マツダでミラーサイクル・エンジン開発を主導したエンジン博士の畑村耕一博士(エンジンコンサルタント、畑村エンジン開発事務所主宰)が、2018年のスタートにあたり、「2017年パワートレーンの重大ニュース」を寄稿してくださった。パワートレーンの現在と未来について、プロの見方を聞いてみよう。第2回は、『地球にやさしいハイブリッドにEVの素晴らしい走りを加えたシリーズハイブリッド』、つまり日産・ノートe-POWERについて、だ。
「自動車用パワートレーンの主役はエンジンであることに変わりはない」ものの、「電動系の効率が向上するので、ストロングハイブリッドはシリーズハイブリッドに移行する」(『図解自動車エンジンの技術』/ナツメ社)というのが、筆者が予測する2030年のパワートレーンの姿である。シリーズハイブリッドは伝達効率が悪いのでしばらくは無理だろうと思っていたところに、アコード・ハイブリッドが出てきて、ちょっと待てよ、シリーズで行けるのではないかと思い始めた。そうしたら、シリーズハイブリッドを採用した日産ノートe-POWERが早くも出てきたので驚いている。
ノートe-POWERは基本的に、リーフの電動コンポーネントを流用している。新しい技術は何もない。フロントに搭載した横置きエンジンの隣に駆動用モーターとジェネレーターを配置しているが、エンジンを発電機として割り切るなら、駆動用モーターとセットで配置する必要はない。駆動用モーターを切り離してリヤに置いてもいい。
ノートe-POWERがそうせず、2モーターのシリーズ・パラレルハイブリッドと同様のレイアウトとしているのは、開発当初はエンジン直結モードを考えていたからだろう。高速域はエンジン直結で走った方が、効率は良くなるのは日産も承知のはず。コストもあるだろうが、直結モードを持つと「ホンダのシステムと一緒」と言われるのを避けたかったのかもしれない。このクラスのクルマを使う人の7割は市街地を走るというデータが得られたこともあったし、高速域をモーターだけで走っても燃費はそんなに悪くないことがわかり、思い切って割り切ったのだろう。いずれ、直結モードを持ったシステムも出てくるはずだ。
欧州で適用される超高速モードは別にして、2018年からの採用が予定されているWLTPの場合、国内のモードなら15kW程度の出力があればカバーできる。ノートe-POWERが積む駆動用モーターの最高出力は80kWで、ジェネレーターの最高出力は55kW。電池の出力は公表されてないが、25kWくらいは出せるだろうから、街中の走行はエンジンを掛けなくでもほぼカバーできるはず。ところが実際に走ると、よくエンジンが掛かった。発進しようと思ってブレーキを離した途端、エンジンが始動して2~3秒で止まることもあったり、結構頻繁にエンジンは掛かる。
そのエンジンは、ミラーサイクルを適用しているものの、容積比は12.0でミラーサイクルとしては軽い。14.0とか15.0にすればもっと効率は高くなるが、そうするとトルクが出ないので、回転を上げる必要がある。回転を上げるとうるさいため、ほどほどに抑えたい。エンジンは2300rpm付近で回るのが基本だが、走行音にかき消されてエンジン音は気にならない。アクセルの踏み込みと連動させて回転を上げるなど、制御も上手にやっている。純粋に電動モーターによる駆動なので、加速のG波形に見られるようにEVの素晴らしい走り感を味合うことができる。
モードを切り換えるとテスラ・モデルSやBMW i3のようにアクセルペダルだけで速度をコントロールできるが、慣れると乗りやすいし、理に適っている。今まではメカの都合で仕方ないからアクセルとブレーキに分かれていたのであって本来はこうあるべきなのだ。
e-POWERが商品として成立するなら、次はシリーズハイブリッド専用エンジンを搭載したい。エンジンは振動が少なく、超ロングストロークにして高効率にできる対向ピストンエンジンの出番になる。原理的にバランスの良い対向ピストンエンジンは少数気筒(1または2)でも利用できる。エンジン形状が大きく変わるが、駆動用モーターと機械的に結合する必要はないので、エンジンとジェネレーターをフロントにおいてモーターをリヤのトランクルーム下に置いてリヤ駆動にできる。その逆も可能だ。
EVの魅力は、走行中のCO2排出量がゼロで地球にやさしいことではなく、走りの素晴らしさにある。ガソリンで走って電動の良さを味わえるようにしたら、シリーズハイブリッドになった。EVを長年やってきた日産だからわかったのだろう。電動の良さは“走り”だと。EVの煩わしさとCO2排出量のことを考えると、もう電気自動車リーフの出番はなくなったように思う。
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