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他人へ響く美しさとは限らない ベントレー・コンチネンタル S2(2) 財力に物をいわせた独自ボディ

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他人へ響く美しさとは限らない ベントレー・コンチネンタル S2(2) 財力に物をいわせた独自ボディ

ボディの改造へ否定的だったHJマリナー社

大富豪のロデリック・ジョージ・マクロード氏は、1952年にもベントレーMk VIを購入。HJマリナー社のライトウェイト・リムジンボディをベースに、リアのオーバーハングを切断し、ショートシャシーへ架装された。

【画像】コンチネンタル S2「ショートテール」 ベントレーのクーペ 同時期のロールスのワンオフ・クーペも 全108枚

これにも、アクリル製のルーフパネルが装備された。しかし、それ以上の改造は施されなかったようだ。

1955年には、ベントレーRタイプ・コンチネンタルを取得。マリナー社による標準ボディほど優雅ではなかったが、湾曲したリアウインドウが与えられた、美しいファストバック・ボディを独自に作らせている。塗装色はダークグリーンだった。

スペアタイヤが荷室の殆どを占めたというが、基本的なシルエットはRタイプ・コンチネンタルと遠からず、バランスが取れていた。しかし2番目のオーナーの時代に、火災で失われている。

その次にマクロードが欲したのが、今回ご紹介するベントレー・コンチネンタル S2。オリジナルの発売は1959年で、既存のボディ、デザイン番号7514に手を加えるという手法が選ばれた。

その頃ロールス・ロイス傘下に収まっていたHJマリナー社は、過去最も美しいと評されるボディへ手を加えることに否定的だった。業務が立て込み、依頼を引き受ける余裕がなかったというのが、表向きの説明ではあったが。

通常より約600mm短いボディ 内装はオリジナル

例によって、彼はショートテール化を望んだ。最終的にボディの改変は、ロンドン南西部、バタシー地区に拠点を構えたコーチビルダー、FLMパネルクラフト社へ下請けに出されている。

シャシー番号はBC106ARで、塗装色はマット・ブラック。1960年6月に納車されている。果たして、スタイリングは成功作といえないだろう。実用性も、高まっていたわけではなかった。

これ以前に彼が希望したボディと同様に、荷室の殆どをスペアタイヤが専有。リアフェンダーが切り詰められたことで、給油リッドの場所も削られ、ガソリンを補充するにはトランクリッドを開く必要があった。

全長は、通常のコンチネンタル S2より約600mmも短い。テールゲートは完全にリデザインされ、バックランプの位置もリアバンパーとテールゲートの隙間へ移設。フロントバンパーには、ゴムで保護された丸いオーバーライダーが与えられた。

サイドマーカーは、フェンダーの低い位置へ。四角いフォグランプも装備された。

キャビン側は、ロイター社製のリクライニング・シートが備わり、オリジナルのまま。ベントレーとしては、最も美しいインテリアの1つだろう。リアシートはフルサイズで、大人が問題なく座れる。ダッシュボードには、大きなタコメーターが備わる。

パワーウインドウが装備され、この頃には軽量化より快適性へマクロードの考え方がシフトしていたことがうかがえる。それでも、アクリル製ルーフパネルに対する思い入れは、変わらなかったようだが。

不格好に後方へ弧を描くウエストライン

このコンチネンタル S2は、1970年代初頭に転売。1973年から1974年にかけて、ベントレーのディーラー、ジャック・バークレー社がレストアを施した。1978年に、別のクラシックカー・ディーラーを通じて販売されている。

2023年に手放され、H&Hダックスフォード・オークションへ出品。それまでの間にボディはシルバーへ塗装され、細かなアップデートが加えられた。フロントのウインカーは、ロールス・ロイス・シルバークラウドIII用のものだ。

実車を目の当たりにすると、サイド寄りの角度で眺めない限り、リアのオーバーハングが短いことには気付きにくい。それでも、ウエストラインは少し不格好に後方へ弧を描く。バランスが良いとは感じにくいだろう。

現在は、丸いオーバーライダーは変更。本来のデザインのものへ付け替えられている。スポットライトも、フロントマスクへ調和する円形へ交換済み。ダミーで与えられていた2本のテールパイプも、省かれている。

FLMパネルクラフト社は、リアフェンダーとトランクリッドのスタイリングに、最善を尽くしたとはいえるだろう。それ以前にマクロードが依頼した、独自ボディ以上の魅力があるとは、表現できないかもしれないが。

多くの人へ響く美しさになるとは限らない

彼も、もう少し改善できると考えたのかもしれない。2年後の1962年に登場したコンチネンタル S3のショートテール化を、FLMパネルクラフト社へ依頼している。

S2ベースとは異なり、リアウインドウからトランクリッドを滑らかなラインで繋いだ、ファストバック風のシルエットが選ばれた。より美しいプロポーションに仕上がっていたといえる。

リアバンパーからはオーバーライダーが外され、ナンバープレートはトランクリッドへ貼られた。給油には、そのトランクリッドを開く必要があった。フロントシートはスライド可能。ダミーのテールパイプが組まれ、バッテリーは荷室内へ移設されていた。

このS3は彼が手放した後、歌手のエンゲルベルト・フンパーディンク氏が1979年に購入。2018年に、ボナムズ・オークションへ出品されている。

大富豪の醍醐味の1つは、底を尽きない財力に物をいわせ、理想のクルマを手中に収められることだろう。しかし、必ずしも望ましいデザインが導かれるわけではない。大枚を叩いて個性的なボディを与えても、多くの人へ響く美しさになるとは限らない。

協力:テルクリスティ・カーセールス社

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みんなのコメント

3件
  • dar********
    洋服で言う「オートクチュール」のような事を自動車でやっていた時代が1960年代に入ったあたりまではあった。
  • 寝る間も惜しまず
    写真見て題名の意味がすぐ分かった
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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