特別なメルセデスAMG誕生の背景などを今尾直樹が考えた。
自動車の持つ神話力
F1マイアミGPの週末が幕を開けた5月5日木曜日、メルセデスAMGとアメリカのヒップ・ホップの大スター、ウィル・アイ・アム(will.i.am)のコラボレーションで生まれたワンオフ車両が披露された。その名もウィル・アイ・エイエムジー(WILL.I.AMG)である。will.i.amとAMGをかけているわけだから、ウィル・アイ・アムジーと発音するのが正しいのかもしれない。
このワンオフは、メルセデスAMG「GT 4ドア」をベースに、「Gクラス」とガルウィングの「SLS AMG」のデザイン要素を取り入れたものだ、と発表されている。
なるほど、スクウェアなフロント・グリルに丸目のヘッド・ライト、直線的な面で構成されたサイドはGクラス風で、丸みを帯びたリアはもしかしてAMG GT 4ドアそのままかもしれないけれど、サイドのエア・ダクトはSLSをちょっぴり思わせる。4枚のドアとセンター・ピラーは取り外され、後ろヒンジの2ドアに大改造されている。写真で見る限り、オリジナリティはあるけれど、フロントとリアの造形の統一感がなくて、ちょっと素人っぽいというか、ヘタウマっぽいというか、改造車っぽいというか、スーパー・ヒーローの乗り物っぽいというか……ゴニョゴニョ、ブツブツ。
そういう違和感を打ち消し、このクルマに説得力を与えているのが、フロントと4つのホイールの中央に鎮座する、いつものスリー・ポインテッド・スターではない、クマの顔とスリー・ポインテッド・スターを組みわせた、独自のアイコンだと筆者は思う。
神は細部に宿る。「ベア・ウィットネス(bear witness)」と名づけられたこのキュートなアイコン、アイコンとは聖像のことだからして、まさに神が、ほのぼのとしたユーモアを醸し出し、ウィル・アイ・アムを知らないようなニッポンのひとにも、カワイイ♡という印象を与えることに成功している。
でもって、クルマの近くに立っているウィル・アイ・アムが着ているジャンパーに、このベア・ウィットネスが貼ってある。ワンオフのクルマが、バーチャルではなく、実在することで、クマのアイコンにも実在感が生まれている。しかも、AMGの性能を備えたクマ、といったキャラクターとストーリーまで、語られていないのに感じる。
そこが自動車の持つ神話力のスゴイところで、筆者なんぞもクマのアイコンがついたジャンパー、フード付きパーカー、あるいはTシャツ、キャップ等をちょっとほしいと思っておりますけれど、ウィル・アイ・アムとメルセデスAMGがコラボでウィル・アイ・アムジーを製作した真の狙いはそこにある。WILL.I.AMGのサイトに行くと、ベア・ウィットネス・コレクションとして販売しているからだ。
これらベア・ウィットネス・コレクションは単なるお金儲けでつくられたものではない。ウィル・アイ・アムはアルバムの売り上げ3300万枚、グラミー賞7度受賞というミュージシャンである一方、貧困家庭の若者たちに教育の機会を増やすべく、2009年にアイ・アム・エンジェル・ファウンデーション(i.am.Angel Foundation)という団体を設立し、活動をおこなっている慈善活動家でもある。メルセデスAMGは彼のこの活動に賛同して協力しており、ベア・ウィットネス・コレクションの売り上げの一部は社会貢献につかわれる。
ちなみにbearは英語でクマの名詞でもあるけれど、「(ガマンして)支え持つ」を意味する動詞でもあり、bear witnessだと、「証人となる」という意になる。クマのアイコンは、社会をよりよくしたいと考えるウィル・アイ・アムの活動の証人なのだ。
ふたつの情熱がこめられた1台
メルセデスのプレス・リリースにはウィル・アイ・アムのこんなコメントが載っている。
「私はゲットーで、ヒップ・ホップで育ちました。伝説的なヒップ・ホップ・アーティストがメルセデスについてラップするのを見ていたので、メルセデスを所有することはつねに夢でした。多くの都会の子どもたちにとってメルセデスを所有することは、進歩と闘争から抜け出すことの象徴です」
「いま、私は目標を達成し、AMGモデルについて私自身のヴィジョンを再想像し、創造することで、さらに高く押し上げました。でも、エンジンにはタッチしませんでした。AMGは本当に最高のエンジンをつくっているからです。 AMGの創設者たちのストーリーは当に私に刺激を与え、継続的な改善を求める、志を同じくする人々と協力することはエネルギーを与えてくれます」
筆者の私見によれば、自動車デザインの完成度としては、おなじワンオフでも、フェラーリがほぼ同時期に発表した「SP48ウニカ(Unica)」とはレベルがまるで違う。
しかし、SP48は顧客の要望に応じてつくられたフェラーリのワンオフ・シリーズの最新プロダクトであるのに対して、ウィル・アイ・アムジーはそうではない。クルマ好きのラッパーが自分の思いを込めてつくったアメリカン・ドリームの具現化で、製作はカリフォルニアのウェスト・コースト・カスタムズというその世界では有名なカスタマイゼーションの専用ショップが手がけている。
ウィル・アイ・アムジーのデザインには、おそらく素人にしかできないシンプルさとわかりやすさがある。しかも、ウィル・アイ・アムの、素人ならではのクルマに対する情熱と、慈善活動家としての情熱、ふたつの情熱が込められている。そういうものを、感知する能力が人間にはある。
デザインはかたちやバランスの美だけで語られるものではない。そこにはなにかしら目的というものがあり、その目的に対して真摯で忠実なデザインは、たとえ美しくなくても、美しく見えるのはそのためだ、と筆者は思う。
文・今尾直樹
複数社の査定額を比較して愛車の最高額を調べよう!
愛車を賢く売却して、購入資金にしませんか?
複数社の査定額を比較して愛車の最高額を調べよう!
愛車を賢く売却して、購入資金にしませんか?
愛車管理はマイカーページで!
登録してお得なクーポンを獲得しよう
スズキが新型「コンパクトSUV」発表へ! 人気のトヨタ「ライズ」対抗馬!? 低価格「200万円級SUV」が”激戦区”に突入する理由とは
トヨタの斬新「86ワゴン」に大反響! まさかの「スポーティワゴン」に進化! 実用的な「ハチロク」実車展示に熱視線
スッキリ顔で打倒[シエンタ]!! 待望の新型[フリード]は約250万円から! 他がマネできない最大の強みとは
全長3.6mの新型「スポーツカー」発表! レトロデザインに斬新「タテ出しマフラー」採用した小さなスポーツカー「ペッレ」登場!
500馬力超え! 日本専用の「新型スーパーカー」発表! 鮮烈レッドの「V8エンジン」をミッドシップ搭載! 情熱の“炎” モチーフの「レッドフレイム」とは
みんなのコメント
この記事にはまだコメントがありません。
この記事に対するあなたの意見や感想を投稿しませんか?