク、クラウンに対抗すべきだったフーガなど、対抗馬を用意できていないのも辛い。
【まとめ】
「あのクラスがあればもっと売れるのに」とか、「日産好きだけど結果的に買える、欲しいクルマがない」という嘆きが頭に浮かんでしまう。
データをまとめると、日産の日本軽視はイエスと言わざるを得ないのが結論だ。
日本市場の縮小も事実ではあるだろう。だから「総合的な投資も含めて、クリーンナップ的なモデルに集中する」という考えは、ビジネスとしては非常に正しいとも思う。
しかし一方では売れそうなジャンルに属するモデルがない、あってもあまりに古いのも事実。
といったことを総合すると、「もう少し日本市場も見て欲しい」というのは日本創業の企業である日産への強い願いである。
昔からよく言われることだが、ナンバー2の日産が頑張ってくれなければ日本のクルマはつまらなくなってしまうではないか。
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