時代とともに軽自動車に対する考え方、捉えられ方が変わってきたように思う。
一昔前までは、軽自動車というと「(シャレではなく)軽く見られた」ものだ。
クルマを愛する者としてこういった表現は本意ではないが、「軽自動車に乗っているとバカにされた」こともあったものだ。
事実、何台か軽自動車を乗り継いだボクが言うのだから、あながち外れているとは言えない。
若者のクルマ離れを考える。若者がクルマを欲しがらないのは、現代人が馬車を欲しがらないのと同じだ
反面、現代においては軽自動車に乗っているからといって「低く見られる」ことはなくなった。
この理由として、世間一般に語られるものとしては、「もはや自動車はステータスシンボルとしての地位を失っており、クルマのサイズや金額の高低でヒエラルキーの判断を行うのはナンセンス」というものだ。
軽自動車の地位向上は他にも理由がある
たしかにこれには一理ある。
だが、ボクは声を大にして言いたい。
軽自動車がバカにされなくなった理由はもっとほかにあるのだ、と。
その理由はこうだ。
「昔の軽自動車は、メーカーそのものが軽自動車は安物だと捉えていたから」。
昔の軽自動車は確かに安物だった。
軽自動車の用途としては営業車が圧倒的だったと思うが、そうなると営業車を導入する企業も経費を抑えたい。
だから自動車メーカーもコストを抑えて軽自動車を作った。
他にも個人としての軽自動車需要はもちろんあったが、そのほとんどは「車が必要だが、できるだけ安いものでいい」というところに集約されていたように思う。
つまり昔の軽自動車は「できるだけクルマにお金をかけてくない」人が選ぶ、「消極的選択肢」だったのだ。
よってボディカラーも「白(格好良く”ホワイト”とカタカナで呼ぶことすらためらわれるほど)」ばかりである。
こういった状況では、自動車メーカーは当然ながらコストをかけた軽自動車を作らない。
コストをかけてデザイン性の高い軽自動車を作ることなど、当時は夢にも思わなかったのだろう。
だが、そこから時代は変わった。
セダンやスペシャリティカー(懐かしい響きだ)がもてはやされる時代を通過し、ホンダ・オデッセイ(1994)に代表されるミニバンブーム、ホンダ・フィット(2001)が牽引したコンパクトカーブームが到来する。
そしてブームになると各車がこぞってそのカテゴリへと参入することになる。
トヨタ・ヴィッツやマツダ・デミオが好例だ。
そうやってその市場がレッドオーシャン化すると、各メーカーとも販売台数を稼ぐために利益を削ってまでも他社よりも優れた機能やデザイン、快適性を自社のクルマに持たせようとする。
競争環境において著しく商品力の高くなったコンパクトカーに乗って人々は思う。
あれ?今まで高いお金を出して買っていたセダンやミニバンは何だったの?
この価格でこの性能と快適性が手に入るなら、コンパクトカーで十分じゃないの、と。
これは衣類において、高級ブランドでなくとも「ユニクロやGUで事足りる」と多くの人が気づいたのと似ているだろう。
そう、ここで自動車選びにおけるパラダイムシフトが決定的になったといっていい。
この流れは軽自動車に飛び火した
この流れはそのまま「軽自動車市場」にも当てはまる。
軽自動車における革命児はなんといっても「スズキ・ワゴンR(1994)」だ。
これは「男性にも受ける軽自動車」という開発コンセプトを持っていたと言われるが、そのコンセプトがうまく男性に刺さった。刺さりまくった。
その結果、普通車を押さえて自動車の登録ランキング1位を獲得した時期もあった。今で言うホンダN-BOXのようなものだ。
その後、ダイハツが対抗馬として「ムーヴ(1995)」を発売し、軽自動車市場が一気に盛り上がる。
これをチャンスと見たホンダは「ライフ(1997)」「That’s(2002)」を投入し、2012年には満を持して「N-BOX」をリリースした。
N-BOXはカラフルで、独創性に溢れたクルマだった。
軽自動車であることを割り切り、軽自動車にしかできないチャレンジを行ったクルマだと言っていい。
このN-BOXは、「軽自動車であること」を逆手に取ったクルマでもあり、軽自動車史上、ワゴンRに次ぐ革新的なクルマだと考えている。
この時を境に、「軽自動車は、軽自動車という呪縛から解き放たれた」のかもしれない。
さらに軽自動車の地位を向上させたのは「スズキ・ハスラー(2014)」だ。
こちらも「軽自動車であることを存分に活用した」クルマで、普通車だとこういったチャレンジはできない(クロスビーの登場はハスラーの成功を下敷きにしたものだ)。
ボクはつまるところ、昔の軽自動車の地位が低かったのは「作る側が”地位の低いクルマ”」や「普通車の代替」として作り、販売していたからだと考えている。
同様に、今の軽自動車の地位が高くなったのは、「作る側が誇りを持ち、普通車を超えようとして」作ったからだと信じている。
ともあれ、こうやって軽自動車は「消極的な(仕方がないからという)理由で選ばれるクルマ」から「積極的な(それが欲しいという)理由で選ばれるクルマ」になったのだ。
「自動車がステータスシンボルとしての価値を失った」ことも遠因としては否定できないかもしれないが、近年において軽自動車がバカにされなくなったのは、軽自動車をより良くしようと頑張ってきた人たちの努力の賜物である、とボクは思う。
クルマをサイズで語ることや価格の高低で判断することが無意味だという風潮を作ってきたのは、何より軽自動車自身なのだ!
[ライター・撮影/JUN MASUDA]
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