現在、軽自動車は新車販売の実に37%前後を占める。特に人気が高いのは、N-BOXやタントだが、実は普段あまり脚光を浴びない軽商用バンの売れ行きも驚くほど好調。なかでもスズキ、ダイハツ系が圧倒的なシェアを誇る。そして、2018年7月にはホンダがN-BOXベースで開発したN-VANも発売予定だ。N-VAN登場で、にわかに注目を集める軽バンは、世界最小の日本が誇る実力車。地味ながら他には真似できない様々な知恵と工夫が凝らされている。
文:渡辺陽一郎
写真:HONDA、SUZUKI、DAIHATSU
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エブリイはタントより売れている!?
スズキ エブリイとダイハツ ハイゼットカーゴ。現在、自社開発の軽バンは実質的にこの2台が中心。ホンダ以外はスズキとダイハツから供給を受けるOEM車で軽バンを賄う
今の軽商用バンはOEM(相手先ブランド供給)が発達しており、2大勢力に分かれている。
まずはスズキ エブリイのグループで、日産 NV100クリッパー/マツダ スクラム/三菱 ミニキャブバンとしてOEM供給される。
もう一方はダイハツ ハイゼットカーゴのグループで、スバル サンバーバン/トヨタ ピクシスバンとしてOEM供給されている。
残りはホンダだけだ。従来はアクティバンとワゴン仕様のバモスを用意したが、2018年7月13日に、新たにN-BOXベースのN-VANが発売される。
ちなみに2017年度におけるエブリイグループ/4姉妹車の売れ行きは、月平均換算で1万193台、ワゴン仕様の1946台も加えると1万2139台であった。
同期のワゴンRは月販平均1万102台(OEM車のマツダ フレアを加えて1万1001台)、タントが1万1221台(同スバル シフォンを加えて1万1715台)だから、エブリイ4姉妹車を合計すれば、軽トップレベルの売れ行きだ。普通車で大人気のノートでも1万926台であった。
つまり、軽商用バンは国内販売の柱に位置付けられるわけだ。
軽バンの驚くべき空間効率の高さ
写真はハイゼットカーゴの各種サイズを示したもの。軽バンがいかにスペース効率を突き詰めた作りになっているかがよくわかる
このように物凄い台数が売れる理由は、軽乗用車以上に実用性が高く、人気が根強いことにある。エンジンを前席の下に搭載してボンネットに相当する部分を短く抑え、前後左右のウインドウを直立させ、最大限度の室内空間を確保した。
その結果、荷室長は、エブリイが最大値で1910mm、ハイゼットカーゴが1860mmに達する。軽商用車だから全長は3395mmに収まるため、空間効率は抜群に高い。
この荷室長は小型商用バン、日産 NV200バネットの1900mmと同等だ。NV200バネットの全長は4400mmだから、軽商用バンに比べて1005mm長い。ボディの短い軽商用バンが、いかにスペースを有効に使っているか分かるだろう。
最近は軽商用バンをベースにしたキャンピングカーが人気を得ているが、その理由もボディが小さい割に車内が広いからだ。後席を格納すれば、荷室床面は真っ平らになり、車内での就寝もしやすい。
荷物の収納性も優れている。エブリイやハイゼットカーゴは、耐久性の高いシャシーを備えた後輪駆動車だから、荷室の床が前輪駆動の乗用車に比べて少し高いが(荷室の床面地上高はスペーシアが510mmでエブリイは650mm)、リヤゲートの開口部は広い。
スライドドアが装着され、ボンネットが短いためにボディ側面が長く、開口幅はワイドでエブリイが775mmに達する。スペーシアの600mmを大幅に上回った。
写真はエブリイのインパネ。中央部の張り出しが極限まで抑えられるなど使い手のニーズに合わせた設計は、軽バンならではのもの
インパネの形状も工夫され、エブリイ、ハイゼットともに、ATレバーが収まる中央部分の張り出しが小さい。左右方向のウォークスルーが容易で、駐車場所の状況によってはドライバーが左側のドアから乗り降りできる。
さらにコスト低減を迫られる車ながら、トレイやカップホルダーを豊富に装着。その結果、エブリイとハイゼットカーゴのインパネ形状はよく似ている。使いやすい機能を突き詰めると、最終的に同じような形状になるのだ。しかし、異なる点もある。
“2強”エブリイとハイゼットの違いは?
スマートアシストIIIを搭載するハイゼットカーゴ。歩行者対応の衝突回避支援システム搭載は軽商用車初
まず、現行エブリイは2015年2月に発売され、その後に小規模の改良を受けてきた。対する現行ハイゼットカーゴは2004年12月発売と古いが、2017年11月に大規模マイナーチェンジを行った。
なかでも最も注目されたのは安全装備で、2個のカメラをセンサーに使うスマートアシストIIIを採用。衝突不可避の時は緊急自動ブレーキを作動させる。作動速度の上限は車両に対しては80km/h(警報は100km/h)、歩行者は50km/hだ。
エブリイも緊急自動ブレーキを装着できるが、赤外線レーザーだけをセンサーとして使う簡易型。そのために歩行者を検知できず、車両のみとなって作動速度の上限は30km/hと低い。安全装備はハイゼットカーゴが勝る。
エンジンは両車ともに自然吸気とターボを用意する。トランスミッションは、ハイゼットカーゴが4速ATと5速MT。エブリイはこの2種類に加えて1組のクラッチを使う有段式ATの5速AGS(オートギヤシフト)も選べる。
エブリイの5速AGSは燃費が良く、JC08モードは19.4km/L。4速ATの17km/Lよりも優れている。
そして、5速AGSはスズキの自社開発でもあるからコストが安く、車両価格はハイルーフ「PA」、「GA」の場合で4速ATは104万7600円、5速AGSなら103万1400円だ。
5速AGSは4速ATに比べると運転の仕方によっては変速時のショックは大きいが、価格が1万6200円安く燃費も良い。
ハイゼットカーゴのJC08モード燃費も2017年に改良され、ノーマルエンジンの2WDが4速AT、5速MTともに17.8km/Lとなる。エブリイとハイゼットカーゴの価格は激しい競争を展開するだけあって拮抗している。
スズキ、ダイハツが軽バン市場を独占する訳
三菱のミニキャブバン。この車もスズキ エブリイのOEM車だ
そして、耐久性の高いシャシーやボディを備えながら、両車ともに価格が安い。装備がシンプルとはいえ、先に触れたように100万円少々の価格設定だ。
車両コストは、シャシー、ボディ、エンジンといった基本的なメカニズムに占める割合が大きい。
パワーウインドウやオーディオのような装備は大幅に安く、装備の充実する上級グレードほど、メーカーは1台当たりの粗利を多く取れる。
ユーザーから見れば、上級グレードは、中級や下級に比べると装備が充実する割に価格が安く思えるが、メーカーの製造コストではさらに安く装着されているので、上級グレードは買い得感を演出しやすい。
ところが、シンプルな軽商用バンでは、それができない。1台当たりの粗利は最小限度に抑えられ、販売店もディーラーオプション、諸費用などで稼いでいる。
そのため軽商用バンは、エブリイのグループと、ハイゼットカーゴのグループに分かれてしまう。スズキやダイハツのような販売規模がないと開発や製造が行えず、三菱も自社製造の軽商用バンはミニキャブミーブのみ。ミニキャブバンはエブリイのOEM車になった。
なぜホンダはN-VANを開発したのか
N-VANのスペースユーティリティを示した図。N-BOXベースとしたことで軽バンとしてはメリットもデメリットもある
ホンダが専用の後輪駆動プラットフォームを備えたアクティバンを終了して、N-BOXベースのN-VANに切り換える理由も同じだ。開発と製造コストが見合わず、N-BOXと共通化した。
ただし、軽商用バンをN-BOXをベースに開発して、ユーザーから高い評価を得るのは難しい。ダイハツのウェイクをベースにした商用車ハイゼットキャディも、2017年度で1ヵ月平均104台しか売れていない。
そこでN-VANは渾身の開発を行った。ボンネットの内部にエンジンを収める方式だから、荷室長は販売店の情報によると1510mmにとどまる。
エンジンを前席の下に搭載するアクティバンが1725mm、エブリイとハイゼットカーゴが1900mm前後に達するのに比べると、短くなるのは避けられない。これは専用設計をやめて、乗用車と共通化させた決定的な欠点だ。
その代わり助手席まで含めて、運転席以外を真っ平らな荷室として使えるシートアレンジを採用。畳んだ助手席部分まで含めた荷室長は、ロールーフ仕様が2560mm、ハイルーフ仕様が2635mmときわめて長い。大人1名ならば体を伸ばして就寝できる。
さらにボディの左側はピラー(柱)レス構造とした。助手席のフロントドア後方と、リヤスライドドアの前方にピラーの役割を持たせ、前後のドアを両方ともに開くと開口幅が1580mmに達する。タントも同様の機能を備えるが1490mmだ。
軽バンは世界最小にして最高の車
走りの面では、N-VANの2WDは前輪駆動だから、荷物を積載した状態の坂道発進は苦手だ。後輪に荷重が加わり、特に悪路や雪道の登り坂では前輪が空転しやすい。そこで全車に4WDを設定したが、前輪駆動の不利は否めない。
また先に述べた荷室長の不足も、大型のソファなどを積みたい場合、アクティバンなら運べるがN-VANでは無理という不満が生じる。この不利の克服も考えて、助手席の折り畳みや左側のピラーレスドアを採用したわけだ。
それでも切実な問題として、アクティバンからの乗り換えに、N-VANでは対応できないユーザーが生じるだろう。ホンダカーズで、他メーカーの軽商用バンを販売できたり、販売店を紹介できるシステムを用意しておくと親切だ。
軽乗用車が日本の生活を見据えて開発されているように、軽商用車も日本のビジネスと真剣に向き合っている。メルセデスベンツやBMWが束になっても絶対に開発できない、世界最高の小さな商用車が揃っている。
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